クレイジー勇者

荒巻ユウ

第1話 伝説の宝剣

 ひんやりとした冷気を肌に感じながら、男はまわりを石壁に閉ざされた地下室にたたずんでいた。

「伝説の剣がついに俺の手に…」震える唇からかすかに言葉がもれる。

男の視線の先には重厚な石の台座によこたえられたひとふりの剣があった。その剣は、しなやかにからみつく植物のつたを思わせる豪奢な金の装飾をほどこされたさやにおさめられており、束の部分には青い光をはなつ水晶が埋め込まれていた。

男は、まるで俊敏な肉食動物が獲物に忍び寄るかのように、細心の注意を払いながら台座へと歩みをすすめた。王城の最深部にある宝物庫に忍びこんでいるのだ、発見されたらただではすまない。

壁の高い位置にある小さな鉄格子のすきまから差しこむ月明かりが、男の姿をぼんやりと浮かび上がらせる。平均的な背丈の体を、膝ほどまでの長さの灰色のマントが包み、まぶかにかぶった同じ色のフードがその表情を覆い隠していた。

 台座の周囲にトラップがないことを入念に確認すると、男は皮手袋に包まれ、汗ににじんだ手を剣にそっとのばし、つかみとる。

「よし…これさえあれば…」生まれたての赤子をそっと慈しむかのように剣を両手に抱き、そのずっしりとした重みを確かめる。剣には膨大な魔力がこめられており、さやにおさめられたままでも、まるで神秘な器から無限にあふれ出る水のような力のうねりを感じることができる。

 男は用意してきた厚手の布を床に広げ、剣をくるむと素早くひもで縛りつけた。剣の安置されていた台座に背を向け、部屋の出入り口に向かおうとしたその時、背後でゴゴ…という音が聞こえた。ふり向くと石の台座がみるみる床に沈みこんでいく。どうやら何らかの仕掛けが作動しはじめたようだった。出入り口の扉の上部から鉄格子が音をたてて落下し、侵入者の退路をふさぐ。どこか遠くからさけび声が聞こえてくる。「賊が侵入したぞ!衛兵はただちに宝物庫へ向かえ!」にわかに城内がさわがしくなってきたようだ。

「さすがにタダじゃ返してくれないか。まあ覚悟はしていたさ」男は皮肉っぽく微笑んだ。

部屋の一隅にある深い闇にたたずんでいた人の形をした石像。その一対の瞳が赤く鋭い輝きをはなつと、男に向かって歩き出す。男は腰にたずさえた自分の剣をすらりと抜き、魔力で動く人形…ゴーレムに向き直った。

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