第9話
雨が降ってきたので、幸太郎は雨宿りをするために近くにあったファミレスに向かった。
一応報告しないと麗華に怒られると思った幸太郎は麗華に連絡すると、麗華はファミレスに向かうと言って、数分後にセラを連れて合流した。
「まったく……本来ならば高貴なる身分のこの私が、こんな庶民的なところにいるのは納得できませんが、雨が降っているので仕方がありませんわね!」
偉そうに言っているが、高貴なる身分の麗華は興味深そうにファミレス内を見回していた。
さっそく幸太郎はお腹が空いたので、ガッツリとハンバーグセットを頼むことに決めた。
注文する品を決めた幸太郎は、メニューをセラと麗華の二人に差し出した。しかし、途中休憩ついでに二人はすでに軽食を食べたとのことだった。
「……二人が頑張ってると思って休憩するのを我慢したのに」
「す、すみません……私たちに遠慮せずにたくさん食べてください」
「私たちは周囲を警戒しながら歩き回っているので、休憩をするのは当然ですわ!働かざる者食うべからず、動かざる者食うべからずですわ! オーッホッホッホッホッホッ!」
恨みがましく睨んでくる幸太郎に、セラは申し訳なさそうに謝り、麗華は謝ることなく、尊大な態度で幸太郎が我慢するのを当然だと言って高笑いをする。
「そんなことよりも、そちらの成果はどうでしたの?」
成果を尋ねてきた麗華に、幸太郎は簡単に自分が巻き込まれた出来事を話す。
麗華が宣伝する許可を取っていなかったこと、それで輝動隊に絡まれたこと、刈谷とティアと出会って話したこと、ティアにセラへの言伝を頼まれたことを説明した。
説明を終えるとハンバーグセットが来て、幸太郎はがつがつと勢いよく食べはじめた。
セラはティアが自分に言伝を頼んだことを知り、複雑そうな表情を浮かべ、麗華は怒り心頭という様子で、テーブルをカチ割らんばかりの勢いで思いきり殴りつけた。
「まったく、あなたは大バカですわ! 宣伝行為は許可されていたのですわ!」
「でも、輝動隊の人たちは許可を取っていないって言ってたけど」
「あなたのプディングのように柔らかい脳みそにもわかりやすく説明しますわ! ようは、あなたは最初に因縁をつけてきた隊員に嵌められたのですわ」
食べながら麗華の説明を聞いて、食事に集中していた幸太郎でもようやく話が見えてきた。
そっか……許可取ってたんだ……鳳さんに悪いことしたな。
ようやく自分が騙されたことを理解した幸太郎は、輝動隊に腹を立つよりも、麗華を信用しなかったことに対して申し訳ない気持ちになった。
「まったく……しかし、こんなにも早く妨害行為が行われるとは思いもしませんでしたわ」
「それは、ティアも妨害行為に加担しているということでしょうか」
「ティアさんはそんな遠回しなことはしないでしょう……おそらく、ですが」
麗華の言葉にセラは安堵すると、何かを決心したような顔になり、席を立つ。
「……すみません、鳳さん。私はちょっと用事ができたので失礼します」
「ちょ、ちょっとセラさん! 外は雨ですわよ!」
麗華の制止を聞かず、セラは雨が降っているにもかかわらず、傘も差さずに外に出た。
同時に、幸太郎はハンバーグセットを食べ終えた。
「やっぱりティアさんって、セラさんの友達だったんだ」
「あら、あなたは知っていたのですか? 意外ですわね」
「昨日、セラさんが言ったことと、ティアさんの態度で何となく。鳳さんはセラさんに教えてもらったの?」
「私は自分の権力を使って二人の関係を調べたのですわ」
「そうなんだ……よかったら二人のことについて教えてよ」
「どうして、そんなことを知りたいのですの? あなたには関係がないでしょうに。二人の問題に、他人が干渉するべきではありませんわ」
「確かにそうだけど……お節介だけど、知りたい――だって、セラさんは……」
教える気はなさそうな麗華だが、幸太郎はどうしても知りたかった。
お節介かもしれないと自分でも思っているが、幸太郎にとってセラは――
「セラさんは友達だし、悩んでいるみたいだから、知っておきたいと思って」
「友達? やはりあなたは大バカですわね」
「鳳さんはセラさんのことを友達だと思っていないの?」
友達という単語を恥ずかしげもなく言い放つ幸太郎に、麗華は思いきり鼻で笑った。
「私やセラさんははそれぞれの目的があって、お互いに利用しています。その間 に、友情という青臭いものは存在しませんわ! もちろん、あなたとの間にも」
「なるほど、だから友達がいないんだ」
「ファアアアアックユアセルフですわ!」
思いきりテーブルを叩いて怒声を上げる麗華。あまりの一撃にテーブルが凹んだ。
怒りに満ち満ちている麗華だが、幸太郎は臆することはなく、鬼のような形相を浮かべている彼女をジッと見つめていた。
「僕は鳳さんのことを友達だと思ってるから、鳳さんが悩んでいたら助けるよ」
「フン! ……あなたのような落ちこぼれの友達なんて私には必要ありませんわ」
何の他意もなく、平然とそう言ってのけた幸太郎に、麗華は恥ずかしそうに頬を紅潮させ、それを隠すようにソッポを向いた。
しばらくソッポを向いたままの麗華だが、突然「……旧育成プログラム」と呟いた。
聞き慣れない言葉に首を傾げる幸太郎。
「旧育成プログラムとはアカデミーが設立する以前、教皇庁……当時は『レイディアントラスト』と呼ばれていた組織が実施していた、輝石使いの育成プログラムですわ」
「そういえば、輝石って昔からあったんだっけ」
「教皇庁曰く、ノアの箱舟のライトに使われたのが輝石と言われていますわ。まあ、本当かどうかは定かではありませんし、私は信じてはいませんが」
皮肉たっぷりに自分の意見を交えて説明する麗華。幸太郎も彼女の意見には同感だった。
「教皇庁は大昔の時代から輝石使いを集め、実力を認めた輝石使いを『
「なるほど。それが、旧育成プログラムなんだ」
「そう、それをセラさんは受けていたのですわ。強いのも当然ですわね」
麗華の説明を聞いて、幸太郎は先日観賞したカンフー映画の師匠と弟子の修行シーンを呑気に思い浮かべ、似たようなものだろうと解釈した。
そして、ようやくセラの強さに納得して、徐々にティアとの関係性も見えてきた。
「だから、この間の決闘で簡単に鳳さんに勝てたんだ」
「グヌヌヌ……一々鼻につく言い方ですが――まあ、間違ってはいませんわね」
オブラートに包まずにハッキリと言った幸太郎を、恨みがましく、そして悔しそうに睨む麗華だが、事実を言っているので反論することができなかった。
「アカデミーが設立した今は廃れてほとんど行っていませんが、アカデミーの万人受けする訓練よりも、旧育成プログラムの実戦的な訓練の方が間違いなく強くなれるでしょう」
「その訓練をセラさんはティアさんと一緒に受けていたのかな」
「少しは考える頭を持っているようですわね。その通りですわ」
思っていたことが正解だったので、幸太郎は小さくガッツポーズをする。
「どこで受けていたのかは詳しく調べていないのでわかりませんが、セラさんとティアさんは、同じ旧育成プログラムを幼い頃、一緒に受けていたようですわ」
「それじゃあ、ティアさんもセラさんと同じで強いんだ」
「もちろんですわ。輝動隊の№2というポジションですが、実力はトップ、そして人望もあってカリスマ性もありますわ……あなたもティアさんを見てそう思ったでしょう」
さっき出会ったばかりのティアのことを幸太郎は思い出す。
ぴっちりとしたジャケットで押さえつけられていたけど、相当なものを持っていた。風紀委員メンバーが砲弾なら、ティアさんはロケットだ。
何だか近寄り難い雰囲気だったけど、刈谷さんと同じで悪い人じゃないと思う。
ボーっとして深く考えている幸太郎だったが、「ちょっと、聞いていますの!」というヒステリックな麗華の声で、思考が中断されてしまった。
「まったく……これでティアさんとセラさんの関係が理解できたから満足でしょう?」
「うん、大体わかった。ありがとう、鳳さん」
「フン! なら、あの二人の間に入り込む余地がないことは十分に理解できたでしょう? これは二人の問題です、あなたが何をしようとも無駄ですわ」
無駄だと言い切る麗華に、幸太郎も素直に納得するしかなかった。
「それに――セラさんはそんなに弱くはありませんわ。自分自身の問題は自分で決着をつけるでしょう。昨日今日出会ったばかりのあなたにできることは何もありませんわ」
確かに、あの二人の間に付き合いの短い自分が何を言っても響かないだろう。
でも――
「友達として、もうちょっとよく考えてみる」
「フン! あなたなんかが考えても、セラさんのためにできることなんてありませんわ。それでは、今日は雨が降ってきているので宣伝活動は中止にいたしますので解散ですわ」
そう言って、麗華は幸太郎を残してさっさとファミレスを出た。
残った幸太郎は、まだお腹が空いていたので、ペペロンチーノを追加注文した。
―――――――――――――――
雨が降っているのにもかかわらず、傘も差さず、雨に濡れながら、セラはイーストエリアを走っていた。
彼の話を聞いてから、そんな時間は経っていないから、まだこのエリアにいるハズ! どこにいるの? ……ティア!
当てもなくただ走っているというわけではなく、ティアを探すために走っていた。
「私を探しているのか? セラ」
必死に探している自身を呼ぶ、慣れ親しんだ声にセラは足を止める。
声のする方へ視線を向けると、裏路地に続く道にティアが傘も差さないで立っていた。
目的の人物に会えたが、セラの表情は悲しみと怒りが入り混じっていた。
「……ティア」
「お前が探すだろうということは何となくわかっていた」
「そう……探す手間が省けてよかった」
よかったと言っているセラだが、その顔は険しいものだった。
険しい顔のまま、セラはティアを睨みながら近づいた。
「今日、言伝を頼んだみたいだけど……どうして私と直接話をしないの?」
「……そうだな、その件については私に非がある。確かにお前には直接言った方がいいな」
しっかりとセラの目を見つめ、ゆっくりとティアは口を開いた。
「お前は邪魔だ……アカデミーから――いや、私の目の前から消えろ」
「あなたがどんなにそう思っていても、私はあなたの前から逃げるつもりはない」
拒絶されても、今度は前のように動揺せず、意志を強く持ったままティアはセラを睨む。
退き気がないセラを見て、ティアはポケットの中からチェーンに繋がれた輝石を出した。
輝石を出したティアに一瞬動揺するが、すぐに動揺を討ち払い、セラも続いてポケットの中からチェーンに繋がれた輝石を出す。
「お前が何を、どう思おうが関係ない……お前は邪魔なんだ」
「本当に戦うつもりなんだね、ティア……」
ティアは躊躇いなく、セラは躊躇いながらも同じタイミングで輝石を武輝に変化させる。
ティアの武輝は、身の丈と同じくらいのサイズの大剣で、セラの武輝である剣の倍以上のリーチを持っていた。
お互いが武輝を出すと同時に、セラはバックステップをして間合いを取る。
「来い……何もかも、お前のすべてを砕いてやる」
ティアの言葉と同時に、セラは武輝に輝石の力を纏わせ、ティアに向かって走る。
相手はティア……鳳さんの時のような、不意打ちは通用しない。はじめから全力で行く!
走りながら、セラは剣から数発の光弾を一斉に放ち、光弾がティアに着弾すると同時に自身も飛びかかる――しかし、セラの攻撃がティアに届くことはなかった。
ティアは自身の細い腕で、軽々しく武輝である大剣を片手で振るい、その風圧ですべての光弾をかき消し、攻撃を仕掛けてきたセラの身体を軽々しく吹き飛ばす。
吹き飛ばされながらも、セラは空中で身体を翻して体勢を立て直して着地する。
着地すると同時に、今度はティアが攻撃を仕掛けてきた。
片手で持った大剣を軽々と振りかぶり、ティアは一気に間合いを詰める。
真っ向勝負で、ティアとまともにぶつかるのは危険だ――
そう判断して、間合いを詰めてきたティアから離れようとしたセラ。
しかし、セラの行動を見切っていたティアは、離れる寸前に彼女の胸倉を剣の持っていない方の手で掴んだ。
「……お前の覚悟がそんなに中途半端なものだったとはな」
片手でセラの胸倉を掴み、そのまま軽々しく持ち上げたティアは、セラの身体を思いきり地面に向かって投げ捨てた。
勢いよく投げ捨てられ、何度か地面にバウンドしてようやく勢いが止まった。
輝石の力でダメージが軽減されても、かなりのダメージを食らってしまうが、痛みを堪えながらもセラはヨロヨロと立ち上がった。
そんなセラに向かって、ティアは大剣に光を纏わせ、その大剣を思いきり片手で振り下ろして、地を這う衝撃波を放つ。
痛みに耐えながらも、自身の武輝に精神を集中させて武輝から輝石の力を絞り出し、自身に襲いかかる衝撃波に向かって武輝をぶつけて衝撃波を掻き消す。
私は……私は――私は! 中途半端なんかじゃない!
自分を鼓舞するかのように大きな気合を上げて、セラはティアに立ち向かう。
ぶつかり合う両者の剣――
ティアの大振りだが、素早く、的確な攻撃。
紙一重でそれらをセラは回避しているが、回避するだけが精一杯で手が出せない。
一旦間合いを取り、再び剣から光弾を飛ばすが、すべてティアの一振りでかき消される。
大きく肩で息をしているセラだが、ティアはまったく息を乱していない。
四年間、セラはずっと鍛え続けていたのにもかかわらず、それでもまったく敵わないティアとの力の差に、セラは焦りが生まれていた。
明らかに焦燥しきっているセラを見て、ティアは飽き飽きしたように小さく嘆息する。
「いい加減――これで終わりにしてやる」
大剣に力を込めて光を纏わせ、ティアは高く跳躍して、セラに向かって剣を振り下ろす。
セラも自身の剣に光を纏わせて、両手で持った剣でティアの攻撃を受け止める。
二人の剣がぶつかり合い、その衝撃波で雨粒が吹き飛ぶ。
ティアの強烈な一撃に耐え切れず、セラは武輝を手放してしまう。
武輝を手放し、無防備になったセラの首を片手で掴み、そのまま壁に叩きつけた。
「お前の負けだ」
ティアの言う通り、セラの敗北は明白だった。
敗北を突きつけたティアは、セラの首から手を離した。そして、自身の冷たい眼差しとともに、手にしている武輝の切先を、苦しそうに咳き込んでいるセラに向けた。
力の差を見せつけられて敗北したセラだが、その瞳に宿る強固な意志はまだ折れておらず、負けを認めていない様子だった。
「まだ……まだ私は負けていない……!」
「負けず嫌いなのは相変わらずか」
圧倒的力差を見せつけられてもいまだに戦意喪失をしないで立ち上がるセラを見て、ティアは呆れたようにため息を漏らし、武輝を輝石に戻した。
「……アカデミーに出て行けとはもう言わない。あのお嬢様が思い描いている絵空事にも勝手に付き合えばいい……だが――」
ティアはセラの胸倉を掴んだ。
「私に二度と近づくな」
短い言葉とともに、幼い頃からの親友に向けるものとは思えないほど冷酷で、殺気に満ち溢れている氷のように冷たい瞳をセラに向けた。
短い言葉だが、かつての親友を徹底的にまで拒絶する、明確な意志が現れていた。
ティアはセラの胸倉を掴んでいた手を乱雑に離し、セラに背を向けて立ち去ろうとする。
「……待って……待ってよ! ティア!」
自身を呼ぶセラの悲痛な声に、反応することなくティアはセラの前から立ち去った。
徹底的に自分を拒絶しているティアに、セラは力なく膝をついた。
……それでも、私は……私は……!
挫けそうになるが、それを必死に堪え、セラは再び立ち上がる。
冷たい雨に打たれても、足や頬についた擦り傷が痛んでも、友に拒絶されてもセラは足を止めることはできなかった。
「……私は諦めるわけにはいかないんだ」
折れかけた自分を奮い立たせるようにそう呟いて、再び歩きはじめる。
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