第12波【追懐・2/2】

・・・小さな【さざ波】の音が1つ聞こえ・・・


途絶えていた意識を呼び覚ます




開いた眼(まなこ)が捕らえた光景は


軽く力を入れただけで・・・乾いた音を立て


2つに折れてしまいそうに痩せた三日月と


そこから搾り出しされる僅かな月光で


・・・砂浜との境をぼんやりとさせた波の無い海辺・・・




横たわる身体をそのままに


砂浜の景観を目で追うと


小さな突起を纏った青い巻貝が




・・・忘れようも無い・・・


・・・短くも・・・切ない・・・確かな言葉を囁き終え・・・




その囁きの口をこちらに向けて佇み




・・・その傍らには・・・




輝きを失い・・・乾き果て


・・・それでもなお・・・


必至に爪にしがみついている波の滴と




その全てを優しく包みながらも


まるで何処か遠くで作られた蝋細工の様な




・・・自らの動きを止めた足の小指が並んでいた・・・






その光景を目にすると


ようやく自らが下した行動の記憶が頭の中で動き出した




・・・そして欠けた足先に神経を集中させる・・・




不思議な事に


【覚悟】を下した足先からは全く痛みが感じられず


それどころか


包み込むような温かささえ感じ取れた




戸惑いを抱えながら・・・静かに半身を起こし


痛みを忘れた足先に・・・ゆっくりと視線を移す






・・・そこには・・・






・・・静寂の海が・・・


・・・その愛くるしい笑顔を思わせる表情をそのままに・・・


・・・欠けた足を静かに浸していた・・・




解き放たれた想いをその海中に溶かし


限りない慰めを与える様に






・・・浸み込む優しさは・・・


欠けた足先を伝い・・・体内を巡り


冷たい鼓動を温め


尊い安らぎを与えながら




・・・出会えたことの感謝と・・・


・・・生きている限りない喜びを感じさせた・・・




・・・このまま静寂の海に身を沈めてしまいたい・・・




耐え難い程の衝動と戦い・・・押さえ込むと


静寂の海に浸る


・・・欠けた足先を引き上げる・・・




するとその足には


・・・何層もの海草が・・・


・・・まるで緑の包帯を思わせる様に・・・


・・・しっとりと巻きついていた・・・




ゆっくりと片足を持ち上げ


平行を保ちながら立ち上がると


波の滴が収まる・・・動きを止めた小指を拾い上げ




青い光沢を纏った巻貝の中に




・・・そっと詰め込み・・・




・・・口元に近づけ・・・




・・・感謝と・・・


・・・別れと・・・


・・・そして・・・




・・・静寂の海の幸せを願う言葉を囁き・・・


・・・そっと海辺へ投げ入れる・・・






それを海中に納めた静寂の海は


狂おしい表情を一切変える事無く


優しく見守る様に・・・さざ波一つ立てず


・・・静かにその景観を保っていた・・・






お互いに身じろぎもせず


次の行動を起こせぬまま


・・・見つめ合う時間だけが緩やかに流れ・・・






やがて月が完全にその存在を消すと


周囲に闇が降臨し・・・その愛しい表情も闇に溶けると


静けさだけが静寂の海の存在を確認させた




その静寂を感じながら


ゆっくりと海に背を向け


緑の足先を引きずりながら


入り江の出口に歩を進め始める




・・・・・・・・・・・




・・・静寂の中・・・




・・・欠けた足先を引きずる砂の音だけが・・・


・・・変わり様の無い現実を認めさせる・・・




・・・すると・・・




その音に反応するかの様に




・・・ゆっくりと・・・


大きな引き潮の音が背後から聞こえ始めた






・・・一緒に過ごした・・・


・・・儚くも切ない・・・


・・・狂おしいひと時を彩る・・・






・・・全ての思い出を持ち去る様に・・・

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