桜木のイサド 《短編》
ヤマナシ
双子
昔、双子の兄弟が生まれた。
双子を嫌った時代だったが、幸いその村では双子を嫌っただけであって片方をどうこうしようなどという話はなかった。
しかし、兄弟が育つにつれて分かった事がある。兄は賢く、体も強い。文武両道で良い噂ばかりだった。一方弟は体が弱く、一度生死を彷徨う病にかかったりした。弟は庭にある名もない花が好きだった。兄は剣術の稽古をしていた時に花を踏んでしまった。弟は少し悲しんでいた。しかし決して口に出さない気の弱い人だった。
そんな二人はやはりというか、決まっていたかのように差別され、弟は存在などしないような扱いを受けた。
兄は若くして試験に合格し、国でも名のとどろくような役人になった。
彼は天才と呼ばれた。
弟はただ田畑を耕した。
しばらくして兄弟は同じ日に命が終わった。
差別されても仲の良い兄弟だった。
村の人は兄の才能と強さに拝むようになった。
兄は土地神様として祀られた。
しかし、社がつくられた次の日から異常気象が起こった。そのせいでききんも起こった。
これを村人達は土地神様の隣に弟がいないからお怒りになったのだと思い、横にもう一つ社を建てようとしたが、反対の声が多く、木を植えることしかできなかった。
弟が好きだった桜の木を植えた。
するとピタリと異常気象はなくなった。
ある年、大ききんが起こった。
雨が降らなかったせいで米が思うように実らなかったのだ。水不足にも陥った。だから、土地神様の桜木も枯れる直前まで荒れた。
しかし、ききんが終わりに近づいたころ、土地神様の桜木は冬なのに満開になった。
まるで血を吸ったかのように艶やかなピンクだった。
その前の年に、一人の男が、土地神様に会ったと友人に話した。友人は全く信じなかった。その男はとても不真面目で嘘ばかりつく男だったからだ。
その次の日、友人が男を訪ねると、男は人が変わったように勤勉になっていたという。
なので、土地神様に会うと、生前の土地神様のような勤勉な人になると伝えられている。
果たしてそれは、人が変わったように真面目になったのか、勤勉な人と代わったのか。
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