少女の死に方

@Kana_

プロローグ


2016年春、人口1万人以外の小さな街ではある事件が人々を震撼させていた。

突如姿の見えない連続殺人が始まり、多数の命が奪われていたのだ。

たて続く殺人に住民はおろか警察も混乱し、事件の全体像を誰も把握できないまま時だけが無情に流れる。


穏やかな春風の吹く季節だった。

新緑の田畑、多種多様の草花が茂る美しいその田舎町に殺人鬼は潜んでいる。


ニュース番組では1日中この事件関連で溢れかえっていた。ただ詳しい情報や新事実のネタが無いらしく、同じような周辺住人のインタビューが多い。

「この街でこんな事が起きるなんて」

「鍵もかけなくて大丈夫なくらい平穏な場所なんです。なのにねぇ…」


人々は未だ犯人像さえ明らかにしない警察への不信感と憤りを募らせていた。


だが無理もなかった。

数十年大きな事件とは無縁だったこの町で突如始まった連続殺人。警察署内には慌てる事しかできない知識の少ない人間ばかりな上、数日でたて続けに被害者が発見されパニック状態だった。

亡くなった被害者には職場・親族関係・過去の関係も繋がりはない。

そして全員争った形跡がなく死亡原因の調査も遅れている。


何より不可解だったのは、被害者達の表情だった。

硬直した顔は皆、殺された者とは思えないほど穏やかだった。


進まない調査の中遂行される殺人に警察はなす統べなく捜査は空回りの連続だった。

平和ボケした警察達には、突然の悲劇に対応する能力などなかったのだ。



3~5日間隔で殺人は繰り返される。



被害者の共通点は男性ということと、全員外傷が無いという事。

年齢は20代後半~50代後半でばらついていた。



新しい被害者が発見される度にメディアではお祭り騒ぎだ。被害者の情報を我先にと報道する。

そんな騒がしいテレビの画面を、じっと見つめるあどけない高校生の女の子がいた。


リポーターの伝える被害者の年齢や職業の情報を、ノートに書き足していく。


はじめて来たアパートの一室に彼女はいた。

部屋の壁には裸や性交中の男女の自撮り写真が埋め尽くされていたが、そんな事は気にしないほど集中している。


「新たに発見された被害者は、28歳のフリーター…」


『2016年3月14日、フリーター、 28、細身、体重身長は不明

結果)

睡眠薬の量: …錠

注射: … ml

様子メモ )

ホテル:ルナソル

睡眠薬が足りずか途中意識が戻ってしまった。注射が終わっていたが前半微睡みながら言葉を発していた。手を握ってあげたら落ち着いて寝てしまった。

死んでからは少し口元に泡が出た。 』




書き終えると、少女は座っていたソファからパッと立ち上がった。



「お待たせ!もういいよ」



隣の部屋で漫画を読んで待っていた男を呼ぶ。壁には種類別にバイブや電マ等が飾ってある。この異様な雰囲気の部屋は男が言うには「ヤリ部屋」らしい。立派なカメラや床に散乱したアダルトグッズを避けながら、2人で玄関から外へ出る。


2階建ての小さなアパートの階段を下り、男の車に乗り込んだ。


その女子高生は助手席に座り、疲れたのか車が動き出して数分で眠ってしまった。






町中が殺人鬼に怯える中、彼女の若くしなやかな黒髪は暖かい日差しで光沢し、美しく靡いていた。


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