葵 ありさ2

季節はまだ二月始め、体感的にも暦の上でもまだまだ真冬と言ってもおかしくない。雪なんて数年に一度しか降らないような暖かい県ではあるが自転車で切る風はかなり冷たい。


そんな中近所の公園にはいつも見かける名前も知らない女の子がベンチに座っていた。(午前のこんな早い時間からいるなんて……あ、今日は土曜日だから小学校休みなのかな)


自分では割と規則正しい生活を送っているつもりではいるが、ソーシャルゲームを夜中までやる事が多いせいか、少しだけ曜日感覚がおかしくなる事があるらしい。公園を横目に望の家へと冷たい風の中急いだ。


途中コンビニで差し入れの飲み物だけ購入し、望のマンションに着くとエントランスからインターホンのボタンを押し、オートロックを解錠してもらう。エレベーターで望の部屋のある6階まで上がり、部屋の前で再度インターホンを鳴らしドアを開けてもらう。ありさはこの仕組みがどうしても好きになれない。望は同級生とは思えないほど自力でセレブな暮らしをしていてマンションも立派だった。


「あーー!ばっか寒いよ!望ちゃん!」

(※ばっか寒い は方言で凄く寒いの意)


「ありちゃん、ありがとう本当に来てくれたんだね、でもさ、こんな時ぐらい鍵使って開けてきてよ……」


一度も使った事はないのだがありさは望の部屋のスペアキーの隠し場所を知っている。廊下に面する鉄の扉、配管の通る点検口の扉の奥に隠してあるのだ。扉自体は誰でも簡単に開けられるが、キーケースは知ってる人でなければ絶対に見えない場所だし、キーケースも暗証番号を入力しなければ開かない。


マスクとパジャマ姿で迎えてくれた彼女をすぐに寝室へ連れて行き無理矢理ベッドに寝かせた。


「あーん、望ちゃんが風邪ひいてなかったらこのまま抱いてもらいたいぐらい!!」


「アホか!私は女だ!それにいつまで苗字で私の事呼ぶの?私も葵ちゃんって呼ぼうか?」


「だって名前だとなんか呼びにくいんだもん。私はありちゃんでも苗字でも良いよ!!そんな事より大丈夫?体」


「つらい……つらいよありちゃん。何がつらいってまた一昨日パンツなくなったんだよ」


と言って嘘泣きをする望。



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