うん。ついてる

@miumiu

風紀委員設立編

第一章 出会い

第1話

 朝日を浴び、幻想的な雰囲気を醸し出している満開の桜が咲き誇る並木道。


 その並木道を学生たちは、これからはじまる新生活に期待に満ち溢れた顔で歩いていた。


 一人の少年――白を基調としたブレザータイプの制服を着て、長めの黒髪、地味な顔と容姿で、ひ弱そうな華奢な体躯の少年・七瀬幸太郎ななせ こうたろうも例外ではなかった。


 一週間前に中学を卒業してもまだ実感していなかったが、昨日の入学式を終え、ようやく今日になってあの世界的に有名な『アカデミー』に入学したと実感した。


『アカデミー』とは、を持つ子供たちを世界中から集めた国際色豊かな学園であり、初等部から大学部まである大規模で、世界的に有名な学園である。


 アカデミーを中心として都市が広がっており、その都市も世界的に有名である。


 セントラルエリア、ノースエリア、サウスエリア、イーストエリア、ウェストエリアと呼ばれる大きな五つの区画に分かれている世界最大面積の学園都市として有名であり、『アカデミー都市』と呼ばれている。


 ただ広いというわけではなく、アカデミー都市は世界最高峰の技術や施設を集合させている。


 そんな世界的に有名な学園に、ついこの間まで普通の少年だった七瀬幸太郎は入学して、世界最大規模の学園都市の中にある寮で昨日から暮らしている。


 今日は遅刻しないように、急がないと!


 そう思いながら、幸太郎は一人黙々と早歩きで、五階建ての高等部の校舎へ向かった。

 

 あっという間に到着した幸太郎は、自分のクラスである1年B組へと向かう。

 

 教室へ到着すると、クラスメイトたちは幸太郎を見てひそひそと耳打ちをしていた。

 

「なあ、もしかしてアイツ、昨日の入学式を遅刻してきた奴か?」

「名誉あるアカデミーの入学式を遅刻して途中入場する奴なんて、ありえねぇわ!」

「それに昨日の『輝石きせき』の適性検査の結果がひどかったみたいじゃない」

「ホント、『武輝ぶき』も出せないアカデミーの恥さらしと同じクラスなんて信じられない!」


 クラスメイトは幸太郎を侮蔑の目で見て、ある者は嘲り、ある者は露骨に嫌な顔をした。


 陰口が耳に入ってきたが、幸太郎は特に気にすることなく自分の席に座った。


 あ、昨日のことがもう広まってるんだ……

 それよりも、担任の先生はどんな人なんだろう。


 幸太郎は陰口よりもこれから来る担任の教師の方が気になり、ワクワクしていた。


 昨日はクラス分けと入学式と、その他諸々の検査のみで、担任の教師は今日発表される。

 

 どんな人が担任になるのか楽しみにしながら待っていると――

「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」


 突然、廊下から大きな笑い声が響き、それと同時に教室の扉が勢いよく開かれ、一人の男が登場する。


 長身痩躯で白髪交じりのボサボサの髪、黒縁眼鏡、薄汚れた白衣を着た明らかに怪しそうな男の登場に、クラスメイトたちは幸太郎に対する陰口をやめて、すぐに席に戻った。


 幸太郎以外、白衣の男と目を合わせないようにして顔を俯かせていた。


「ハーッハッハッハッハッハッハッ! 我がクラスの生徒諸君、おはよう!」


 白衣の男は笑いながら生徒に挨拶をすると、生徒たちは複雑な表情で挨拶を返した。


 何だかすごそうな人が担任の先生だ……さすがはアカデミー。


 インパクトが強すぎる人物の登場に、ただただ幸太郎は驚くことしかできなかった。


「さて、諸君! すでに私を知っている生徒もいると思うが、私の名は――」

 白衣の男は、突然ジャンプをして教卓の上に着地して、激しいアクションで怪しげなポーズを決める。


「ヴィクター・オズワルド――諸君らの担任であり、アカデミー随一の頭脳を持つ男ある!」


 ヴィクター・オズワルドと名乗った変質者――ではなく、1年B組の担任は自己紹介をして教卓から下りた。


 朝っぱらからハイテンションで、変質者のような担任にクラスメイトたちは辟易している様子だった。


 一体あのユニークなポーズは何だろう……さすがはアカデミーだ!


 そんな中、一人だけ感心している幸太郎は好奇心旺盛といった様子で、風変わりと表現するには、生易しい担任を見ていた。


「さて、何かこの私に質問がある好奇心旺盛な生徒はいないのかな? それか、私の研究に協力してくれるというモルモット君はいないのかな? 遠慮せずに何でも言いたまえ!」


 自己紹介が終えて質問タイムに突入するが、無反応の生徒たち。

 そんな生徒たちの反応に、ヴィクターは失望したように仰々しくため息をついた。


「諸君はもう少し元気のある生徒だと思っていたのだが残念だ。せっかくの高等部生活がはじまるというのに、そんな消極的では青春を謳歌できないぞ! ハーッハッハッハッハッ!」


 消極的だと思い込んでいるヴィクターは、質問をしてこない生徒たちに苦言を呈すが、ヴィクターと関わりたくないと思っている生徒たちが質問することはない。


 しばらく生徒たちの様子を見て、質問を待っていたが、誰も質問しなかったのでヴィクターは諦めたように小さくため息を漏らした。


「残念ながら質問はないようなので、出欠を取ろう! ん? ――おお、この名前はまさか……」


 ヴィクターは持っていた出席簿を開くとすぐにある名前を発見した。

 そして、すぐにヴィクターは幸太郎と目を合わせた。


「君は昨日の入学式に遅刻し、その後の検査で落ちこぼれの烙印を押された残念無念な生徒ではないか! ハーッハッハッハッハッハッハッ!」


 指を差して笑っているが、悪意のある笑いではないため幸太郎は気にしていない。


 ヴィクターは新しいオモチャを与えられた子供のようなキラキラした目で幸太郎を見つめ、変態的な動きで、その新しいオモチャに近づいて、肩を優しく愛撫するように撫でる。


 幸太郎は恐る恐るヴィクターの目を見ると、彼は好奇心旺盛な瞳で見つめていた。


 ……何かリアクションした方がいいのかな?


「自己紹介した方がいいですか?」


 戸惑う幸太郎の反応が面白かったのか、ヴィクターは再び気が狂ったように大声で笑う。


「ハーッハッハッハッハッハッハッ! 自己紹介なぞ不必要! なぜなら君の名前と顔はほとんどの生徒や教員たちに覚えらてしまっているからな! もちろん悪い意味でだが!」


「怒られちゃいますか?」


「案ずることはないぞ、少年! 私は遅れるからといって仮病で欠席するよりも、厚顔無恥で正直者な君の方が私には好感が持てるからな! それに、落ちこぼれという烙印も後で挽回すればいいだけだ! ハーッハッハッハッハッハッハッ!」


「えっと……ありがとうございます?」


 励まされているのか、貶されているのかよくわからなかったが、一応幸太郎はお礼を言っておくことにした。


「その調子で励むのだ! 私は向上心のある生徒は好きだぞ! ハーッハッハッハッ!」


 一々ヴィクターにとって面白い反応をする幸太郎に、さらに大音量の笑い声が響き渡る。


 ヴィクターはバシバシと幸太郎の肩を鼓舞するように叩いて、幸太郎から離れて、教卓の前に戻った。


 面白い先生だけど、エキセントリックだなぁ……さすがはアカデミー?

 

 幸太郎はヴィクターと話してみてそう感じた。


「さて、出欠を取るぞ、諸君! 呼ばれたら横隔膜からハッキリと声を出して返事をするように!」


 出欠を取るだけなのに、相変わらずのハイテンションで出欠をとりはじめるヴィクター。


 改めてアカデミーのすごさを思い知ると同時に、これから頑張れそうだと感じる幸太郎。


 こうして、幸太郎のアカデミー生活がはじまった。



 

―――――――――




 出欠を取った後は、アカデミーの生活や授業などの説明を二時間かけて説明した。


 基本的なアカデミー生活の説明は入学式の時に行われたが、アカデミーには特殊な能力を持つ生徒で構成されているので、諸注意だけでも長時間かかった。


 クラスメイトたちはしっかり話を聞いていたが、睡魔に襲われた幸太郎は何度も欠伸をして、睡魔に負けそうになった。


 しかし、昨日のこともあったので、眠気を我慢してしっかり諸注意を聞いた。


 ヴィクターは基本的なアカデミー生活等をこと細かく説明した。

 

 真面目に説明するその態度は、自己紹介の時に見せたエキセントリックな態度とは大違いで、幸太郎は少し見直した。


 本来ならばもう少し説明するべき点があったらしいが、基本的な生活についての諸注意だけで予定時間をオーバーしたので、生徒に学生手帳を配布して、後は生徒たち自身が自主的に調べるようにと、ヴィクターは言って諸注意は終わった。


 諸注意の説明だけで、初日は終わりだった。


 各自下校するようにとヴィクターは言って、教室を出た。彼が教室を出ると、クラスメイトたちは一斉に疲れたようにため息を漏らし、下校の準備をはじめる。


 さて、昼飯前に終わったし、何か食べて帰ろうかな?

 

 幸太郎は大きく欠伸をしながら帰り支度をして、昼食のことを考えていると――


「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」


 ヴィクターがいなくなって安心感に包まれていた教室内の空気をぶち壊すかのごとく、うるさいぐらいに響き渡る高笑い。


 一瞬、ヴィクターがまた現れたのかと思ったが、今度は女性の笑い声だった。


 幸太郎は笑い声のする方へ視線を向けると、一人の女子生徒が恥も外聞もなく、うるさく、バカみたいな高笑いをしていた。


 その女子生徒は、気の強そうだが意志の強そうなツリ目、一部の髪の毛がロールした癖のある金髪ロングヘアーが印象的で、ブレザーの胸の部分が窮屈そうなほど豊満なスタイルの美少女だった。


 高圧的な雰囲気を纏っているが、立ち居振る舞いは優雅で気品に満ち溢れていた。


 確かあの人は鳳麗華おおとり れいかさん……恥ずかしくないのかな、あの笑い方。


 幸太郎は出欠を取った時、人一倍丁寧に、そして大きな返事をして、その見事な発達具合と美貌からクラスメイト(特に男の)の注目を集めていた美少女・鳳麗華を思い出した。


 高笑いをしながら麗華はある女子生徒に近寄ると、彼女に向かって、どこからかともなく取り出したバラを投げ渡した。


「挨拶代りに、この情熱の炎のように赤いバラをあなたに差し上げますわ!」


 突然バラを投げ渡されて、女子生徒は面を食らっていた。


 麗華にバラを投げ渡された女子生徒は、涼しげだが感じが良さそうな目、長身で均整の取れたスタイル、風が吹けばサラサラとなびきそうな髪質のショートヘアー、凛々しく整った顔立ちが印象的な、麗華に負けず劣らずの美少女だった。


 他のクラスメイトたちと比べ、大人びた雰囲気を持つ彼女は、かわいいというよりも、美しいと表現した方がしっくりくる美少女である。


 セラ・ヴァイスハルトさん――さすがはアカデミー、女子レベルが高い。


 麗華にバラを渡されたセラ・ヴァイスハルトを見て、幸太郎は出欠の時にあまりの美しさに、自分を含めたクラスの男子はもちろん、女子から注目を浴びていたことを思い返す。


「……鳳麗華さんですよね? 何か私に用でしょうか?」


 戸惑った様子でセラは自分の前に立つ鳳麗華に話しかけると、麗華は満足そうな笑みを浮かべて深々と丁寧に頭を下げた。


「名前を覚えてくださるとは光栄ですわ、セラ・ヴァイスハルトさん――そう、わたくしこそが未来のアカデミーの頂点に君臨する存在、鳳麗華ですわ! オーッホッホッホッホッ!」


 再び高笑いが教室中に響き渡る。


 アカデミーの人って、一々高笑いをしなくちゃコミュニケーション取れないのかな?


 幸太郎は純粋な疑問を抱いた。


「お互いに自己紹介する必要はありませんね――それで要件はなんでしょう」


「話が早くて結構。私、鳳麗華はあなたとの決闘を申し込みますわ!」


 突然の決闘という言葉に、クラスメイトたちは驚き、ざわめき立つ。

 

 決闘という言葉に幸太郎はピンと来なかったが、すぐに好奇心が芽生えた。


 突然決闘を申し込まれたセラは目を白黒させていたが、すぐに我に返り――

「お断りします」


 即断ったセラに、麗華は一瞬フリーズするが、すぐに再起動する。


「ぬぁんですってぇ! ちょっと、あなたそこは二つ返事で了承することでしょうが!」


「は、はあ……すみません。でも、お断りします」

 

 出鼻をいきなり挫かれて文句を言う麗華だったが、それでもセラは断る。


「この私と決闘するということがどれほど光栄なのか、あなたは知っているので?」


「すみません、私はついこの間入学したばかりなので」


 セラの一言に、肝心なことを思い出した麗華はしまったという顔をする。


 なんだろう、鳳さんすごい美人なのに、すごく残念な感じがしてきた。

 

 そんな麗華を見て、失礼なことを幸太郎は思った。


「ま、まあ取り敢えず私と決闘できるのは光栄だと覚えておきなさい!」


「は、はあ……そうなんですか……わざわざありがとうございます」


「それで? 決闘しますの? しませんの?」


「お断りします」


「ちょ、ちょっと! あなた空気というものを読みなさい! 空気というものを!」


「そんなことを突然言われても困ります。すみませんが、帰らせてもらいます」


 三度断って、鞄を持って帰ろうとするセラ。


 何とか引き止めようと、言葉を選んで悩んでいる麗華は苦し紛れの一言を言う。


「あ、あら、セラさん、あなた?」


 麗華が言った『逃げる』という言葉に、ピクリと反応してセラは足を止める。


 様子の変化を敏感に察知した麗華は調子を取り戻し、不敵な笑みを浮かべた。


「まあ、別に逃げてもよろしいですわ。フン、残念ですわね! 昨日、あなたが『輝石』の適性検査で、噂になるほどの実力を持つ生徒だと聞いていたのに」


 わざとらしく、それでいてオーバーな身振り手振りを加えて挑発する麗華。


 挑発に乗る気はなかったようだが、『臆病者』という言葉にセラは強い反応を示した。


「まあ、私の見込み違いだったということですわね。セラ・ヴァイスハルトは臆病者――」

「――わかりました」


 麗華のあからさまな挑発の言葉をぴしゃりと遮るセラ。


 一度は帰ろうとしたセラだったが、すぐに振り返って麗華を真っ直ぐと睨んだ。


 こちらを睨む、闘志が溢れているセラの瞳に、麗華は計画通りだと言うように不敵な笑みを浮かべていた。


 二人の間には激しい火花が散っているような錯覚を覚えたクラスメイトたちは息を呑み、ざわついていた教室内が静かになった。


「そこまで言うのなら、いいでしょう……その代わり、後悔しないでください」


「オーッホッホッホッホッホッ! やる気満々ですわね! いいでしょう! グラウンドでさっそく決闘をはじめようではありませんか!」


「わかりました。さっそく向かいましょう」


 二人は教室から出て、その後を追うようにしてクラスメイトたちも教室を出た。


 幸太郎も輝石使いの決闘は見たことないので、野次馬根性で観戦することにした。


 でも、輝石使い同士の決闘って……


 引っかかりを覚えた幸太郎は、ふいに胸ポケットの中から生徒手帳を取り出した。


 生徒手帳の中にある学則のページを開くと――

 大きな文字で『輝石使い同士の私闘及び決闘は禁ずる』と書いてあった。


 説明するのが面倒だったので、ヴィクターは説明しなかったのだろうと幸太郎は思った。


 幸太郎も含め、アカデミーに通っている生徒たちは全員『輝石』使いである。


 数年前に発生した、とある事件を機に増えた輝石使いをアカデミーは世界中から集め、普通の勉強だけではなく、輝石の扱い方やモラルを教えている。


『輝石』とは、不思議な力を持つ宝石のような輝きを放つ石であり、大昔から存在していたとされている。


 資質のない人間が持っても普通の石ころと変わらないが、資質のある人間が触れると強く発光して、強いエネルギーを発生させて資質のある人間に『武輝』という力を与える――ということが、一般的に知られており、輝石に関しての本が色々出版されている。


 そんな輝石を扱える人を世界中からかき集めて、使い方やモラルを学ぶ場所――それが『アカデミー』という場所だった。


 アカデミーに入学するための絶対条件は『輝石を扱う資質のある者』で、数年前から毎年何度か国が率先して、輝石に触れさせる適正検査を子供たちに行う。

 

 幸太郎は中学校を卒業する前に開かれたその検査で見事、輝石を扱う資質を持っている者として、アカデミーに入学する権利を与えられたのだった。


 そして、つい昨日の入学式の時に、今年アカデミーに入学したばかりの新入生たちに輝石を配り、幸太郎も輝石を手に入れた。


 ……本当は危ないから止めないといけないけど、輝石の力がどんなものか気になる。

 本当に危なくなったら、自分にできるかわからないけど、止めよう。


 幸太郎は二人の決闘を観戦することに決め、クラスメイトたちの後を追うようにして教室を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る