剣と俺と、

天狗

龍の名を持つ鬼

第壱陣 妖シキ鬼ノ子、貴ナキ人ノ子

「ようあんちゃん。ちょっとつきあってくれや」

「ああん?」

 炎天直下、人々行き交う街道沿い。とうに廃れた古小屋前に歪な二の太刀抱えた童子わらしが一人、とある男に絡まれた。日照り続きのこの頃に、厄介持ち込む輩に対して童子は酷く嫌悪した。

「ここらに妖怪が出たって噂なんだけどよ、あんちゃんなんかしらねぇか?」

 いやしい笑みをはらむ男の瞳に童子は「悪意」の影を見る。黒く醜く渦巻くそれは、おのが欲にまみれた弱さの証と童子は鑑みた。

「……さあな。しらねぇ。」

 お前みたいな奴、何処どこにでもいるな。そう言いたげに童子はぷいと他所よそに顔を向け、つまらなそうに呟いた。

「とぼけんじゃねぇ」

 童子の笠が宙を舞う。あらわになった彼の頭には紅色の角が二本、はるか天空を指差した。赤い瞳に頭の角。彼は妖怪「鬼」の子である。

「てめぇの身元は割れてんだよ。」

 やいばを抜いた男に続き、卑しい群れが童子を囲う。かつてのみかどはこう言った。

 人に仇なす妖怪どもを、狩った者には褒美をば。

「...めんどくせぇ」

 気だるく呟き欠伸を一つ。立て膝伸ばして立ち上がる。背丈は五尺。よわいは十七。灰の御髪おぐしの隙間より、赤の瞳が敵を刺す。

「付き合えって言ったよな?」

 一言童子が問いかけた。

「化け物退治にな!」

  同時に男は飛来する。右手に持つは鈍色にびいろの光。殺意を帯びた太刀筋曰く、童子が首を欲している。

「上等だ」

 息の根三寸手前にて、男の殺気は息絶えた。童子は抱えた剣を取り、片手でそれを受け止めた。全長4尺。うち1尺は柄。そこから斧のように柄を覆うが如く飛び出た樹色の刃が伸びていた。

「俺の腹の虫、駆除させてもらうぜ。」

巨大な木刀携えて、こいよこいよと手を招く。小柄なわっぱに舐められ給いて、男たちは激怒する。

「ちっ...お前ら、かかれぇぇぇ!!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 絶叫、襲来、四面楚歌。幾重にもなる男の群れの、戦の火蓋は切り落とされた。重ね重ねて鉄の舞。寄ってたかってハエの群れ。十人ばかりのならず者は、狂い狂いて舞い踊る。幾分騒いだそののちに、たかぶる族のその中心、童子が位置の、けんが途絶えた。


刹那。


「オラァァ!!」

 たかる族らを薙ぎ払い、童子は再び舞い降りる。鈍重極めし刀を片手に、童子はいまだ歩を正さず。

「...終わりか?」

 沈黙流れて風の音。童子は刀を振りかざす。己が剣を試すが如く、腰に備えた二の太刀「真剣」には手を出さず。

 誰もがたじろぐその様に、動じず踏み出すゆうの影。

「いんや。俺がいる。腕っ節には自慢があらぁ」

 童子がこうべに影をなす。背丈は六尺、齢は三十。ゆらりと吹きさぶ着物の袖より、大きく腫れた肉の腕。禿げた頭は光を放ち、勝ち誇る顔には嫌気がさす。

「こいよハゲ野郎。赤色の髪を生やしてやる」

「ハッ!チビの太刀に出来るかよ!」

 じゃり、と草履が地を削り、両者は共に居合斬る。二、三と得物をぶつけ合い、カンカラリンと耳朶を打つ。童子は腰を低く下げ、逆手にとった太刀を振る。獣のようなその型は、鋭くしたたかな「必殺」の剣。

 対して男は受けきるも、童子の速さに肝を冷やす。力比べで挑んだ筈だが、彼の脳裏に後悔の二文字はなかった。

「おい小僧!」

 鍔迫り合いを申し込む。童子はそのを聞くや否や突進する形で呼応した。

「小せぇくせにいい腕だ!名を教えろ!」

 殺意を孕む赤い瞳を目にするも、男はにぃと笑みを浮かべるのみだった。

「...龍之介りゅうのすけ!」

 切り払い。つばぜり合いを解く。

「龍之介か!覚えたぞ!だーっはっは!!俺は剱持けんもち!!剱持時三郎けんもちときさぶろう!!」

「っつーことはテメェ、武士か!!」

 武士。その二文字ふたもじに童子は吠える。いまだに傷は癒えないと。激しい憎悪が腹を煮た。同時に頭に声を聴く。

「殺セ。あやメロ。かたきハ貴様ノ前ニ居ル」

 五月蠅うるさい悪魔め。お前に助けを求めてない。

 不快極まる囁きなれど、与えられしはたぎる血、揺らぐ目、しんの鼓動。すべてが俺をふるわせる。肌はしゅに、肩と首には黒の脈が。角から足まで蒸気を発するほどに熱を持ち、表情は般若はんにゃが如き剣幕へと昇華する。

 童子は異形の姿にその身を変え、鬼を超えた「修羅」と化す。

「がぁぁぁぁっ!!!」

「ぐほぁぁ!!」

「うぎゃぁぁ!!」

 もはや人の言葉でない、うめき声が虚空を裂く。じゃり、と地を蹴る後には悲鳴が上がり、一人また一人と倒れてゆく。眼で追えぬほどの速さとなった彼を前に、戦意を喪失する者さえ現れた。

「がぁぁっ!!!」

「うおっとぉ!!」

 ついに時三郎を手にかける。龍之介の獲物は変わらずあの巨大な木刀。通常の倍以上の重さはあるはずのそれを今の彼はただの棒切れのように軽やかに振り回す。先刻に比べしたたかな剣捌きとまではいかないが、稚拙であっても計り知れない「火力」というものに圧倒されてしまう。

「おいまて龍之介!!落ち着けや!!」

 たとえどれほど声を荒げようが、今の彼には届かない。今までに何度か

修羅化しているが、解けた時にはいつも自分以外皆死んでいた。

「がぁぁぁぁっ!!!」

「うおおおお!!なんて力だよこいつ!!」

 再び鍔迫り合いに持ち込まれる。今度は両者が競り合うどころか龍之介の単純かつ圧倒的な力に押し返されてしまう。紅潮した顔面とその隙間から見える紅へと強く濃くなったまなこに光はなく、ただ「復讐」のほむらが揺らめいていた。

「ぁがぁっ!!!」

「ぐっは!!ちくしょう!!」

 突然力を抜かれ、勢い余って時三郎は姿勢を崩してしまう。それを見かねたように龍之介は時三郎の足を払い、うつぶせに倒れた彼の背中に乗った。

 鬼の子は右手に持つ粗悪な鈍器を空に掲げ、虚ろに揺れる瞳で狙いをゆっくりと定める。刻一刻と迫る「死の予感」に時三郎はじわじわとなぶられ、彼の心に渦巻く恐怖は膨らんでゆくばかりだ。

「がぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 瞬間、風を切る音。命を刈る剣筋であると明確に察知した時三郎はぐっと歯を食いしばり、あの世へ逝く覚悟を決めた。

「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」

 天にまします父上、母上殿。今からそちらへ向かいます。愛する我が兄者と子供たち。先立つ不孝をおゆるしくださ───

「待ちなさい。」

 ふわりと耳を撫でる優しい声。囁きかけるようにか細くそれでいて聞くだけで安堵するような美しい旋律を耳にする。と同時に、硬く目を閉ざした時三郎の顔面一寸先にて、がんっっ!!と地鳴りが炸裂した。

「ぐぅぅ……!!」

 鬼の子は痛みをこらえるような唸りを上げる。時三郎は横目で確認してみれば、突如現れた男からの掌打を受けた鬼の子は得物を持っていた右手を押さえ、危険を察知したのか後方へ飛びのいた。

「おっと……これはこれは」

 逆光に照らされ顔は拝めないものの、すらっと伸びた五尺四寸の背丈、そして風になびく長髪が特徴的な男だった。この状況の深刻さを理解していないのか、はたまた理解した上で余裕を持っているのか、気の抜けたような声を発する。雲のようにつかみどころのなく、どんな場合でも己の心を乱さないこの男を存在を、時三郎は知っていた。

「あ、兄者!!」

「時三郎。部下のしつけがなっていませんよ?まぁ、説教は後にして……」

 この子を鎮めないと。

 男は正面に捉えた鬼の子を見据え、腰に携えた木刀を握る。それに呼応するように鬼の子は腰に携えた「真剣」を握る。その時だった。

「がぁぁぁ!!!」

「うん?」

 ばちり、と電撃のような鋭い音が耳を刺す。その音に鬼の子は悶えていた。激しい苦痛を耐えるように息を荒げながらも、「殺す」と直接脳内に伝えるような強い殺気を帯びた瞳を男に向け、いまだ戦意を失っていない様子を主張しているようにも見えた。

「ふむ……なるほど。」

 長髪の男は何かを察したのか、ただそれだけを呟き臨戦態勢に入る。へそを左に向け、右足、右肩を前に、獲物を握る手には一層力を込め、居合の態勢をとった。

「ぐぅぅ……」

 鬼の子も同様に臨戦態勢に入る。獣を思わせる四つん這いの態勢から右手のみを自由にさせ、真剣に触らない位置に手を移動させる。

 勝負は一瞬。立ち上がった時三郎もまた、達人と妖怪が織りなす覇気のぶつかり合いに固唾を飲み、彼らの醸し出す異様な空気に呑まれていた。

 風が鳴く。木枯らしが舞う。いつの間にかできたやじ馬の雑踏が彼ら二人の世界を彩る。数多の目が二人の行く末に待ち焦がれ、賭けを始めるものさえ現れた。その群衆が一人、赤子を抱えた乳母の手から一銭の銅貨が零れ落ちた。

 チリン、と。

「がぁぁぁぁぁ!!!」

 苦痛と殺意。二つの情が咆哮する。鬼の子は三つの足で大地を駆け、排除の対象へと接近する。手に持つ真剣は一目で業物と思わせる美しい輝きを放ち、血を吸う相手を欲しているようだ。

 対して居合の男は目を瞑り、木刀を構えたまま微動だにしない。迫りくる獣を見ることなく、猛り狂う咆哮を聞くこともなく、ただただ居合の態勢を崩さない。

 一歩、また一歩と鬼の子は得物を携え刃を向ける。痛みを忘れ、我を忘れ、銀の輝きは男の喉を捉えた。首の皮を切断し、とろりと赤の滴が垂れ落ちる。その瞬間。

「ハッ!!」

「ぁぐぅぁ!!」

 ゆらりと男が揺れたと思えば、彼は流れるように獣の右手を打ち、獲物をその手から叩き落とす。男は振り切った右手から木刀を手放し、獣の懐に飛び込んでは襟をつかみ取り、彼の勢いを利用して投げ飛ばした。

 勢いよく投げられた獣は古小屋に激突しそのまま倒壊。尻餅をついた鬼の子は体制を整える間もないまま、男に木刀を向けられた。

「ぐるぁぁ!!」

「おっと失礼。」

 それでも反抗をやめない鬼の子は木刀を奪い取ろうとつかみかかるも、冷静に体を引いた彼に首元をとん、と打たれ、なすすべもないまま意識を闇に落としていった。



─────────────────────────────────────



 檜の香りが鼻腔をくすぐる。初夏の風は火照った体を冷ますように爽涼な空気を運び、肌の上を駆けまわる。軒下に下げられた風鈴はチリンチリンと喜んで、蝉時雨せみしぐれと共に歌っている。

 龍之介は目覚めていた。しかし瞼を閉じれば見かねたように合唱を始めると知ると、いつまでもここにいたいような平穏に身をゆだねたいと感じていた。庭の鯉が跳ね、ししおどしは石を叩く。枕もとで猫が鳴き、うるさい蝉も今は心地いい。

 ……猫が鳴いた?

「ニャー。」

 目を開け上体を起こし、声の主を探す。同時にここを縁側に面した和室と把握した。それもすこしばかり年季の入った、シミだらけの和室だ。それから自分を覆っていた布団をはぎ、枕もとを見てみれば、予想通り猫がいた。純白無垢の小さな猫。

「なぁお前……俺の剣と、俺の弟の剣、知らねぇか?」

「ニャー。」

 わかるわけないか。と心の中でつぶやき、子猫を抱き上げる。ふかふかの毛並みを掌に感じ、猫本来の柔らかさもあってかずっと触っていたいような可愛げがあった。

「お前、俺が怖くねぇのかよ?妖怪だぞ妖怪。」

「ニャー。」

「へぇ、あなた猫とおしゃべりできるんですか?」

 突如幽霊のように気配もなく長髪の男が現れた。黒くツヤのある長い髪は背中の中央まで伸び、終始にこやかなつらとそこから伸びる長いまつ毛に「こいつは女か?」と疑惑を抱いたものの声色から察するに完全に男であると彼は確信した。龍之介は一瞬で向き直り、獲物を抜こうと腰に手をあてがうもそこにあるのは浴衣の帯紐だけだった。

「……あんた、何モンだ?」

 彼は修羅となった後の記憶は残らない。故に目の前にいる優男の正体を知らないのだ。

「おおそうでした!自己紹介が遅れました。私、劒持辰之進けんもちたつのしんと申しま……」

「剱持!?まさかテメェ!?」

「お待ちなさい。」

 瞬間、柔和だった彼の声色は低くドスの効いたものとなり、いつの間にか龍之介の喉元には木刀が突き付けられていた。その豹変ぶりと手際に驚いた彼は修羅へと成るのを止め、おとなしく従うことにした。

「えー、改めまして、私は剱持辰之進けんもちたつのしん。この道場を経営しているものです。ちなみにこの子はクロ。」

「ニャー。」

(真っ白なのにか……)

 どたどたどた、と廊下をあわただしく駆ける音。一歩ごとに板のきしむ音が耳を刺す、ふすまの前で鳴りやんでは勢いよく開いた。

「ああ兄者!いま奴の叫び声が……」

「おお丁度いいところに。彼は私の弟、劒持時三郎けんもちときさぶろうです。私の道場で師範代を務めていただいています。」

「兄者!兄者!こいつをに入れるんですか!?」

(……とは……?)

「まあまあ落ち着いてください。あーコホン。龍之介さん。聞いてください。」

「……」

 龍之介は押し黙ったままそっぽを向く。元から武士は嫌いだと、そう言いたげに外を見た彼は、塀の上から顔を出す入道雲と、深く青く広がる青空をぼんやりと眺めた。

「……先ほど申した通り、私はこの道場を経営しています。ですがそれは仮の姿。」

 彼の後姿であろうと辰之進は構わず話し始めた。龍之介は入道雲から目線を落とし、池に泳ぐ鯉の姿をぼんやりと眺めた。

「私は幕府より妖怪退治を任されたしがない祈祷師きとうしでもあります。」

 妖怪退治。その四文字に龍之介は脊髄反射で反応してしまった。

「退治する側が、俺を捕らえてどうする?」

 向き直った龍之介の目には「待ってました!」と言わんばかりの笑みを浮かべる辰之進の姿を見た。

「よくぞ聞いてくれました!現在妖怪退治をする祈祷師、通称「退魔師」は年々姿を消し、人員が大きく欠如しているのです!!腕の立つ祈祷師は陰陽師として幕府に仕え、妖怪と対峙するのを恐れる者さえでる始末!そこで!!あなたたちの出番です!!」

 と、辰之進は顔面を龍之介の鼻先に触れるほど近づき、大きく振りかぶって龍之介を指さした。

「私の、妖怪退治の助手をしませんか?」

「……はぁ?」

 勢い余って吐息が漏れる。

「特にあなたは絶滅してしまったとされる妖怪「鬼」の子!!その力をお貸ししていただければ、きっとこの世界はよくなることでしょう!!」

「同族狩りをしろと?」

「いえいえ!退治するのは「悪い妖怪」だけです!知ってますか?いい妖怪だってたくさんいるんですよ?クロさーん!りんさーん!こちらへ来てくださーい!」

 龍之介の背後にある襖へと声をかける。するとその向こうから「はーい!」と女子おなごのような甲高い声が応答した。

「うちの道場の看板娘、クロさんとりんちゃんさんです!」

 と同時に古そうな襖がひとりでに左右へ勢いよく開いた。

「どうも!クロちゃんでーす!」

 同時に現れた二人の女子の右側に立つ、元気よく挨拶をした娘。横に広がるような短髪の隙間からつんと天を指す二つの耳が生え、大きく丸い瞳は左が蒼、右が黄色と左右で色が異なる。黒を基調とした着物を真っ赤な帯で締め、丈の短い袖下からは細い足が二本伸び、異様に長い黒の足袋が太ももまで覆っている。そして最大の特徴は、袖下から生えた二本の尻尾。彼女は妖怪「猫又」である。

「あ……りんと……申します。」

 妖怪猫又らしき娘の隣にいる、おとなしそうな娘。真っ黒なおかっぱ頭に澄み切った黒の瞳。そして垂れた目尻と、いかにもおとなしめな子といった風貌に、どこかでみたような配色をされた振袖を着ている。白を基調とし赤と黄色の雲のような模様が入った振袖はまるで風鈴を連想させる。彼女は厳密には妖怪ではないが、「風鈴の付喪神」である。

「彼女たちには主に家事などのお手伝いをさせていただいています!」

「掃除はアタシ!」「料理は私が……」

 クロは自慢げに胸を張り、りんは恥ずかしそうに他所を向いた。

「なあお前、クロと言ったか?」

「そうだよ!りゅーちゃんの寝顔、結構かわいくてびっくりしちゃった!」

「りゅーちゃんて……」

「あ!それでねそれでねご主人!りゅーちゃんたら起きたばっかりなのに私の体を撫でまわして……」

「へぇ……そうなんですか……」

「いや!ちょっとまて!そんなつもりねぇし!!」

「龍之介さん……意外とおませさん……」

「おいふざけんな!!あーもう!ぜってー協力してやんねぇ!!」

「でもそーなるとりゅーちゃんの剣、返せないけどいいの?」

「なっ……てんめふざけ……」

「ま、たとえ返したとしても食うに困ってのたれ死、ですね。」

「私たちに協力すれば三食昼寝付きなのにねー!」

「ねー。」

「くっ……」

 たしかに、今日まで生きてこれたのは近くのならず者がはびこる地域を通る旅人の護衛をして稼いでいたが、その結果あの土地の悪党をすべて追い払ってしまったがために護衛が不必要となり、住んでいた小屋も追い出されてしまった。正直協力しない理由がない。

「あーもう!!わかったよ!!協力すりゃいいんだろ!?」

「はい!その通りです!それともう一つ、お願いがあります。」

 人差し指をぴんと伸ばし、同時に神妙な顔つきとなった。

「……なんだよ」

「あなたの過去を……話せる範囲でいいです。教えてください。」

 信用を手にするためには己を知ってもらうほかにはない。

「私のお仲間にも気難しい性格の方もいらっしゃいます。その方に事情を知ってもらうためにも嘘偽りなく教えていただけますか……?」

「……そうだな。」

 思い出せば今でも気持ちが沈んでしまう。だがそれでも、明日の飯のためにも、彼は過去の忌々しい出来事を話し始めた。

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