千百十二話 【バードイン迷宮】を巡る状況


 神獣ロロはバードイン迷宮から離れるように旋回してくれている。

 〝列強魔軍地図〟を仕舞う。

 

 ミジャイは体に絡んでいる相棒の触手を利用して、神獣ロロの頭部の端から上半身を外に出して下の戦いを見ていた。


 ――幸い、飛翔中の神獣ロロに遠距離攻撃は来ない。


 下から見れば、神獣ロロの飛行速度は遅いし、目立つから狙われると思ったが、攻撃は皆無。それほどまでに、【バードイン迷宮】の出入り口付近の戦いは熾烈を極めていた。


 争いから抜けた強者の魔族もいて、【バードインの森】を駆けていく。

 ミジャイは指摘しないから、走っている存在はロズコではないようだ。


 【バードイン迷宮】の出入り口と周囲に尖塔のベランダやバルコニーのような出っ張りなどで起きている戦いはカオス。


 【バードイン迷宮】を守るのは百足魔族デアンホザーたち。

 魔界王子テーバロンテの残党勢力だろう。

 その残党を狙い倒している髑髏の騎士たちは悪神ギュラゼルバンのバードイン殲滅部隊だと分かる。

 

 隊長の悪業将軍ガイヴァーが倒れたことは、何らかの情報伝達手段があるのなら知っているだろう。


 が、そんなことがどうでもよくなるほどに色々な種族が戦っていた。


 独立都市フェーンの周囲にいた獄界ゴドローンから流入していただろう無数の魑魅魍魎の生物たちを思い出す。


 ――燃えた髪の魔族たちは……。

 <超能力精神サイキックマインド>のような超能力を使う。

 

 ――鋼鉄の兜と鎧を着た者たちは……。

 両手から鋼鉄の矢を射出したり、源左のものに似た短筒から魔弾を連射したりしている。

 中には鋼の柄巻と似た魔杖から魔刃を生み出している者や、赤黒い太刀を持つ者、鋼鉄の拳で戦う者もいる。

 鋼鉄の拳を扱う者は【影翼旅団】の魔鋼使いパルダに似ていた。

 【影翼旅団】のパルダは全身に特異な黒色の鎧を着ていた強者。もしかして、パルダは鋼鉄の兜と鎧を着ている魔族集団と同じ一族だったりしたのか?

 更に他の集団を見ていく――無数の腕で構成されている気色悪いモンスターたち。

 セラで見たことがあるモンスター集団だ。

 仲間意識があるとは知らなかった。

 ――黒毛目玉の怪物アービターと似た眼球お化けたち。

 あいつらは悪神デサロビアの眷属ではないのか?

 同じ悪神という名のギュラゼルバンの眷属って線もあるんだろうか……。

 ――髑髏の戦士たちは全身が蒼色の炎で燃えている。

 盾と剣を持つ髑髏の騎士で、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモス的な雰囲気だが、実は悪神ギュラゼルバンの眷属で、バードイン殲滅部隊かも知れないな。


 ――漆黒の魔力を体から放つが、頭部のない大柄の騎士たち。

 頭部がない大柄の騎士だからモンスターに見えるが、髑髏の騎士や無数の腕と腕が合体し、歪な腕人型のモンスターたちとも戦っている。


 ――ゴブリンから進化していると分かるイケメンゴブリンたちもいた。


 ――魚人と人魚的な乙女たちもいた。

 ……心情的に女性の姿をしている方々が多いから味方をしたいが、凶悪な方々の場合もあるから様子見だ。


 ――頭部が蟷螂で体が人族だが、腕は剣となっている者たち。


 ――拘束帯で体が覆われているが、芋虫のごとく転がって拘束帯から出ている太い鎖を振り回している者たち。


 ――二本角のレッサーデーモンたち。

 

 ――巻き角を持つ羊の頭にオットセイに似た体の者たち。

 

 体から噴出している蒸気のような魔力は毒ガスのようだ。近くにいるイケメンゴブリンがその魔力に触れて爆死している。そんなオットセイに似た胴体に燃えた髪の魔族たちが<超能力精神サイキックマインド>のような超能力を衝突させて一体を横に倒し、皆で羊の頭にドロップキックを喰らわせ潰すように倒していた。


 ――丸いトゲトゲの胴体に太い片足だけで浮遊している者たち。


 などの勢力が乱雑に争いあっている。


 目的は【バードイン迷宮】の中に囚われている同族の救出かな?


 それとも秘宝級のお宝が【バードイン迷宮】にあるんだろうか。秘宝にも通じる【バードインの森】や【バードイン霊湖】の支配権を巡る何かが【バードイン迷宮】にある?

 

 【バードイン迷宮】から逃げて【バードインの森】にでている魔族もいた。

 それらすべての存在を殺そうとしている集団もいるように見えるが……。


 と、ヴィーネが、


「カオスな状況ですが、【バードイン迷宮】の中に囚われている同族の救出が目的でしょうか」

「俺もそう考えていた」

「はい」


 皆も同じなのか頷く。

 しかし……この中で魔傭兵ラジャガ戦団の仲間を見つけるのは難しいと思う……。


 とミジャイの後ろ姿を見るが、ミジャイは熱心に下の様子を見ている。


 隊長として仲間思いか。

 見つかるといいが……強者で頭が切れるなら、わざわざ外に出て戦うようなことはせず、【バードイン迷宮】の中で静観しているって線もある。


 しかし……下の戦いは……【魔境の大森林】で見かけた魔族もいるし、カオス過ぎるな。

 

 そんな思いで、ヴィーネ、キッカ、キサラ、ヘルメ、グィヴァ、ピュリン、銀灰猫メトを順繰りに見ていく。

 

 ヴィーネは、


「【バードイン迷宮】の中に突入している全身が鋼の魔族たちもいます。人族にも見える集団ですが強そうです。【影翼旅団】のパルダに似た者たちなのでしょうか」


 と指摘。やはり俺と似たことを考えていた。


「あぁ、もしかしたらそうかもな。全身が鋼の鎧でできているのか、もしくは掟で全身に鋼の甲冑を装備しないといけないとかかも知れない。が、その集団より、ミジャイの仲間たちだ。ロズコという方が外に脱出できていればいいが……」

「……はい」


 皆も頷く。


「にゃァ」


 銀灰猫メトも同意するように鳴いていた。

 キサラが不安そうに、


「わたしたちが下に降りて魔族たちと戦うのは危険ですね」

「戦いならば、格闘戦を主軸にしようか」


 キサラが前に出て、


「はい、ではわたしが」

「おう、頼む」


 皆頷いた。

 すると、下を見ていたミジャイが、


「陛下、皆は外には出ていないと思います」

「了解した。中に突入しようと思うが、いいか?」

「……はい、お願いできますか?」

「そんな顔をするな、突入しよう」

「はい!」


 ミジャイの笑顔を見て頷く。

 相棒の触手手綱を少し引き、


「相棒、一際大きい松ぼっくりの手前にある開けた場所に降りてくれ」

「ンン――」


 旋回していた神獣ロロは喉を鳴らして返事をすると、両翼を収縮させる。

 更に腹から伸ばした触手の骨剣を地面に刺して固定したのか、急に下降し始めて、制動もなく着地した。


 周囲に振動や風も発生させていない、とても静かな着地技で凄かった。腹から触手以外に橙色の燕の形をした魔力を噴出させていたのかも知れない。


 その相棒の頭部に片膝を付けた。

 柔らかい黒毛の頭髪を梳いて地肌を撫でてから立ち上がり、周囲の皆に、


「俺は<無影歩>を使いミジャイとキサラを連れて中に侵入しよう。その手前と中で争っている魔族やモンスターたちの争いは、できるだけ静観で行こうか」

「「「「「はい」」」」」

「にゃァ」

「ヘルメとグィヴァは、俺の両目に」

「「はい――」」


 ヘルメとグィヴァは一瞬で両目に入った。

 そして、神獣ロロから降りた。

 皆も続いて神獣ロロから降りる。

 

 銀灰猫メトは一瞬で大きな虎に変化。

 そこで閃光のミレイヴァルの銀チェーンを触る。

 魔力を込めると、銀チェーンは青が混じる銀色の魔力粒子と閃光を発してミレイヴァルを模った。


「陛下、ミレイヴァルがここに」

「おう。ミレイヴァルはヴィーネたちから指示を聞いてくれ」

「はい、お任せを」


 頷きつつ、波群瓢箪を出して魔力を送る。

 リサナを呼んだ。波群瓢箪からゴシック系の音楽が鳴り響くや否や、その波群瓢箪の天辺からリサナがニュルッと出現。

 全身から桃色の魔力を放っているリサナにはぱっと見変化なし。

「シュウヤ様♪」

「リサナ、魔界で早速出番だ」

「はい、戦いですね――」


 リサナは扇子を出す。

 三角帽子の穴から真上に出ている鹿の角が少し伸びたかな。

 ホルターネックのドレスに半透明な半身は変わらず。

 肌と密着しているキャミソールはタワワな巨乳の形を如実に表している。透けた半身の骨と内臓と血管に煌びやかな魔力の流れが見られるのはいつ見ても面白い。ミジャイもリサナの半身を見て驚いているが、巨乳の部分で目の動きが停まった。

 気持ちは分かる。直ぐに誤魔化すように視線が動いたが、脳裏に焼き付いたはずだ、それは指摘はせず、


「……おう、まだここは激戦ではないが、指示は皆に聞いてくれ」

「はい♪」


 ヴィーネ、ピュリン、キッカと銀灰虎メトを見て、


「静観と言ったが、攻撃してきたらやり返していいからな?」

「分かっています」

「「はい」」

「にゃァ~」


 頷いてから、【バードイン迷宮】の出入り口を見て、ミジャイとキサラに相棒を見た。


 相棒は子猫になって皆の足に頭部を衝突させていた。

 相棒なりの激励だろう。その黒猫ロロは「ンン」と喉声を発して俺の肩に乗ってくる。さて、ミジャイとキサラと頷き合う。


「キサラとミジャイ、【バードイン迷宮】に行こうか。少し歩いてから<無影歩>を使う」

「はい」

「あ、あの、<無影歩>とは……」


 歩きながらミジャイに気配を断つスキルだと説明していく。

 


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