step 18 秘密警察の記録
(以下、表記は全てフランス語においてなされている)
"発:『赤い熊蜂』より
当:長官殿へ
盟主アウエルバッハ公爵閣下への、敬慕と忠誠をここに約す。
(サイン)W・V・F
フェルダー法律事務所への潜入記録、及び調査の短期報告として取りまとめし情報は以下の通り。
5月某日
所長マクシミリアン刺突さる。数週間床に伏し、生死の境を数日さまよったがからくも命を拾った。
下手人はドイツ人、彫刻家のリッツェン=ゴルドベルグ也。
7月某日
同事務所へ来訪者一名。プロヴァンス侯爵家次男、デュードネ=ド=リヴロン。兄であり現当主のラウル=ド=リヴロンの消息を掴みに来た模様。その他外交的思惑、我が国への実害実益共になし。
7月某日
同事務所へ不審なる来訪者一名。我が国の軍関連の人物と思われる。目下、陸軍への在籍照会、また戸籍確認を急いでいる。
8月某日
監視していた人物の来歴を特定。以下に記す
氏名:マリウス=ヤブノロフスキー、32歳。
オーストリア陸軍北方第22
その際、帝国領内の多種の民族とも知己を得たため、人脈広く、北方防衛においても間諜活動の功績を称えられている。
ポーランド語、ドイツ語、イタリア語、多少のスラブ諸言語に明るい。
気性は激しく周囲からは『
フェルダー法律事務所長マクシミリアン=フォン=フェルダーとは氏の母方との血縁があり従兄弟の関係。さらにギムナジウム時代では机を並べた、いわば竹馬の友。
中央聯隊への移動の報告をもって旧交を温めると見せてはいるものの、不穏な空気を紛らすものとも見える。
当該人物については引き続き監視続行。
8月某日
当該事務所に住み着いている不法滞在者、
紋章院への問合せは秘密裏に行われた。Dは厳正なる記録・証書を照合した結果、セルビアはアレクサンドル王の遺児、つまり帝国庇護下の王国の親王女であることが判明。
Dの身柄とその行く末は、領土紛争の火種となるは明白。諸外国の機関から奪取される前に早急に身柄を確保し、国内に留保するとともに帝国式の教育を施す必要があると愚考する。
報告は以上である。
沈黙の誓いを守らんことを。"
:全四枚に渡るこの紙片は、第一次世界大戦前後のものと思われる貴重な文書である。ポーランド国境付近の民家の納屋より発見され、当初は私文書もしくは創作物と思われていたが、様々な観点からその可能性を排除。
現在、謎に包まれたハプスブルク家の暗部である秘密警察組織の貴重な資料の一端としてウィーン軍事史博物館への収蔵ではなく、オーストリア政府直轄の国庫に保管されている。
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