ストリゴイカは七年後に恋をする

終夜 大翔

プレミス

 赤色灯が、不思議な光景を作り出していた。

 真夜中の路地。冷たいコンクリの塀を真っ赤に染め上げる。

 その中には、見知った顔があった。

 フェガロペトラ・アスィミコラキ。呪文みたいな名前の女の子だ。だけど、恒夜こうやは、一生懸命覚えた。覚えの悪い頭だったが、必死で繰り返し、暗記した。好きな子の名前くらい言えなくて、なにが好きなものか。

「ロペ!」

 恒夜は、周りの野次馬の間から抜け出して、血まみれの彼女の元に駆け寄った。だけど、救急隊員や、警察官に引きはがされてしまう。

「恒夜……」

 フェガロペトラは、弱々しく恒夜の名を呼んだ。おかげで、恒夜はフェガロペトラに近づくことが許された。救急車に同乗する。顔には、血が飛んでいて凄惨さを物語っていた。

 医者が同乗するタイプの救急車だったので、もうすでに治療が開始されている。それでも、救急車の狭苦しい空間ではできることもそう多くない。

 みるみる間にフェガロペトラの顔色が悪くなっていく。それでも、彼女は唇を振るわせなにかを訴えようとしていた。

「ご、めん、ね。やく、そく、守れそうに、ない」

 約束とは、子供ながらに結んだ結婚の約束だと思う。

「いいんだ、そんなこと! 頼むから、死なないでくれ!」

 神にも祈る気持ちとはこのことだと思う。

「なな、七年後……こそ……」

 そこで、彼女の言葉は途切れてしまった。

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