第二話 信彦達、リアル愛知編敵モンスター退治の旅始まるだに(後編)

名古屋駅到着後、みんなはまた駅周辺の人通りの少ない場所をぶらつくことに。

「全然痛く無いよ」

 彩佳は味噌煮込みうどん型モンスターからまた熱々出汁をぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあと丼部分にバット一撃で消滅させた。

「確かにかなり弱く感じる」

「武器がいらないね」

 信彦と未羽は節句女人形をそれぞれ平手打ち一発で倒した。

「ういろうちゃんは指でつついただけで倒せますね」

 優希帆は五体まとめて襲って来たういろうちゃんをあっという間に撃退。

「お嬢ちゃん、いっしょにドラゴンズの試合見に行こまい」

「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」

 琴乃は中日ドラゴンズおじさんの肩をポンッと押しただけで消滅させることが出来た。

「やったぁ! 名古屋のアニヲタ君倒せたよ。お小遣いいっぱいゲットッ! ワタシの素早さが上がったおかげだわ」

 彩佳はその敵の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。

「皆様、期待以上のレベルだのん。これなら犬山の敵も問題なく倒せそうだに」

「犬山行く前にお昼ご飯食べまい。もうお昼過ぎとるし。ワタシ、回復アイテムけっこう使ったけど普通にお腹すいて来たんだわ」

「回復アイテムは食糧代わりになるほどカロリーないだで、よほど大量に摂取せんと満腹感は得られんだに」

「リアルのものと同じか凌駕するくらいの美味しさなのに、そんな仕組みになっているのは素晴らしいですね」

「ちなみにゲーム上では日中、ゲーム内時間で七時間くらい食事させずに旅させ続けとったら空腹の表示が出て敵からダメージ受けんでも体力減ってくるだに」

「そこも面倒なリアル感だな」

       ☆

 みんなは近くのファミレスで昼食を済ませたあと、名古屋駅へ歩いて戻っていく途中、

「中日ドラゴンズおじさん、また現れたな。ここでも出るんだな」

 路上でそれらしきのを信彦が発見した。

「あの中日ドラゴンズファンにあるまじきエッチなおっちゃん、ワタシがやっつけるよ」

「あたしもやるぅ」

 彩佳と未羽は武器を構えて楽しそうにそいつのもとへ駆け寄っていく。

「とりゃぁっ!」

 彩佳はバットで背中を、

「ドラゴンズのおじちゃん、くらえーっ!」

 未羽はメガホンで肩を一発攻撃した。

「いたたたぁ。こらこら、お嬢ちゃん、何すんの?」

「まだ消えせんか。攻撃力足りんかったようだわね」

「もう一発叩けば消えそう」

「あのう、このお方は本物の中日ドラゴンズおじさんずら。人型の敵は本物と見分けつきにくいんもおるだに。リアルのを参考にしてデザインされとるだで」

 菊江が苦笑いして呟くと、

「えっ!? すっ、すみませんでしたぁ」

「おじちゃんごめんなさーい」

 彩佳と未羽は慌てて謝罪。

「いや、ええんよ。なんか今朝から名古屋市内でドラゴンズの応援衣装で若い女に猥褻な行為をするたわけた輩が出とるって聞いとるし。お嬢ちゃん達はわいがその者と思ったんだら? ほんじゃあ、嬢ちゃん達も気をつけてな」

 本物の中日ドラゴンズおじさんはハハハッと陽気に笑って快く許してくれ、ナゴヤドームへ向かおうとしているのか最寄り地下鉄駅の方へ足を進める。

「間違いなく敵モンスターの中日ドラゴンズおじさんのしわざだに」

「ついに一般人にも直接被害受けたやつが出たわけか」

「名古屋市内の商店で、商品が誰かに入られた形跡もなく持ち出される不可解な現象が相次いでるみたいだわ。アニメイト、とらのあな、ゲーマーズ、ソフマップも被害に遭ったみたいだけど、それはきっと名古屋のアニヲタ君、声ヲタ君のしわざだわね」 

彩佳は自分の携帯をネットに繋いでローカルニュースと関連記事を確認する。

「泥棒もやってる敵モンスターさんは、あたし達が懲らしめなきゃいけないね」

「わたし達、使命感がさらにふくらみましたね」

「敵モンスターさん達、大人しくしてて欲しいものだよ。私達にも襲い掛からないで欲しいよ」

      ☆

 このあとみんなは名古屋駅からJRを乗り継いで犬山へ。

国宝犬山城付近を散策していくと、直径五〇センチくらいの石のようにごつごつした黒糖色の物体が数体襲い掛かって来た。

「名物のげんこつ飴さんのモンスターですね」

「げんこつ飴くんは体力40。なかなか手強いだに」

「この子もエッチなことして来そうだわ。んぎゃっ」

 彩佳はバットで叩き付けようとしたら、腹部に突進され弾き飛ばされてしまった。

「彩佳、無茶はしちゃダメだよ」

 琴乃はすぐさま回復させにいく。

「げんこつ飴くんは女の子でも容赦なくタックルかましてくるだに。硬派なんだに」

「意外と脆いな」

 信彦は竹刀で叩きつけ、一撃で消滅させた。

「岐阜編飛騨のげんこつ飴くんに比べればかなり脆いだに」

「きっと水も弱点だね。くらえーっ!」

 未羽は水鉄砲を発射。

 見事直撃し、げんこつ飴くんは弱った。もう一発当てると消滅した。

「未羽さん、ナイスです。風も弱点みたいですね」

 優希帆は扇子で仰いで残り一体のげんこつ飴くんを吹き飛ばすと、マッチ火を投げて消滅させた。

 これにて全滅。げんこつ飴を残していく。

「きゃっ、きゃぁっ!」

 すぐにまた新たな敵モンスターが視界に入り、琴乃は思わず悲鳴を上げた。けれども見入ってしまう。

「立派なご神体だけど、こんな風に登場されると猥褻に見えちゃいますね」

 優希帆は頬を少し赤らめて微笑む。

「ちっちゃい子どもだでいいがや」

 彩佳はにやけながら携帯のカメラに収めた。

「この男の子素っ裸だぁ! お○ん○んも丸見えーっ!」

 未羽はくすくす笑いながら楽しそうに、バンザイポーズで駆け足で迫ってくる高さ1.7メートルくらいのそいつを眺める。

「あの敵モンスターは犬山桃太郎くん、体力は45だに」

「桃太郎神社のあれがモンスター化したのか」

 思わず微笑んでしまった信彦は、攻撃される前に一体を竹刀ですばやく二発叩いて退治。

「かわいいお嬢さんじゃのう。ええ桃尻じゃ。わしが入っとった桃よりもええ形じゃ。汗で濡れて瑞々しくなっておるのも最高だがや。なあお嬢さん、わしといっしょに鬼退治しに行こう。雉とか犬とか猿とかうざいしあいつらもう用済みじゃ」

「いやぁん、この桃太郎、エッチだよぅ。お尻にじかに触らないでぇぇぇ~」

 他の一体が琴乃のスカートを捲り、もう片方の手でショーツの中に手を突っ込んで来た。

「犬山桃太郎くんの猥褻攻撃は、ゲーム上でも女の子を仲間にしてから遭遇させると見られるだに」

 菊江はにこにこ笑いながら伝える。 

「こいつが退治されるべきだな」

 いちご柄ショーツをばっちり見てしまった信彦は、竹刀を構えて犬山桃太郎くんに立ち向かっていく。

「ちょっと待ちりん信彦様も、他の皆様も、もう少ししたら面白いイベントが起きるだで。琴乃様、あとちょっとだけ我慢しりん」

 菊江は申し訳なさそうにお願いする。

「早く何とかしてぇぇぇ」

 琴乃が涙目で叫ぶと、

ワン、ワン、ワン、ワワン。

キッキッキー、キキキッキー。

 ケェェェーン、ケェェェーン。

 どこからともなく三種類の、動物の鳴き声がこだました。

そこに現れたのは、桃太郎のお話でお馴染み、犬、猿、雉であった。

ワン、ワワン、ワン、ワン、ワンッ!

 柴犬と思わしき犬は犬山桃太郎くんの足にガブリと噛みつく。

「いでででっ!」

キッ、キキキキキ、キッキキーッ!

「ぎゃあああああっ!」

 猿は、顔面に飛び付いて引っ掻いた。

ケェーッ、ケェーッ、ケェーッ!

雉は羽をバサバサ広げて少し中に浮き、犬山桃太郎くんに断続的につっついた。

「ぎゃああああああああああああああああああああっ!」

 犬山桃太郎くん、いろんな部分が千切れ、断末魔の叫び声を上げて消滅。

 犬、猿、雉もほぼ同時に消滅した。

犬山銘菓の桃酔果を残していく。

「こんなことが起きるんか。なかなかええもんが見れたがや」

「お供が桃太郎さんを退治しちゃったね」

 彩佳と未羽はくすくす笑っていた。

「これは斬新な桃太郎さんですね」

「桃太郎人形の周り、モザイクがかかってたな」

 優希帆と信彦も微笑んでしまう。

「解放されて助かったけど、桃太郎さんもあんなひどいやられ方されちゃうなんてかわいそうだよ」

 琴乃はホッとした表情を浮かべるも、犬山桃太郎くんに同情もしていた。

「ゲーム上では女の子を仲間にしてから犬山桃太郎くんと遭遇させて、女の子が襲われた後、しばらく攻撃せずにいるとこういうのが見れるだに」

「別に見たくはないけどな」

 信彦は微笑み顔できっぱりと主張する。

「んっ? ひゃぁんっ! きゃあああああっ!」

 その直後に琴乃は何かに全身を絡み付かれてしまった。

「犬山ヒトツバタゴ衛門だ。名前の通り犬山の天然記念物、ヒトツバタゴの樹がモンスター化したやつだに。こいつは身動き封じてくるから厄介だに。体力は46。弱点は他の植物型の敵同様、炎だに」

「見た目通りね。マッチで。きゃっ、きゃぁっ!」

 優希帆も全身に絡み付かれてしまう。

「あーん、私のパンツに枝や葉っぱ入れないで」

「ぃやぁん、このヒトツバタゴさん、ぬるっとした樹液出して来たわ。いたくすぐった気持ちいいです」

 高さは五メートルほどでリアルのより小さめ。数十本に分かれた枝や葉っぱを自由自在に動かすことが出来ていた。

「こうなったら炎使えないな。俺に任せて」

 信彦は巻き付き攻撃に注意しつつ、犬山ヒトツバタゴ衛門を竹刀でぶっ叩く。

「一撃じゃ無理か。うぉわっ!」

 攻撃し返され、枝でバチンッと頬を引っ叩かれた。スパッと切れて血が少し噴き出てくる。

「信彦くぅん、早く回復して」

「これくらいノーダメージと同じだよ」

 信彦は怯まず竹刀でもう一撃。

 まだ倒せず。

「くらえーっ!」

 未羽はメガホン攻撃を食らわせた。

「十八禁同人誌みたいなことしやがったエロブナ、これでどうだっ!」

 彩佳のバット攻撃でもまだ倒せず。

「しぶといな」

 信彦が竹刀でもう一発叩いてようやく退治出来た。

ありがとうボーロ、栗きんとんを羽二重餅で包んだ犬山銘菓【栗羽二重】を残していく。

を残していく。

「みんな、ありがとう」

「ありがとう、ございます」

 解放された琴乃と優希帆はかなり疲れ切っていた。

「なかなか倒せんかったんは、琴乃様と優希帆様の体力吸い取って自身の体力回復させとったからだに」

 菊江は得意げに解説する。

「優希帆お姉ちゃん、琴乃お姉ちゃん、これで回復させてね」

 未羽は桃酔果を一個ずつ与えて全快させた。

「ここの敵、本当に手強いな」

 あまりダメージのない信彦は金シャチ飴一個で全快させることが出来た。

 直後に、

「いっててててっ!」

信彦は数羽の鵜に襲い掛かられる。

 よく見ると縄で繋がれていた。

「あっ、鵜匠さんだ」

 琴乃は前方に現れた風折烏帽子、漁服、胸当て、腰蓑を身に纏ったおじさんを見つけた。

「よけられたがやっ!」

「素早い鵜だね」 

 彩佳と未羽の鵜への手裏剣攻撃、ともに空振り。

「木曽川鵜匠さん、鵜は手強いけど鵜匠本体はかなりの雑魚だに。本体を倒せば鵜も同時に消えるだで本体を狙うのがベストだに」

 菊江のアドバイスを聞き、

「鵜匠のおじちゃん、くらえーっ!」

 未羽は手裏剣を鵜匠本体に命中させた。

 これにてあっさり消滅。鮎おこしを残していく。

みんなは付近を引き続き歩き回っていると、

「うわっ」

 信彦、

「きゃっ!」

 琴乃、

「びちょびしょになってもうたがや」

 青い、

「冷たぁい」

 未羽、

「これはお抹茶ね。誰のしわざかしら?」

 優希帆、

「間違いなく茶運び人形のしわざだに」

 菊江、

全員背後から抹茶をぶっかけられた。

菊江の推測通り、みんなの目の前に茶運び人形が。着物を纏った坊主頭の小僧型で、高さは1.3メートルくらいだった。

「こいつまでモンスターになってるのかよ」

「犬山祭でお馴染みのものがモンスター化されたみたいですね」

「犬山からくり人形、茶運び人形型は体力47。普通に戦うと手強いけど、楽に倒せるように出来る方法があるだに」

「きっとこれだな」

 すぐに勘付いた信彦は、盆に乗っかっていた犬山焼の茶碗を竹刀で弾き飛ばした。

 すると、

「やっぱりな。この点はリアル茶運び人形の原理と同じみたいだな」

 茶運び人形はぴたりと動きが止まった。

「信彦様、お見事だに。これで二ターン目の大ダメージ食らわせてくる熱湯煎茶攻撃回避だに。その茶碗を元に戻したらまた動き出してお茶ぶっかけ攻撃かましてくるけど、戻さんかったら何も攻撃して来ないだで楽勝だに」

「こうなると、攻撃する気なくしちゃうよね。みんな、この子攻撃するのはかわいそうだよ」

 琴乃はうっとりした表情で茶運び人形のお顔を観察する。

「確かにちょっと攻撃しづらい愛らしさがありますね」

「ワタシも勿体ないと思うがや」

「俺も攻撃する必要もないかなって思うけど、邪魔だしな」

 信彦は苦笑いする。

「茶運び人形さん、これどうぞ」

 未羽は生クリーム餡を口元目掛けてぶっかけた。

「この子、嬉しそうな表情に変わったね」

「確かにお茶と生クリームと餡子は合うものね」

「ますますかわいいがや」

 琴乃と優希帆と彩佳の表情も釣られるように綻ぶ。

「皆様、放置という選択肢で良いみたいだのん」

「これ、けっこうでかいけど他の通行人の邪魔にならないか?」

「問題ないだに信彦様。不動状態の敵モンスターは皆様の視界から離れると即自然消滅するだで」

 みんなは茶運び人形はそのままにして、この場所から離れていく。

 しばらく歩き進むと、

「きゃぁっ!」

「いやぁん、こいつ人形の癖にエッチだわ」

 琴乃と彩佳はさっきのとは別の数種類のからくり人形型モンスターに襲われた。胸にしがみ付かれたり、御幣で上着やスカートを思いっ切り捲られたりされ、ブラやショーツが丸見えに。

「犬山からくり人形の幣振人形型は体力は40、大黒人形型は36、唐子人形型は39、前人形型は44だに」

「またしてもエロ攻撃好きな敵かよ」

 信彦は呆れ気味に竹刀で立ち向かっていくも、

「ぐわっ!」

 大黒人形に頭突きされ突き飛ばされてしまった。

「いってててっ」

 信彦は地面に叩き付けられてしまう。

「信彦くぅん、大丈夫?」

 琴乃は前人形型にまとわりつかれながらも心配そうに駆け寄っていき、ありがとうボーロを信彦の口に放り込んだ。

「おう、痛み消えた」

 信彦は完全回復すると、再び立ち向かっていき前人形型一体にマッチ火と竹刀の連続攻撃を食らわし消滅させた。

「からくり人形くん、くらえーっ!」

「人形のくせに生意気だわ」

「あなた達は犬山祭で活躍すべきからくり人形さんですよ」

 未羽の手裏剣&水鉄砲、彩佳のGペン、優希帆のマッチ火攻撃で残りも一気に全滅させた。

 わん丸くんクッキー、じねんじょ夢とろろドーナツ、明治村サブレを残していく。

        ☆

 みんなはこのあと、犬山駅前からタクシー利用で足助へ。

「リアル香嵐渓、ゲーム内よりもきれいかも。紅葉の時にまた来たいだに」

 紅葉の名所として名高い香嵐渓待月橋付近を散策していくと、ぴょんぴょん跳ねながら近づいてくる敵モンスターの姿が。扁平わらじの形をした、たれ付き餅で竹串に刺さっていた。高さは1.5メートルくらいあり、香ばしい香りも漂ってくる。

「五平餅のモンスターか」

「美味しそうだね」

「琴乃お姉さん、あれもきっと敵だわ」

「倒したら五平餅が貰えそうだね。あたし、五平餅大好き♪」

「体当たり攻撃はかなり強烈そうですね」

「奥三河の五平餅くん、体力は50。田舎ほど敵が強くなるの原則により、豊田市中心地に出る自動車型モンスターよりも突進力は強烈だに。皆様の今の力でも大ダメージ貰うずら。ただ奥三河のは動きは遅いだで簡単によけれるだに。ゲーム上でも命中率は低いだに」

「弱点は火だよな?」

 信彦はマッチ火を投げつける。

 五平餅くんは真っ黒焦げになり、たちまち消滅した。

「ほんま、動き遅いがや」

 彩佳はGペンと手裏剣計二発で消滅させる。

「生クリーム餡は合うのかな?」

 未羽は好奇心いっぱいで生クリーム餡をぶっかけてみる。

 消滅はしなかったが、ずいぶん弱ったようだった。

 すかさずヨーヨーでもう一発攻撃を食らわすとあっさり消滅した。

「さすがに不味くなっちゃうと思うわ」

 優希帆は別の一体からの突進攻撃を余裕でかわすと扇子で攻撃。

 次の瞬間、その五平餅くんはくるっと回転して、

「きゃんっ! あつぃ!」

 熱々たれをお顔にぶっかけて来た。

「たれ攻撃も五平餅くんの得意技なんだに」

「村瀬さん、大丈夫か?」

 信彦が竹刀でそいつをもう一発叩くと消滅した。

 これにて全滅。焼き立ての五平餅を残していく。

「リアルの以上にとても美味しそうだけど、わたし猫舌なので、冷ましてから食べるわ」

 しばらく待ってから優希帆が食し、先ほどのダメージを回復させた。

「うわっ、眩しいっ!」

 その直後、どこからともなく照らされた激しい光が信彦の目をくらました。

 ほどなくみんなの目の前に現れたのは、高さ八〇センチくらい。竹籠に和紙が巻かれた行灯型モンスターだった。

「うっひゃぁっ、眩しいがや」

「太陽直接見たみたいだね。攻撃当たらないよう」

 そいつにバット攻撃をしようとした彩佳、メガホン攻撃をしようとした未羽にも光攻撃を食らわす。

「いたぁっ、どえらい効いたわ~」

「痛い、痛ぁい」

 さらに腹部に突進攻撃も受けてしまう。

「リアルな足助のたんころりんはここまで眩しくないよね?」

「これは直視出来ませんね」

「うちもでれ眩しいだに。足助たんころりん、体力は48。ゲーム上ではサングラスを装備すると光攻撃防げるだに」

 琴乃と優希帆も目がくらんでしまった。

「火がついて紙もついてるから絶対水が弱点だね。眩しいよぅ」

未羽はもう一度足助たんころりんの姿を確認し水鉄砲の狙いを定めると、すぐに目を背けたのとほぼ同時に発射した。 

見事命中すると、足助たんころりんの明かりが消えた。

「まだ目がチカチカするぅ」

 未羽はもう一度水鉄砲を発射したが空振り。

「俺もまだ目が見えにくい。ぐおっ!」

 信彦の竹刀攻撃も空振ってしまい、腹部に突進されてしまった。

「ワタシはわりと戻って来たがや。ありゃ」

 彩佳のバット攻撃も空振ったが、

「これならどうだっ!」

すぐに食らわせたGペン攻撃は見事命中し、足助たんころりんは消滅した。

足助銘菓【日月もなか】を残していく。

 みんなの視力もほぼ同時に元の状態へ。

 しかしその直後、

「うわっ、今度はもみじで目くらましかよ」

 みんなの目の前に赤や黄色に染まったもみじの葉っぱの猛吹雪が。信彦は手ではたいたが視界は全く晴れず。

「この時期に紅葉見れるんは得した気分だけど、これ絶対攻撃してくる罠だわね」

 彩佳が予感した通り、

「きゃんっ! 痛いです。紅葉は大変美しいですが」

 紅葉のわずかな隙間から枝がいきなり飛び出して来て、優希帆が弾き飛ばされてしまった。

「ぃやぁーん」

 琴乃は別の枝でスカートをビリッと破かれてしまった。ショーツの一部が露になってしまう。

「この敵までエロ攻撃かよ。ぶぉぁっ! いってぇぇぇっ! 犬山ヒトツバタゴ衛門より強烈だな」

 信彦はまた別の枝でバチンッと頬を引っ叩かれた。スパッと切れて血がかなり噴き出てくる。

「この敵は足助で最強、体力53の香嵐渓もみじだに。ゲーム上でも戦闘画面になるともみじの葉っぱ画面いっぱいに撒き散らして攻撃当たりにくくしてくるだに」

「数打ちゃ当たる戦法だね」

 未羽は両手を用いて水鉄砲と手裏剣攻撃を同時に食らわす。

「本当に敵がどんどん手強くなってるがや」

 彩佳はGペンと手裏剣を同時に食らわした。

 するともみじの吹雪がパッと消滅した。

そして目の前には回復アイテムの香嵐渓名物【もみじの衣揚げ】が。

「倒したみたいだね」

「上手くいったがや。敵の姿が見えんかったのはちょっと残念だけど」

 未羽と彩佳が勝利を喜んでいると突如、

「フォフォフォ、皆の者、敵モンスター退治、良く頑張っておるようじゃな。若い娘さんがようけおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」

 白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんがみんなの前に現れた。

「おう、意外な所で遭遇だに。ゲーム上ではこの敵、仙人伝説の残る鳳来寺付近に出るけど」

「エロそうな爺ちゃんだわ」

 彩佳はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。

「フォフォフォフォッ。わしは小学生の女子(おなご)が一番の好みなのじゃよ」

 お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。

「ロリコンなんかぁ。見た目通りだわね」

「あたしが好きなの?」

 未羽がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、

「未羽、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」

「そんなことしないよ」

「いや、しそうだよ」

 琴乃に背後から掴まえられた。

「このお方は学問仙人といって、対戦避けることも出来るけど、戦った方が後々の旅で有利になるずら」

「学問仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、愛知編で早くも遭遇するんだな」

 信彦は興味深そうに学問仙人のお姿を眺めた。

「敵モンスターだけど、倒せば味方になってくれるだに。主人公達に学力向上を授けてくれるいいお方だに。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きなんだに」

「ホホホッ。わしはつい一時間ほど前まではリアル鳳来寺におったのじゃが、早く勇者達に会いたくてタクシーを利用してここまでやって来たのじゃ」

「タクシー利用か。なんか、仙人っぽくないな。雲に乗ってくるとか」

「雲に乗れるとかあり得んし。少年よ、現実的に考えよ」

 学問仙人はにこにこ微笑む。

「そう突っ込まれたか。俺らの居場所知った方法も、菊江ちゃんが事前にメール送って知らせてたとか」

「その通りだに信彦様。勘が鋭いのん」

「やっぱそっか」

「ホホホッ、見事正解じゃ。その点は超能力とは思わんかったか少年。そこの未羽と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」

「やる、やるぅ」

「未羽、危ないからダメだよ」

「小学生の未羽様では、まだ倒すんはきっと無理ずら」

「戦いたいんだけどなぁ」

「わたしがやりますっ!」

 優希帆が率先して学問仙人の前に歩み寄った。

「ショートがよくお似合いのお嬢さんは、東大志望かのう?」

 学問仙人がにこにこ顔で問いかける。

「はい、わたしは東大第一志望よ」

 優希帆はきりっとした表情で答えた。

「ほうか。こりゃ戦いがいがあるわい。それっ!」

 学問仙人はいきなり杖を振りかざしてくる。

「ひゃっ!」

 優希帆は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまった。

「想像以上に強いな。このエロ爺」

 信彦はとっさに優希帆から目を背けた。

「きゃんっ!」

服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。

「なかなかのスタイルじゃわい」

 学問仙人はホホホッと笑う。

「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。体中が痛い」

 仰向けで苦しそうに呟く優希帆のもとへ、

「大丈夫? 優希帆ちゃん、これ食べて」

 琴乃はすぐさま駆け寄って、名古屋の恋人ラングドシャを与えて回復させた。けれども服は戻らず。

「学問仙人、攻撃もエロいがや。ワタシも協力するよ」

「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」

 彩佳はバット、未羽は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。

 しかし、

「ほいっ!」

「きゃわっ! もう、ほんとにエッチだわ」

「いやーん、すごい風ぇ」

優希帆と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。

「彩佳も未羽も大丈夫?」

「平気だわ、琴乃お姉さん」

「あたしも、大丈夫だよ」

「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」

琴乃は心配そうに駆け寄り、じねんじょ夢とろろドーナツなどで全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。

「一応、やってみるか」

 彩佳と未羽のあられもない姿も一瞬見てしまった信彦も、竹刀を構えて恐る恐る立ち向かっていったが、

「それっ!」

「うおあっ!」

 やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。

「男の裸なんか見たくないからのう」

 学問仙人はにっこり微笑んだ。

「信彦さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」

「ありがとう、村瀬さん」

 明日用の替えの服を着た優希帆は鮎おこしで信彦を全快させてあげた。

「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」

「いいえけっこうです!」

 学問仙人に微笑み顔で誘われた琴乃は、青ざめた表情で即拒否した。

「このエロ爺、どえらい強さだわ。これは倒しがいがあるわ~」

「中ボスの力じゃないよね?」

 彩佳と未羽は圧倒されるも、わくわくもしていた。

「どうやっても、勝てる気がしないわ」

 優希帆は悲しげな表情で呟く。

「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ?」

 信彦は彩佳と未羽のあられもない姿を見ないよう視線を学問仙人に向けていた。

「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」

 学問仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を信彦に差し出して来た。

「これ、テストか?」

「学問仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学問仙人が出す筆記試験の正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるだに。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるだに。ちなみにゲーム上ではネット検索対抗で一問当たり三〇秒の制限時間が設けられてるだに」

 菊江は解説を加えた。

「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ三割も取れんと思うがのう。三割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」

 学問仙人はどや顔でおっしゃる。

「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか?」

 信彦は苦笑いした。

 鉢の直径より葉の幅を大きくし、花を一輪咲かせる大菊の仕立て方は何と呼ばれている? 

児童文学『おぢいさんのランプ』の著者は誰? 

愛知県内にある次の地名の読み仮名を記せ【御器所】【池鯉鮒】【宝飯】などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。

「あたし一問も分からないよぅ」

「ワタシもだわ」

「彩佳ちゃん、未羽ちゃんも、服破けてるから」

 前から覗き込まれ、信彦はもう片方の手でとっさに目を覆う。

「すまんねえ信彦お兄さん、すぐに着てくるわ~」

「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」

 彩佳と未羽は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。

「私も、ちょっとしか分からないよ。三割も取れないと思う」

 琴乃もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。

「それならわたしに任せて」

 優希帆はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答を記述し始めた。

 全部で百問。一問一点の百点満点だ。


「どうぞ」

優希帆は三〇分ほどで解答を終え、清清しい笑顔で学問仙人に手渡した。

「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ! なんと、九八点じゃとぉっ! ネットで調べる素振り見せておらんかったのに」

 学問仙人は驚き顔で呟く。

「優希帆様、さすが賢者。大変素晴らしいだに。どこにでもいるごく普通の高校生なら三割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学問仙人、能力値九割八分減で節句人形女雛並にへぼくなったずら」

「本当か? 姿は全然変わってないけど」

 信彦は少しにやけた。

「いや、わしの強さは全く変わってないぞよ」

 学問仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。

「明らかに弱くなってますね。学問仙人さん、エッチな攻撃した仕返しよ」

 優希帆は扇子で学問仙人の頬を引っ叩いた。

「ぐええ! まいった」

 学問仙人は数メートル吹っ飛ばされてしまい、あえなく降参。

「能力値極端に下がり過ぎだろ」

 信彦は思わず笑ってしまう。

「服も戻ったわ」

「ほんとがや」

「勝ったんだね」

 優希帆、彩佳、未羽の破かれた服も瞬く間に元通りに。

「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きたまえ」

 学問仙人はみんなに学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。

「なんか、急に頭が冴えて来た気がするがや」

「俺も」

「私もだよ」

「あたしもすごく頭が良くなった気がする。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」

「わたしもですよ。本当に本領が発揮出来て嬉しいです♪」

 優希帆は満面の笑みを浮かべる。

「優希帆様に喜んでもらえてうちも嬉しいだに。皆様、もう夕方だで、このあと湯谷温泉へ移動したら宿を決めまい」

「この時期に、湯谷温泉で六人も泊まるとこあるのかな? 連休中だしどこも埋まってそう」

 信彦は少し心配になった。

「瓢翠(ひさごすい)旅館は空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万五千円だって。六名以上だと団体割引で一万二千円よ」

「それでも高めだけど全部屋露天風呂付き客室なんか。優希帆お姉さん、ここにしよまい!」

「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」

「私もー」

「いい場所にあるのん。うちもここがいいだに」

「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったの」

 優希帆は携帯のネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。

「ゲーム上でも事前予約してないと、宿に泊まれん場合もあるだに」

「そこもリアルさがあるな」

 信彦はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。

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