第四話 4-2

「――コラアアアアアアアア!」

 まずい、また私は寝ていたらしい。まだ頭がぼんやりしている。この声は大賀おおが先生。居眠りを許さない厳しい性格と、ラグビー部顧問兼コーチにして、本人自慢の屈強な肉体からついたあだ名が『オーガ』のあの先生。この授業で寝てしまうなんてどうしちゃったんだ私。どうしよう、大賀先生の説教は怖いし今までこの先生の授業で寝たことなんてなかったのに――

「まったく鳴瀬なるせ、貴様という奴は何度注意したら分かるんだ!」

「あ、す、すいません」

「毎度毎度、堂々と寝ていて、俺が注意するのは何回目だ?」

「あ、いや、その……すいませんでした」

「そして同じように『すいません』の繰り返しだ。人間眠い時もあるのは分かる。授業が退屈なのも分かる。だが注意されたら次は寝ないように努力するべきじゃないのか? 大体お前は――」

 少しずつ状況が見えてくる。

 どうやら、お咎めを受けているのは私ではなく、斜め前の居眠り常習犯、鳴瀬のようだ。私の居眠りは気付かれていないらしい。

 先生も頻繁に寝ている鳴瀬の事は警戒しているが、普段は真面目に聞いている私には注意を払わなかったみたいだ。普段の素行が良くて助かった、と内心ほっとする。

 そして、それ以上に今回は立ち上がってマルチキャリアについて喋り出さなくて、本当によかったとも思う。どうも授業中に見る夢は、なぜか変に知り合いが出てくるから、起きた時と夢のギャップが激しすぎて混乱する。もしまたあんなことをやらかしたら、と考えただけでぞっとする。

 私が一人寝ていたことを反省している間、大賀先生の説教が始まっていた。

「――第一な、鳴瀬、お前は部活にも所属してないというのになんで眠いんだ? 貴様の生活習慣がどうなっているか知らんが、毎日規則正しい時間に睡眠することは……」

 一応叱るだけでなく本人の生活習慣を案じてくれるあたり、大賀先生は『オーガ』って程だろうか、と思う。まあ、そう思うのは私の身近に優しさなど欠片もない鬼教官がいるからなのかもしれないが。

 その後、大賀先生の説教は延々と続き、昼休みのチャイムが鳴るまで終わることは無かった。



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