第10話
連休初日の美雪とのデートは斗真にとっては最後は何とも言えない複雑な結果で終わった。
翌日、偶然美雪と顔を合わせたが、美雪はいつも通りで昨日の出来事が嘘のようだった。
むしろ、穂乃火が誰の目から見ても機嫌が良かった事の方が印象深い程だ。
その後の休みもこれと言って何かがあった訳ではなく、結愛や鷹虎と取り留めもない休日だった。
連休が明けて学生にとっては地獄であるテストが開始された。
魔法科とはいえ学生にとってのテストが地獄である事には変わりはないが、斗真たちのクラスではどこか余裕を持った生徒も多い。
恐らくは連日、穂乃火が開いていた勉強会により生徒の大半がテストに対して自信があったからだろう。
「終わったな」
「ああ。終わった」
全ての日程が終わり、斗真も結愛もやり遂げたように晴れやかな心境だ。
それを見ていた鷹虎は結果はどうかとは敢えて聞かない。
それから数日後には、嫌でも現実を叩き付けられる。
「なぁ、俺……初めて学年で25位を取った」
「アタシもだ。24位とか生まれて初めてだ」
テストから数日が経ったところで、テストの順位が張り出されている。
それを見た斗真と結愛は遠い目をしてそう言う。
「いや……自慢出来ないだろ」
斗真も結愛も順位だけを語るが、魔法科の学年順位は魔法科のみで出されている。
魔法科は1クラスのみで魔法科一年のクラスは25人。
つまりは、斗真は学年最下位で結愛はその一つ上でしかない。
「けど、赤点は無かったんだし……」
「だな。上位は予想通りと言えば予想通りだな」
順位で言えば斗真も結愛も散々だが、点数だけ見れば良かったとはお世辞にも言えないが、悪かったとも言えない。
クラス全体の平均点が高い為、二人の順位がそうなったに過ぎなかった。
そして、学年の主席は誰もが予想していた通りの総真で、次席が穂乃火となっている。
意外だったのが、学年3位には美雪の名があった事だろう。
元々、勉強が出来ないと言う印象は無かったが、学年で3位、それも次席の穂乃火とも殆ど差はない。
ちなみに鷹虎も二人よりかはマシだが、全体的には半分以下だが、本人は気にしてはいない。
「テストの事は終わったんだ。今後はあれだろ! 林間学校!」
「そう言えばあったな……けどさ、俺らは寮生活してるしな」
中間テストが終われば、学校行事として林間学校が予定されている。
学園が所有している宿泊施設での2泊3日の合宿ではあるが、魔法科の生徒達は皆、寮生活をしている為、泊まりでの合宿と言われても普段と大して変わらない。
「大神はテンション低いな。大自然ってだけでテンションが上がって来るだろ!」
「いや別に」
「俺は分かる気がするな。大自然って事よりも普段は同じ寮で生活して学校に通っていても、生活のリズムって結構違ってくるから皆で一緒に何かするってそれだけで楽しみだな」
鷹虎はそれ程、林間学校には興味はないが、斗真は結愛の意見に賛成のようだ。
寮で生活していても、個人個人はある程度は自由に生活をしている。
同じ班でも意図的に合わせないと一日碌に顔を合わせる事なく終わると言う事も珍しくはない。
だからこそ、班で行動する事が普段よりも多い林間学校は斗真にとっても楽しみなのだろう。
「そう言う物かね……」
「そう言う物だって。折角、こうして同じ班になれたんだし、もっとお互いの事を知る良い機会だしな」
入学して一か月以上が経つが、班員でも知らない事が多いと言う事は先日の美雪とのデートで分かった。
この時期に予定されていると言う事はお互いの事を良く知る機会として考えられているのだろう。
鷹虎もそれは理解出来るが、どこか浮かない顔をしていた。
中間テストが終わり、学生達は林間学校に期待を膨らませる中、総真は授業が終わると、一人で町に出て来ていた。
総真が歩いていると、赤い車は総真を追い越して止まる。
運転席には真理が、助手席にはヴェスタが座っている。
総真は中を確認する事無く、後ろの席に乗り込む。
総真が乗り込むとすぐに車は走りだす。
「相変わらず時間ぴったりね。ぴったり過ぎて気持ち悪いわ」
「礼の錠剤は氷川院長に渡した」
真理の軽口には応じる事なく、総真は本題を切りだす。
「ご苦労様」
「鑑定には時間がかかるらしい。それでそっちはどうなっている?」
「持ってたガキ共を軽く締めて吐かせたけど余り期待は出来そうにはないわ」
真理が総真を通じて総次郎に渡した錠剤は真理が補導した不良グループが所持していた物だ。
明らかに違法薬物で、不良グループが独自に作れる代物ではない。
そうなると、何者かが不良グループに薬を売ったと言う事になる。
真理も補導した不良グループから証言を聞き出したが、そこから有力な手がかりには得られそうにはない。
「本当にそれ以上は知らないのかは怪しいけど、相手が未成年である以上は余り手荒な真似は出来ないのよ」
「当たり前だ」
真理も本気で不良たちに情報を吐かせようと思えば、手段さえ選ばなければ幾らでもやりようはある。
だが、相手は未成年である以上は手荒な真似をする事は出来ない。
「そっちには何か情報は入って来てない?」
「ないな」
「まぁ、風見ヶ岡学園の生徒は優等生だし」
相手が未成年である為、風見ヶ岡学園の方にも何かしらの噂話等が入っている事を期待するが、風見ヶ岡学園の生徒は基本的には所謂不良との関わりはない。
「俺の方も忙しいからそっちの事に時間を使う訳にもいかん」
「分かってるわよ。確かアンタ達は止まりで風見山だっけ?」
真理の方でも風見ヶ岡学園のカリキュラムは把握している。
総真たちが林間学校で風見山に向かう事もだ。
林間学校の行われる風見山は風見市の外れに位置する山だ。
風見ヶ岡学園が所有している宿泊施設以外には人工の建物は存在せず、大自然が今も残されている。
「懐かしいわね。覚えている?」
「昔の事だ」
真理も風見山には行った事がある。
何年も前の話しだが、総真を連れてだ。
今となっては行く理由もなく、久しくは真理も言ってはいない。
「あそこって結構、行方不明者が多いのよね」
風見山は風見市からも比較的近い上に山自体が巨大で本格的な登山が楽しめるとして知られている。
しかし、近年では登山中に行方不明になる登山者が多く、捜索の甲斐もなく行方不明者の大半が遺体で見つかっている。
そこまで行方不明者が出る事態に警察は注意するように勧告を出しているものの、一向に減る気配はない。
「まぁアンタが居れば何が出て来ても危険はないと思うけどね」
真理もここ数年での風見山での失踪事件が事故ではなく、人為的な可能性を疑っている。
だが、魔法管理局はあくまでも魔法を正しく管理運用する為の組織である為、人為的に行方不明者が出ていたとしても捜査に乗り出す事は難しい。
被害者や加害者が魔導師であれば管轄は警察ではなく管理局となるが、今のところ行方不明者の中に魔導師は存在しない。
「だと良いがな。今回は少々厄介な事になりそうだ」
「手、貸そか?」
「必要ない」
真理は総真の実力や性格を誰よりも知っている。
総真は自分や相手の実力を過大評価も過小評価もしない。
だが、総真にとって少々厄介だと感じる事は他の人間からすれば、相当に厄介な事だと言える。
同時に総真は何かを掴んでいると言う事にもなる。
「即答! 本当に可愛くないわね。昔はあんなに……」
「可愛かった事等一瞬もなかっただろう。アイツはガキの時から無愛想で可愛げがなかった」
今まで黙っていたヴェスタが口を開く。
総真とは真理もヴェスタも長い付き合いになるが、総真は昔から無愛想で可愛げの欠片すらなかった。
「言われてみればそうかも。アンタ少しは愛想よくしなさいよ。モテないわよ」
「余計なお世話だ。俺も相手を選んでいる」
総真が自分が愛想が良い方ではないと言う事は分かっている。
必要以上に愛想を振りまくつもりはないが、相手によってはきちんとそれ相応の態度はとっている。
真理に対しては今のままで十分だ。
「……まぁ良いわ。だけど、本気でヤバいと思ったら私でも良いから助けを求めなさいよ」
「その必要があればな」
そうこうしている間に付近を一周して来た。
総真を乗せたところに戻って来ると総真は車を降りる。
総真を下した真理は車を発進させる。
車から降りた総真は寮へと帰って行く。
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