あいち色モンスター退治は現実準拠能力と合法武器で挑めっ!

明石竜 

序章

架空の大陸や島にある架空の国が舞台、神話をモチーフにした西洋風な世界観。

固有名詞が僕の考えた格好いい用語的な、覚えるのが面倒な造語だらけ。 

ドラゴンや精霊、魔族、召喚獣、人語を喋る動植物や岩なんかが人々と共に暮らし、選ばれし勇者達が聖剣魔剣だの魔法呪文詠唱だのを駆使してモンスターと戦い魔王討伐を目指すファンタジーRPGって、在り来たり過ぎて食傷気味だなぁ。

なーんて日頃から感じてた俺、学校帰りにショッピングモールの家電量販店寄って、新作ゲーム衝動買いしてわくわく気分で店の外出たら、通路で不良集団に遭遇しちゃったんだけど……(・_・;)。


九月半ばのある金曜日夕方四時半頃、高校一年生の黒宮信彦(のぶひこ)はそんな状況から心拍数が急上昇し冷や汗が流れ出ていた。茶髪や金髪に染め、ピアスや髑髏(スカル)ブレスなどを装備したガラの悪い高校生らしき連中が男六名女二名の計八名、ベンチの周りで駄弁っていたのだ。

《恐喝不可避か? 否。目を合わさなければ、特に問題ない、よな?》

 信彦は視線を床に向け、彼らの横を恐る恐る早歩きで通り過ぎていく。

《よぉし。何も問題なかったな》

ホッと一安心した。その直後、

「なあっ、ボクちょっと待ってやあ」

 危機襲来! 一八〇センチ近くあった恰幅のいい金髪な一人に背後から肩を掴まれ、にこやかな表情で話しかけられてしまった。他の男仲間も信彦のそばに近寄ってくる。

《うわっ、やばっ! これは“逃げる”を選択するに限るな》

 信彦は反射的かつ本能的にそう判断して全速力で走り去った。あわや通せん坊回避! 五〇メートル六秒九台のなかなかの俊足振りを発揮したのが功を奏したか、はたまた付近に親子連れや老人グループなどの客もいたためか、彼らに追われることなく別館三階から本館一階食品売り場横まで逃げ切れ事なきを得た。

《なんだよさっきの教育水準の明らかに低い連中は。どこの底辺高校の奴らだよ? なんで他にも俺と同い年くらいの奴けっこういたのにわざわざ俺を選ぶんだよ? 俺の通ってる高校、あいつらの九九やアルファベットすら怪しそうな知能レベルじゃ絶対受からないから嫉妬してるのか? まあ俺、身長一七〇ないし体重も五〇キロないし見るからに弱そうだもんな》

 なんとも不愉快な気分で最寄り出口の方へ歩み行く信彦であったが、途中で運気を好転させるかのような出来事が――。

「あっ、信彦くん。ここに来てたんだね」

 ほんのり栗色ナチュラルストレートヘアな女の子に声をかけられた。ショッピングカートを引いていたこの子は信彦の幼馴染、鏡味琴乃(かがみ ことの)だ。家もお隣同士、クラスも今は同じな彼女の周りには他に三人の女の子がいた。

「信彦さん、約一時間振りですね」

一人は琴乃の幼友達、村瀬優希帆(むらせ ゆきほ)。四角い眼鏡をかけ、ほんのり茶色な髪をショートボブにしてお淑やかさを感じさせている。

 あとの二人は琴乃の妹だ。 

「やっほー信彦お兄さん、ここで会うなんて奇遇だわね」

丸顔丸眼鏡ボサッとしたウルフカットがまあまあ似合う次女、中二の彩佳(あやか)。

「信彦お兄ちゃん、今日の部活でマドレーヌ作ったよ。おウチに置いて来たから今はないけど」

いちごのチャーム付きヘアゴムでお団子結びにした髪が可愛らしい、青いサロペット姿な三女、小四の未羽(みう)である。

「みんなで買い物しに来てたんだね」

 信彦はさっきまでとは打って変わって上機嫌な爽やか笑顔だ。

「うん、お母さんに頼まれちゃって。たった今来たとこだよ。私達お買い物済ませたらコメダに寄るつもりなんだけど、信彦くんもいっしょにどう?」

「俺はいいよ。それよりさっきゲーム買ったら不良にからまれそうになったよ」

「信彦くん、大丈夫だった? 怪我はない? お金とかとられてない?」

 琴乃は深刻そうな面持ちでとても心配そうに接してくれる。

「うん、すぐ逃げたからノーダメージだよ」

「よかった無事で♪」

「信彦お兄さん、逃げるんは情けないがや。戦って逆にびびらしたりなよ」

 彩佳ににやけ顔でダメ出しされるも、

「それは絶対無理だ。俺より強そうな奴ばっかだったし」

 信彦は苦笑いできっぱりとこう言い返した。

「信彦くんのやり方は極めて正しいよ。怪我したら大変だもん」

「わたしもそれがベストな手段だと思うわ。たとえ腕に自信があっても後々のことを考えると。不良集団には関わらないのが一番ですね」

「あたしの担任も怖い人には絶対近寄らないようにって言ってたよ。信彦お兄ちゃん、どんなゲーム買ったの?」

「RPGだけど、なんか変わってるっぽい。普通RPGって俺らの考えた世界地図な架空の異世界を舞台にするものだけど、このRPGは現代日本が舞台みたいで魔王とかドラゴンとか、エルフとか騎士とか亜人獣人とかゴーレムとか定番のものは出て来なさそうだ」

 信彦はそう伝えながらさっき買ったゲームソフトを鞄から取り出した。

「これ、面白いのかなぁ?」

 未羽はパッケージを興味深そうに観察する。

「日本地理の学習用ソフトみたい。RPGっぽくないような……」

「鯉賀堂って聞いたことない制作会社名だけどこれも和風だわね」

「タイトルからして地雷臭が漂ってる予感がするけど、わたしプレーしてみたいな」

 琴乃と彩佳と優希帆も興味津々だ。

 タイトルは『日本全国ご当地色モンスター退治旅』。行書体黒筆文字で書かれていた。

 パッケージには鳥瞰図風の立体的な日本地図がプリントされていて、羆、鳴子こけし、高崎だるま、さるぼぼ、舞妓さん、坊っちゃん団子、有田焼茶碗、シーサーなどのデフォルメイラストがご当地に該当する地図上に描かれていた。

ちなみにテレビゲーム用で、CEROは十二歳以上対象のBだ。

「このゲーム、ワタシもプレーしたいわ~。信彦お兄さん、いっしょにやらせてやあ」

「あたしもしたーい。今日は久し振りに信彦お兄ちゃんちでゲーム大会だね」

「夏休みの最後の日以来だね。信彦くんち、あとでお邪魔するね。私もちょっとプレーしたいから」

「信彦さん、一時間程度お邪魔させてもらいますね」

「久し振りってほど期間開いてないと思うけど」

 みんな行く気満々で、信彦はちょっぴり迷惑がるも嬉しくも思っていた。この四名が信彦の自室を訪れてくることは昔からしょっちゅうなのだ。

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