第四章 波乱の幕開け

第28話

「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」


 二階から轟く聞いているだけでも腹が立ってくるうるさい笑い声の主は、二階から空中で一回転して、多摩場と御使いの間に華麗に降り立った。


 降り立ったのは、不敵な笑みを浮かべている鳳麗華だった。


 麗華がいた二階には、御柴巴、村雨宗太、水月沙菜、刈谷祥がいた。


 自分を見下ろしてくる勝ち誇ったような笑みを浮かべている刈谷に、多摩場は忌々しく思いながらも、因縁のある相手と戦えることに嬉々としているようだった。


「残念でしたわね! あなたの計画はすべてお見通しですわ!」


 ビシッと音が出る勢いで、勝ち誇ったように豊満な胸を張る麗華は御使いを指差した。


 一言も喋らず、フードを目深に被っているため表情は窺えないが、御使いは麗華たちの登場に大して驚いている様子はなかった。


「あなたが御使いですわね! 私たちがここにいる理由を聞きたいですの? 聞きたいですのね?」


 フフンと気分良さそうに鼻を鳴らして、優越感に浸っている麗華。


 御使いは何も言わなかったが、麗華は「仕方がありませんわね!」と、話を進めた。


 強引な麗華に、多摩場は呆れた様子だった。


「今回の事件、はじめからエリザさんたちの目的がわからなかったのですわ!」


 ウザったいほどの仰々しい身振り手振りを加えて、麗華は説明をはじめる。


「多摩場さん! あなたの目的は過去の事件で自信を捕えたティアお姉様、そして刈谷さんへの復讐ですわね!」


「え? あ、ああ、そうだけど……」


「そう、そうなのですわ! エリザさんたちの目的は復讐!」


 何の前触れもなく急に話を振られて、戸惑いつつも多摩場は頷く。彼が頷いたのを見届け、満足気に胸を張って麗華は説明を続ける。


「しかし、回りくどいことにエリザさんたちは鳳グループの施設を襲撃! もちろん、エリザさんたちを捕えた輝動隊を設立したのは鳳グループ、自分たちを捕えた原因と考えてもおかしくないですわ! それに、襲撃を続ければ対策に動き出して復讐する相手であるティアお姉様が現れる――そう考えたから襲撃を続けていたのでしょう!」


 確信を持っている麗華の言葉に、その通りだと言わんばかりに多摩場は微笑む。


「で・す・が! 鳳グループの施設を襲い続けていた目的は、あなた方が最初に襲った、本命であるこの場所――銀行という場所を遠ざけるためだったのですわ!」


 力が入り過ぎてうるさい麗華の声が吹き抜けになっている銀行内に響き渡り、反響した。


「そして、午後に行ったエリザさんの放送は、自分たちが特区から脱獄したと周囲に知らしめることによって、外に人を出歩かせないようにすると同時に、制輝軍を銀行があるセントラルエリアから遠ざけるためでもあったのでしょう! もちろん、今まで脱獄囚がいることを隠していた鳳グループや、教皇庁の信頼を失墜させる理由もあるでしょうが」


 自信満々にそう言って、麗華は御使いに視線を移してふんぞり返る。


「しかし――御使いの狙いは鳳グループ。アカデミー外の企業がわざわざ利用するほど、並の輝石使いでは歯が立たない高いセキュリティに守られていますわ! その銀行内には各企業の何か重要な機密情報が眠っているかもしれない。それを得れば、鳳グループの信用は確実に、完全に失いますわ! それを御使いは狙っていたのでしょう!」


 何も言わない御使いに大して麗華は勝ち誇ったような笑みを浮かべるが――御使いは特に何も動じることはなかった。


「この聡明な私にはかかれば、練りに練って凝った策など無意味! オーッホッホッホッホッホッ!」


「夕方の放送でエリザの姐御、金を要求してたっけ――お前、その時に気づいたんだろ、俺たちの目的が銀行だって……」


 自信満々に胸を張って高笑いをする麗華だが――呆れた様子で放った多摩場の一言で図星を突かれ、麗華の高笑いは急停止する。


 あからさま過ぎる麗華の反応に、多摩場はやれやれと言わんばかりにため息を漏らした。


「まあ、俺たちならいつだって銀行を襲えたのに、今更金を要求するなんておかしいもんな……姐御、肝心なところで……まあいいか、そこがかわいいところだし」


 わざわざ麗華たちにヒントを与えたエリザのことを恨みがましく思いながらも、そんなウッカリなところも彼女の長所であると考えて、多摩場は気にしないことにした。


 そして、さっきまでぶつかり合う寸前の空気になっていた御使いに、多摩場は気まずそうに視線を向けた。


「せっかく立てたアンタの計画が台無しになったみたいだけど……どうする?」


「一時休戦だ」


 フードを目深に被っていて表情が窺えない謎の人物である御使いは、麗華に自身の計画が見破られてもまったく動じていなかった。


 計画を見破られた動揺を悟られないために、強がっている――わけではなさそうな御使いの態度に、多摩場は若干の薄気味悪さを感じながらも、取り敢えずは一時休戦の提案を呑んで、心強い味方が増えたことに喜んだ。


「よーし、それじゃあ、お前ら! 準備はいいか?」


 多摩場の言葉を合図に、彼の取り巻きである脱獄囚は武輝を構えて戦闘準備を整える。


 巴と村雨、そして、沙菜は二階から飛び降りて一階に降り立った。


 巴は十文字槍、村雨は大太刀、沙菜は杖――それぞれの武輝を手にしている三人は、静かに闘志を漲らせた。


 歪な形をしたブローチについている輝石を、光とともに麗華は自身の武輝であるレイピアに変化させ、明らかな敵意を自分に向けている御使いに切先を突きつけた。


「私は沙菜さんとともに、御使いと戦いますわ」


「え、ええ? は、はい、わかりました」


 突然の指名に戸惑いながらも、沙菜は頷いて自身の武輝である杖をきつく握り締める。


 二人を相手に、御使いはフワリと宙に浮いて、自身の周囲に小さな光球を生み出した。


「それなら、私と宗太君は、君たちの邪魔をさせないようにするわ」


「わかりました。――刈谷! 多摩場は任せたぞ!」


 巴は村雨とともに多摩場の仲間の相手をすることに決める。


 多摩場の根性を叩き直したいと思いつつも、多摩場は刈谷に任せて巴とともに戦うことに決める村雨。


「そんじゃ、はじめっか――なあ、刈谷!」


「来いよ! いい加減ケリをつけてやるよ! 多摩場!」


 武輝である鉤爪を両手に装着している多摩場は、刈谷のいる二階まで一気に跳躍した。


 刈谷は武輝であるナイフと、特殊警棒の二刀流で多摩場を迎え撃つ。


 多摩場の跳躍するのを合図に――銀行内で大きな戦いがはじまった。


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