第24話 日本へ
上海市から日本までは、空を飛ぶ本田権次の智力が生かされた。彼はドミニオンズの馬火茂と同じく、物体を飛ばすことのできるフロート・ブロウの智力なのだ。
杏璃魔遊、安堂博士、アスドナ、アザエルの四人を運んで空を飛ぶ。そのフライングは、馬火茂と比べ物にならないくらいの速度と安定感があった。それだけでも本田が馬火茂と比較にならないほどの智力を持っていることがうかがい知れる。
上海市を東に飛び立つとすぐに東シナ海へ出た。そして、どこまで行っても果てしなく海である。雲ひとつない青い空と、深い青の海。水平線が手に届きそうな錯覚を覚える。
その時、後ろからロケット弾が撃ち放たれてきた。即座に察知した本田は回避する。プリンシパリティーズの小型ジェットを背負ったドミニオンズ隊員たちだった。彼らはパワーズとしてドミニオンズとして登録はされているが、智力は魔遊たちと比較すれば非常に弱いものである。だから自身の智力では到底かなわないので、ロケット弾で攻撃するのだ。
ただ不可解なのは。なぜヴァーチャーズ一行が空を飛んで日本を目指しているのを察知できたかである。ノックヘッド・ドミニオンズ・カスタムはとっくに外している。考えられるのは監視カメラや、街中に設置された智力を計測する観測機である。本田の強力な智力を察知して、出撃したとしか考えられない。もしくはすでにこちらの動きは察知されているとしか思えない。
本田は撃ち込まれたロケット弾の軌道をねじ曲げて、大きく旋回させた。そしてブーメランのように撃ち込んだドミニオンズ隊員に向けて放った。命中こそしなかったものの、驚かせるには十分だった。魔遊もアザエルもマン・マシーンを装着していないため、智力を出せない。そのため本田が一手に引き受けるしかなかった。
次々にロケット弾が撃ち込まれるが、本田はことごとく撃った相手に跳ね返してしまう。
弾を使いきり、恐れをなしたドミニオンズ隊員たちは退却していった。見事に本田は無傷で追っ手を追い払った。魔遊やアザエルに頼らなくても自分の智力で対処できるところを存分にアピールしていた。特にアスドナに。
数時間飛び続けて、魔遊の目に大きな島が東に向かって連なっているのが見えてきた。そばにいたアスドナが長崎県の五島列島だと教えてくれた。
しかし、その先にあるはずの長崎県は影も形もなかった。長崎県に限らず、九州は鹿児島県の一部を除いて全滅していた。
さらに東の四国も同様に海に沈んでいた。
そして研究所のあった中国地方も全滅。海の
もっと東の近畿地方も同様。一面海である。
すると遠くの方に鋭い
ここから東が陸地の残っている地域になる。首都東京は大津波によって壊滅しており、首都機能はもっと内陸の埼玉県に
魔遊が起こした西日本沈没大地震は日本はもとより、世界中に大津波の被害をもたらしたが、最も被害を受けた外国は朝鮮半島だった。中国沿岸部も無事ではなかったが、上海市は大津波をあらかじめ知っていたかのように立派な防波堤を作っており被害を最小限に食い止めていた。
魔遊が本田に声をかけた。
「ここで降りたい」
一行は海と陸地の境界線に降りた。ここから西が、魔遊の暴走により海に沈んだ場所である。ここはコピー世界であるが、詩亜がオリジナルそっくりに作っているので、オリジナル同様日本の半分は海に沈んでいた。その先端はえぐり取られたというか、むしり取られたというか、断崖に立ってみてその時のエネルギーの膨大さに気が遠くなった。
魔遊の記憶にないこととは言え、オリジナル世界で犯した自分の罪に驚きを隠せない。そして智力の恐ろしさに震えが止まらなかった。
自分の罪の深さを噛み締めていたら、いつの間にか黙祷を捧げていた。もちろんそんなことで大勢の尊い命が報われるわけがないことは承知の上だったが、せめてものあがきだった。またしても魔遊は疎外感と孤立感を感じていた。
「ありがとう。行こう」
一行は再びヴァーチャーズ本部へ向けて東へ飛び立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます