高等部1年R組(丑班) 天橋京弥 第1話
2020年の4月3日
皆様、おはようございます。今日は、かねてからの夢だった木花学園の入学式です。ボクは今、胸の高まりを感じます。一緒に少し状況を確認してみましょう。
まず朝目覚めると、周りは真っ暗でした。早く起きすぎたのかと思い、二度寝をする…ことはできませんでした。なんということでしょう、
ボクは目隠し付きで拘束されているではありませんか。
それからバタバタバタバタッと騒がしいヘリに乗せられてどこかに連れていかれました。その時、なんということでしょう、
男の声で「お前が『てんばし』京弥か?」と尋ねてくるではありませんか。
ボクはすかさず「いえ、『あまのはし』です」と答えました。男は素直に謝り、なんということでしょう、
ボクの服を脱がし始めるではないですか。しかもこれは熟練された者の動きです。
ボクは、貞操の危機をいち早く察知して必死に抵抗をしました。けれどそれは屈強な彼の前では無意味でした。さぁ、最後の気力を振り絞って言いましょう。
ボクの名前は天橋京弥(あまのはしきょうや)。15歳、独身。今日からピチピチの高校生です♪もしよかったら、誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――!!
冷静さを取り戻して気付くと、そこは建物の中だった。周りには、見知らぬ制服をきた生徒達がボクと同じように周囲を見渡している。その制服をボクも着ていること、今日が入学式であること、さらに今いる建物の形から1つの結論が導きだされる。ちょうどそのタイミングでマイク越しに女性の声が聞こえた。
――――これより、第19回私立木花学園高等部入学式を執り行います―――――
やはり、ここは学園の体育館なのだろう。あ、理事長の話かぁ。嫌だなぁ。大抵こういうのは、長くなるって相場が決まってるんだよなぁ。
「えー、この度は御入学おめでとうございます。私の名前は、菊池浩一。皆さんと同じ15歳です。同年齢の友人は少ないので、皆さんと仲良くこの学園を発展さていきたいと考えています。ですがまず初めに、皆様には初めに言っておくべき…」 ほら、やっぱり。長くなりそうな予感。えっ?理事長の年齢おかしくないかって?たぶん、ジョークだよ。たしかに見た目は同じ年だけど。
「ですがまず初めに、皆様には初めに言っておくべきことがあります。あなた方は何かを望んでこの学園に入学されたと思いますが、世の中はそんなに甘くありません。あなた方以上に他人は貪欲なのです。ですから、これ以上後悔しないように頑張って動きましょう」
ボクは理事長の言葉に表情を変えた。周囲の人たちも同様の顔をしている。
―――――皆、何かを欲する目をしていた―――――
理事長はボク等の表情を見て満足そうだ。
「皆さん、私と同じ方向を向いてくれているようで安心しました。では共に生きましょう」
それを締めの言葉に理事長が壇上から去り、その後すぐに入学式は終わった。
入学式が終わるとクラスの割り当てと寮の住所だけ聞かされて、下校となった。この学園は全寮制だ。ということは、みんなで仲良く共同生活になるはず…なのだが……おかしいな。入学式で見た顔がない。というか、誰もいない。もしかしてボク、迷子?そんなことを考えているうちにボクは自分の寮に到着した。そして、その寮を見て理由が分かった。
日本古来の趣を感じさせる塀、屋根、庭。門のところには『天橋』と書かれた表札が架けてある。
「………いや、家じゃん!屋敷じゃん!寮じゃないじゃん!そりゃ、新入生がバラバラに下校するはずだよ!というか、すごいな!!」
ひとしきり叫ばしていただいたあと(よく周りから何も言われなかったと思う)、ボクは門をくぐった。
家の中も案の定というのか、『ザ・日本』って感じの木造であって建てられたばかりのように真新しい。でもどこか懐かしさを覚えながら、手前の扉を開け…れなかった。少し力を入れてみる。…開かない。もう少し力を入れてみる。…開かない。全力を出してみる。…やっぱり開かない。勿体ないけど指で障子に穴を開グキッ……指が、指がぁ‼
「何してるの?かっこわら」
「(笑)とか言うな!」
「違うよ」
「えっ?」
のたうち回っていると、上から覗き込むようにボクを見る女性がいた。
「『格好悪すぎて笑える』の略だよ」
「思ってたより貶されてた!?」
急に現れた女性はボクと同じくらいの年齢で、どことなく学園に馴染んだ感じを持っている。先輩か?
「それでどうしたの?」
「ここの襖が開けることも壊すことも出来ないんです」ここは一応、ある程度敬語を使っておこう。
「それは、大変だね~」
なんて他人行儀な…。………って、あれ?
「なんで、ここにいるのですか?」ここって、ボクの家になるんだよね。
「それは、色々準備するためにだよ」
「色々?あ、家を整えてくれたのですか。ありがとうございます」
「ううん。いいよ、お礼なんて。私がしたのはこの扉に細工したりしただけだから」
「ああ、そうでしたか。」……うん?
「それじゃあ、私はこれで」女性は立ち去ろうとする。
ガシッ。
「ちょっと待ってください」ボクは、逃がさないよう女性の肩をつかむ。ここでツッコミいれたら負けな気がする。落ち着いていこう。
「なんで、そんなことしたんですか」
「そんなの決まってるでしょ」
この後の展開は読めている。『面白そうだったから』とか言うのだろ。簡単だ。わかっていれば我慢できる。
「そんなの、君の歓迎会をするためだよ」
「善意100%!?」
思わずツッコんでしまった。そして、ツッコミもおかしくなってしまった。
「ん~せいぜい5%くらいかな、善意」
「やっぱり、からかわれていた‼」
なんだ、この人は‼やはり先輩なんだろうが…危険だ、色々。
「そろそろみんなも待ちわびているだろうし、始めるとしますか。」
終始、笑っている先輩は襖に手をやり、いとも簡単に開く。
「天橋君、私立木花学園R組丑班へようこそ。私たちは君を歓迎するよ。」
その歓迎会は、ボクにこの学園の恐ろしさを教えるものとなった。ある意味で。
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