初登校と不良品

「優気さん、朝ですよ!起きて下さい!」

夏日がハイテンションで起こしに来た。

そう。今日から新学期、学校の始まりだ。

「おはよう夏…」

俺は夏日の制服姿を見て感動していた。少々キツく、いやらしい所がまたなんとも言えない。

「夏日、もう制服着てんのか。その……せっかちだな。」

それを聞いた夏日はニヤッと小悪魔のような笑みを浮かべ、

「優気さん。今可愛いって言おうとしましたよね。」

「してねぇよ。ただ似合うなって…」

似合う。いろんな意味で。

「つまり可愛いって事ですか?」

最近こいつあざといな。まあそれも含めて可愛いのも事実だが。

「まあ、それなりには。」

すると夏日は満足気に胸を張る。

やっぱりこいつの制服、胸回り小せえ…そんでスカートの丈もめちゃくちゃ短えな…

「お前、それ誘ってんのか?」

「え、何の事ですか?」

「お前のいやらしい身体が最大限まで生かされるようなその制服っ!お前が選んだのか?」

すると、夏日はコンマ1秒くらいの間止まっていた。

そして、俺の言いたい事を理解した夏日は、顔が真っ赤になる。

「違います!違いますよ!お母さんにこれぐらいのサイズの方が優気が喜ぶって言われたので。」

くそ。俺の知らない所でそんな事を言っていたのか。

しかしそうなると、夏日にいやらしい身体と言った俺は相当気持ちの悪い奴に見えただろう。俺が真っ赤になりそうだ。

「まあそれはいい!そんな事より早く飯食って行くぞ。もう7時30分だからな…あれ、9時30分…」

この時計が狂っているのか?

そう思い、俺は携帯の時計を確認する。やはり9時30分だった。

「夏日、遅刻だ!もう朝飯なんて食ってる暇ねえぞ!」

そう言うと俺は「アイツ」の守備位置を整えて、すぐに制服に着替えた。

「「いってきます」」


遅い。

夏日は走るのがものすごく遅い。ロボットだから走るのが速いと思っていたんだがな。

少し走っては息を切らし、また少し走っては息を切らしていた。

くそ。こんなんじゃ始業式にすら間に合わないぞ。

俺は夏日に背中を向けてしゃがんだ。

「乗れ。」

すると夏日は少し戸惑いながらも背中に乗ってくる。

思っていたより夏日は軽かった。どうやらロボットと言っても中に金属が入っている訳では無いようだ。

まあそんな事はどうでもいい、せめて始業式には間に合わないと。それに、夏日にとっては初登校なのだから遅刻させる訳にはいかない。

そう思って走り出すと、

やばい。こいつ、柔らけえ…

夏日の豊胸が俺の背中に当たる。

将来は魔法使い安定の童貞にとってこれは辛い。

いや、こんな事考えてはいけない。無心、無心。

そう思った俺だったが、気づくとまだ1メートルも進んでいなかった。

これは駄目だ。仕方が無い。

「夏日、ちょっと悪い。」

そう言うと俺は夏日の脚と肩を持ち上げた。俗に言う「お姫様抱っこ」というやつだ。

「ちょっと!優気さん、恥ずかしいです!」

夏日が何か言っているが、俺は夏日の方を向かず無視をする。

何故なら夏日の方を向くとまた俺の各部が反応して走れなくなってしまうからだ。


「遅れてすみません!」

俺は、夏日を抱っこしたまま教室まで走りきった。すると、まだホームルームをしていた。

やった…なんとか始業式には間に合ったんだ…

という感動に浸っていられたのもつかの間。俺は夏日を抱っこしている事を思い出した。

夏日をすぐに下ろしたものの、これはまずいと思い、皆の様子を伺った。すると、みんな俺と、俺に抱っこをされている夏日を交互に見ては、俺の事を性犯罪者を見るような目で見てきた。

そして、愛莉は下を向きながら静かに打ち震えていた。かなり怒っているというのがよく分かる。

皆の反応はともかく、愛莉の反応は安心した。愛莉には悪いが、まだ俺に無関心ではないという事が分かったからだ。

夏日と幼馴染だったという事は、夏日が編入する事でかなり信憑性が高まるだろう。そしてなにより、美咲が愛莉に嘘を吐いた事を告白し、謝ってくれるらしい。

それでも、愛梨が俺に対して無関心だと寄りを戻せないかもしれないからな。

皆が俺に対して思った事と同じ事を思ったのか、俺の担任、筑紫紗枝(つくしさえ)は慌てて言ってきた。

「遅刻は駄目だが、違うぞ!みんな、違うぞ!こいつは愛徒の幼馴染で親の仕事の都合でこの高校へ編入してきたそうだ。今日からみんなと一緒に勉強する仲間だからなー。」

先生…そんな違う違う言われても、一体何が違うんだよ。まあ大体分かるが。

それよりみんなはどういう反応をしているのだろう。

俺はみんなの様子を伺ってみる。すると、みんなまだ俺を怪しんでいるようだった。

だけど、そんな中で愛莉だけは先程までの怒っているような感じではなく、何かを考えているようだった。

おそらく美咲に言われた事と、ゲームセンターでの事、そして今現在の状況を整理しているのだろう。

そして、もう1人何かを考えている人がいた。

そう、美咲だ。

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