第22話 百合の両親の引っ越し

 百合のお腹が大きくなるのと比例するかのように、村のホームページを訪れる数も日に日に増えてきた。また、ホームページを見て、村を訪ねてくる人も徐々に増え始め、村の公民館だけでは裁ききれなくなってきたので、予定通り新たに宿泊施設を建設すり事にした。とは言っても村全体の景観を損ねては意味がないので、宿泊施設はログハウスのコテージを十棟造り、一棟を食堂にした。

 また、百合の産後の事も考え、校舎の横にある教員宿舎を改装し、彼女の両親が引っ越してくることになった。兎に角、村はどんどんと活気づいてきている。

 いよいよ引越の日。手の空いてる村人たちが次から次とやってきては、引っ越しの手伝いをしていく。両親も清たちの校舎の台所を使って、来る人ごとに引っ越しそばを振舞うのにてんてこ舞いだ。とは言っても、村の婦人たちは何かと手伝ってくれるので、目が回るほどというわけでもない。どちらかというと昔話に花が咲いてそちらの方が忙しいようだ。

 沢山の人が手伝いに来てくれたおかげで、引っ越しの整理も殆どその日のうちに終わり、その日の夜には校舎の方で家族四人での夕食を済ませた。

 百合の父である花田輝夫は、運送の仕事をしていたが、六十歳を迎えたので引退し、母親の美登里もパートの仕事を辞めてこの村に引っ越してきたのだ。もともと、村に戻りたがっていたので、百合の妊娠は二人にとって良い口実になったのだろう。

 しかし、引っ越してきたのは良いが、これから先の収入をどうするかを考えなければならない。清は夕食を取りながら仕事についての話をした。

「お父さん、これからの事はどうしますか?」

「ああ、それなら心配はいらないよ。今までの仕事で貯金も有るし、村長が土地を貸してくれるって言ってるから、畑仕事しながらゆっくりと生活していくさ。なあ母さん」

「そうそう、それに百合にビーズやペーパークラフトを教えたのは私ですから、百合のアシスタントくらいはできますしね」

「じゃあ、望月君に聞いて、文化教室でも開きますか?」

「文化教室?」

「ええ、こないだの二人展で百合ちゃんの作品が人気だったんですよ。会場提供者の奥さんが、できれば百合ちゃんに教わりたいって言ってるらしいので、丁度よいかもしれませんね」

「本当なら私よりもお母さんの方が色々できるから、私がアシスタントになっちゃうかもね」

 百合も清の提案が嬉しいようだ。

「取り敢えず、望月君が来たら話しておきますよ」

「でも、わざわざこんな山奥の村に来るかしら?」

「やってみなければわかりませんよ。それに毎日来るわけではないですから」

 清の言葉に美登里も納得したようだ。先ずは教室を開くための場所を確保しなければならない。村長に相談したところ、公会堂が良いだろうということで、その中の一部屋を使わせてもらうことにした。そして望月に話し、先の二人展の会場提供者の婦人に話を持ち掛け、興味のある人を募ってもらい、教室のスタートを切ることにした。当然の事だが活動風景はデジカメで撮影し、ホームページに掲載される。要は少しでも芸術文化の要素を村中に広げて、生活と文化を密着させることによって、魅力的な村づくりをしたいのだ。

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