千四百二十七話 魔皇メイジナの玉佩とハルホンクの黒寿草

 現実の視界に戻った。巨大な魔皇メイジナの神像が煌めきを強める。


「『……』」

 

 微かな魔力の揺らぎがある。

 魔皇メイジナは神像としてまだ生きている? と考えた瞬間――。

 魔皇メイジナの神像から雷鳴が響き、驚いた。

 

 稲妻のような魔力が向かった先は悪神ギュラゼルバンを倒した辺りの黒い葉が茂る辺りで、黒い葉の表層部は逃げるように散る。

 と極めて薄い珠色の魔力を発している黒い葉と茎に絡められている魔皇メイジナの玉佩があった。

 

 旧神の一部が執拗に悪神ギュラゼルバンに絡んでいた理由は、契約の続きで悪神ギュラゼルバンを倒し封じようとしていた旧神シュバス=バッカスが主に動いていたのか?


「ご主人様、今神像から稲妻に何かメッセージを得たのですか」

「おう、魔皇メイジナの過去の記憶を体感した。六浄独鈷コソタクマヤタク専用の<六浄精魂炎>も得られた、魔皇メイジナは波動の防御層と衝撃波を展開させていたな」


 見ていて清浄化の作用もありそうな印象なほど綺麗な波動だった。

 だからこそ、悪神ギュラゼルバンにはキツイ一撃だったに違いない。

 アドモスは、


「おぉ、しかし、閣下は武器を返却してしまった」

「あぁ、いいさ」


 すると、ヴィーネが、


「ご主人様、あの黒い葉が薄まったところにアイテムがあります?」

「え、あ、本当……魔皇メイジナの玉佩でしょうか。悪神ギュラゼルバンが落とした……あ、旧神が奪った?」


 とヴィーネとキサラが語る。

 頷いた。


「あぁ、そうだろう、魔皇メイジナの玉佩だ」

「ウォン! 主、旧神の黒い植物たちは悪神ギュラゼルバンに対して、執拗に攻撃を繰り返していたが、魔皇メイジナの記憶から、その理由が分かったのか?」

「分かった。魔皇メイジナと旧神たちの一部には、悪神ギュラゼルバンを倒すための契約があったようだ」

「ウォン、だからか……」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは黒い葉と黒い茎が生えまくるところに視線を向けた。

 俺は頷きながら魔皇メイジナの神像に触れていた手を離す。


 と、その左手の掌から自然と半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードが出て、


『主、我も今の記憶は見ていた』

『わたしも見ていましたよ』

『はい、使者様の様々な感情が伝わってきました』


 悪神ギュラゼルバンは


『ヘルメとグィヴァもか、ハルホンクもかな』

「ングゥゥィィ、シッコクノピカピカダマ、ハルホンク、喰ウ、ゾォイ」

「それは〝グィリーフィル漆黒の魔炎晶〟のことか、ハルホンクなら食べても大丈夫と思うが、鑑定後だな、それに皆の武器に宿らせるほうが火力アップが期待できる」

「……カチカチカチ」


 肩の竜頭装甲ハルホンクはわざと口を閉じて開くをやって上顎と下顎の歯牙から音を鳴らしてくる。


「旧神の墓場からたらふく蛍光色の魔力を得ただろう? 俺は<黒寿ノ深智>を得たし、蛍光色の魔力を活かした新衣装も先ほど作っていたが、黒寿草自体も吐き出せる?」

「ングゥゥィィ、吐き出せるゾォイ――」


 と肩の竜頭装甲ハルホンクは口から黒寿草を吐いた。


「おぉ、魔力回復ポーション代わりにもなるし、クナに研究素材として渡せるか」

「黒寿草が口から!」

「悪神ギュラゼルバンとの戦闘中にご主人様は、地面から噴出した虹色の液体に突っ込んでいましたが……あの時に獲得を?」

「おう、その時だ。ハルホンクとシュレに、黒寿草の血と呼べるかもしれない旧神エフナドの虹色の液体をたらふく取り込ませた。そうしたら今見た魔皇メイジナの過去の映像のように……旧神たちの過去の記憶を共有できたんだが……」

「魔皇メイジナの記憶も気になりますが、旧神たちの記憶の共有とは、恐怖的な?」


 ヴィーネは未知の文化が好きだし、物語も結構好きなんだよな。

 顔色でかなり興味を持っていると分かる。


「あぁ、一人の僧侶が惑星どころか、銀河、宇宙を滅ぼしてしまうような、とてつもない記憶を体感した。僧侶が、黒い書『無限の旧神と魔神と神界と宇宙の塵の秘奥書』の分厚い書物の頁を捲って呪文と事柄を読んで、宇宙魔術『ザホィク・トアゥン・エフナド』! 『黒い塵』から我と、我らを救い給え――』と呪文を唱えると、僧侶は眉間に黒い点が発生し、黒い霧、黒い塵が宇宙を覆うほどの旧神を召喚してしまう。で、星々が破壊、すべてが黒い霧に闇に覆われたところで、数十億年の時間が流れたような感覚を得た。そして、最後は脳髄クラゲのようなモノも登場し、そこで、脳髄、空飛ぶクラゲたちが、俺たちに語りかけてきたんだ」


 あの時、無数の脳髄たち、空飛ぶクラゲたちが、俺たちを見て、


『『『『驚きだ、かの者は、旧神エフナドの知見を有しているとはいえ、我らの記憶の一部を共有した……恐怖を己の糧にできる超越者でもある』』』』

『『『『かの者は、旧神との縁は多い故でもある……アウロンゾとギリメカラか……』』』

『『『我らと近い者と深淵ノ星を心に持つお陰でもあるだろう』』』』

『ふむ、かの者よ……これも縁ぞ、心に<黒寿ノ深智>を授けよう』

『『『近き者よ、お前にはこれが合う<旧神ノ暁闇>を得るがいい』』』

「――ングゥゥィィ、ウマカッチャン、ゾォイ!!」

 

「となって、かなりのホラーだったが、お陰で、シュレは悪神ギュラゼルバン相手に使った<旧神ノ暁闇>という光系の衝撃波を繰り出せるようになった」

「ングゥゥィィ」

「「「「おぉ」」」」

「……なんという濃密な体験を……」

「……それは、六浄武器を回収している間、悪神ギュラゼルバンとの本格的に戦う直前ですよね」


 ヴィーネとキサラは心配して、少し俺を責めるような視線となる。


 が、肩の竜頭装甲ハルホンクとシュレゴス・ロードが喰うためだからな。

 更に言えば、旧神エフナドの黒寿草はいつも喰っていたし……。

 肌にも身に着けていたし、かなりお世話になった過去がある。


「おう、心配をかけてすまんが、いつものことだ、で許してくれ」


 と謝るとヴィーネとキサラは母性ある表情を浮かべてから、


「……ふふ、許すだなんて、無事で良かった、それだけです」

「はい、シュウヤ様の今の笑顔を見るだけで幸せを得られます」

「……あ、でも、旧神たち・・ですよ? ご主人様、本当に、大丈夫なのですね?」


 ヴィーネは真剣な表情を浮かべて俺を凝視しつつ顔を寄せる。

 キサラも直ぐに蒼い目で俺を凝視、ヴィーネの銀色の虹彩を見ていると悪戯心が、


「あぁ、実は……大丈夫ではない。唇にキスされたい病となったかも知れない」


 と、わざとらしく唇を窄める。


「うふふ」

「ふふ――」


 ヴィーネは俺の心を読んでいたように素早く俺の唇にチュッと唇を当ててキスをしてくれた。さすがのヴィーネだ――と、その唇を、上唇と下唇で挟んで自らの唇を押し込める。ヴィーネの吐息と唾と<血魔力>を得ながら舌で前歯と歯茎をなぞるようなキスを重ねてお返しの<血魔力>を送る。直ぐ体が震えたヴィーネは熱い吐息を吐きながら唇を引くと体が弛緩した。


 腰に手を回して強くヴィーネを抱きしめた――。

 

「あん……ご主人様……」


 と、ヴィーネの長い耳が頬や後頭部に当たって擽ったいが、首筋と耳にもキスをしてくれたヴィーネから愛しさと温もりを感じて、非常に嬉しくなった。


 また、ぎゅっと抱く。

 ヴィーネは何も言わずに俺の背に手を回して抱きしめを強くしてきた。

 ヴィーネの温もりと心臓の鼓動を感じて癒やされた。

 生きているって大事だよな、そのヴィーネに『いつもありがとう』と言うように背中を撫でてあげていくと、


「シュウヤ様――」


 とキサラがヴィーネの肩の上に己の顎を乗せるように頭部を突き出しつつ唇を窄めてきた。


「あはは」

「ふふ」


 キサラも自分の行動が可笑しくて直ぐに笑ってから頭部を引いていた。

 直ぐにヴィーネを離して、キサラの唇を奪うように抱きしめてあげた。


「ンン」

「ウォン! 友よ、ここは旧神の墓場だというのに主のいつものチュッチュタイムだ。我らは主たちの隙を埋めるように守るぞ」

「ンン、にゃ~」


 相棒は俺の足に肉球パンチを数回繰り出してから尻尾で、魔皇獣咆ケーゼンベルスに返事をするように魔皇獣咆ケーゼンベルスの頭部を尻尾で叩いている。

 と、その場でスコ座り、腹を舐め出した。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスは、


「友よ、ここは旧神の墓場で知能を有した群生旧神の間でもあり、旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿でもあるのだぞ……」


 と発言すると黒豹ロロは歯牙を見せるように口を拡げ「にゃご」と鳴いている。ゴロゴロ音も喉から響かせているが、獣の声にも聞こえる。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは少しびびったのか尻尾を下げて、香箱スタイルで休み出した。少ししゅんとしたしおらしい態度となる。意外な魔皇獣咆ケーゼンベルスの態度は狼ってよりは犬にしか見えないが、それがまた可愛い。


 ゼメタスとアドモスは無言で待機、分かっている。

 少し視線を向けると、俺の視線に合わせて、ぼあぼあの炎のような魔力の放出で応えていたから無言ではないか。


 ヴィーネは、肩の竜頭装甲ハルホンクの口に生えた黒寿草を見て、


「黒寿草を造れるようになったと分かりますが、触っても大丈夫なのですよね……」

「大丈夫だと思う、俺が転生した頃は地下で黒寿草を食べまくった。体に身に着けて服に様々なことに利用したからな」

「あぁ、思い出しました、では――」


 と黒い葉を一枚取った目元に近づける。

 銀色の瞳でハルホンク産のnewな黒寿草を凝視。

 葉脈の不思議な虹色の魔力の流れを見ている。

 ジロジロと綺麗な銀色の虹彩の動きを見ているだけで嬉しくなるのはヴィーネの魅力度が高すぎるからだろう。


 キサラも肩の竜頭装甲ハルホンクの黒寿草を見て、


「シュウヤ様とハルちゃん、わたしも一枚頂きます」

「おう」

「ングゥゥィィ」


 ハルホンクの返事に微笑むキサラは頷いて黒い葉を取る。

 キサラも蒼い目に近づけてジロリと黒寿草を見ては小鼻に近づけて匂いを嗅いでいた。


「当然ですが、周囲の旧神たちが棲まう黒い葉の黒寿草とは少し異なる印象です」

「あぁ、そうだろうな、さすがに旧神そのものを喰らったわけではないから名前はたぶんハルホンクの黒寿草ってところだろう――」


 と言いながら肩の竜頭装甲ハルホンクの黒寿草を掴んで戦闘型デバイスに仕舞う。


 new:ハルホンクの黒寿草×1


「ふふ、本当です」

「ふふ、はい、ハルちゃんの黒寿草かもしれないとは思いましたが」


 ヴィーネの言葉に思わず笑顔をとなる。

 すると、足下に黒豹ロロがきた。


「ンン、にゃ~」


 と鳴いた黒豹ロロは俺の右足のふくらはぎと脛に頭部と体を寄せて、甲の上に片方の前足を乗せて上目遣いを寄越す。

 つぶらな黒い瞳が可愛い。


 俺が「黒寿草だな?」と聞くと「にゃ」とサイレントにゃを噛ます、


「ほしいなら元気な声で鳴いてみようか」


 と言うと


「にゃ、にゃおお~」


 と鳴いてくれた。可愛い、そして、キサラとヴィーネに頭部を向ける。

 黒い瞳が見つめるのはハルホンクの黒寿草。

 キサラは「ロロ様」と言って、しゃがんで黒豹ロロの少し桃色掛かった鼻に黒寿草を近づけて匂いを嗅がせてあげた。

 

 黒豹ロロさんは鼻をふがふがと動かし、瞳の大きさを少し変化させながら黒寿草の縁際と中央の匂いを嗅ぎまくると、舌でペロッとキサラの手と黒寿草を舐めていた。


「ふふ、ロロ様……あ、シュウヤ様、あげても?」

「おう、猫草のエンバクやエノコログサとは違うと思うが、食べたいんだと思う」

「ングゥゥィィ、シンジュウ、クロジュタベテ、イイゾォイ」

「らしいぞ」

「にゃ~」

「分かりました」


 とキサラは持っていた黒寿草を黒豹ロロに差し出した。

 黒豹ロロは「ンン」と喉声を発しながらキサラの細い手と指を丁寧に舐めていくと、黒寿草を優しく咥える。

 そのまま黒寿草を口に咥えながらトコトコと歩いて何もない地面の上に運ぶ。

 と、魔皇獣咆ケーゼンベルスも寄った。

黒豹ロロは「にゃごぉ」と『これはわたしのものにゃお』と言うように鳴き声を発して黒寿草を咥え直すと、また少し距離を取った。


 この辺りは猫らしい動きだな。

 黒い葉と黒い茎の群れが蠢いているところに近付く黒豹ロロさん。

 直ぐに黒豹ロロは触手を数本出した。

 すると直ぐに、旧神側の黒い葉と黒い茎の群れは相棒から離れていく。

 旧神たちは黒豹ロロが怖い? 神界側が強い印象があるんだろう。


 黒豹ロロは、洞窟の地面が新しく露出したところに黒寿草の葉を置く。

 そこで黒寿草の匂いを改めて嗅いでからガブッと黒寿草を食べ始めた。

 匂いを嗅ぐ辺りは野性味がある、と、顔を横に傾けて奥歯で何回も黒寿草を噛んでいく。やがて口の周りが蛍光色となると、黒寿草の葉の破片が顔にくっついてしまった。それを取ろうと両前足で己の顔を描くように耳を押さえるような『ごめんちゃい』みたいなポーズを繰り返し、黒寿草の葉の欠片を取っていた。

 面白い仕種で猫らしく、可愛い。と、そんな黒豹ロロの体から橙色の魔力が増えたように〝アメロロの猫魔服〟が出現していた。

 その色合いのグラデーションと魔力層が増えていて、煌びやかだ。

 黒寿草を食べることで、相棒は少し強まったか。


 そして、旧神たちは『神界セウロスの力は我らは好まない』と語っていたが、まだ〝暫しの猶予〟の範囲内ってことだろう。


 旧神エフナドに旧神ギリメカラに旧神アウロンゾが他の旧神たちを牽制しているのかも知れないな。

 更に先ほどの魔皇メイジナの記憶に登場したシュバス=バッカスもいるのなら俺たち側のはずだ。

 旧神シュバス=バッカスは、悪神ギュラゼルバンを倒すか封印する契約だったこともあるから、悪神ギュラゼルバンを追い回していたんだろうとは思うが、倒したのは俺だ。


 あ、魔皇メイジナは神像になってしまったが魔皇メイジナの契約も正確には履行されているわけではない? 魔皇メイジナの魂はまだ無事だから、俺に武器を送り、悪神ギュラゼルバンに対抗を示した? だからこそ過去の記憶を見せたってことだろうか。と、考えながら魔皇メイジナの神像を見やる。

 ……まだ反応はないか。

 魔皇メイジナの玉佩を入手し魔力を込めたら何かが起きるかな。


 と、考えたところで、悪神ギュラゼルバン戦の序盤最大の功労者といえる魔皇獣咆ケーゼンベルスを見て、


「魔皇獣咆ケーゼンベルスも魔力回復をかねて、ハルちゃん製の黒寿草を食べるか?」

「ウォォン! ウォン! 友は分かっている! 食べるぞ!」


 と尻尾が激しく揺れながら吼えて応えてくれた。

 その魔皇獣咆ケーゼンベルスに、肩の竜頭装甲ハルホンクに生えているような黒寿草を数枚取って魔皇獣咆ケーゼンベルスに分けてあげた。


 黒寿草を食べていく魔皇獣咆ケーゼンベルス。

 口周りが蛍光色の魔力に染まるが、牙が、てかてかして少し怖い。

 昔、『のうみそ~』とか叫ぶ『バタリアン』ってゾンビ映画があったことを思い出す。そして、口に蛍光色に光る吸血鬼ヴァンパイアのような牙を嵌める玩具があったことも思い出した。


 と、魔皇獣咆ケーゼンベルスも毛先から白みを帯びた魔力を発していく。

 黒寿草を得て少し強くなったようだ。


 そして、少しまったり空気となった。

 ヴィーネとキサラとゼメタスとアドモスを見てから、


「魔皇メイジナの玉佩を取ってくる」

「はい」

「わたしもいきます」


 無数の旧神たちがいるであろう黒寿草などが茂る場所に向かう。

 キサラも横からきた。直ぐにヴィーネも付いてくるが大丈夫だろう。


 攻撃してきたら二人を連れて直ぐ逃げよう。


 と、旧神たちの黒い葉と黒い茎の群れの一部が動く。

 黒い葉と茎は魔皇メイジナの玉佩を持ち上げると、俺の目の前まで運んできた。


「あ……」

「驚きました」


 黒い葉と黒い茎はクイクイッと動く、『魔皇メイジナの玉佩を受け取れ』という意味だとは分かる。皆は俺を見て、


「旧神たちは、ご主人様に魔皇メイジナの玉佩を取れと言っているようですね」


 ヴィーネの言葉に頷きつつ、魔皇メイジナの玉佩を受け取った。

 すると、魔皇メイジナの玉佩に魔力を吸われた。


 ほぼ同時に巨大な魔皇メイジナの神像から「『そなたが、先ほど、我に……』」と神意力を含んだ言葉が響き渡る。


「ウォォォン!」

「にゃ、にゃ、にゃお~」


 と、魔皇獣咆ケーゼンベルスと黒豹ロロがびっくりして、少し体を大きくさせたが、巨大な魔皇メイジナの神像は沈黙。魔力も少し減退した。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスと黒豹ロロは直ぐに体を小さくしていた。

 ヴィーネとキサラは、巨大な魔皇メイジナの神像を見上げている。


「魔皇メイジナの魂は無事……」

「ご主人様、その魔皇メイジナの玉佩が反応を?」

「あぁ、魔力を吸われた」


 魔皇メイジナの玉佩に魔力を込めたら何かが起きるかな。

 すると、ヴィーネが、


「魔皇メイジナと、関係が深そうな旧神エフナドの虹色の液体に突っ込まれた時に何か取り決めを得たのですか?」


 と聞いてきた。


「旧神エフナドと魔皇メイジナは関係がない。知能を有した群生旧神の間だから、深くいえば関係はあるとは思うが、メイジナの過去の記憶には、旧神シュバス=バッカスが登場していたんだ。魔皇メイジナは、悪神ギュラゼルバンとの争いに〝旧神の石箱〟という名のアイテムを利用した。魔界騎士グレナダなどの部下と事前に決められていた様子だったな、で、その〝旧神の石箱〟から出た黒い霧と黒い葉の群れに包まれた悪神ギュラゼルバンと六眼バーテと魔皇メイジナと魔界騎士グレナダは、ここに転移してきた。そして、魔皇メイジナは、魔皇メイジナの玉佩を掲げて旧神たちに『――我はここにいる、が、約定を果たしてもらうぞ、旧神ども!』と宣言をした。旧神側は、黒い葉と黒い茎の中から桃色の魔力を帯びた女性がにゅるりと登場し、『ふふ、このシュバス=バッカスちゃんが、ちゃぁんと、聞き遂げてあげたわ、でも、悪神に魔皇と六眼魔族だけなの?』と発言していた。そのシュバス=バッカスとの契約だったのか、魔皇メイジナは絡まれて、巨大な神像に変化を遂げたが、悪神ギュラゼルバンは、まだ健在、シュバス=バッカスは襲い掛かったんだ。悪神ギュラゼルバンは、<魔神ノ半霊獄>――<悪神・神域暴刹破>を使用し、旧神シュバス=バッカスを封じ、魔皇メイジナの玉佩を奪って六眼バーテと魔界騎士グレナダを引き連れて、己の懐から、転移用クリスタルを出して、その転移用クリスタルを使用し、その場から離脱した、その結果が、ここだ」

「なるほど、魔皇メイジナは失敗を……そのような理由が……」


 ヴィーネの言葉に頷いて、


「あぁ、魔皇メイジナは悪神ギュラゼルバンをここに誘導し、己を犠牲にしてでも【旧神の墓場】を利用して悪神ギュラゼルバンを倒そうと狙ったが、失敗した、その結果だ」


 と発言、キサラは、


「では、悪神ギュラゼルバンは取り逃がした魔皇メイジナの装備が目当てで、【レン・サキナガの峰閣砦】やバーヴァイ地方への侵略は二の次だった?」


 頷いた。

 だが、魔傭兵団の仕込みに【レン・サキナガの峰閣砦】に忍ばせた大眷属たちに【古バーヴァイ族の集落跡】への派兵からして、


「ギュラゼルバン最後の大眷属魔虚大鷹クヒランが俺に捧げた、戦神ソーンと戦神ササナミの遺跡の地図などからして、メイジナ大平原とバーヴァイ地方のすべてを狙っていたと思うが、たしかに優先はここか」

「はい、因縁がある悪神ギュラゼルバンは旧神の擬戦衣と魔皇メイジナの玉佩を持っていた。更に、この知能を有した群生旧神の間、旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿、【旧神の墓場】とも呼ばれていた、ここの遺跡の利用、旧神たちを捕まえようとしたのかもしれない」


 ヴィーネの言葉に皆が頷いた。

 ありえる。


「巨大な骨の鰐、骨鰐魔神ベマドーラーに、漆黒の炎を使ったクリスタルで転移も行えていた。この【旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿】、【旧神の墓場】などと呼ばれている場所に向かう移動経路もやけに広かった。だから大眷属たちと共に、骨鰐魔神ベマドーラーに乗ってここに来るつもりだったんだろう」

「……あ、なるほど……納得です」

「はい、外の骨鰐、骨鰐魔神ベマドーラー……それにしても用意周到な悪神ギュラゼルバン……そんな狡猾で巨大な敵とわたしたちは戦っていたと思うと、恐怖を覚えます……」


 キサラの言葉にヴィーネと俺は頷いた。

 ゼメタスとアドモスは、


「悪神ギュラゼルバンは【旧神の墓場】と魔皇メイジナの神像の理由、すべてが納得、承知しましたぞ」

「はい、様々に歴史がある……面白いと言ったら不謹慎かも知れませぬが……」

「アドモス、そんなことはないさ」


 古代遺跡はロマンだからな。


「はい、秘められた歴史を知る、古代遺跡は面白いです」


 ヴィーネも俺と同じことを考えていた。

 と、魔皇獣咆ケーゼンベルスと黒豹ロロを見る。

 

 黒寿草を食べ終わり、俺の足下でごろ寝をしながら背を預けながら互いの体の毛を舐め合って毛繕い中、癒やされる。この一角だけを写真に撮れば動物愛好家写真家としてデビューできそうな勢いで平和な空気となる、優しい世界で、のほほんだ。

 さて、黙って聞いていたシュレに、


「旧神たちの中には、シュバス=バッカスもいるんだろう?」

「うむ、いる」

「もし交渉となったら頼めるか」

「理解、我はシュバス=バッカスと知見を共有したことがあるから、そう言うと思っていた」

「おう、シュバス=バッカスと魔皇メイジナとの契約解除が可能か交渉だ」

「うむ、悪神ギュラゼルバンの封じ込めの失敗はシュバス=バッカスにも責任がある」


 シュレゴス・ロードがそう語ると皆が頷いた。

 皆を見て、


「では、この魔皇メイジナの玉佩に魔力を込める――」

「「はい」」

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