真昼間のランデブー?
永遠のように長かった昼休みも終わり、僕は自分の本来の教室に帰る。すると、クラスの数少ない僕の友人の長瀬が話しかける。
「津島ーっ、さっきの女子の先輩は何だったんだー? 背の高い女子の先輩が、寝てたお前をいきなりお姫様抱っこして拉致ったの、あと小学生みたいな先輩、ふたりとも生徒会の腕章してたけど」
僕は耳を疑った。間違いなく小夜子会長と田村先輩…じゃなかった、さっちゅん先輩だ。
どうやらすでに、「女子の先輩にお姫様抱っこされた僕」の情けない姿は、クラス中にバレていたようだ。そう言えば、さっちゅん先輩が「僕を運んできた」って言ってたような……
僕は何のためにわざわざ生徒会なんかに入ったんだ…心の中で叫んだ。そんな中でも、
「津島くーん、お姫様抱っこはどんな感じだったー?」
「ねぇねぇ、津島くんとあの先輩はどういう関係なのー? 二人来てたけど」
「背の高い先輩とちっちゃい先輩、どっちが好きなのー?」
普段は話しかけてもくれないクラスの女子たちが食いつく。女の子はこういう話題が本当に好きみたいだ。
「そんなことよりもー、どうして僕が拉致されるの止めてくれなかったの?」
僕は質問攻めする女子たちに聞いた。
「いやぁ~、なんか先輩だし~ 生徒会だし~ 男の子がお姫様抱っことかかわいいし~」
「写真撮りたかったねー」
……って、すでに撮られてるんですけど……女の子って……怖い。
「キーンコーンカーンコーン♪」
五時限開始のチャイムが鳴ると同時に先生が入ってくる。
「ほら、みんな席に着けー」
やっとのことで僕は解放された。
五時限目と六時限目の休み時間、僕は正直、この僅かな十分間だけでも寝たかった。昼休みに生徒会室に拉致されたこともあって、今はとてつもなく眠い。僕はいつもの昼休みのように机の上にうつぶせになろうとしたとき、クラス中がざわめく。
「おいっ! トモ!」
僕の机の横には、初めて会ったときと同じく、仁王立ちの小夜子が……そして、脇には優子さんとさっちゅん先輩もいる。
「なーに寝ようとしてるんだよっ!」
さっきまで眠かった僕の睡魔が一瞬で吹っ飛ぶ。
「……えっ……会長? なんでわざわざこんなところに来たんです?」
「お前がばっくれないように監視しに来たんだっ!」
僕はそんなに信用されてないのか…まあ、昼寝している姿見たらそう見えるのかもしれないが。
「ごめんね、友樹くん……さよちんが行くって聞かなくて」
「あっ……べっ……べつにいいですよ……」
優子さんの笑顔には本当に癒される。優子さんには小夜子会長は「さよちん」と呼ばれているらしい。
「トモ! 放課後は絶対に生徒会室に来いよ! ばっくれるなよ!」
激しく念を押された。
「いくらなんでも……僕がそこまでするわけないじゃないですかー……」
僕は小夜子会長に「一応」反論する。
「そうか、いい心がけだ、いい子いい子」
小夜子会長がいきなり僕の頭を撫でる。クラスのみんなの視線が一斉に集まる。
「……あのっ……会長っ……やめてくださいよぉ…恥ずかしいじゃありませんかー……」
僕はまたもや情けない姿をクラスメイトに晒してしまう。
「津島くんかわいいーっ!」
クラスの女子たちが騒ぎ出す。
「津島くん年上の尻にしかれてるー」
「あーん、これなら先にわたしがつば付けとけば、津島くんを思い通りにできたのに」
女の子って、やっぱり本当に残酷だ。昨日までは話しかけもしなかったのに。
「トモは本当にいい子だなー」
小夜子会長は僕の頭を撫で続ける。
「会長……そろそろ……やめてもらえませんか?」
「キーンコーンカーンコーン♪」
「ほらっ、さよちん、授業始まるわよ」
「おおっ、まずいっ! じゃあトモ、放課後絶対来いよー!」
六時限目のチャイムとともに、小夜子会長と優子さん、さっちゅん先輩は自分の教室に戻って行く。
六時限目、そして最後のホームルームも走るように過ぎ去り、あっという間に放課後になる。今日は本当に疲れた。
やはり……これから僕は生徒会室に行かなければならないのだろうか。もうすでに生徒会役員の一員になっている「こと」が、僕はいまだに信じられずにいる。普段の僕ではまずそのような「面倒ごと」に首を突っ込むことはないからだ。僕は教室から出て廊下で考える。
「どうしようかなぁ…本当にこのまま逃げようかな……でも……行かないと明日何されるかわからないし……会長はさておき優子さんにも悪いし……」
「誰がさておきだー?」
後ろから聞き覚えのある声が…僕が振り向くと、そこには小夜子会長と優子さん、さっちゅん先輩が……
「おいトモ! おまえ今ばっくれようかなーとか思ってただろっ!」
「いや……そんなことぜんぜん思ってませんって……」
またもや小夜子会長に図星を突かれた。そんなに僕の行動ってわかりやすいものなのか。
「さっちゅん、トモを連行するんだっ!」
さっちゅん先輩が笑顔で僕に迫ってくる。僕はとてつもない恐怖を感じる。もしかして……またもや「お姫様抱っこ」なのか??
優子さんも、笑顔なのだが僕に無言の圧力をかけてきているようだ。
「はやく生徒会室行きましょう~」
そう心の中で言ってるのは間違いない。
「ああっ……わかりましたよ! 僕、生徒会室行きますよー……」
僕はなんとか「お姫様抱っこ」を阻止すべく、自ら生徒会室に行く覚悟を決めた。
「トモって本当に素直でいい子だなー」
小夜子会長が、また僕を撫でようとする。
「やっ……やめてくださいよぉー……」
「こらっ! 避けるな!」
ああ……僕はいつになったら自由の身になれるんだろうか……
昭和五十八年四月、桜の花は散り木々が青々とする頃、僕、津島友樹・十五歳は生徒会役員になりました。
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