ten flowers

昔、庭園の一角に十本の花が植えられていた。

色や種類ごとに分かれている庭園と違って

その花壇に植えてある花だけは他とは違い、

九本の百合と赤い薔薇で構成されている奇妙な花壇だった。

十本の花にはそれぞれ意思が存在したが

同じ価値観を持つ百合と違って唯一、薔薇だけは違う価値観を持っていた。

事あるごとに対立していた百合と薔薇だったが

いつも数が勝る百合が理不尽な意見であっても正論とされた。

いつしか薔薇は百合達の目の敵にされ、二つの関係が悪化するに増して

百合達の協調性は一層強まった。

そんなある日、庭園の園長が百合と薔薇が混ざっている花壇を発見し、移し替えた。

邪魔で仕方なかった百合達にとっては願ってもない出来事だったが

事態はそううまくはいかなかった。

しばらくは平穏な日々が続いたものの今まで対立していた薔薇がいなくなった

ことによって協調性が無くなり、無気力な日々が続いていたのだ。

百合達は比較する対象がいなくなった現状を打破するため、

次第に仲間内での比較が始まってきた。

比較し合う中で一番下の百合は他の百合達から次々に理不尽な正論を押しつけられて

不思議なことに段々と赤みを増していき、気づいた時には赤い薔薇へと変身していた。

新たな対立関係ができた百合達は以前のように協調性を増していったが

数日後には園長によって薔薇は植え替えられた。

その後、第三の薔薇、第四の薔薇が出現していったが

最終的に花壇には一輪の百合しか存在しなくなっていた。

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