エピローグ
「……これ風紀委員の宣伝用ポスター、メイド服バージョンだ……売ったらいくらになるかな」
「あ、あの……手が止まって、ます」
「――あ、ごめんね、サラサちゃん」
放課後――サラサと幸太郎は二日前の騒動で制輝軍が証拠集めをするために荒らした風紀委員本部内の片付けをしていた。
片付けをはじめて一時間――ようやく終わりが見えてきてゆとりができたのか、幸太郎は集中力が切れて年下のサラサに注意をされた。
集中力が切れた幸太郎は片付けをしながら、騒動が終わってからのことを回想していた。
――あの騒動から二日が過ぎて、すっかりアカデミーに平穏が戻った。
あの後すぐに進藤君は制輝軍に連行されて、腕を怪我した僕は急車で病院に向かった。
腕の怪我は浅く、傷跡も残らないので問題ないとのことだったけど、念のために一日入院してしまった。
その間に進藤君は制輝軍と風紀委員と共同して行った事情聴取を受けていた。
進藤君は今回の騒動は僕と風紀委員の復讐のためにやったと言った。
復讐するために『御使い』って名乗った協力者がいることも説明した。
御使いって人については何もわからなくて、アンプリファイアを運んだトラックの運転手の人はお金で雇われただけで何も知らないようだった。
スッキリしない終わり方だったけど、取り敢えずは今回の騒動は終わった。
貴原君はアンプリファイアを使った影響で意識不明らしいけど、経過は良好ですぐにでも目を覚ますとのことだった。
貴原君は、進藤君と『御使い』に利用されたので一応被害者――だけど、偽の情報を流して制輝軍と風紀委員を騙したので、罪に問われることになった。
でも、セラさんが制輝軍と交渉して、今回の件の手柄を制輝軍に渡すことで、貴原君は無罪になった。
無罪にしたので、返しても返しきれない恩が風紀委員にある貴原君を、セラさんと御柴さんは退院したら色々と利用するって、邪悪に笑っていながら言ってた。
進藤君は事情聴取の後、特区送りにされた。
特区送りにされて、この間までヒーローだった進藤君の評判は一気に落ちた。
――でも、演技だとしても進藤君はあの時勇気を出して僕を助けたから、きっとその姿を見た人は、まだ進藤君に与えられた勇気を持っている――と思う。
御使いのことで解決していないことも、進藤君のことで何となくスッキリしないこともあるけど、取り敢えずは貴原君が無事で何よりだった。
回想を終えた幸太郎は片付けの手を止めてボーっとしていた。
進藤のことに関して、まだスッキリしていないことがあったが――
自分への怨嗟の言葉を吐き続けた進藤だが、一瞬だけ自分がよく知る進藤新の顔になったことを思い出して、幸太郎は安堵したように微笑んだ。
「サラサちゃんもこういう服着てみる?」
「嫌、です」
メイド服を着ている麗華とセラが写っている風紀委員宣伝用のポスターを見てサラサに提案するが、サラサは威圧感のある表情で拒否した。
最近、幸太郎はサラサの性格がわかってきた。
サラサはかなりの恥ずかしがり屋であり、慣れない相手と会話をする時は、緊張で顔を強張らせて、ドレイクに似た強面になることを幸太郎は理解した。
最近、一言二言サラサと会話できるようになって、幸太郎はようやくサラサ・デュールという少女が理解してきたので、さらに交流を深めようと話しかけようとすると――
「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」
近所迷惑になるくらいうるさく、バカみたいな高笑いが本部の外から響き渡った。
徐々にその声が風紀委員本部に近づき、扉の前まで来た瞬間――
勢いよく扉が開き、気分良く高笑いをしながら従者のドレイクを連れた鳳麗華が現れた。
「オーッホッホッホッホッホッホッホッ! ごきげんよう、七瀬さん! お久しぶりですわね! 相変わらず凡俗凡庸な普通で記憶に残らない顔をしていますわね!」
幸太郎をこき下ろして挨拶をする麗華を、幸太郎はボーっと眺めていた。
挨拶を返すことなく自分を見つめている幸太郎に、麗華は不快に思いながらも「フフン」と得意気に鼻を鳴らして気分が良さそうだった。
「久しぶりに会ったことで、ようやくこの私の美しさと気品溢れるオーラに気づいて見惚れてしまっているようですわね! 今更気づいて不愉快ですが、当然の反応なので仕方がありませんわ! オーッホッホッホッホッホッホッホ!」
大きな胸を張って気分良さそうに高笑いをしながら、麗華は幸太郎に近づく。
バカみたいな笑い声を上げて幸太郎をこき下ろしながらも、幸太郎に近づいて対面した麗華の表情は若干緊張しているようだった。
「ドレイクから聞きましたが私に何か言いたいことがあるのでしょう? 私は忙しいのでさっさと言いたいことを言ってしまいなさい!」
一拍子間を置いて――ゆっくりと幸太郎は積年の想いを込めて言葉を口に出す。
「鳳さん、太ったね」
久しぶりに会った麗華に向けて、幸太郎は風紀委員の宣伝用ポスターに写っている麗華と今の麗華を見比べて、思ったことをストレートに言い放った。
麗華が風紀委員本部に入って、久しぶりに彼女の姿を見てから思っていたことを幸太郎は淡々と述べた。
アカデミーに退学してすぐに、鳳グル―プが自分に転校先を用意してくれたことに対してお礼を述べるよりも先に。
一瞬の沈黙の後――
高等部校舎中に響き渡る麗華の怒声が響き渡った。
―――― 続く ――――
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