第24話
光を纏って突進してくるティアに向かって、セラは自身の武輝である剣から無数の光弾を発射する。
流線を描いて飛ぶ光弾を、ティアは跳躍して回避する。
そして、セラに向かって降下するとともに、光を纏う大剣をティアは振り下ろした。
最初のセラとの戦いで、セラの武輝を弾き飛ばした攻撃。
セラは武輝に輝石の力を纏わせ、ティアの攻撃に向かって両手で握った剣を勢いよく振う。
武輝同士がぶつかり合い、その衝撃で大気が揺れる。
今度は武輝を弾かれることなく、ティアの攻撃を受け止め、押し返した。
押し返してすぐにセラは連続攻撃を仕掛けるが、ティアは冷静に対処する。
周囲には激しい剣戟の音とともに、振り下ろされたティアの大剣が地面を砕く音と、セラの剣が風を切る鋭い音が響いていた。
セラは踊るようなサイドステップを踏み、死角からティアに向かって回し蹴りを放つが、片手で受け止められ、足を掴まれてしまう。
そのままティアはセラを地面に叩きつけた。
地面に激突する寸前、両手を地面につけて身体を反転させて上手く着地する。
高速で繰り広げられる二人の激しい戦いに、ついて来れないと感じた輝動隊の隊員たちは、セラとの戦いをティアに任して麗華の追跡に向かっていた。
ギャラリーがいっさいない、一対一の本気の戦い。
お互い、間合いを保ったまま、武輝を構えて相手を見据えている。
真っ直ぐとこちらを曇りのない目で見据えてくるセラに、ティアは小さく微笑んだ。
「さっき戦った時も思ったが、先日とはまるで動きが違う……迷いがない」
「ティアの――いいえ、みんなが言う通り、私は中途半端な覚悟だったのかもしれない」
そう言って、セラは力強く踏み込んで、ティアに飛びかかって剣を振り下ろす。
自身の覚悟を示すような重いセラの一撃を、ティアは両手で持った大剣で受け止めた。
「私はティアと戦うつもりでアカデミーに入学してきたわけじゃなかった――ッ!」
話しながらもセラは攻撃の手を休めることなく、攻撃の勢いがさらに増す。
「だから、私はティアと戦うことに疑問を持っていた! でも――ッ!」
感情が昂ぶると同時に勢いと鋭さが増してくるセラの攻撃に、ティアははじめて防戦一方になる。
「今は違う! 私は友達のために、あなたと戦うことを決めた!」
ティアの反応速度を上回るスピードでセラは背後に回り、武輝に変化した輝石から力を注ぎ込まれて光を纏っている武輝をティアに向けて振り下ろした。
振り下ろすと同時に光の衝撃波を放ち、ティアを吹き飛ばした。
セラの一撃に吹き飛んだティアは、受け身も取れずに地面に叩きつけられた。
気持ちが込められた重い一撃だったが、すぐにティアは立ち上がった。
衣服が多少破れているだけであってティアは堪えている様子はない
「お前の覚悟は本物だ――だが、それだけでは私には勝てん!」
ティアは大剣に光を纏わせて、一気にセラとの間合いを詰める。
軽々しく片手で大剣を振り回しながら、武輝が激しくぶつかり合って火花が散るほど激しい剣戟を繰り広げる。
一撃一撃が先程よりも明らかに重く、速くなっているティアの攻撃。
セラは冷静に上手く受け流し、重い一撃を受け止めることによる負担を最小限に抑える。
両者一歩も退かず、お互いに隙を見つけた瞬間、渾身の力を込めて、光りを纏う武輝をぶつかり合わせた。
その瞬間、爆音にも似た轟音が響き渡り、二人の足下のアスファルトがひび割れる。
二人の武輝が攻撃の衝撃に耐え切れず、上空に向かって弾け飛んだ。
しかし、それでもセラとティアは戦闘を続け、弾け飛んだ武輝を取るために跳躍し、その間にも体術で激しくぶつかり合う。
武輝を手にしたのはセラの方が早かった。しかし、その瞬間、地面に叩き落とすようなティアの回し蹴りを食らい、セラは地面に向かって一直線に叩きつけられそうになる。
だが、ぶつかりそうになる寸前、身を捻って剣を振り、それのよって生じた風圧で落下速度を落とし、その速度のまま身体を反転させて何とかセラは無事に着地した。
着地してすぐにセラは空を仰ぐと、まだ空中にいるティアが空を蹴って猛スピードで襲撃してきた。彼女に向かってすぐにセラも飛びかかる。
轟音を轟かせて二人はぶつかり合い、その衝撃で二人の身体は吹き飛んでしまった。
二人とも空中で体勢を立て直し、同時に着地する。
激しい戦いに二人は軽く息が上がっていたが、闘志はさらに燃え上がっていた。
「こんなに本気で戦うのは久しぶりだ」
「私はまだまだ全然本気じゃないよ。それで本気なの? ティア」
「お前がそんな安い挑発をするとはな」
明らかな挑発をしているセラの言葉に、ティアは思わず苦笑してしまう。
「ティアが昔、私に言ったことをそっくりそのまま返しただけだよ」
「……確かに、そんなことを昔言っていたな」
セラの言葉に昔の自分を思い出して自嘲的な笑みを浮かべるティアだが、すぐにその笑みが消え、凍てつく氷のような表情になり、漆黒を思わせるような瞳をセラに向ける。
その暗い瞳から放たれた何かを感じて背筋に冷たいものが走ったセラは、すぐにそれが殺気だと理解した。
「やはり……セラ、お前は邪魔なんだ」
呟くように静かにそう言ったセラは、武輝である大剣に光を纏わせた。
「お前がいると、私の決心が鈍る」
ゆらりとティアの姿が一瞬ぶれた瞬間、セラの目の前に突然ティアが現れた。
同時に、さっきよりもさらに攻撃の重さと速度を上げて猛攻を仕掛けてきた。
「お前がいると、私は昔の自分を思い出してしまう」
ティアの猛攻を捌きつつ、攻撃の隙をセラは伺っているが、まったく隙を見せない。
「お前がいると、私はあの頃の思い出してしまう」
ついにティアの攻撃に凌ぎ切れず、セラはティアの一撃をまともに食らってしまった。
地面を数度バウンドしても勢いが止まらないほど勢いよく吹き飛び、街路樹に叩きつけられ、そのままピクリとも動かなくなった。
「お前がいると、私は思い出に浸って何もできなくなってしまう」
「ふざけるな!」
弱々しくそう呟いたティアに、セラの怒声が響き渡った。
ティアの攻撃をまともに食らって気絶したかと思いきや、所々服が破けているだけで傷がついていないセラの表情は激しい怒りに満ちていた。
「自分に覚悟がないからって私のせいにするな!」
今までのティアに対してため込んでいた不満を晴らすかのように張り上げたセラの怒声に、ティアは言葉を詰まらせる。
「一番中途半端な覚悟をしているのはティアだよ! それを私のせいにするな!」
「……違う。私は――」
「なら私を倒して証明してよ」
ティアの反論を遮るようにして、セラは武輝に光を纏わせてティアに向かって走る。
武輝に変化した輝石から限界まで力を引き出したセラの武輝は、眩い閃光を放っていた。
セラを迎え撃つべく、自分の覚悟を証明すべく、ティアも武輝を輝かせて走り出す。
ティアもまた、セラと同じく限界まで輝石の力を引き出し、彼女の武輝は、たぎる炎のように光が揺らめいていた。
お互いに向けて走り出しているセラとティアは、すれ違いざまに両手で持った武輝を思いきり振りかぶって同時に振り下ろし、武輝同士が激しくぶつかり合った。
「ティアの……――ッ! バカァアアアアアアアアッ!」
武輝が渾身の力でぶつかり合う轟音よりも、倍以上に大きいセラの怒声が響き渡った。
ぶつかり合った瞬間、今までで一番の衝撃が周囲を襲い、ヒビが入っていたアスファルトが完全に砕け、粉塵が周囲に舞い散った。
粉塵が収まると、ぶつかり合った二人は、お互い背を向けて立っていた。
一つの武輝が弾き飛ばされ、月浮かぶ夜空へと舞い上がり、すぐにむなしくアスファルトに突き刺さった。
突き刺さった武輝は――ティアの武輝である大剣だった。
「私の勝ちだね、ティア」
セラの短い勝利宣言とともに、弾き飛ばされたティアの大剣は輝石に戻った。
「……私の覚悟がお前の覚悟に負けたのか?」
「いいえ、私たちの覚悟が勝ったんだよ」
「……そうか、そうだったな……」
セラの答えを聞いて、ティアは晴々とした顔で小さく微笑み、脱力したように突然膝をついた。
「ティア! 待ってて、今手当てを――」
「問題ない、ただ気が抜けただけだ」
セラは慌ててティアに駆け寄ろうとするが、ティアはそんな彼女を手で制した。
「それよりもお前にはやることがあるだろう?」
「……行ってもいいの?」
「輝動隊の奴らには私が一言言っておく。お前は早くこの事件を解決しろ」
ティアの言葉に、今自分がやらなければならないことをセラは思い出す。
後ろ髪引かれる思いだったが、今は一刻も早く麗華たちの元へ向かうことを優先だと判断したセラは、グレイブヤードへと向かうことにする。
ごめん、ティア……
心の中でティアの謝罪をして、グレイブヤードへセラは走る。
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