道で拾った不良品が可愛過ぎるのだが

銀町要

俺と不良品

頭が痛くなるほどの直射日光を浴びながら、俺は駅から家に帰っていた。1時間前の事を思い出すと、恥ずかしさと悔しさで涙が出そうになる。この頭痛は直射日光のせいではなくこれのせいかもしれない。

デート中に、何の前触れもなく突然告げられた。

「私もう優気の事好きじゃないんだ。別れよう。」

と。それを告げられる前に次はどこ行こうかとか、何観に行こうかとか、馬鹿みたいに言っていた自分を殺したくなる。

俺は愛徒優気(あいとゆうき)、俺はこんなふざけた名前が大嫌いだ。そして、俺はいつもこの名前とは正反対の行動ばかりとってしまう。言い訳をしたり、虫を殺したり…

くそ。あいつも俺のこんな性格を嫌って別れたんだ。

そう自分を責め、ふて腐れている時、前からメイド服を着た白髪の美少女が歩いて来た。よく見ると、いや、よく見ないでも分かるような位置に、「不良品」というタグが付いている。

おそらく高校生が観てはいけないようなビデオの撮影か、変な趣味なのだろう。ここは無視して通り過ぎよう。

「あの、君、今私の事無視しようとしましたよね。」

話しかけられたぁぁぁ…なんだこれ、いわゆる童○狩り企画か!?とても興奮するが俺は好きな人で卒業すると決めている。やはり無視しよう。

「ねぇ、ちょっと、聞いてますか?君ですよ。そこの冴えない顔した男の子ですよ。」

失礼な人だ。でもこのまま放っておくと付いて来そうな気がするので、返事をしてみよう。

「俺に何か用ですか?」

すると、その「不良品」は手を背中に回し、

「泊まるとこないから泊めて欲しいのですが…」

あ、これ絶対そういう企画だ。素○の自宅訪問とかそういうやつだ。断ろう。

そう思っていると、

「優気、ちょうどいい所にいた。荷物持って……あらあら、彼女さんかしら。お母さんタイミング悪かったみたいね。」

最悪だ。とりあえず変な誤解はやめて欲しい。

「違えよ。なんか泊まる所ないから泊めてくれって…」

しまった。人助けが趣味の母さんだ。絶対いいって言うに決まってる。

「いいわよ。泊まっていきなさい!」

「本当ですか!ありがとうございます!冴えない男の子のお母さん!」

ほらやっぱり。色々と言いたい事があるけどそれは帰ってから言うか。


家に着くと、すぐに「不良品」を部屋に連れ込んで、1番理解できないその格好について聞いてみた。

「色々言いたい事や聞きたい事があるが、まず、お前、なんでメイド服着て「不良品」ってタグ付けてんの?」

するとその「不良品」は少し悲しそうな顔をして、こう言った。

「私はメイド型ご奉仕ロボット、の不良品です。なんでも思った事を言ってしまうし、料理も掃除もできないし…だから不良品として捨てられちゃいました。」

ご奉仕という言葉に反応した俺の耳をもぎ取りたい。まあそれはいいとして、普通はそんな馬鹿な話がある訳ない。それでもその「不良品」は嘘を吐いているような面持ちではなく、彼女なりに真剣な表情だったので、半分信じてみる事にした。

「俺は愛徒優気っていう名前なんだけど、お前はなんて名前なんだ?」

すると「不良品」は暫く黙ってから、こう言った。

「覚えてない。」

ロボットのくせに声が震えていた。嫌な思い出があるのだろう。それなら俺が新しい名前を付けてやるまでだ。

「じゃあ俺が新しい名前を付けてやるよ。」

名前を考える前に声が出てしまった。どうしよう。名前…

「夏日。お前の名前は夏日だ。」

夏の日に出会ったから夏日なつひ。単純過ぎただろうか。見ると、「不良品」が震えている。怒っているのだろう。そう思っていたら、

「ありがとう」

夏日は目に涙を浮かべていた。くそ。ロボットのくせに人間みたいにしやがって…


今日の夕食はカレーだ。といっても母さんのカレーは固形のルーで作るのではなく、カレー粉やスパイスで作る本格的なカレーだ。ちなみに父さんは単身赴任で家にはほとんど居ない。

夏日はガツガツ食べている。ロボットはどうやって排泄するのかとても、とても、気になるがここは置いておこう。

ガツガツカレーを食べている夏日を見て、母さんは言った。

「そういえば、名前を聞いてなかったわね。名前なんていうの?」

夏日は間を空けずに笑顔で言った。


「夏日です。」

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