第8話 再会

 アイラをナタリアと同等の王妻として認めさせるには格をあげるしかない。


「やはり、格をあげるしかありませんわね」

「そうですね。しかし、相当の手柄がなければ叙勲すら」

「んー、あーそうだ! ゲームのイベントを利用したらどうかな?」

「どういうことですの?」

「えっとね、ゲームだといくつかイベントがあって、王都が襲撃されたり、ドラゴンが出てきたりとかするんだよ」


 そこまで言われて、アイラが何を言いたいかが分かった。


「なるほど、それをアイラさんが解決する。それによって功績を立てることで叙勲するわけですか」

「そうなの。でも、ちょっと問題があってね。私、戦えないんだ。ちょっと理由があって――」

「ならばそこはわたくしに任せてくださいな。わたくしが魔法で貴女に化けて、貴女がわたくしに成れば良いのですわ」


 つまり入れ替わりだ。入れ替わってナタリアがアイラとして功績を立てれば良い。


「でも、それじゃあ、ナタリアさんが危ないよ!」

「そうです。私たちの為に危険な目に合わせるわけには――」


 アイラが反対し、王子まで反対する。ここは大人に載っておけばいいのだとナタリアは思うわけなのだが、この二人はどうやらそうはいかないようだった。

 だから、おそらくはもっとも説得力のある言葉を放つ。


「貴方たち、わたくしが誰だか忘れていません?」


 神童と呼ばれ、数多の戦場を駆け抜けた女である。例え何があろうとも負ける気などしなかった。


「だから、全部わたくしに任せなさいな。貴女を英雄にしてあげますわよ」

「ナタリアさん」

「うわーん、ありがとうございます!」


 そう言ってアイラが抱き着いてくる。本当にうれしいのだろう。ここまで喜んでもらえるとナタリアの方も嬉しくなってくる。


「別に良いですわよ。それに、せっかく会えた同郷の方ですもの。助けあいませんと」

「本当にありがとうございます」


 その後は、色々と話した。転生した後の話から、転生前の話へと。二人の死因は実に興味深いものであった。


「宇宙人の侵略。それと戦ってですか。はぁ、宇宙人って本当にいたんですのね」

「ええ、世界中大パニックですよ」

「大変だったね。私たちもお母さんがいなかったらどうなっていたことか」

「本当お義母さんには感謝だね。宇宙人を殴り倒すほどの鉄拳っぷりは伝説だよ」


――うん?


 何やら聞いたような伝説である。ナタリアの前世の妻も、熊を素手で殴り飛ばしたとかいう伝説を持っていたような。


「ナタリアはどうやって?」

「――え、ああ、過労死ですわ。ブラック企業に20年以上勤めて、過労死。妻と娘がいたのですけど、悪いことしましたわ」

「――え?」


 そう言った時、アイラの顔色が変わる。


「どうかなさいました?」

「あのさ、ナタリア。間違ってたら悪いんだけどさ、前世での名前って――」


 そう言ってアイラが告げた名は、前世でのナタリアの名前とそれから妻のそれだった。


「ええ、それはわたくしの前世での名前で、妻の名前ですわ?」


 いや、そこまで言われたら気が付く。二択。そして、おそらくは、


「過労死、名前が同じ。お母さんの名前も一緒の別人? そんな偶然あるわけない。ウソ、それじゃあ、まさかお父さん?」

「茜、なのか?」


  茜、それは死に別れた最愛の娘の名前だった。

 娘との再会。それは、驚愕を伴ってナタリアの下へとやってきた。名前も確認し、記憶の摺合せによって本人であると確認が取れた。


 ナタリアとアイラは、前世において父と娘であった。それは間違いのない事実である。つまりは、感動の再会ということになる。

 だが、二人の間に流れる空気は、気まずいものであった。状況が状況だけに喜ぶべきことなのだろう。それはわかってはいるが、何の心構えのない再会には戸惑いを禁じ得ない。


「えっと、そのお父さん?」

「え、ええ」

「か、可愛いね?」

「あ、ありがとう?」

「…………」

「…………」


――どうしよう。


 会いたかったのは事実であるが、いざあってみると意外に困る。もとより会えない可能性の方が高かったわけで、まさか本当に会えるとは思ってもいなかったわけで。

 つまりは、どういえばいいのか、どんな声をかければ良いのかそういうことがナタリアにはわからない。娘には父親らしいことをした覚えはあまりない。


 仕事で忙しかったということもあるが、さっさと死んでしまったこともある。それは負い目だ。苦労をかけたのではないか。寂しい想いをしたのではないか。

 そう思うと、責められるような気がして。それが怖くて言葉にできない。戦場での戦いに慣れたし、あまり怖くないくせにこれはかなり怖い。


「……そのだな、大丈夫、だったか?」


 ようやく絞り出した言葉はそれだった。


「えっと、なに、が?」


 それだけではやはり伝わらない。だから意を決して探る様に言葉を紡ぐ。王子は、二人の再会を黙って見ていてくれていた。


「その、わたくしが死んだあとだ。苦労をかけなかったか?」

「えっと、ううん。大丈夫。お母さんがいたから」

「そうか……」

「むしろ、お父さんが死んで賠償金をたんまりふんだくってきたからそれほど苦労はなかったかなぁ~、なんて、あははは……」

「それは、想像が出来ますわね」


 その様子を想像して苦笑する。妻は、そういう人間だ。殴られれば殴り返す。高校時代からの付き合いの腐れ縁で、常に高校時代は喧嘩していたように思える。

 手でも、口でも。どちらでも彼女は最強だった。鉄拳と呼ばれているあの拳を避けられるようになったのは、結婚生活10年目くらいか。


――この拳を避けられたのはあんたが初めてだよ。


 そう言われた時は、あきれ返ったほどだ。おそらく過労死した際、そのことを大々的に取り上げて、企業から賠償金をふんだくったに違いない。

 アイラに聞く限りは、それが事実なようでそのおかげで苦労なく育てられたという。それを聞いてナタリアは安心した。


 なんでも親父が出てきてナタリアの変わりをしていたというから、あまり寂しいと思われてなかったことは寂しかったが。


「それにしても驚いたなぁ」

「何がですの?」

「いや、だってお父さんが同い年で、しかもこんなにかわいくなってるなんて思いもしなかったかな」

「む――」


 それは仕方がないだろう。父親らしい姿で再開したかったが今世ではこの姿なのだ。もし会えた時に恥ずかしくないよう、きちんと髪の手入れはしているし、肌の手入れもしている。

 自分磨きは忘れていないつもりである。忘れていたのが前世なので、今世ではしっかりしようと思ったのも理由であるし、せっかくの美少女である。綺麗にしておかないと勿体ないと思ってしまうのだ。


わたくしもお前が立派になっていたとは思いもしなかったですわ。今は、小さいけど」

「む、これで、私結構優秀だったんだよ。お母さんの教育のたまものかな」


 ふふん、と胸を張るアイラ。12歳でまだまだ貧相な胸だ。大丈夫だ。隣の男はきっと胸なんてそれほどでもないだろう。


「ええと、良いかな? 僕も話に混ざっても」

「ああ、ごめんねヴィル。改めて紹介するよ。こちら、前世でのお父さん」

「どうも、ヴィルヘルム様? 前世でのアイラの父です」

「はい、お噂はかねがね。アイラやお義母さんから聞いていました。随分と大変だったようで」


 過労死するまで働いた。死ぬまで。文字通り死ぬまで働いた身内。そりゃまあ、大変だっただろう。


「いや、しかし。娘のどこに惹かれたんですの?」


 それは置いておいて、聞いておきたいことがいくつかある。気分は、結婚のあいさつに来た男と娘の父親だ。というか、まさにそれなのだが。


「全てです。僕は、彼女を愛しています。その気持ちは死んでも変わりませんでした」

「…………」


 イケメンが言うと更に破壊力が上がる台詞である。隣に座っているアイラは顔を赤くしている。本当に愛し合っているようだ。


「そうですか。あなたはお仕事はなにを? もちろん前世ですわ」

「前世では、営業マンをしておりました。高校時代からお嬢さんとお付き合いをさせていただくことになり、結婚までさせていただきました」

「なるほど」


 話を聞く限り好青年であるようだ。死んでまで娘を愛しているとなれば、評価は高い。もとより妻が許した相手である。

 そんな下手な人物ではないだろうということは想像に難くない。これがもしあまり良くない人物であったのなら、娘には悪いがここで縁を切らせるところだ。


 だが、風に聞いたヴィルヘルムの噂は良好なものであるし、今の話し合いの中でも丁寧で礼儀正しい。娘を託すに値する人物だろう。

 ふと彼が真剣な面持ちで居住まいを正す。それから頭を下げて、


「……お父様。どうか娘さんとの結婚を許していただけないでしょうか」


 そう言った。


「ずっと心残りでした。仏壇には挨拶をさせてもらえましたが、ずっと直接お会いしてお許しをいただきたいと思っておりました。この奇跡に僕は感謝します」


 その一言にナタリアは笑みを作る。


「ええ、ぜひ。娘をよろしくお願い致しますわ」

「ありがとうございます!」

「ふふ、それにしても気持ちのいい好青年ですわね。今時珍しい。よくもまあ、こんな良い人を見つけましたわね」

「ふっふ~ん。どうよ、お母さんに鍛えられたからね! あの鉄拳に殴られると思ったらまともな人探すよ。うん」


 妻の教育様様である。


「いやぁ、中学からの付き合いで大変でしたよ。お義母さん譲りですぐに手が出ますし」

「あなたも? わたくしも大変でしたわ。妻は、目を離すとすぐ喧嘩になりますし」

「ちょっ!?」


 思い出される光景はきっと父と義理の息子も同じだった。それに二人して笑えば、話題にされてる娘はやめろーと恥ずかしがるばかり。

 実に可愛らしいが、本当に結婚したのだなと寂しい気持ちになる。


「――でも、お父さんならなおさら駄目かな。うん。やっぱり危ない目には合わせたくないよ」


 ふと、アイラがそう言う。


「うーん、やっぱり妾として入るしかないかなぁ。でも、それだとヴィルの評判が落ちちゃうし。聖女の力に目覚められないから、魔王倒せるかもわからないし。うー、でもお父さんに危ないことさせられないし。せっかく幸せに生きてるんだから、その幸せを奪いたくないし」

「僕の評判なんて気にすることはないよ。他のヒトならいざ知らずお義父さんだからね。大丈夫だと思うけど、魔王か、それだけが気がかりだね」

「何の話かは知りませんが、気にする必要はありませんわ。娘の為ならお父さんは何でもできますわよ」

「駄目だよ。お父さんは、今度こそ幸せにならないと。だから、少しでも危ないことしちゃダメ。うー、でもそうなると――あああ、どうしよー」


 せっかくまとまった話がまた振りだしに戻る。危ないことは駄目だよと言う娘。優しい子に育ってくれた。それだけでナタリアは嬉しい。

 何もしてやれなかった父を罵倒することもなく、心配までしてくれる。良い娘だ。こんな良い娘なのだ。幸せにしてやれなくて、何が、父親なのだろう。ナタリアは、そう思う。


――だから、決めた。


「やりますわ」

「え? だ、駄目だよ!」

「やりますわ。誰が何を言おうと、わたくし、貴女たち二人が幸せな結婚生活を送れるようにしますわ。これは決定事項ですので、何があろうとも覆りません。最悪、わたくしが死にますので」

「だ、駄目! せっかく会えたのに! また、死なないでよ」

「だったら、おとなしくうなずきなさいな。わたくし、貴女に何一つ父親らしいことをしてあげられませんでしたもの。だから、これぐらいさせてくださいな」

「でも……」

「あまり言うと、お母さん直伝の鉄拳で殴りますわよ」


 あれほど威力は出ないが、少しくらいなら出来る。


「ぅ、それは勘弁」

「これは、お父さんの我儘。貴女が気にする必要なんてないんですのよ。それに、英雄になるってことは色々と言われるし、やることも多くなりますわ。大変なのはお互い様ですわ」


 だから、安心して任せてくれればいい。頼りない父かもしれない。それでも、娘を幸せにしたいという思いだけは絶対のものだ。


「…………でも」

「それに、魔王でしたっけ? どんな奴が来ても、わたくしがなんとかしますわ。だから、貴女は安心してわたくしに任せればいいですわよ」

「…………わかった。でも、やめたいなら言ってね。お父さんに無理はさせられないから」

「はい、僕も精一杯お手伝いしますお義父さん。では、そろそろ戻りましょう。流石に王子と公爵令嬢が席を長く外すのは不味いでしょうし」

「そうですわね。戻りましょう」


 他にもやりようはあるだろうが、公では一番は自分になってしまうものの一番平和な方法に持っていく。自他共に、ヴィルヘルムの一番は娘としたいがそれは高望みだろう。出来ることとできないことは見極めなければならない。

 それでも自他ともに、ヴィルヘルムの妾、いや第二王妃としてもアイラは十分であると認めさせるくらいのことが必要だ。それは自分がアイラに化けて英雄として活動する。


 大変なこともあるかもしれない。


――でも、自分は父なのだから。


 だから、やるのだ。


「本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいのやら」

「良いですわ。これは当然のことなのですから」

「本当に、ほんっっとうに、ありがとう、お父さん。でも、無理はしないで欲しいし、自分の幸せを考えてよね。絶対だから。じゃないと、お母さんに殺されちゃうから」

「良いんですわよ。父親らしいことなんてまったくできませんでしたからね」

「でも、出来ないと思ったならやめて良いから。本当に。こっちは、大丈夫だから」

「ええ、ありがとう。でも、心配いりませんわ。何があろうとも、貴女を幸せにして見せますわ」


 何があろうとも、必ず娘夫婦の幸せは守る。今世の両親には甚だ悪いことをしているかもしれない。だが、こちらも一児の親。子供の為に行動するのだ。

 これだけは譲れない。それが父親だった者としての矜持。今世でも捨てられない矜持だ。


――必ず幸せにしてやる。

――そのための障害があるなら、全部、わたくしが壊して差し上げますわ


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 舞踏会の広間に戻る。曲目のほとんどが終わり、今はワインなどのお酒を飲みながらの歓談の時間。王子と公爵令嬢が戻ったことがわかると位の高い者から順に話に来る。

 その中の一人が、ナタリアに贈呈品を持ってきたという。位の低い男爵家の人間であり、公爵家に覚えを良くしたいのだろうという意図が感じられた。


「見せていただけます?」

「はい、もちろん」


 そう言って贈呈品が持って来られる。大きなものだった。それに被せられた布がとられる。そこにあったのは檻だった。

 人が入れるくらいの檻。その中には、亜人が入っていた。みすぼらしいながらそれ相応、ある程度は恥ずかしくない格好をさせられた亜人。少女だろうか。可愛らしい容貌をしているからきっと、そう。


 その頭頂部と腰のあたりからは猫のような耳と尻尾が見える。亜人の中でも更に地位の低い奴隷種族とすら貴族には言われている獣人だった。

 やせ細り怯えた姿は、とても憐れだった。だが、誰もそうは思わない。この場にいるほとんどの人間は、貴族は、大商人は、ゴミを見るような目で獣人を見ている。見てないのはナタリアとヴィルヘルムくらいか。


 珍しい黒の獣人。高い能力を持つとされる獣人の黒はかなりの高値で取引される希少な奴隷。贈呈品としては、ある意味で最高ともいえる品。

 性奴隷にも、戦奴隷にも、労働奴隷にも、なんにでも使えるという破格の品。男爵家が手に入れるにはかなりの無理をしたことがわかる。それでも男爵家では到底手に入れられないようなもの。それを手に入れられた手腕は凄いと言わざるを得ない。


 この黒の奴隷は宝石よりも価値がある。それに、ナタリアがそういうものをあまり好まないという噂は出回っている。

 だから、奴隷。こういうものの方が良いのではないか。公爵令嬢に送る贈り物として蒸気機関などはあまり好まれない。ゆえに、奴隷。


 どうやって手に入れたのだろうか。そのルートは。何を使った。何をした。きっと、悪いことをしたのだろう。


「どうでしょうか? 気に入っていただけましたでしょうか」


 男爵の気持ちは、手に取るように、わかる。表情から、しぐさから。わかる。ここで突き返すとあの亜人はどうなるだろう。

 捨てられる? いや、きっとまたどこかに高く売られて、使い潰されるのだろう。奴隷を哀れと思う。この国の風習とはいえ、必要なものであるとも理解はしている。


 だが、亜人を見ると、やはり哀れ思い、怒りを感じずにはいられないのは前世の記憶があるだろうか。

 そんな感情をナタリアは笑顔の中に押し隠す。これを出すわけにはいけない。


「ええ、気に入りましたわ。貴方の名は覚えておきますわよ」

「ありがとうございます」


 そう言って彼は去って行き。魔法の契約文をナタリアに渡して行った。これであの亜人は譲渡されたことになる。

 ナタリアは別室に行き、亜人のおそらくは少女と二人っきりになる。手枷、足枷をされてぶるぶると震えている姿は可哀想で仕方がなかった。


 ナタリアが少しでも動けばびくりと身を丸めてしまう。まずは、安心させてやる必要がある。


「大丈夫ですわよ」

「あ――」


 昔、怯える娘にしてやったようにそっと抱きしめてやる。そして、大丈夫と言いながらその頭を撫でるのだ。


「だ、だめ、よごれ、ちゃ、う」


 そう亜人は言う。


「良いですわよ。気にしなくて。あなたはわたくしのもの。わたくしのものに触れても汚れてしまうなんてありませんもの。ほら、もう大丈夫。震えは止まりました? 大丈夫ですわよ。わたくしがしっかりとあなたを守って差し上げますから」

「ぇ、ぁ――」


 抱きしめていると亜人の少女はか細い声で泣き出す。


――痩せ細った可哀想な子。

――まだ、こんなに小さいのに。


 子供が哀れな目にあう世界なんて間違っている。弱い者が損をする世界はやはり間違っている。王子と相談して変えなければ。きっと娘夫婦ならうまくやる。


「さて、落ち着きました?」


 こくりと亜人が頷く。


「では、お名前を教えてくださる?」

「……クリス」

「良い名前ですわ。そうですわ。あなた、わたくしのメイドになりなさい」

「え……」


 公爵令嬢付きのメイド。それならば悪いことにはならないだろう。誰からも下に見られる獣人だろうとも、公爵令嬢のメイドという肩書があれば、誰も何もいうことはできない。

 陰でいじめとか陰湿なことをやろうとしても、ナタリアならば気が付く。いや、気が付いて見せるし、公爵家の人間はナタリアがそういうことを嫌う人間だと知っている。


 だから、亜人だろうと公爵令嬢付きのメイドとなればそれ相応に扱うはずである。


「ね、そうしましょう。大丈夫。わたくしがなんとかしてあげますわよ」


 子供は笑っていればいいのだ。そのためならば、大人として泥をかぶることは厭わない。亜人を重用する変人とみなされようともクリスが笑っていられるのであれば喜んで泥を被ろう。

 いずれ、別れることになるのだとしても、それまできっとその頃には一人前になって一人でも大丈夫なようになっているだろうから。


「でも……」

「子供はなにも気にしなくてよいですわ。メイドとしての仕事もきちんと教えてもらえますからね。大丈夫ですわ。なにかあったらわたくしに言ってくれればなんとかしますわ」

「…………はい」


 その日、クリスという亜人の少年・・がナタリアのメイドとなった――。



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