転生後の職業に軍神を選びました。

咲弥生

プロローグ

 僕は、定邦一葉さだくにかずはは、俗に言う“異端児”ならしい。


 別に、残虐思考という訳ではないのだ。寧ろ、至って普通だろう。全くと言って良い程に怖さのない少年だ。優しさが溢れている様な人物だ。


 だが、それでも自分は、何処まで行っても“異端児”である。


 そう呼ばれるようになったのは高校に入ってからなのだが、小学校と中学校の時は、そこら辺にいる少年と変わらなかった。少しだけ良くできる子であっただけだ。物覚えが良く、吸収が早い。それ故に、テストの点数は良く、運動能力も高かった。


 しかし、他の子とは違う能力を持っていた。外からは見えない内側の部分に。


 一葉は常に笑顔を浮かべていた。何事に対しても楽しいと、嬉しいと言いながら。でも、それは本心ではなかった。見せかけの仮面であったのだ。自分の立場を、自分の居場所を確立させるための行動だった。何かしらの物事を率先して行い、周囲の気分を害さないように注目を浴び、色々な人と喜怒哀楽を共有しておく。


 それだけではない。何時も相手がしたいこと、されたいことを先読みすることが出来た。相手がしたいことを完全に準備し、相手がされたいことを寸分違わない形で遂行する。心で思っていることを見抜き、自分が思っていることは何一つとして表に出さない。


 人に合わせて話し、自分のために仮面を被り、人の心理に漬け込み、自分の利益だけを生み出す。


 この生き方が一番だと思っていた。そして、最高だと思っていた。中学生ながらも、自分は勝ったと確信していた。けれども、違った。


 何にも勝ててなどいなかった。いや、ずっと負けていたのだろう。それも、盛大に。


 他人に関わるスタンスを変えず、僕は高校に入学した。入試を一番の成績で合格し、新入生の代表さえ勤めだが、楽しい高校生ライフを遅れていたのは、入学してからたったの一ヶ月だけだった。


 中学校時代と変わらず、僕は直ぐにクラスの中心になれた。恐らく、三日も必要としていなかっただろう。真面目なときは真剣に、ふざけるときは心から遊んで、色々な人物と仲良くなっていった。


 その、大勢の中の一人に彼女がいた。


 御魄静香みはくしずか。それが彼女の名前だと知ったのは、仲良くなって一週間がたった頃。自分が、“異端”と呼ばれる一線に両足がしっかりと越えてしまっており、良い学園生活が壊れる直前だった。


 彼女は、二人で遊んでいたとき、僕にこう言ったのだ。


「一葉君が見えない。うぅん。定邦一葉っていう人間が見えない」


 その言葉に歓喜した。彼女は、御魄静香は僕を見ようと努力していると。それと同時に落胆した。仮面を被っていることに気づかれてしまったと。


 二日後、更に彼女は言った。辛かったら、を外しても良いよ。優しさから、心配してくれているから出た言葉が、僕を壊してしまったのだ。僕は、僕の心は、壊れ、崩れ、潰れ、砕け、そして、消えた。


 六時間あった授業は上の空だった。何も考えられず、文字通り抜け殻になっていたのだ。


 その日の夜。僕は狂った。完全に“異端児”になってしまった。常識から大きく逸脱した能力を持ち、荒ぶる心を行動に変えることができる力を持った僕は、僕という存在は、終わっていった。


 何をしたのか、何が起きたかは覚えていない。ただ、目の前には、ドス黒い赤に染まった人体が散らばっていた。父親のと思われるそれが、母親のそれ、妹のそれと思われるものが、四肢が切断され、胴体が千切れ、内臓が飛び出し、自分の手は、この世のものとは思えない程美しい赤色に染まっている。


「は、はは。ははははは!」


 何てことだ。僕は、何てことをしたんだ。


「最高じゃないか」


 自分が死ねる理由を作ってくれるとは。


「記憶も無いうちに、自分の家族を殺す。自分の仮面が見破られてこんなことをしたっていうのなら、僕はとんだ異端児だな」


何で、何で僕がこんな目に。


 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。


 そして僕は、そのまま、この世界から消えた。

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