第10話 二人のパパとこれからのこと

 クレアが十五歳の誕生日の春の日のことである。

「夢をみたんだ。ストライク」

 朝、まだ起きてこない姫様にごはんを作りながら、ノスタルジアが言う。

「クレアの結婚式の夢」

「ほう」

 とにかく綺麗になっててさ。

「クレア、きれいだって言いながら僕も君も泣いててね」

 二人で涙ぐむ。

「いつか結婚しちゃうんだよなあ、クレア」

「そうだな」

「なあ、そのとき、俺たちはどうする」

「いつ彼女が孫を連れてきてもいいように部屋を用意する」

「ストライク」

「なんだね」

「これからもよろしく」

「ああ」

 二人は涙をふいて、今日はクロワッサンを焼いた。と言いつつ出しながら、ノスタルジアがクレアを呼んだ。

 ばたばたと足音がして、二人は顔を見合わせる。

「まあ、まだまだだろうが」

 ノスタルジアがほほ笑んだ。


「パパ、ダッド」

「なんだい」

「私、飛び級して中央都市の大学に通いたいの」

 仕事できなくなるけど、どうしても行きたい。

「ふむ」

「ああ」

 二人は顔を見合わせる。

「子供はいつか巣立つもの、かな」

「そうだな」

「ね、考えておいてくれる?」

「ああ」

 二人は同時にそう答えた。


 学校から帰ってきたクレアに、夕食をそこそこにケーキを出した。

「誕生日おめでとう」

「ありがとう」

「大事な話がある」

「うん、わかってる」

 ノスタルジアとストライクは、クレアに話はじめる。

「クレアは、私たちと血はつながっていない」

「うん」

「でも大事な家族だ」

「わかってる」

「君は、女王陛下と呼ばれていた、今の女性大統領のクローンだった」

「うん」

 うすうす知ってた、と、クレアが言った。

「だが、クローンではあるが、いろいろいじられている、という話だった」

「うん」

「でも、しっかり育った。クレア」

「うん」

「ほかに知りたいことは」

「大体のことはわかってるの、パパ、ダッド」

 ドラゴンたちが、私を認識するのは、その人を感じるからでしょ。

「そうだ」

「でも、私がどんなものであっても、私は私」

「ああ」

「これで今年、大統領は任期を終えて次の人になるわけでしょ」

「ああ」

「私、それとは関係なく生きてるし」

「そうだな」

 クレアが、ケーキにフォークを刺した。

「大学はなにを学ぶのかね」

 ストライクが聞いた。

「社会学。中央都市の変遷について調べる教授の授業がうけたいの。あと、エンゲージシステム。将来的に、エンゲージシステムの開発にかかわりたいから、生体コンピューターのことも学びたいわ」

 クレアはすらすらと答える。

「そうかい」

「なにも心配することはなさそうだな」

「うん、夏が終わったら中央都市に移動して、秋からの授業から向こうで受けるわ」

「わかった」

 ダッドが言う。

「クレアがそうしたいならそうしなさい」

 ストライクが言った。

「うん」

 パパとダッド、仲良くやってね。

「わかっているよ」

 ストライクが答える。

「向こうにも友達いるし、大丈夫よ」

「ああ」

 ノスタルジアが今度は答えた。


 クレアは食事を済ませて皿をノスタルジアの洗い、部屋に戻っていった。

 ノスタルジアとストライクが残る。


「なあ、ストライク」

「なんだね」

「俺たちも式を挙げて正式に夫婦になるか」

「どうしたんだね、ノスタルジア」

 そういうことにこだわるとは思わなかったんだが。

「ディープとファイアーが籍を入れていたのは知っていたか」

「ああ、報告は受けたが」

「ストライクにだけ言ったのか」

「もうかなり前だが」

「……」

「どうした、ノスタルジア」

「いや、そうならそうと、僕だってストライクと結婚したいと思って」

「ふむ、式は先になるかもしれないが、籍ならすぐに入るが」

 ストライクがそういうと、ノスタルジアを見た。

「明日、手続きに」

 ストライクの言葉に、ノスタルジアは言ったのだった。

「クレアの前に自分たちが結婚だな」

 と。

 二人は席を立って、部屋にひきあげたのだった。



 これからのことは、これからの話。

 そしてこれが、クレアの十五歳までの話。



 

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