千百三十四話 カチ・ボルとの戦いとパムロールの蜘蛛籠の使用

 階段をゆっくりと降りつつ――。

 <血道第四・開門>――。

 <霊血装・ルシヴァル>。

 を発動。


 面頬系の光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を装着。

 続いて掌握察を行う――。


 直ぐに百足高魔族ハイデアンホザーと魔歯魔族トラガンたちの数を把握。


 血霊衛士がここを駆け抜けた時よりも敵の数は増えている。

 

 そして、<無影歩>と<血道第五・開門>の<血霊兵装隊杖>に《スノー命体鋼・コア・フルボディ》は使わない――。


 両手の武器もまだ召喚しない。

 すると、


「にゃごあぁ」


 下から相棒の鳴き声と、ごおという重低音が響いてきた。

 相棒が通路内の敵に向けて紅蓮の炎を吐いた重低音だろう。

 同時に相棒は山猫か黒豹の姿へと変身したようだ。


 室内戦に備えたか。


「うおぉぉ、ロロ様すげぇ炎だ! 俺も――」


 というムクラウエモンの声が響くと、右の通路からも重低音が響いてきた。ムクラウエモンも攻撃したようだ。


 階段を降りながら――。


 <血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>――。

 ――<闘気玄装>。

 ――<黒呪強瞑>。

 ――<経脈自在>。

 ――<魔闘術の仙極>。

 ――<水月血闘法>。


 などの<魔闘術>系統をゼロコンマ数秒も経たせず連続発動。

 踊り場まで結構な高さがあるが、構わず跳躍――。

 股間と金玉がひゅんとなったまま踊り場に両足で着地――。

 アーゼンのブーツの底越しに足裏への衝撃が強くて痛かったが、周囲を把握しつつ<生活魔法>の水を撒く。


 <水の神使>と<滔天仙正理大綱>の恒久スキルを意識し発動――。


 同時にT字の左の通路から熱風を感じた。


「にゃお~」


 俺の足下にもどった黒豹ロロさんはドヤ顔だ。

 許そう。


「偉いぞロロ! 魔雅大剣も使うことなく、紅蓮の炎だけでT字の左の通路内にいた敵を倒したようだな」

「にゃ~」


『ロロ様の炎……』


 ヘルメはいつものようにビビっている。

 が、その気持ちは分かる。

 左の通路内にいた百足高魔族ハイデアンホザーたちの姿は消えていた。


 しかも左の通路は大幅に左側へと拡がるように天井と横壁が溶けて灼熱の大洞窟になっていた。洞窟の内部の空気は灼熱の影響で踊るように揺らめいて燃焼している。

 ぐつぐつと沸騰音も響いてきた。

 更に大小様々な磊塊らいかいのようなモノが跳ねている。


 やはり、神獣ロロディーヌの紅蓮の炎は強力だ。

 

 そして、相棒の炎が通路を溶かして新しく造り上げた洞窟だが、【バードイン迷宮】の壁の他にも、違う色合いの岩壁があるように見えた。

 古い岩壁の上部分に研究施設にあるような外郭をなす壁の部分があった。明らかに古い地層の岩壁は研究施設にあるような壁ではない。


 下の地層の岩壁も【バードイン迷宮】なのか?

 研究施設のような通路は、元々ある【バードイン迷宮】の中に造られた人工迷宮か? 


 あぁ、死体を吸収しないか吸収が遅い理由かな。


 そして、灼熱の洞窟のような所にいる磊塊らいかいのようなモノは、魔界の岩盤に棲まうモンスターか、バードイン迷宮に棲まうモンスターだろうか。


 相棒の炎に耐えているし、結構ヤヴァイモンスターかも知れない。

 幸い洞窟の中で跳ねているだけで、こちら側に来る気配がないからよかった。


『炎は怖いですが、ここに残り、内側に《水幕ウォータースクリーン》をかけておきますか?』

『そうだな、水蒸気爆発に気を付けてくれ』

『はい、閣下の教えは忘れていませんので、寧ろ利用してみせます』

『おう』


 頼もしい常闇の水精霊ヘルメは左目から飛び出た。

 液体状のヘルメは瞬時に女体化。

 宙空に水を撒きつつ、相棒の紅蓮の炎が溶かしていない範囲の【バードイン迷宮】を守るように《水幕ウォータースクリーン》を展開していく。


 一方、右の通路は、巨大な魔蛙のムクラが通路の一部を埋め尽くしている状態だった。

 そのムクラの大きい後ろ脚が平泳ぎのキックでも行うように動いていた。


 左右の壁と天井の手前側には、奥にいるムクラウエモンの体格に見合う線状の傷が刻まれている。

 ムクラウエモンは巨大化したまま通路を強引に進んだようだ。

 その奥にはまだ複数のモンスターの反応があるが、近くの敵はすべて潰して倒したようだ。

 

 左右の通路内の敵は大丈夫そうだ。

 問題は、T字の正面の通路か。

 その通路内にいる魔歯魔族トラガンたちの数は多い。


 見える範囲だけでも十体以上……。

 

 と、右の通路を占めていたムクラウエモンが縮む。

 床にムクラウエモンが押し潰した百足高魔族ハイデアンホザーたちの死体が見えた。


 歩脚だったモノが伸び伸びと……。

 えびせんベいを彷彿とさせる死体になっている。

 美味しそうとは思わないが、豪快な倒し方だ。

 中々の大きさのガマガエルに似た魔蛙ムクラウエモンは黒豹ロロと俺に近付く。


 口をもごもごと動かし噛み砕くような音を響かせた。

 口の端から覗かせていた百足高魔族ハイデアンホザーの歩脚を吸い込んで食べると、じろりと大きい蛙らしい双眸で俺を見て、


「神獣様の強烈な炎には驚いたしマジビビったぜ。俺はそのまま大きくなって敵に特攻した……あ、主の言いつけを早速破ってしまった、申し訳ない!」


 ムクラウエモンの喉元が少し膨れる。

 白銀の皮膚から少し煙のような魔力が出た。

 目元には眉毛のようなマークもあるから、結構可愛い。


 そのムクラウエモンに、


「いいさ。巨大化する際は味方の位置にだけ注意してくれればいい」

「了解だ!!」


 巨大化は相棒にも言えることだから黒豹ロロも見た。その相棒は瞬きをしてから「にゃ」と微かに『サイレントにゃ』に近いニュアンスで鳴いてくれた。


 可愛い返事をしてくれた黒豹ロロさん。

 頷いてから、相棒に意味が通じるか不明だが、まぶたを閉じて開く親愛の印の仕草をやってみた。


 黒猫ロロは俺のまぶたを閉じて開くの意味を理解しているのか、頭部を微かに動かして頷いてくれた。その相棒に、


「ロロとムクラ、よく臨機応変に動いて敵を倒してくれたな」

「おう!」

「にゃ~」

 

 魔蛙ムクラウエモンは一瞬で姿を小さくさせる。

 

「ンン、にゃおぉ?」


 黒豹ロロはムクラウエモンを見て頭部を少し傾げると、小さくなったムクラウエモンに頭部を寄せ、クンクンと頭部辺りの匂いを嗅いでいる。


 今のムクラウエモンは小さいヒキガエル的だから可愛い。


 と黒豹ロロは、その小さいムクラウエモンに向け触手を動かす。触手の裏側にある肉球にムクラウエモンを吸着させると、己の頭部に運んで乗せてあげていた。


「にゃお~」

「おぉぉ、神獣様、俺を乗せてくれるとは!」


 新たなコンビの結成か。

 その黒豹ロロとムクラのコンビに、


「左の通路は暫く無視していいだろう。右の通路の奥にはまだまだ敵が多いからそっちを頼む。俺は正面の敵を倒してくるからな」

「にゃ」

「了解したぜ」


 と、階段から下りてきた皆が、


「「「シュウヤ殿」」」

「「シュウヤ様!」」

「「「おぉぉ」」」


 ポーさん、ミューラー隊長や【グラナダの道】の面々とボクっ娘のエトアさん、ジアトニクスさん、ロズコ、アマジさん、ビートンさん、ギンさん、ピエールさん、ヒビィさんに、メトマさん、パデフィンさん、ポンガ・ポンラさん、エヤさん、セクさん、ナッセンさん、フーに似た金髪の魔族さんなどの皆に片手を上げて応えつつ――。


 正面の通路手前にいる五体と奥の一体を凝視。

 と、背後からキサラが、


「シュウヤ様、左右の通路の敵はお任せを」

「おう、頼む。もう消したが、俺の血霊衛士が駆け抜けた通路は、今相棒が燃やした左の通路と右の通路だ。で、基本は先ほどの作戦通り。それと、血文字で地上にいるヴィーネとキッカたちと連絡を取っておいてくれ」

「はい。当面は、この踊り場の確保に努めます」

「にゃ~」

「キサラ、閣下は正面の敵を倒すようです」

「はい、強そうな存在がいるようです。あ、ふふ、ロロ様、あ、頭にムクラウエモンちゃんが……」

「お、おう、キサラちゃんの足はヤッコイな!」

 

 キサラの足に甘えた黒猫ロロか。

 ムクラウエモンもキサラの足に甘えたようで気になるが、俺は俺の仕事をやろう。

 

 そして、この会話中にも反撃が来ていないように……。

 

 中央の通路内にいる五体の魔歯魔族トラガンは、左右の通路と踊り場にいたであろう百足高魔族ハイデアンホザーと魔歯魔族トラガンの部隊が倒れたことで動揺しているのか、動きを止めている。


 新手の俺たちに対応できていない。

 神獣ロロディーヌとムクラウエモンの急襲に驚いたままだ。


 が、奥の一体はそうではないはず。

 その奥の魔族は魔歯魔族トラガンではない……。

 

 頭部は百足高魔族ハイデアンホザーに似ている。

 エイリアン風で眼球が六つあった。

 胴長で全体的な肌の鎧はエナメル質だが、色は魔歯魔族トラガンと違う。太い両腕は魔歯魔族トラガンに似ているが……あれが魔歯ソウメルか?

 

 どちらにせよ魔界王子テーバロンテの眷属なのは確実。

 

 体に纏う<魔闘術>系統は高度で魔力操作もスムーズ。

 魔力量も多い。<黒呪強瞑>系統かも知れない。


『中衛ポジションを取って様子見の魔族は初でしょうか。地上で戦っている勢力の中にもいなかった』


 右目に棲まう闇雷精霊グィヴァの思念に『あぁ』と思念を返す。


 奥にいる新種の魔族は確実に強者だろう。

 前にいる魔歯魔族トラガンたちとは、魔力の扱いが雲泥の差だ。

 その魔歯魔族トラガン連中と奥の新種を見ながら――。

 床を魔脚で蹴って前進――。

 槍ではなく――両手首をスナップさせ手首に刻まれた<鎖の因子>から<鎖>を射出した――。

 両手首の<鎖の因子>から雷鳴の如く飛び出た二本の<鎖>の先端が二体の魔歯魔族トラガンの頭部を貫き――。

 

 ――背後の二体の魔歯魔族トラガンの頭部をもぶち抜く。

 ――四つの魔歯魔族トラガンの頭部が爆ぜた。


『おぉ、お見事! <鎖>が雷鳴に見えました! <鎖>に刻まれた魔法文字の影響でしょうか、見事な遠距離攻撃です。私の<雷狂蜘蛛>よりも速く見えました!』


 闇雷精霊グィヴァの念話に心で礼を言うように頷いた。


 両手首の<鎖の因子>から出ている二つの<鎖>を消しながら近くの魔歯魔族トラガンとの間合いを詰める。

 

 そして、右手に白蛇竜小神ゲン様の短槍を召喚――。


 魔歯魔族トラガンは<魔闘術>系統を強めて筒形態の両腕を上げた。


 ハンマー形態に腕を変化させようとしたのか形を歪ませるが遅い――左足の踏み込みから腰を捻り、右腕と白蛇竜小神ゲン様の短槍を突き出す<白蛇穿>を実行――。

 

 白蛇竜小神ゲン様の短槍の杭刃が魔歯魔族トラガンの変化途中の両腕ごと頭部を貫いた。


 頭部と両腕を失った魔歯魔族トラガンの死体は吹き飛ぶ。

 倒した魔歯魔族トラガンの血と魔力を全身で吸収――。


 血は皮膚からの吸収だが、ジュゥッという音が響いたような気がした。


 そして、血霊衛士の魔力の吸収具合とは異なる。

 と、通路の奥にいた新種の敵が、

 

「血の吸引だと? では、お前は先程の血の騎士の仲間か!?」


 聞き慣れた魔族の言語。

 血霊衛士のことを聞いてきた新種とはまだ距離がある。

 足を止めて相対しつつ、


「そうだ。お前が魔歯ソウメルか?」

「ソウメル様ではない。俺はカチ・ボルだ――」


 と名乗り、エナメル質の胸から二つの歩脚を出して伸ばしてきた。更に先端が蛇の頭部に変化。

 百足高魔族ハイデアンホザーのような歩脚か。

 先端の蛇の歯牙は鋭そう――。

 前進しながら<豪閃>を繰り出した。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍を右から左へと振るう――。

 その白蛇竜小神ゲン様の短槍の杭刃が二つの蛇の口を捉え、その蛇頭ごと歩脚を真っ二つに斬った。

 

 同時に<鎖型・滅印>を意識。

 両手首から<鎖>を射出――。

 カチ・ボルは頭部を横に傾け<鎖>を避けた。


 <鎖>はエイリアン風の頭部の横に生えている牙のような器官を複数貫いただけだった。次の<鎖>も――カチ・ボルは頭部を真横にぐわりと回転させて避ける。


 ――エイリアン風の見た目通りに首の構造は普通ではない。


 構わず<鎖>を射出――。


 カチ・ボルは長い胴体から歩脚を横斜め後方に伸ばして壁に突き刺すと、歩脚を収斂して移動し、<鎖>を避けてきた。


 続け様に<鎖>を繰り出すが、カチ・ボルは、体のどこからでも歩脚を生み出せるらしい――。

 

 それも尋常ではない速度だ――。

 

 カチ・ボルは歩脚を四方八方へと伸ばし壁に突き刺しては、瞬間的に収斂させて移動を繰り返す――。

 今も天井と横壁の間で移動を繰り返し、<鎖>の連続攻撃を避け続けている。


 カチ・ボルは素早い。


『速いです、御使い様、私を使いますか?』

『大丈夫だ』


 グィヴァと念話しつつ、右壁に移動したカチ・ボルを凝視した。

 

 エナメル質の体の至るところに魔印のような魔法文字が浮かび、装甲と皮膚が一体化している。両足は細いが筋力はありそうだ。


 一呼吸後、<鎖>を消し、そのカチ・ボルに近付いた。

 カチ・ボルは両肩から新しい歩脚を真上に伸ばし、いつでも逃げられる態勢となる。


 構わず<仙羅・幻網>を実行した。


 ――俺の目から魔力の網の<仙羅・幻網>が出た。


『あ、動きを封じるつもりですね』


 カチ・ボルは体から無数の歩脚を伸ばして魔力の網を防ごうとしたが防げず、<仙羅・幻網>を浴びた。だが、エイリアン風の頭部の口から新たな小さい口を伸ばし、


「くっ――」


 とくぐもった声を漏らして体から魔力を噴出させた。

 更に六つの眼球の内の三つから魔印を浮かび上がらせる。

 その魔印の効果で、ゼロコンマ数秒もかけず<仙羅・幻網>を消滅させた。

 

 ――構わずカチ・ボルとの間合いを詰めた。


 左足で床を潰すような踏み込みから――。

 右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍でカチ・ボルの胴体を狙う。

 ――<白蛇穿>を繰り出した。

 カチ・ボルは四眼で白蛇竜小神ゲン様の短槍を捉えながら天井に突き刺していた歩脚を収斂させて体を浮かせるように天井へと移動。


 <白蛇穿>はカチ・ボルの胴体を掠めたが、避けられた。

 逃がさない――右手が握る白蛇竜小神ゲン様の短槍に<血魔力>を込めて、その柄を下から蹴った――。

 

 蹴った白蛇竜小神ゲン様の短槍は回転しながら天井のカチ・ボルに向かう。

 同時に両手に血魔剣と鋼の柄巻を召喚しながら跳躍――。


 カチ・ボルがいる天井に向かった。


 カチ・ボルは、体から幾つかの歩脚を伸ばし、天井を横歩きしながら白蛇竜小神ゲン様の短槍を弾こうとしたが、弾けず、杭刃と俺の<血魔力>を喰らう。

 歩脚が切断され、歩脚の幾つかが溶ける。


「ぐえぁぁ」


 とカチ・ボルは痛みの声を発しながらも横移動を行う。

 

 白蛇竜小神ゲン様の短槍は本体を捉えられず、天井と衝突して落下してきたから、戦闘型デバイスのアイテムボックスに格納し、足下に生成した<導想魔手>を蹴って、天井を這うように移動しているカチ・ボルに近付いた。


 カチ・ボルは「来るな――」と言ってエナメル質の胸から歩脚を伸ばしてくる。


 エナメル質だが、斧槍のような鎌腕。

 百足高魔族ハイデアンホザーが繰り出す攻撃に似ている。


 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動した。

 足下に生成した<導想魔手>を蹴る。

 更なる加速で斧槍の歩脚を楽に避けながら、鋼の柄巻に魔力を通す。


 ユイの剣術を見倣うように二剣流を意識し、<導想魔手>を蹴って斜め上に跳躍するようにカチ・ボルに近付いた。


「!?」


 カチ・ボルは驚きのまま動きが止まる。

 鋼の柄巻の放射口から光刃が出るブゥゥンという音が響く中、左手の血魔剣を突き出す<黒呪仙剣突>を繰り出した。


 カチ・ボルの右胸から少し前に出ていた歩脚の先端を血魔剣の<黒呪仙剣突>の切っ先が貫く。


 と、カチ・ボルは睨みを強めた。

 口が上下に裂ける。

 

「――うひゃひゃ! 掛かった! 死ねぇ――<硬口掘歯乱杭刃>!」


 奇怪な笑い声を発した気色悪い口の中から細長い口と歯牙が無数に伸びてくる。が遅い――続けざまに<黒呪鸞鳥剣>を繰り出した。

 袈裟懸けの青白いムラサメブレード・改の光刃が、カチ・ボルの無数の細長い口と歯牙を一度に両断し、頭部をも斜めにぶった斬った。


 更に左手の血魔剣の血のブレードがカチ・ボルの歩脚と胸を捉え斬る――。


 二剣の<黒呪鸞鳥剣>の剣舞が――。

 ブゥゥン、ブゥゥゥゥン――ジュッと音を響かせながらカチ・ボルの体を切断しまくった。

 ――カチ・ボルの体はバラバラになって落下。


 よっしゃ――。

 カチ・ボルの血飛沫を吸い取る。


『お見事です、強者のカチ・ボルを倒した!』

『おう』


 闇雷精霊グィヴァにそう思念を返しつつ両手の武器を消しながら着地――。

 カチ・ボルは百足高魔族ハイデアンホザーと魔歯魔族トラガンが融合したような体か。


 と、通路の奥から歯が飛来――。

 半身の姿勢で飛来してきた歯を避けた。


 ――臭そうな歯だ。

 奥にいた魔歯魔族トラガン連中による遠距離攻撃。

 カチ・ボルはこの通りを守る魔歯魔族トラガンのリーダー格だったと思うが、逃げないとは――。


 魔歯魔族トラガンは思考力があまりないのか、魔界王子テーバロンテを失ったことで心神喪失状態なのか、元々が狂癲状態なのか。


 その魔歯魔族トラガンの数が増える。

 この増え方からして、狂癲の感じはしない。


 魔歯魔族トラガンは蟲の思考に近いとか?

 

 そして、この通路の奥は血霊衛士では探索していない。

 血霊衛士が探索したところはT字の左右だけだ。

 と、新手の魔歯魔族トラガンが体の一部を筒にし、歯茎か歯を射出してきた――。


 大小様々な歯だが、嫌すぎる。

 

 左前に前進し、飛来してきた歯を避けた。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は使わない。


 続けて右前に出て、更に飛来した歯を避けた。

 歯の軌道は丸わかり――。


 魔歯魔族トラガンはブローニングM1917のような筒から歯の弾丸を連射してくる。


 だが、先ほど<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を使ったように――今の<魔闘術>系統の重ね具合はかなりのモノ。


 ――この速度のままで十分避けられる。


 横幅は狭いが、横に移動しながら――。

 歯の遠距離攻撃を避けて――。

 魔歯魔族トラガン連中を凝視しつつ、右手に聖槍ラマドシュラーを召喚――。

 手前と背後に並ぶ魔歯魔族トラガンの数は増え続けて十数を超えたが、すべて倒そう。このまま行く――左斜め前に跳ぶように歯を避けた――。


 <仙魔・桂馬歩法>を実行――。


 歯の遠距離攻撃をジグザグ機動で避けながら前進――。

 近くの魔歯魔族トラガンとの間合いを詰める。


 左足の踏み込みから――。

 エナメル質の魔歯魔族トラガンの胴体を狙うように右手の聖槍ラマドシュラーで<攻燕赫穿>を繰り出した。


 突き出た聖槍ラマドシュラーの穂先から赫く大きな燕が出現し聖槍ラマドシュラーと重なった。

 より強く赫いた聖槍ラマドシュラーは魔歯魔族トラガンの胴体を盛大にぶち抜く――。


「ひゃぁぁ」


 ゼロコンマ数秒も経たず聖槍ラマドシュラーから小さい燕が幾つも現れると、聖槍ラマドシュラーが貫いていた魔歯魔族トラガンが爆ぜた。


 その爆発を喰らうように吸収した聖槍ラマドシュラーの穂先から大きなツバメの形をした魔力がほとばしって、前方にいた魔歯魔族トラガンを貫く。


 その燕の魔力の後部が穂先側に逆流し、蛇鎌刃の溝を埋めて新しい聖槍ラマドシュラーの穂先を形成した。


 すると――。

 爆発的な推進力を得た俺ごと聖槍ラマドシュラーは直進し、<紅蓮嵐穿>に近い機動のまま真正面の魔歯魔族トラガンたちの胴体をぶち抜き続ける――。


 体の一部だけを貫かれ、切断された魔歯魔族トラガンたちは、その体が溶けながら個々に爆発し散っていく。


 次々と魔歯魔族トラガンたちを貫き倒す聖槍ラマドシュラーの<攻燕赫穿>は強力だ――。


 聖槍ラマドシュラーの穂先から無数の燕の魔力が周囲に飛び爆発を繰り返した。

 その爆発の連鎖が不知火のような炎の衝撃波となってひろがり、まだ前方にいた魔歯魔族トラガンも巻き込む。


 巻きこまれた魔歯魔族トラガンはエナメル質の体が溶けながら爆発して散った。


 よし――。

 中央の通路にいた魔歯魔族トラガンの部隊を一掃。


『奥にはまだまだ敵がいそうな雰囲気ですが、一先ずの勝利ですね』

『あぁ』


 闇雷精霊グィヴァに念話を返すと――。

 背後から黒豹ロロと魔蛙ムクラウエモンとポーさんの気配を察知。

 

 黒豹ロロは俺の足下に戻ってきた。


「ンン、にゃおぉ」

「よう、皆」

「ロロ様と一緒に来たぜぇ、しかし、めちゃ強いな主は!!」

「主、見事な戦いっぷりです。そして、精霊様とキサラ様から、主のフォローを頼まれました」

「了解、このままこの通路の先に行こうか」

「おう!」

「にゃ~」

「はい」

 

 皆と歩きながら、


『キサラ、T字の中央通路の奥で相棒たちと合流を果たした。そして、魔歯魔族トラガンの部隊の大半は倒した。天井や床に壁から湧かない限りは安全地帯となるはずだ。あと、倒した中に強者の魔族がいた」

『はい、少し見ていました』

『そっか、百足高魔族ハイデアンホザーと魔歯魔族トラガンを合わせたような見た目の魔族で、名はカチ・ボル。そのカチ・ボルは魔界に共通する言葉を喋っていた。皆に知っているか聞いてくれ』

『はい、少々お待ちを』


 そのまま皆で通路を進む。

 黒豹ロロが黒猫の姿に変身し、通路の壁際の匂いを嗅ぎながら「ンン」と喉声を発して少し走る。


 俺たちもその通路を進んだ。

 すると、前方の通路の先に複数の魔素を察知――。

 が、左右に小部屋があったから、


「ロロ、お尻を震わせてオシッコは掛けるなよ? あ、皆、そこの右と左の小部屋を覗いていく」

「ンン、にゃ~」

「了解」

「ハッ」


 と寄り道――。

 小部屋の中には錬金術の素材が入った箱があった。

 箱ごとアイテムボックスに入れていく。


 すると、


「ングゥゥィィ、そこのツブツブと丸いの欲しい……」

「にゃおぉ~」

「お?」


 相棒と一緒に振り向く。

 肩の竜頭装甲ハルホンクの魔竜王の蒼眼がピカッと光って氷の礫が飛び出た。


 ――氷の礫が刺さった場所は小部屋の右隅にあった巨大な植木鉢が並ぶ場所とそこの天井。植木鉢の樹はブドウかな。


 胴のような金属が巻かれた長い樹が屋根状に展開されていた。


 屋根状の樹には、『ヴェレゾン』が美しい野ブドウやブドウのような成熟した果実が、天井には銀色の繭に似た物が複数個ぶら下がっている。

 

 ブドウも銀色の繭に似た物も、魔力内包量はかなり高い。


 肩の竜頭装甲ハルホンクに、


「繭かブドウか、どっちがほしいんだ?」

「ングゥゥィィ、ゼンブ、喰イタイ、ゾォイ!」


 肩の竜頭装甲ハルホンクは少し興奮気味。

 そんな肩の竜頭装甲ハルホンクを凝視しているポーさんは、暴喰いや覇王ハルホンクの云われを知っているんだろうか。

 

 ……第二種危険指定アイテムに分類されると言われたハルホンクの防護服。


 鑑定してくれた呪神テンガルン・ブブバに体が蝕まれている一流のアイテム鑑定士スロザを思い出した。


「……にゃ」

「ロロ、戯れるのはナシ」

「にゃおぉ」


 俺が注意すると、鼻をクンクンさせていた黒猫ロロはイカ耳となって少しいじけた雰囲気を出してから、また鼻をクンクンさせながらイカ耳を直し、樹を見上げながらエジプト座りを行う。


 悪いが、何が起こるか分からないからな。


 ポーさんは、


「ん? あの繭は……主、近付くと危険かもしれないですぞ」

「繭が危険か……。

 ハルホンクが食べる前に、ポーさん、その危険と予想した繭のことと、知っていたらあのブドウのことも教えてくれ」


 黒髪に白髪が混じるポーさんは頷く。


「はい、ブドウは〝魔導のブドウ〟。味も良く食べれば魔力が増える。魔食奇人会では幻の食材百二十九品の一つとされている。幻沸食夢帖には、この魔導のブドウの調理法が載っているようです。そして、繭のようなモノは、この魔導のブドウを狙っているレアな幻獣パトゥランドと予想しますぞ。繭は擬態で、魔導のブドウに近付いたら擬態を解いて襲い掛かってくると思います」


 襲い掛かってくるとか。


「なら先に繭だけを倒すか。それとも、パムロールの蜘蛛籠でそのレアな幻獣パトゥランドを繭のまま捕まえて魔商人に売ったら、魔コインや極大魔石を得られるかな」

「もし生きたまま捕獲できれば、それ以上の品と物々交換できるかもしれないです」

「おぉ、ならパムロールの蜘蛛籠を使うか」

「良いかと、セラでもレアな幻獣パトゥランドは売れるはずです」

「そっか、幻獣パトゥランドを見たことが?」

「ありますぞ。幼獣ですと小鳥のような見た目のはずで、成長すると、半透明な姿にもなれる大鳥や鳳凰のような大きさになるようです。今のような繭や、他にも色々な物に擬態が可能で、頭が良いとも聞きました」

「へぇ」


 感心しながらパムロールの蜘蛛籠を取り出す。


「そういえば、これの使い方が分からない」

「大概のモンスター捕獲用アイテムは、他の魔道具と同様に魔力を通すだけで使えるはずです。しかし、パムロールの蜘蛛籠ですからな……ラムー殿の解説にあったことしか分かりませぬ。主たちが予想していたように、パムロールの蜘蛛との絡みがあるかも知れませぬ故、魔力を通すなら警戒が必要かと、ラムー殿の霊魔宝箱鑑定杖を弾く存在ということですからな」

「あぁ、たしかに、ありがとうポーさん」

「あ、主、は、はい」


 ポーさんは少し恥ずかしそうに頬を朱に染めていた。

 イケオジの照れ顔だからこっちまで照れる。

 気にしないようにキサラを見たかったが、いないから、興奮気味に樹を見上げている黒猫ロロさんを見る。


「おぉ、ポーが照れるとは……」

「……主の真正面な心を感じたまでだ」

「はは、分かるぜ、魔公サンシールや魔公ランザルのような武闘派の真面目野郎のようだからな」

「主はただの武人ではないぞ?」

「おう、分かってる。魔法真紋の契約者だ」


 ヒキガエルに似た魔蛙ムクラウエモンとポーさんが語り合う姿から少し歴史を感じた。ま、当然か。


 そこで皆を見据えてから――。


 パムロールの蜘蛛籠に魔力を込めた。 

 パムロールの蜘蛛籠がほんのり赤く光る。

 

 自然と<魔朧ノ命>の印が浮かび上がる。


 ピコーン※<パムロールの蜘蛛の使役>※スキル獲得※

 ※称号:血の盟約者が躍動※多重連鎖確認※

 ※称号:センビカンセスの蜘蛛王位継承権が躍動※

 ※称号:ラメラカンセスの蜘蛛王位継承権が躍動※

 ※<魔蜘蛛煉獄者>と<パムロールの蜘蛛の使役>と<魔朧ノ命>が融合します※<魔蜘蛛煉獄王の楔>※恒久スキル獲得※


 おぉ、称号とスキルが連動し、スキルが融合した。


 <魔蜘蛛煉獄王の楔>……。


 表面の魔法陣が蜘蛛の脚で構成された大きな積層型魔法陣に変化すると、そこから大きな女郎蜘蛛のような蜘蛛がにょろりと現れる。


 体長は一メートルぐらい、結構なデカさだ。


 と、その大きな女郎蜘蛛は複眼で俺をジッと見てきた。

 攻撃とかはないと分かる。

 口器と触肢をブルブルと揺らしながら頭部を下げてきた。

 ポーさんが、


「この大きな女郎蜘蛛がパムロールの蜘蛛でしょうか」

「たぶんそうだ。このパムロールの蜘蛛を使役したら、俺の<魔蜘蛛煉獄者>と<魔朧ノ命>と<パムロールの蜘蛛の使役>が融合して、<魔蜘蛛煉獄王の楔>に進化した」

「なんと……」

「……主のスキルが進化かよ……キサラちゃんと精霊様と主はセンビカンセスの蜘蛛王位継承権などの話をしていたが……主は八蜘蛛王のヤグーライオガの関係者でもあるようだな……」


 驚いているムクラウエモンがそう聞いてきた。


「おう、そうだ」

「素晴らしい。では、このパムロールの蜘蛛は、八蜘蛛王の子孫か、その配下であった可能性がある?」

「そうかも知れない」


 ポーさんの言葉にそう返事をすると、パムロールの蜘蛛は腹部を見せる。

 腹部には<魔朧ノ命>で刻むことができる魔朧印に似た紋様が浮かんでいた。

 自然と<魔蜘蛛煉獄王の楔>の意味だと理解。


「パムロールの蜘蛛は喋ることはできるか?」


 パムロールの蜘蛛は脚をカサカサと動かして横回転し、口器と触肢を数回リズミカルに動かした。


 また上下に動かす。


「俺たちの言葉は分かるか?」


 口器と触肢が上に動いた。

 可愛い。今のは「はい」という意味だな?


 パムロールの蜘蛛は口器と触肢を上向かせたまま頭部を少し下げた。

 ボディランゲージで意思疎通は可能か。


「にゃ」


 と、黒猫ロロが近付いて、パムロールの蜘蛛の匂いを嗅ぐ。


 パムロールの蜘蛛は硬直したまま床に転がった。

 死んだふりか? 面白い。


「パムロールの蜘蛛、今匂いを嗅いでいる黒猫の名はロロだ。俺の相棒で神獣だから大丈夫、仲良くしてほしい」


 と言うと、パムロールの蜘蛛は多脚をカサカサと動かして起き上がり、黒猫ロロに向けて頭部をぺこりと下げていた。


「にゃ~」


 黒猫ロロは嬉しそうに返事をしている。

 真ん丸なお目めが輝いていることだろう。


 獲物を狙うために瞳孔が散大しているわけではないと思いたい。


 続けて、ヒキガエルっぽいムクラウエモンとイケオジのポーさんにも頭部をぺこりと下げた。

 そのパムロールの蜘蛛に、


「パムロールの蜘蛛、パムロールの蜘蛛籠のことだが、このアイテムは俺が自由に使えるってことなんだろうか」


 パムロールの蜘蛛は口器と触肢を上向かせる。


「そっか。パムロールの蜘蛛籠は俺がもらった形になったってことか」


 とポーさんたちに視線を向けた。

 ポーさんは笑顔になって、


「ふっ、これで良かったのです。主が魔力を通してこそのパムロールの蜘蛛籠だったと思います。運命的な出会いにも感じました」

「あぁ、なんか嬉しさも感じたしな。そしてスキルの連動だぜ? 主、わかってんのか? 凄いことなんだぞ? 連動して連鎖して新しいスキルになるなんて、どれだけの経験を積んでるんだってことだ。あ、蜘蛛王位などの称号も絡んでいるんだろ?」


 ムクラウエモンが興奮気味にそう聞いてきた。

 頷く。


「あぁ」

「ならば当然の結果だ。パムロールの蜘蛛籠の真の解放者が主かもな。パムロールの蜘蛛籠もパワーアップしたんじゃねぇか?」

 

 と、ムクラウエモンが少し前に出てぎょろっとした双眸でパムロールの蜘蛛を凝視。

 パムロールの蜘蛛は少し体を震わせる。

 と、頭部を激しく上下させた。

 そのパムロールの蜘蛛に、


「パムロールの蜘蛛、早速だが、上にいる繭に擬態している幻獣パトゥランドなんだが、捕まえることは可能か?」


 パムロールの蜘蛛は口器と触肢を上向かせた。


「なら、パムロールの蜘蛛籠を使い、できるだけ繭のまま捕獲してくれ」


 パムロールの蜘蛛は片方の口器と触肢を上げて敬礼のようなポーズを取る。

 可愛い。

 パムロールの蜘蛛の『了解しました』という心の声が聞こえたような気がする。 

 そのパムロールの蜘蛛がパムロールの蜘蛛籠の中へと消えるように戻った刹那、パムロールの蜘蛛籠が浮いて蓋が開き――。

 無数の蜘蛛の巣が出て、天井にぶら下がっている繭の群れに向かう。

 それぞれの繭を一瞬でパムロールの蜘蛛籠の中に引き込んで捕獲していた。

 そのパムロールの蜘蛛籠が俺の手元に戻ってきた。


 パムロールの蜘蛛籠の表面に薄らと幻獣パトゥランドと六の文字も浮かぶ。

 ポーさんもそれを見て、


「幻獣パトゥランドの捕獲に成功したようですな」

「おう、成功した。んでは――」


 パムロールの蜘蛛籠を戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞った。

 そして跳躍し、〝魔導のブドウ〟を数十個確保。

 同時に手に持った〝魔導のブドウ〟の一つを肩の竜頭装甲ハルホンクの口に押し当て、「ハルホンク、喰っていいぞ」と言うと、「ングゥゥィィ!!」と肩の竜頭装甲ハルホンクは〝魔導のブドウ〟を一瞬で吸い込んで食べた。


 俺も魔力と活力を得た。

 なんか力も得たような感じがした。


「――ウマカッチャン!」

「ぬおぁ!?」


 ムクラウエモンの驚いたと分かる鳴き声が面白い。

 が、ポーさん以外だと「げろげろぁ!?」といったように普通のカエルの鳴き声なんだよな。

 少し残念。


 すると、キサラから、


『シュウヤ様、皆カチ・ボルを知らないようですが、ジアトニクスが、監督官の魔歯ソウメルや集積官のリダヒ以外にも、魔界王子テーバロンテの幹部はいるはずです。と言っていました』

『了解。魔歯ソウメルは魔歯魔族トラガンに似ていて、四腕四脚らしいからな』

『はい、あ、先ほど右側の通路から百足高魔族ハイデアンホザーの部隊が攻めてきましたが、すべて倒しました』

『了解した。此方だが、〝魔導のブドウ〟を数十個確保。その際に近くで繭になっていた幻獣パトゥランドも捕獲した。で、捕獲に使ったのはパムロールの蜘蛛籠で、それに魔力を通したら、パムロールの蜘蛛が現れて<パムロールの蜘蛛の使役>を獲得、そこから<魔蜘蛛煉獄者>と<魔朧ノ命>と<パムロールの蜘蛛の使役>が融合して<魔蜘蛛煉獄王の楔>に進化を遂げた』

『え!』

『なんと!』

『シュウヤは、魔蜘蛛たちの頭領になったってこと?』

 

 エヴァの血文字に頷きながら、


八蜘蛛王ヤグーライオガのような存在ではないと思うが。あと〝魔導のブドウ〟は食材のようだから、エヴァにあげるからな』

『ん、嬉しい。ディーも喜ぶ』

 

 エヴァの天使の微笑が見えたような気がした。

 と、血文字で情報を交換しあう。

 皆と一緒に左へと弧を描くような通路を進んだ。


 前方に魔素の反応。

 通路の先にはアーチ状の出入り口があった。

 魔素の形からして、前方にいるのは百足高魔族ハイデアンホザーかな。で、広間か。

 皆に、


「この先に敵だ。広いから、それぞれ各個撃破と行こうか」

「にゃご」

「おう!」

「はい」


 黒豹ロロが俺の左前に出る。

 ムクラウエモンは大きいヒキガエルになって俺の右斜め後ろから付いてきた。

 ポーさんは背後のまま。

 そうして広間に足を踏み入れると、


「「「「フシャァァ――」」」」


 という声と共に斧槍のような鎌腕が伸びてきた。

 百足高魔族ハイデアンホザーの早速のお出迎え――。

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