第六話 6-2

 そして、今私は三回戦を終えて、整備スペースで休憩中である。朝の決意はどこへやら、前日から引き続き、三戦目も私は殆ど戦わずに終わってしまった。


 と言っても、昨日のように相手が委縮したり特攻して来たわけでは無い。むしろ、立仁という強敵のことを知ってか、相手は早々に合流後二機で固まって行動し、それぞれの死角をカバーするように動いて徹底防御の構えを取っていた。普通なら、正面突破は厳しい。

 しかし、立仁は普通の操縦士なんかじゃなかった。

 圧倒的過ぎた。前触れもなく相手の正面に躍り出ると、大型ライフルで強引に一機を仕留めてしまった。そして盾を構え牽制射撃を交えつつ後退する残りの一機目掛けてケミリアナイフを投擲とうてきした。相手が飛んできたナイフに気を取られ、盾を上向きに構えた瞬間、手に持った大型ライフルで相手の両脚を『大破』させ、相手はその場で転倒、立仁の攻撃で『完全大破』。――この動作が終わるまで、十秒も経っていない。

 なぜそこまで状況を把握していたかというと、私も突撃するタイミングを見計らって近くの壁面に隠れていたからである。立仁がどこにいるかは分かっていたから、その反対側に陣取り、挟み撃ちにしてやろうと思ったのだ。立仁との連携を考えた私なりの動きだったのだが、私が出ようとした時にはもう試合は終わっていたも同然だった。

『トーナメント三回戦、第四試合、まもなく始まります、選手は出場ゲートに集合してください』

 アナウンスが、三回戦最後の試合が始まることを告げる。これが終われば、残るペアは四組。ここまで来ると、相手も生半可な手段では勝たせてくれない。

 整備スペースで、まだ傷一つないアンドロメダを見上げる。三回戦まで出場して無傷の機体なんて、私のアンドロメダ以外では立仁のリーゲルくらいなものだろう。ただ、その意味合いは大分違う。立仁は三戦の間、計五機の相手を倒した上で、なお無傷なのだ。それに対し、私が無傷なのは単に何もしてないだけ。

『アイツ、個人優勝者のお陰で勝ちあがってるようなもんじゃねえか』

『虎の威を借る狐ってとこか。そこまでして勝ちたいのかよ』

『むしろ、あの優勝者だけで参戦した方が強いんじゃねえのか……』

 誰も、そんなことは言ってない。ただの私の想像だ。でも、他の整備スペースから私の方に突き刺さる視線がそのことを物語っている。殆どの参加者は第三戦の前に敗北しているのだ。次で準決勝という時点で残っているのは四組だけなんだから、こんな予選でも、様々な激闘があったはず。

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