生徒会に乾杯
「あっ、ごめんなさい、今ほどいてあげるからね。」
千代崎さん……優子さんって、名前で言っていいのかな、なんて妄想している僕に、やさしい笑顔で話しかけてくれる。そして、体に巻き付いているロープをほどいてくれる。ようやく僕は自由な身になった。
「あっ……あの、ありがとうございます……その……優子さ……じゃなかった千代崎さん」
まずい、初対面の女の子に名前で呼んでしまった。しかし、そんな僕に
「はい、どうもいたしまして」
と笑顔で応えてくれた。
「あの……ごめんなさい、初対面の女の子にいきなり名前で呼んでしまって」
さすがに気まずいと思い、僕は優子さん……もとい千代崎さんに謝ったが、
「名前で呼んでくださっていいですよ、えっと、二組の津島友樹くん……でしたっけ?」
「あっ、はいっ……」
僕は、どうして初対面の女の子……優子さんが僕のことを知ってるのか気になった。それにしても、優子さんの笑顔が眩しい。
「あの……どうして僕の名前、知ってるのですか?」
優子さんに聞こうとすると、
「お前、ある意味有名人だからなー」
横から小夜子会長が割って入る。
「えっ? どうして僕が有名人なんですか?」
僕はまたもや状況が飲み込めない。すると小夜子会長が
「そりゃ、入学してから部活も決めない、委員も決めない、昼休みに昼寝してる超のんびり屋のお間抜けさんなんてお前くらいしかいないからなー」
ひどい言われようだ。確かに何もしてないけど。
「だーかーらー、なーんにもしてないお前を生徒会の役員にスカウトしたってわけだよ。ありがたく思いやがれ!」
小夜子会長が上から目線で言う。しかも、どこからか持ってきたのか脚立の上に立って言うものだから、本当に上から目線だ。しかしまあ、自分の存在感のために脚立の上に立つなんて……いくら背が低いからと言ってもそこまでするかなと。
「あのー……生徒会の役員って、選挙とかで決めるんじゃないですか?」
僕は疑問に思った。普通の学校では生徒会とかの役員は、選挙で全校生徒の投票で決めるものだからだ。すると、
「いやぁ~、最近はどこの学校でも自分から生徒会とか面倒ごとやろうなんて酔狂な奴あんましいないからなぁ~」
「それって僕が酔狂な人ってことですかー?」
「どーせいつも寝てるんだろー?」
僕は反論できなかった。
とりあえず、僕はこの場を早く立ち去りたい。生徒会とか面倒な事はやりたくないし、やる気も起きないし、とにかく逃げたい。
「あの……僕……生徒会とか全くやる気がないのですが……すみませんけど……」
僕が言ってるさなか、
「みんなー、お茶にしましょー」
優しい柔らかい声で、僕のロープをほどいてくれた優子さんがティーカップを乗せたお盆を持ってきた。そしてティーカップは四つ、「みんな」の中にはどうやら僕も人数分に入っているようだ。
「津島くん……じゃなかった、友樹くんもお茶飲んでいってくださいな」
優子さんの笑顔は本当に眩しい。しかも優子さんは僕を下の名前で呼んでくれた。
「せっかくなんだから津島くん、お茶くらい飲んでいったら? あっ、あたいは書記の田村沙智子だよ、二年だよ、さっちゅんって呼んでね」
背の高い、ショートカットの髪型の生徒、彼女も生徒会の役員らしい。
「ちなみに、さっきキミを運んできたのはあたいだよ」
と言ったと思ったら
「えっ、えええーっ!」
僕は田村「さっちゅん」先輩にいきなり抱きかかえられた。これはどう考えても世間一般に言う「お姫様抱っこ」だ。
「津島くんって男の子なのに軽いねー」
田村先輩は、僕を軽々と抱き上げ、赤ちゃんをあやすように左右にゆする。
「よーしよーし」
なんか今の僕はものすごく情けない状態にあるようだ。こんな姿、妹の美樹子にはとても見せられない。
「おおっ! これはこれは、面白い絵が撮れそうだな!」
小夜子会長が手にしている怪しげな物体……何かレンズのような物が付いている…どうやらあれはカメラなのか……
「おいお前、こっち向けって」
「えっ…何っ何っ?」
僕が小夜子会長の方を向いた瞬間、眩しい光が……
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「よっしゃ! これは傑作になるな」
怪しげなカメラからは、田村先輩に抱きかかえられた僕の姿がはっきりと鮮明な画像で出てきた。インスタントカメラというやつだ。しかしまあ、我ながらなんとも恥ずかしい姿……
「あはははっ! こりゃ面白い!」
バンバンバンバン……
小夜子会長が机を叩きながら笑う。ひどい……僕、完全にオモチャにされている。
「あの…田村先輩…僕……下ろしてもらいたいのですが……」
「田村先輩じゃないでしょ、さっちゅんでしょ!」
「……じゃ……さっちゅん先輩……お願いですから僕……そろそろ下ろしてください」
ようやく僕は「お姫様抱っこ」から解放された。
とりあえず、せっかくなので優子さんが淹れてくれた紅茶をいただくことにする。早く飲まないと冷めてしまうことだし。
紅茶のほんのりとした香りが心地いい。優子さんは僕の顔を笑顔で、しかも間近でじっと見る。
「お茶の味はいかがでしたか?」
「あっ……ありがとうございます。とても美味しいです」
「さーて、これで全員の自己紹介が終わったなっ……って、そいやお前まだか」
小夜子会長が僕のことを見る。
「自己…紹介? 僕のことですか?」
「あたりめーだろ、ほら、そこの前に立って自己紹介しろよ!」
僕は無理矢理生徒会室の黒板前に立たせる。僕は生徒会なんてやる気がないのに。
でも、さっき優子さんのお茶もいただいたことだし、せめてお礼くらい言わなくちゃ。
「あのっ……お茶ありがとうございました。でも申し訳ないのですが、僕は生徒会活動とかやる気ありませんので……」
僕は一礼をして生徒会室から出ようとする。すると
「させるか!」
小夜子会長が、何かリモコンのようなものを操作する。
「ピッ」
僕は生徒会室の扉を開けようとする、が、扉が開かない。
「えっ、なんで?どうして開かないんだ?」
僕が慌てると
「おーい、それロックかかってるから」
後ろから小夜子会長の声が。
「どうして鍵なんかかけるんですかー……」
僕はかなり情けない声で言ってしまった。
「お前を逃がさないために決まってるじゃないか! こういうこともあろうかと、この前リモコン式のドアロック付けといてよかったなー」
……って、僕が逃げると思ってそんな仕掛けまでしていたのか。どうやら僕が生徒会に入ることは、逃れられない運命なようだ。
「あの…こんな情けない僕なんかで……生徒会なんて……いいのですか……?」
もう僕は半分投げやりになって言う。
「生徒会やらないんら、このお前の情けなーい証拠写真を生徒会会報で学校中にバラまくけどいいのかなー」
小夜子会長の悪意に満ちた笑顔…なんとも恐ろしい。
「きしししし、これ学校中にバラまかれたらお前の人生ジ・エンドだなー」
小夜子会長の悪魔モードが全開になった。どうやら僕はあきらめるしかないのか……
ええい、もうどうにでもなれ!あの恥ずかしい「証拠写真」晒されること考えたら、もう僕に選択する余地なんかない。
「わかりました……僕、津島友樹は、生徒会……やらせていただきます……」
もう僕はどうでもいいやという気持ちだ。今からじたばたしても始まらない。すると
「パーン! パーン!」
何かが破裂するような音とともに、ほんのり火薬のような匂いが。
「えっ……えっ……何これ?」
僕がきょろきょろすると、制服の肩の部分に細い紙テープのようなものが引っかかっている。
「なんだお前、クラッカーも知らねえのか?」
小夜子会長が小馬鹿にしたかのように言う。
「あたりなんとかのクラッカーって言うだろ」
小夜子会長……それ、違うんですが……
「ようこそ、生徒会へ」
優子さんが柔らかい、暖かい笑顔で僕に言ってくれた。
「今日から津島くんもわたしらの仲間だからね、よろしく!」
さっちゅん先輩も笑顔で迎えてくれる。
「よっしゃー! 今日からここがお前の家だと思って毎日入り浸るがいい! ウェルカムつーざ生徒会室!」
小夜子会長の意味不明な英語はさておき、結局僕は成り行きで生徒会の一員にされてしまったのだ。
「それじゃ、新役員の加入を祝って乾杯ー!」
小夜子会長が音頭を取り、みんなでティーカップで乾杯をする。ティーカップで乾杯とはなんとも奇妙な光景だが、みんな笑顔だ。
「さて、四人揃ったとこで記念写真といくかー!」
三脚に据え付けられた、先ほどの怪しげな「カメラ」の前に集まる。僕はいちばん端に並ぶと
「お前ー! 今日はお前が主役なんだから一番前の真ん中だ!」
と小夜子会長に言われ、カメラの一番前に立たされた。その僕を囲むように女子たちが集まる。近い……みなさんみんな近いんですが……
「はいっ、ポーズ!」
カメラのフラッシュが炊かれる。その直後、三人の女子に囲まれた僕の姿がカメラの上から出てきた。三人の女子の笑顔の中、ひとりだけ情けない表情の僕。できれば撮り直したいけど。
「さーて、七高生徒会、ハッスルでゴーだ!」
小夜子会長が拳を天井に向かって突き上げる。ハッスルでゴー? なんだそれ?……僕はもう突っ込まないことにする。
「キーンコーンカーンコーン♪」
五時限目の予鈴が鳴る。
「おっと、もう授業始まるか! それじゃ放課後もよろしくな、トモ!」
小夜子会長の満面の笑顔。
「あのっ……その「トモ」って……何ですか?」
「アホか、お前の呼び名だよ、いちいち友樹なんて言うのめんどくせーからな、今日から仲間なんだし、なっ!」
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