千三百三話 血魔剣と光魔ルシヴァルの血の効能


 俺の近くに浮遊してきた常闇の水精霊ヘルメが、


「閣下、<バーヴァイの魔刃>は中々の威力ですね~」


 と言いながら指先から水をピュッと前方の魔刃が貫いた壁のほうに飛ばしていた。


「おう」


 砦の壁を貫通した<バーヴァイの魔刃>は、かなりの威力。

 魔刃から血の炎と漆黒の炎が周囲に飛び散っている

 その魔刃から相反した魔力が鬩ぎ合うように火花が散っていた。

 が融合しているところがあるようにも見える。


 血の炎と漆黒の炎の相反と融合が魔刃のエネルギー源として威力が上昇しているかも知れない。

 光魔ルシヴァルの<血魔力>には光属性が含まれているし、<バーヴァイの魔刃>の本質は闇属性の魔力だからな。

 魔神バーヴァイ様の〝黒衣の王〟装備の一つ〝煉霊攝の黒衣〟には、濃厚な闇属性と炎属性が含まれていそうだ。


 魔刃が貫いた周囲の壁には散弾の弾丸が貫通したような複数の穴が発生していた。

 そして、分厚い壁を貫いて地面を穿っている<バーヴァイの魔刃>は重そうだ。


「ご主人様、〝煉霊攝の黒衣〟から魔線が血管のように血魔剣に繋がってます」

「あぁ」

「「おぉ」」


 とヴィーネの指摘に皆が一斉に俺を凝視。

 刮目せよ、とか叫びつつポージングは取らない。

 

 ――俺も自分の体を見るように〝煉霊攝の黒衣〟のローブを見ていく。

 ゲージ幅は厚いから結構頑丈と分かる。

 二の腕のベルトと腰ベルト紐と金具と、右手に持つ血魔剣は光と闇の炎のような魔力が魔線として繋がっていた。

 

 俺の基礎、光魔セイヴァルトと成った時から存在している<光闇こうあん奔流ほんりゅう>の意味がありそうだ。


 ※光闇の奔流※

 ※光と闇の属性を魂に持ち、その魂の激流を表した物。光と闇の魔法が使用可能となる。光属性と闇属性の攻撃を吸収&無効化、精神耐性微上昇、状態異常耐性微上昇。しかし、光と闇の精神性に影響されやすくなる※


「閣下の繰り出した魔刃の周囲と、閣下の血魔剣と〝煉霊攝の黒衣〟の周囲では精霊ちゃんたちが騒いでいます」


 と、常闇の水精霊ヘルメが指摘。


「闇属性と光属性の精霊かな、他にも?」

「はい、主に闇と光の無数の精霊ちゃん、血精霊ルッシーちゃん、雷精霊ピルシィンちゃんに、風精霊パパチョッチョちゃんに、火精霊イルネスちゃんと、炎精霊バオルーちゃんと、ラッパグリグリちゃんもいます」


 パパチョッチョとラッパグリグリが面白い。

 

「はは、面白い名の精霊たちだ。火と炎の違いがあるのかな、そして、パパチョッチョとラッパグリグリとは面白い名だ」

「ふふ、はい、火と炎の違いは、炎のほうが火よりも強いことが多い。でも、大半は火精霊、火の精霊と呼ばれることが多いと思います。そして、炎神エンフリートが神界セウロス最強の火の眷属の頂点と呼ばれています」


 グィヴァにも視線を向けると頷いていた。


「なるほど」

「シュウヤ様、<バーヴァイの魔刃>は剣や刀系統の武器からのみ魔刃を繰り出せるスキルなのですか?」


 キサラの言葉に頷いた。

 血魔剣を上げながら、


「その通り、剣や刀、確かめないと分からないが、槍系統からは無理だろう」

「そうでしたか、はい」


 少し残念そうなニュアンスだ。

 キサラも匕首の短剣使いでもあるが、主力は、やはりダモアヌンの魔槍を扱う槍使いだよなぁ。


 そのキサラを含めて、圧倒的な雰囲気を醸し出している血魔剣を注目している皆に向け、


「血魔剣と<バーヴァイの魔刃>は相性はいいらしい。魔刃に<血魔力>が乗って威力が加算されているようだ。単に、光魔ルシヴァルの闇側の血が触媒となっただけかも知れないが」

「「「「おぉ」」」」


 興奮したナロミヴァスたちが拍手している。

 <血魔力>の炎はかなり好きのようだ。

 やはり闇側だな、面白い。

 ナロミヴァスと隻眼の流觴りゅうしょうの神狩手アポルアの拍手の仕方が、また渋い。


 シャルドネ的と言えばそれまでだが、何気ない所作が、もう貴族だ。


「ん、魔神バーヴァイ様は闇属性が濃厚だから、光属性は合わなさそうだけど、相性がいいこともあるのは不思議」

「魔神バーヴァイ様の加護のお陰でしょうか」

「ん、あ、なるほど……」

「はい、魔神バーヴァイ様は、シュウヤ様が水神アクレシス様や光神ルロディス様に正義の神シャファにも愛されていることは、分かっていたはずです」

「……ですね、だからこそ魔神バーヴァイ様は、己の力を奪った者たちに制裁を加えてほしいと、シュウヤ様に願った」

「古の魔神バーヴァイ様は実体を失い、祭壇に残っていた魔力も弱まってこともあり、赤霊ベゲドアード団など無数の魔族たちに、能力を奪われ続けて、かなり悔しがっていましたからね」

「はい、魔神バーヴァイ様は、シュウヤ様の心に、光と闇の黄金比バランス光と闇ダモアヌン運び手ブリンガーと正義を見出したのでしょう」

「「「……」」」

「たしかに、光と闇の運び手です、そして、正義」


 キサラの言葉に皆が納得したように頷く。


「ですね、シュウヤ様に大切な秘宝〝炎幻の四腕〟を、サーマリア王国にいるだろう魔神レンブラント様本人か、その血筋の者へと渡してくれと、託したことも頷けます」

「ん、納得」

「はい、そして、三腕のバリィアン族のパセフティにも奪われていた」

「……」


 そのバリィアン族のラムラントはヴィーネの言葉を聞いて肩を揺らし少しキョドる。


 大丈夫だってのに。

 パセフティが、俺の<黒衣の王>の恒久スキルを意識し、動揺した時を思い出した。


 それにバリィアン族とバアネル族の文化は正反対すぎる。


 バリィアン族の文化は正直、もっと見て体感したいぐらいな雰囲気はあった。


 家畜も色々といたし、世話は大変そうだが楽しい部分もあるはずだ。


 厩肥うまやごえのうんちの匂いは臭そうだったが、ここは魔界セブドラの家畜だ、セラや俺の知る地球文化にない肥溜めには新発見があるかも知れない。

 

 その辺の細かなことはバーソロンかラムラントを通じて少しずつバリィアン族やデラバイン族に伝えられたらいいだろう。


 デラバイン族たちは紡績工が有名だが、羊や鶏や鳥の家畜がいた。バーヴァイ平原の西側は殆どが魔綿花畑だったが……そして、郵便配達をしていた【魔鳥獣&幻獣・霊薬総合研所】、通称、霊薬研のソフィーの幻獣たちもいたな。


 幻獣に魔鳥はポチョムキンに魔獣たちは、


『『キュワァッワッワ』』

『『キュァ』』

『コケコッコー』

『プジュボ~プジュゥゥ~』

『きゃぁぁ、トチュ用の研究が! あ、ピツの豆粉をパンツごと食べないでぇ――』


 と鳴いては、ソフィーの悲鳴を思い出す。

 その時にちょっかいを出してきた影心冥王ゼムラ。

〝影心冥王ゼムラの冥印鍵〟を入手したが、魔力は通さず、無視した形だが、影心冥王ゼムラは冥界シャロアルにいるはずだ。

 

 あの時は魔裁縫の女神アメンディ様の救出を急いでいたからな。

 無事に救出できて良かった。お陰で、〝アメンディの神璽〟を得てバーヴァイ城に、魔裁縫の女神アメンディ様の守護の象徴のような魔神具的な御守りを設置できた。


 そして、俺や眷属たちに〝アメンディの神璽〟の魔印がなんらかの形で印された。デラバイン族、バーヴァイ地方は強まった。


 虹色の魔法布のような効果が、バーヴァイ城の上空に見えているはず。


 すると、キサラが、


「でも、〝煉霊攝の黒衣〟は漆黒のローブですから、魔法能力が上昇するかと思いきやとは魔刃を繰り出せる代物とは思いませんでした」

「「はい」」

「たしかに、宗主、その漆黒のローブには、魔力上昇の感覚はあるのですか?」


 頷いて、


「ある。魔法力も上昇しているはず」


 肩の竜頭装甲ハルホンクが喰ったらどうなるだろう……。

 魔神バーヴァイ様の〝黒衣の王〟の装備だが……。

 まだ喰わせず、


「ベラホズマ様と心象世界で会話をした時に、〝煉霊攝の黒衣〟があれば、〝悪夢ノ赤霊衣環〟を御しきれるぞって教えてくれたが、俺はベゲドアードの死に様を見ていたからな。〝煉霊攝の黒衣〟を着て〝悪夢ノ赤霊衣環〟の使役には、挑戦しなかったんだ」

「はい、それで良かったんです。もし挑戦し、成功していたら、今のナロミヴァスたち、ヴィナトロスの姿はなかったでしょう」

「あぁ、〝悪夢ノ赤霊衣環〟も肩の竜頭装甲ハルホンクのように扱え変化していたら、だいぶ話は変化していたはずだ」

「「「……」」」


 ナロミヴァスたちよりもヴィナトロスは顔色を悪くした。

 

「〝悪夢ノ赤霊衣環〟の話は、たられば、だから、ここまで、そして、<魔神ノ遍在大斧>は無理と分かるが<祭祀大綱権>があれば、〝煉霊攝の黒衣〟を着て獲得したばかりの<バーヴァイの魔刃>と、魔槍グルンバウダーで得た<バーヴァイの螺旋暗赤刃>と魔大剣ブルアダラーで得た<バーヴァイの魔風重大剣>を光魔ルシヴァル一門の眷属たちに授与できると分かる」

「「「「おぉ!」」」」

「ん、わたしも<バーヴァイの魔刃>を?」

「あぁ、たぶんだが」

「はい、わたしたちがパセフティから授与された<バーヴァイの手斧>を使えるようにですね」


 ラムラントの言葉に頷いた。


「その前に、槍で<バーヴァイの魔刃>を出せるか試す」

「ん」

「「「はい!」」」


 右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 ――<柔鬼紅刃>を意識。

 嵐雲の穂先を紅斧刃に変化させながら、魔槍杖バルドークを片手の掌の中で回しながら前腕と二の腕の間に置くように滑らせる。


「「「おぉ」」」

「「すげぇ」」

「格好良すぎる……」


 助けた方々からの歓声に照れを覚えるが――。


 左手に持っていた血魔剣を頭上に放ってから、試しに右腕を振るう。


「わぁ~」

「「おぉ~」」


 何かダンスでも踊っている気分となるが、気にせず、魔槍杖バルドークで<バーヴァイの魔刃>を発動――。

 魔刃は飛ばない。

 雷と風のような魔力が少し噴出するだけだった。


「ん、出ない!」

「「はい」」

「でも、何か雷鳴と風が出ているような」

「はい、それもまた渋すぎます!」

「シュウヤ様が宗主で良かった……」


 キッカに皆の熱の籠もった言葉を聞き流す――。

 

 続けて、魔槍杖バルドークと<血魔力>を消す。

 蒼聖の魔剣タナトスと義遊暗行師ミルヴァの短剣を両手に召喚――。


 両腕の手が持つ蒼聖の魔剣タナトスと義遊暗行師ミルヴァの短剣に<血魔力>はわざと通さず、少し斜め前に出ながら両腕を振るう。


 左手の蒼聖の魔剣タナトス。

 右手の義遊暗行師ミルヴァの短剣。

 二つの剣刃から漆黒の<バーヴァイの魔刃>が迸り、砦の壁に激突。

 

 二つの壁を貫いたが、先ほどの血魔剣で繰り出したような威力はない。

 <血魔力>が加算していないからだろう。


「蒼聖の魔剣タナトスと右手が握る義遊暗行師ミルヴァの短剣よりも、血魔剣のほうが、相性が良さそうですね」

「あぁ、それは確実かな」


 だが、<血魔力>を蒼聖の魔剣タナトスと義遊暗行師ミルヴァの短剣に込めた状態で――。

 <バーヴァイの魔刃>を放った。


 すると、【赤霊ノ溝】の砦の壁を貫通し、床にめり込んでいく。

 血魔剣の時と同じような重そうな<バーヴァイの魔刃>は床にめり込んだ状態で残っていたが、血魔剣から繰り出した<バーヴァイの魔刃>とは違い、周囲に火花が散るような魔力はない。

 <バーヴァイの魔刃>の威力が高いのは今のところ血魔剣で決定かな。

 次点で<血魔力>を込めた剣類。

 その次が、剣類か。

 そして、血魔剣と蒼聖の魔剣タナトスから出した<バーヴァイの魔刃>の速度にあまり違いがない。

 剣ごとの訓練次第で速度が変化するんだろうか。

 

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