千百十三話 <血鎖探訪>と【バードイン迷宮】に突入


 松ぼっくりの陰を移動しながら……。


 ※無影歩※

 ※隠蔽性能を高めてどんな状態でも<隠身ハイド>の効果を保つ※

 ※<隠身ハイド>の経験が要。暗闇の環境に適応した経験と熟練した<隠身ハイド>技能が必須※

 ※伝説のアサシンクリード一家の長、マクスオブフェルトが開発したとされる※


 と、<無影歩>のステータスに載っていた情報を伝える。

 スキル発動時に近くに仲間がいれば、<無影歩>の効果が仲間にも及ぶことを説明。

 だが、<無影歩>は絶対ではない、察知されることもあるとも語った。


 ミジャイは俺たちと前方を見つつ、


「<無影歩>は強力な気配殺し。<隠身ハイド>系のスキルの効果が上昇するのも素晴らしい」

「ミジャイも<隠身ハイド>系のスキルを持つ?」

「はい。戦争の依頼だけでなく暗殺依頼も請け負っていたので、<隠蔽>を持ちます」


 ミジャイは暗殺までこなしていたのか。

 悪業将軍ガイヴァーの魔眼にはあっさりと屈していたが、優秀だ。

 デラバイン族にとっては大きい戦力。


 カリィたちを魔界に呼ぶことも想定していたが、ミジャイたちで十分かも知れない。


「【バードイン迷宮】までの乱戦には巻きこまれないで済みそうだ。では、囚われている仲間の数を教えてくれ。または、仲間たちに関係したアイテムがあったら出してほしい」

「はい――」


 ミジャイは懐からアイテムを幾つか出した。

 真っ赤な布と液体が入ったポーション瓶に筒。

 お?


「真っ赤な布だが、それは血か? 囚われた仲間の血だったりするのか?」

「はい。これは魔傭兵ラジャガ戦団の戦旗で、十番隊までの全員の血がこの戦旗に染みこませてあります」


 おぉ~。

 視界に小さいヘルメが現れて踊り、


『ふふ、やりましたね! <血鎖探訪ブラッドダウジング>が使えます! 案外仲間を早くみつけられるかもしれないです』

『あぁ』


 とヘルメに返す。


「早く出してほしかった。それをもらっていいか?」


 ミジャイは血の戦旗を見て、


「これをですか?」


 血の戦旗は魔傭兵ラジャガにとっては大切な物のはず。


 ……『わしたちを殺した者に<死突>を! わしたち魔城ルグファントの八怪卿を潰し、わしたちの肉体を奪った者に復讐を! わしたちを封じた者に死を! ルグファントの戦旗を取り戻せ!!』


 と、魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちの言葉にあったからな。


 そのことを考えると気まずいが、


「……そうだ。俺は血を活かして、血の持ち主を追跡できるスキルを持つ。しかし、その戦旗を貫いてしまうことになる。いいかな」


 ミジャイの双眸が輝いた。


「構いません! 我々魔傭兵ラジャガ戦団の血の戦旗の誓いも、すべてが神聖ルシヴァル大帝国の魔皇帝様の物!」


 と宣言して血の戦旗を突き出してくる。


『……ふふ、閣下、ミジャイを眷属にしましょうか!』

 

 思わず笑う。

 ほんと、ヘルメらしい。

 ミジャイは俺が笑ったのを見てきょとんとしていた。


 キサラは気にしていない。


「ではもらう。あ、笑ったのは、左目にいるヘルメが、な?」

「は、はぁ、あ、はい!」


 と、血の戦旗を受け取る。

 早速<血鎖探訪ブラッドダウジング>を発動――。


 左手の<鎖の因子>マークから血塗れた鎖が生まれ出る。錨に見える血濡れた鎖の先端が、振り子時計のように左右に揺れた。

 その血濡れた鎖の<血鎖探訪ブラッドダウジング>が、血の戦旗を貫いた。


 早速、血濡れた鎖の先端が動いて一回りすると、一瞬【バードイン迷宮】とは反対方向を差した。


 焦ったが、血鎖の先端は反時計回りにぐわりと回って【バードイン迷宮】を指して止まる。


 血鎖の感度はビンビンだ。


 良し、同時に、乱戦模様が激しい周囲の魔族たちの中に魔傭兵ラジャガ戦団はいないということだ。


「魔傭兵ラジャガ戦団の皆は、【バードイン迷宮】の中にいることは確定だ」

「おぉ! ロズコにヒシンたちが生きていると分かるのですか!」

「……スマン、生きているかは分からない。だが、血の反応が濃いと分かる。傷を負ったか出血多量か、中には死んでいるメンバーもいるかも知れない」


 と正直に告げる。

 ミジャイは紅潮した顔のままドレッドヘアを紐で縛る。首に血管の筋が浮かび上がっていた。


 ミジャイの顎と首には大きな傷がある。

 そうして強気の表情となったミジャイは、


「分かりました」


 と返答。


「それで、囚われている仲間は何人なんだ?」

「最初は一番隊~五番隊を合わせた百名前後。移送の期間中に奪還を試みたせいで、人数は減っているはず。その中でも、二番隊の隊長ロズコはあらゆる武術に通じていて、実力的に抜きんでていました」


 だからロズコさんを探していたのか。


「了解した。あとは、魔界王子テーバロンテの眷属だと思う【バードイン迷宮】を支配していた魔歯ソウメルは、百足魔族デアンホザーのような見た目ではないんだな?」

「はい、四腕四脚で頭部と体は歯のような見た目です」


 頷いた。

 そして、ミジャイとキサラと黒猫ロロに、


「了解した。ではもう一度言うが、<無影歩>は絶対ではない。結界や看破スキルなどで普通に気付かれるかもだ」

「「はい」」

「仲間になってくれそうな存在や勢力がいたら助けつつ、共同で<血鎖探訪ブラッドダウジング>が示す方向に向かうかも知れない」

「分かりました」

「強行突破が必要な場面となったらダモアヌンの魔槍や炎を吐いてもいい。とにかく、<血鎖探訪ブラッドダウジング>が示す方向に向かいながらとなる」

「「はい!」」

「にゃご」


 と気合い溢れる声を発した黒猫ロロさんだが、見た目が子猫だけに、迫力は皆無。


 キサラに、


「【バードイン迷宮】が広かったら、槍が使えるんだがな」


 と語ると、澄んだ瞳のキサラは拱手してから、


「はい。しかし、狭くても、聖なる暗闇、仕込み魔杖もありますし、〝天魔女流白照闇凝武譜〟の<白照拳>と<闇擬拳>に、<血手光魔肺経>もあります。更に〝黒呪咒剣仙譜〟で獲得した<黒呪強瞑>で体術の強化も可能です」


 そうだった。

 新たなる<魔闘術>系統の<黒呪強瞑>を覚えたキサラはパワーアップしている。

 それに<黒呪強瞑>がなくても、俺の<魔手太陰肺経>の師匠のキサラだ。


 俺の背後を任せられる頼もしい<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人。


「了解した」


 キサラは頷いて、

 姫魔鬼武装をアイマスクに変化させた。

 黒が基調の【天凛の月】の最高幹部の衣装を活かしたノースリーブと最高に合う。


 そのまま三人と一匹で頷き合った。


 ミジャイは赤っぽさが混じる茶色の瞳。

 片方の眉は切り傷の痕があり、ないんだな。

 

 そうして、松ぼっくりの陰から出る。

 【バードイン迷宮】に向かいながら<無影歩>を発動――自然と一体化した感が強まる。


 キサラとミジャイの気配が消えた。

 足下にいる黒猫ロロは黒豹となったが、その黒豹ロロの気配も消えている。


 そのまま【バードイン迷宮】に向かう。

 魔族たちの争いには混ざらず前進。


 血飛沫が飛び交って……喧騒が激しいから結構ドキドキする。 

 周りは木々の根が多く足場は悪いが、魔族たちは気にしていない。


 そして、<無影歩>の効果は抜群だ――。


 だれも俺たちに襲い掛かって来ない――。


 ――飛び道具の魔弾や魔刃に気を付けながら足早に移動した。


 出入り口の岩場付近には百足魔族デアンホザーと髑髏の騎士の死体が多い。

 

 階段に転がっている死体には触れず。

 そのまま階段を上がっていく。

 出入り口付近は無人。


 先ほどは鋼鉄の兜と鎧を着た者たちが出入り口を確保していたが、もういない。


 百足魔族デアンホザーの部隊は出入り口から離れた左側で黒毛目玉の怪物アービターと似た眼球お化けたちと戦っていた。

 

 出入り口から【バードイン迷宮】の中に皆で入った。


 と、いきなり幅広な階段が出迎えた。


 横幅は五十メートル強。

 壁には均等に黄緑色に光る角灯のような魔道具が差されてある。

 下のほうは暗いところもあるから、角灯は破壊されたものもあるってことだろう。


 そんな階段の左では……。

 全身が蒼く燃えている髑髏の戦士たちと無数の腕で構成されている気色悪いモンスターたちが戦っていた。

 右では……。

 漆黒の魔力を放っている頭部なしの騎士たちと、ゴブリンから進化したと分かるイケメンゴブリンたちが戦っている。


 それらを無視して<血鎖探訪ブラッドダウジング>が示す方向の通りに幅広な階段を降りる。


 踊り場と地続きで左右に通路が続いているが、<血鎖探訪ブラッドダウジング>が示す方向は下。

 階段を下がること四つ目の踊り場で<血鎖探訪ブラッドダウジング>が横を指した。

 

 その<血鎖探訪ブラッドダウジング>が差す横の通路では……。


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