千九十四話 皆と談話と塔烈中立都市セナアプアに帰還

 陽を浴びているルシヴァルの紋章樹から銀色の葉が落ちてくる。

 徒長枝を有した万朶の木洩れ日は、神々しい。

 時間は昼過ぎで、風が心地いい。

 そんなルシヴァルの紋章樹が中心に立つ訓練場にいる皆は――。

 興味津々といったような表情を浮かべて俺が装着している鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を見ていた。その皆に向け、


「そうだ。これがライヴァンの世の装備品、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼」

「骨のようで白い鋼の防具にも見えますが、衣服の繊維の間が高密度に融合している……」


 黒髪が綺麗なサナがそう評してきた。

 頷いて、


「そうだな、この鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の手甲、肘当、胸甲、腰当ては硬くて頑丈。悪愚槍流の強化の他にも色々な効果を齎してくれる。そして、戦闘職業<霊槍獄剣師>を獲得していたから装備できたんだ」


 日本語でそう発言。皆は沈黙。

 少し遅れて南マハハイム共通語で同じ事を皆に伝えた。


 サナは俺を見て、


「戦闘職業、戦闘職業の<霊槍獄剣師>……<霊槍獄剣師>を持つから、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼が装備できた……」


 日本語ではなく、南マハハイム共通語で繰り返していた。

 そのまま思案顔を浮かべる。


 そして、


「なるほど……神界セウロスの次元と、この惑星セラの宇宙次元が近い故の理の一つですね。神々の魔法力、式識の息吹が、惑星セラの宇宙次元に影響を与えている。そして、神界セウロスの神々の一柱で在らせられる職の神レフォト様が、この惑星セラのすべての人の形をした生命体に加護を与えていると習いました。神獣のロロちゃんにもスキルなどがあるようなことも聞きましたので、すべての生きとし生けるものに加護があるように思えます。あ、わたしの戦闘職業も理解しました。<鳳凰院ノ魔術師>という名です」


 そう日本語を交えながら南マハハイム共通語で語る。


「へぇ」


 笑顔のサナは、隣にいるヒナを見た。

 学ぶのが早い。

 南マハハイム共通語は英語的な感覚か?


 ヒナはサナと目を合わせてから、とても嬉しそうに、


「はい、お嬢様に相応しい名です。鳳凰院家の正式な後継ぎがお嬢様だと、職の神レフォト様も認めてくださったのでしょう!」


 と語る。サナのことを慕っているとよく分かる。


 そのヒナに、


「ヒナの戦闘職業は?」

「あ、わたしは<格闘魔闘師>です」


 と恥ずかしそうに語る。

 別段、恥ずかしくないと思うが、ま、これも女性らしさか。

 そのヒナは、


「シュウヤさんたちに助けられた当初は戦闘職業の概念が、いまいち理解できなかったです。あ、でも……サナ様は色々と理解が早かったから、尊敬しています」

「ヒナも直ぐに理解したでしょ」

「お嬢様がご指導してくださったお陰です」

「ふふ、それは些細なこと。ヒナの素質が高いからよ」

「お嬢様……凄く嬉しいです」


 サナとヒナは微笑み合う。

 いい空気感だ。俺だったら、あえて脇腹を擽っていい空気感を壊したくなるが、しない。


「二人とも、過去の日本にいた経験を活かした魔術師系統の素質が高いということだろう」

「はい、サナ様は特に!」

「ふふ」


 飛行機に乗っていた他の転移者たちも救えたら良かったんだが……サナの部下だった外国の傭兵たちも経験を積めば、それ相応の樹海の戦力になり得たはず。

 

「サナは御守り様なども召喚可能だからな」

「はい!」

「他にも、サナ様は<美爪術>も使えます! そして、わたしよりも早く日本とは異なる魔力と魔術学識……魔力操作も学んで、<魔闘術>も覚えたんです」

「へぇ」


 サナはヒナの言葉に照れたようだ。

 少し顔が赤い。


 丸眼鏡が可愛いヒナは、


「ムンムンちゃんとオフィーリアちゃんも、お嬢様の魔力操作を褒めていましたよ。そして、サイデイルの西から出現したオーク戦では【戦魔ノ槍師】の又兵衛を召喚し、ダブルフェイスさんと異獣ドミネーターさんと、ソロボさんとクエマさんのフォローをしたのです。見事な活躍でした! 皆さんも褒めていました」

「……あ、うん」


 シュヘリアとクエマとソロボとヴェハノも頷いた。

 蜘蛛娘アキたちは無言。

 【八蜘蛛ノ小迷宮】にいたんだから当然知らないか。


 サナは、東日本十二名家の鳳凰院の次女で魔術師として活躍していた存在。


 そう言えば、アケミ・スズミヤも十二名家だった。

 そのアケミさんのことは言わず、


「……サイデイルの防衛に協力してくれていたのか」

「あ、はい、キッシュさんたちに少し怒られてしまいましたが……」


 クエマとソロボとハンカイとシュヘリアは苦笑している。

 サナとヒナは光魔ルシヴァルではないからな……。

 上に立つ者として、回復手段は色々とあるが、傷を受けてしまうリスクをできるだけ避けたいと思うのは当然の思考。


 蜘蛛娘アキたちは無言。

 ヴェハノは腹辺りに触れているムーの義手から出ている糸を指に絡ませ、ムーを少し引っ張って悪戯をやり返していた。


 ヴェハノは笑顔でムーを見ている。

 普段ムーと仲良くしてくれているんだな。

 感謝と同時に嬉しくなった。

 

 サナとヒナは日本語で色々と会話をしていたが、その会話を止めて、


「あ、済みません……その渋くて格好いい鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を鑑定すれば、神話ミソロジー級のアイテムなのは確実ですね!」


 と言ってきた。


 アイテムの等級も学んだか。

 城下町にはナーマさんもいる。

 魔道具店を経営しているナーマさんと仲良くなったのかも知れない。

 そのナーマさんのことではなく、


「そうかもな。詳しく説明しとくと……」


 と言いながら、装着している鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を見て、


獄星の枷ゴドローン・シャックルズを使い、タルナタムの使役に成功した俺は獄界ゴドローンの因子を取り込むこととなった。更に魔塔エセルハードの戦いでは、セル・ヴァイパーの鋏剣でミルデンを倒した際に<鬼喰い>のスキルと戦闘職業の<獄星の枷使い>を得られた。すると、その<獄星の枷使い>が、元々俺が得ていた戦闘職業<霊槍印瞑師>と融合し、<霊槍獄剣師>へと進化を遂げたんだ。そして、その時、邪神セル・ヴァイパーが接触してきた」


 と、南マハハイム共通語と日本語で伝えた。

 シュヘリアは、


「……魔塔エセルハードの戦い、【白鯨の血長耳】の緊急会合ですね。【聖魔中央銀行】のリン・ジェファーソンなどの各要人に上院と下院の評議員たちを守る戦いでもあったと聞いています」

「そうだ。俺たちを空から襲撃してきた敵の中には、後に<従者長>となるカットマギーもいた」

「あぁ、ママニたちから聞いた。空中戦といい、庭での戦いも激戦だったようだな。エヴァとレベッカも奮闘したが、【白鯨の血長耳】の幹部が戦死したとも聞いている」


 ハンカイの言葉に頷いた。

 

 表情には、別段嬉しいといった感じはない。

 ベファリッツ大帝国への復讐を乗り越えているハンカイだ。

 

 空極のルマルディと共に【白鯨の血長耳】と一悶着どころではない間柄のハンカイが塔烈中立都市セナアプアに来たら、どうなることやら……クレインはベファリッツ大帝国の最期の皇帝の血を引くからな。

 シュヘリアとヴェハノとアキも頷く。そのアキの部下たちは頭を垂れながら黙って聞いていた。


 とサナが、


「……【天凛の月】と【白鯨の血長耳】の関係性と魔塔エセルハードの戦いは、皆さんとの会話から、なんとなく分かっているつもりです……魔塔エセルハードで緊急の会合が開かれて、お偉いさんたちが集結していたと……そして、戦闘職業の事ですが……己が成長し、種類の違う戦闘職業を獲得すると、元々有していた戦闘職業と融合し進化する場合が多いとも聞きました……凄い話です!」


 と、気合いが入っているように語った。

 南マハハイム共通語の割合が多い。


「うん、今になってですが、わたしたちは、自分の体が転移した直後に変化していたんだな。と何となく分かるようになってきたんです。この世界はわたしたちの世界とは異なる仕組み。でも、可能性に溢れた素晴らしい宇宙次元なんだと! 色々と楽しみが増えました」


 と、ヒナが少し興奮気味に発言し、


「うん。同時に危険に溢れた世界だと……恐怖に怯えることもありました」

「あ、それは、はい……サイデイルに住めて本当によかった。南マハハイム地方の国々には、奴隷制度があるようですからね……」

「……だからこそ、キッシュさんを救い、サイデイルに平和を齎したシュウヤさんは凄い方なんだなと……改めて感謝と尊敬する思いを得たのです。そうした話をサナ様と毎日、南マハハイム共通語の練習がてらしていました」

「はい、わたしたちは運がいい」


 サナとヒナの言葉に、少し照れながら、


「……ありがとう。それも皆のお陰だ。キッシュ、シュヘリア、ハンカイ、ヴェハノ、アキ、ムーに、ここにいないサイデイルの皆にも感謝したい」

「陛下……わたしもですよ」

「うふ、主様♪」

「……っ」

「ふっ、俺も斧武術が磨ける環境に置いてくれて感謝だ」

「あぁ」

「「ふふ」」


 サナとヒナは互いに目を合わせると頷き合う。

 そして、俺を見ると、頬と首が斑に赤くなっていく。


 すると、シュヘリアが、


「……あ、陛下、邪神セル・ヴァイパーの件は初耳です」


 そうだったか?


「俺も聞いていないぞ。しかし、セナアプアで邪神と接触とはな? ペルネーテなら分かるが……」

「あ、わたしも邪神からコンタクトがあったことは知らなかったです」

「はい」

「知らなかったです~」

「わたしも知らなかったです」


 皆がそう発言。

 ヴィーネたちもすべては伝えきれていないか。


 頷いた。


 すると、ハンカイが、


「シュウヤはシテアトップとニクルスの十天邪像を持つ。邪神セル・ヴァイパーの十天邪像を入手したのか?」

「持っていない。その邪神との接触は一瞬で終了した。セル・ヴァイパーの鋏剣で敵を倒すと……どうやらその敵の魔素や魂がペルネーテの迷宮世界にいる邪神セル・ヴァイパーに向かうらしい。どうやって狭間ヴェイル黒き環ザララープを越えて邪神セル・ヴァイパーと思念会話が可能になったか謎だが……俺とゼメタスとアドモスを結ぶ楔のような物が、このセル・ヴァイパーの鋏剣ってことかも知れない」


 アイテムボックスから取り出したセル・ヴァイパーの鋏剣を皆に見せる。

 分離させて二剣としての運用も可能――。

 そのセル・ヴァイパーから魔力が出る。

 日本語でも同じことを説明。


 サナ&ヒナは頷き合う。


 ハンカイは、


「ほぉ……それがセル・ヴァイパーか、入手したのは……たしか魔宝地図レベル五の探索でだったな」

「あぁ」

「他の冒険者たちにとっては死に地図のレベル五。ですが、陛下たちのパーティにとっては死に地図ではない」

「うむ。邪神シテアトップの十天邪像の鍵を持つシュウヤたちイノセントアームズは、もう一つの異世界と呼べる二十階層に突入し、魔宝地図レベル五をこなした。そして、無事に地上に帰還を果たした。偉大な冒険者パーティ、イノセントアームズの成果の一つが、そのアイテム」


 ハンカイがそう発言。

 シュヘリアたちも頷いた。


「おう。白銀の宝箱に入っていた品の一つがセル・ヴァイパーだった」


 思えば神槍ガンジスも肩の竜頭装甲ハルホンクも、その白銀の宝箱から入手したんだよな。他にもレアアイテムは沢山入っていたし……。


 魔宝地図から出現する色取り取りな宝箱は凄まじい利益率だと思う。

 無数の冒険者パーティとクランが迷宮都市ペルネーテに挑んでいる理由も分かる。

 が、その分出現するモンスターも大量で、守護者級のモンスターも凄まじい強さだからな……単純に強くないと全滅は必至。


 と、ハンカイは、


「……邪神とコンタクトが可能な武器となると、相当レアな装備品となるが……」


 頷く。半笑いで、


「分かっているが、あまりつかっていない」

「……ふむ。まあ、邪神の駒ではないし、駒になるつもりもないということか。シュウヤなら、その邪神セル・ヴァイパーをも駒にしそうな感じではあるが」


 と語るハンカイはニカッと笑う。

 

「はは、それは言い過ぎだ」


 笑顔でそう返すと、


「ははは、冗談半分ではあるが、シュウヤならありえると思うぞ?」

「まぁ、いつかはあるかもな」


 と返した。すると、シュヘリアが、真面目な表情を浮かべながらセル・ヴァイパーを凝視。そのシュヘリアは、


「分離が可能な点も見逃せません。スキルも獲得できるようですからね」


 と発言。シュヘリアは二剣流。この武器も合うかな。

 そのシュヘリアは、


「しかし、そんな有益な事が多そうな武器のセル・ヴァイパーですが、神話ミソロジー級ではなく伝説レジェンド級と聞きました。不思議です」

「あぁ、ペルネーテのアイテム鑑定のプロ、スロザが鑑定してくれたんだ。鑑定結果に間違いはないはず」

「ふむ。古魔術屋アンティークの店主。クナと知り合いとも聞く。一等地に土地を持つように陰では色々な噂がある男だな……」

「あぁ」


 皆頷いた。

 

 呪神テンガルン・ブブバに呪われている店主。

 頭が禿げていて渋い方。


 ビルや空港がテロリストに占拠されても、あの店主なら、愚痴を言いながらも解決が可能だろう。


 と内心でボケていると、シュヘリアが、


「……陛下は、邪神セル・ヴァイパーに選ばれたということでもある?」

「それはあるかもな……」


 セル・ヴァイパーをシュヘリアに譲るのもアリか?

 と考えたが、シュヘリアが愛用している武器は……。

 サーマリア伝承のソール&ヴィルマルクだ。

 片方の魔剣の柄頭には魔眼を擁している超絶な代物。


 そして、ユイはアゼロス&ヴァサージという魔王級魔族の名が由来になっている一対の刀剣を持つ。

 レーヴェもオズヴァルト&ヒミカという一対の魔王級魔族の名がつく魔剣を持っていた。


 魔王級魔族ソールとヴィルマルク。

 魔王級魔族アゼロスとヴァサージ。

 魔王級魔族オズヴァルトとヒミカ。


 それらの魔王級魔族はサーマリア王国の建国時に活躍したんだろう。

 魔界セブドラの諸侯クラスの魔族ということか。


 そして、湾岸都市テリアでは……。

 サーマリアの王族の血筋らしき者が暗躍していたようだ。

 更に吸血鬼ヴァンパイアたちが他の者たちと戦っていたと……。

 クナとルシェルから聞いている。


 シュヘリアは、


「ある意味、インテリジェンスアイテムと言えるかもですね」

「……っ」


 ムーも興味を持ったのかセル・ヴァイパーを見てくる。

 蜘蛛娘アキと部下たちは、少し怯えたような表情でセル・ヴァイパーを見ていた。


 そのセル・ヴァイパーをアイテムボックスの戦闘型デバイスに仕舞う。


 と、ハンカイが、


「シュウヤは邪神シテアトップとニクルスの十天邪像を持つ。それが呼び水となって、いずれは邪神セル・ヴァイパーの十天邪像を入手できるかも知れないぞ」

「ありえる」


 頷いたハンカイは視線を斜め上に向け、


「しかし、ペルネーテの迷宮世界、邪界ヘルローネか……魔界セブドラといい、シュウヤの話を聞いていると、改めて世界の広さを感じるな……」


 頷いた。


「南マハハイム地方だけでも広いからなぁ、それでいて地下世界も広大だ。しかも、地上も地下も、地方ごとに数億年以上の歴史に溢れているのが、また凄まじい……」


 と発言。


「うむ、サイデイルを含む樹海だけでも途方もない密度。水晶池に、古代遺跡だらけで巨大な縦穴も多い。地下トンネル網の出入り口など……」

「樹海は高低差もあるしな、ランドマークだらけと言える」


 ハンカイは笑顔を見せて、


「あぁ、地図造りにドミドーンが嵌まるのも分かる」


 と発言。

 地下遺跡研究家のドミドーンと助手のミエか。

 もうすっかりサイデイルの住人だと聞いている。


 そのドミドーンのことではなく、


「……話を戦闘職業<霊槍獄剣師>と鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼に戻すぞ」

「うむ」

「戦闘職業<霊槍獄剣師>のお陰で、魔界、獄界、冥界、ライヴァンの世、神界の<光ノ使徒>装備及び<法具>の装備も可能となった。更に、スキルの<氷皇・五剣槍烈把>を【玄智の森】の世界で覚えられたのも、その戦闘職業<霊槍獄剣師>を得ていたお陰なんだ」

「「おぉ」」


 ハンカイは金剛樹の斧を持ち上げ、ニヤリとして、


「ほぉ……氷皇とは気になる名だ。五剣槍……連続技か!」

「その通り、奥義だ」

「おぉ、興味深い……<氷皇・五剣槍烈把>を覚えた、その玄智の森のことを聞かせてくれ!」


 ドワーフと白熊はなんとなくイメージが合うが、氷皇アモダルガは……ハンカイが可愛く見えるほど巨大で迫力が凄まじい。その友のハンカイが興味を持ったのなら喜んで説明しよう。


「最初は、玄智の森の【修業蝟集道場】から始まる。傍にはホウシン師匠とエンビヤもいたんだ」

「……武王院に住まう者たちか。しかし、ナミの<夢送り>は凄いスキルだ……スキルの獲得どころか、夢魔世界を通して、神界セウロスから分離した異世界へとシュウヤの精神体を渡したのだろう?」

「あぁ、そうだ。夢魔世界に水神アクレシス様の力が作用したからだと思うが」


 ハンカイは髭を手で掴むような仕種で『ふむふむ』と数回頷いた。

 ムーも真似して、ソロボにも視線を向け、顎を触るようなモノマネを見せていく。ソロボは少し笑ったような表情となる。


 厳ついが、笑顔は可愛いかもだ。

 

 そして、口の両端には、偶蹄目イノシシ科の哺乳類のバビルサが持つような歯牙が真上に伸びている。


 光魔ルシヴァルだから、あの歯牙が頭蓋を突き抜けても大丈夫だとは思うが……。

 そして、光魔ルシヴァルなりに、歯牙が進化を果たすかもな。


 すると、ハンカイが、


「神々の導き……では、その修業蝟集道場とやらの話を続けてくれ」


 頷いた。


「そこの修業蝟集道場の廊下は板の間で、雑巾掛けを行いたくなる廊下だったんだ」

「ん? シュウヤは掃除が好きなのか」

「おう、掃除よりも修業のほうが好きだ。雑巾掛けを行う修業とかな、『ベストキッド』という名作……あ、冗談の会話に移ってしまうから、真面目に説明するぞ」

「ふはは、シュウヤが雑巾掛けと言ったんだろうが」


 ハンカイと共に笑ってから玄智の森の修業蝟集道場の様子を思い出しつつ、



「すまん。で、そこの壁と天井には、神界セウロスの秘宝、神仙の譜の〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の芸術作品が彫られてあったんだが……」


 と語り、皆に向け、更に、


 ――土壁と木の壁の表面には……朧気な炎を喰らって樹を吐き出す巨大氷竜。

 ――水飛沫を浴びている大きな龍と大きな白蛇。

 ――それらの水浴びを受けて喜んでいるタツノオトシゴのような小さい蛇竜。

 ――幅の広い浅い川で大きな鮭を捕まえて喰う巨大な白熊。

 ――巨大な白熊の頭部には白夜を意味するような飾りが目立つ氷の冠が載っていた。

 ――その巨大な白熊が食い散らかした鮭のおこぼれを狙う鳥の群れ。

 ――その鳥は大きい。燕と似た姿だが、鷲にも見えた。

 ――海のような岸辺を駆ける大和鞍を身に着けた大きな馬。


 ――神楽笛を吹き琴を弾き太鼓を叩く仙剣者や仙槍者。

 ――滝を浴びている仙剣者や仙槍者。

 ――剣舞や槍舞で踊る仙剣者や仙槍者。


「などが立体的に盛られた加工で造形されていたんだ。芸術の極みだった……」

「「おぉ!」」

「〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟か……名からして、テンと関係があるのか?」


 ハンカイがそう指摘。


「そうだ、ある。〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟は神界セウロスの歴史の一部を表現していたと思う。で、俺は魔察眼と称号の覇槍神魔ノ奇想を意識した。すると、横壁と天井の空間ごと、〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の芸術作品が歪み始めた。造形も変化。『あれ?』と思って目に魔力を込めて瞬きすると、壁と天井の山形に盛られて加工が施された〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の芸術作品は歪んでいなかった。が、再びその〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の芸術作品がぼやけると……その芸術作品の真上に、墨汁の山水画のような幻影と、同じ色彩の仙剣者や仙槍者に、尻尾が複数ある仙王鼬族などの多種多様な仙武人が濃密に戦い合う幻影が浮かんだんだ」


 皆頷いた。

 アキは足の歩脚を増やしたり減らしたりを繰り返しては、体から糸を発して少し浮いたりしている。


 ハンカイは、


「……仙剣者と仙槍者の仙武人の幻影とは、神界セウロスの仙人と仙女たちだな。そして、テンの祖先が仙女と仙人。ということは、同じ年代の仙人と仙女たちの幻影ということか」

「そうだろう。テンがセラに堕ちる直前の、神界セウロスの仙鼬籬せんゆりの森の争いを描写している幻影か……または、神界セウロスから分離した後の玄智の森の幻影か……分離前の玄智の森か。正確には分からないが、とにかく神界セウロスの仙鼬籬せんゆりの森に近い場所の争いを描写した幻影だったんだ」


 ハンカイは頷いた。

 そして、


「<光魔ノ秘剣・マルア>とも通じる歴史を刻んでいる〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟とは凄まじい秘宝なのだな」


 その言葉に皆が頷いた。


「当時、ホウシン師匠とエンビヤたちには、それらの幻影は見えなかったんだ」

「ほぅ……」

「そして、その仙武人、テンの祖先かもしれない幻影が散ると、魔力粒子となって俺に飛来し、それを吸収した。すると……がよく使う<仙羅・幻網>と<仙羅・絲刀>と<羅仙瞑道百妙技の心得>を獲得できた」

「「「おぉ」」」

「そのテンは魔界セブドラに留まったと聞いているが……」


 ハンカイの言葉に頷いて、


テンたちも玄智の森の出来事を聞いて驚いていたよ」


 ハンカイは頷く。

 少し間を空けた。とりあえず、


「〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の話を続けるぞ」

「「「はい」」」

「うむ!」

「……っ」

「お願いします!」


 頷いてから、


「大きな鮭を喰う巨大な白熊などは、俺が持つ神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードに刻まれていた文字と一致する部分があった。だから、王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードに魔力を込めたんだ。すると……王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードは俺の手から離れて浮き、自動的にページが開いて白紙のページで止まった。その王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードから魔線が迸り、その魔線が〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟と衝突するや否や、そこに刻まれていた白熊の文字が光った。続いて、王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの白紙のページに文字が浮かびだした……その文字は――」


『善美なる氷王ヴェリンガー、融通無碍ゆうずうむげの水帝フィルラーム、流れを汲みて源を知る氷皇アモダルガ、魂と方樹をたしなむ氷竜レバへイム、白蛇竜小神ゲン、八大龍王トンヘルガババン――――霄壌の水の大眷属たち、知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。水垢離みずごりの清浄と栄光は水の理を知る。が、大眷属の霊位たちは、白砂はくしゃと白銀の極まる幽邃ゆうすいの地に、魔界のガ……封印された。その一端を知ることになれば、火影が震えし水の万丈としての墳墓の一端が現世うつしよに現れようぞ。が、雀躍じゃくやくとなりても、その心は浮雲と常住坐臥じょうじゅうざがだ。魔界セブドラも神界セウロスもある意味で表裏一体と知れ……何事も白刃踏むべし』


「とな。因みに、玄智の森の〝玄智山の四神闘技場〟で行われた〝玄智の森闘技杯〟で優勝後、白蛇竜小神ゲン様の装備も、この王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを利用して入手している。詳しくはまた今度……で、王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードから〝流れを汲みて源を知る氷皇アモダルガ〟の文字だけがヒラヒラと離れて浮かんでから、他の文字は閃光を発して消えると、壁と天井に浮き彫り状に刻まれている〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の白熊の造形から、本物の白熊がにゅるっと出現してきたんだ」


 南マハハイム共通語と日本語でそう説明。

 右のほうから黒猫ロロ銀灰猫メトの気配を感じた。

 訓練場の高台にくるようだ。


「「「おぉ~」」」

「その本物の白熊が、氷皇アモダルガなのだな」

「わぁ~、浮き彫りのような秘宝から本物の白熊が出現したのですね!」

「……っ!」

「ンン、にゃぁ~」

「ンンン、にゃァ~」


 と、訓練場に上ってきた黒猫ロロ銀灰猫メト


 尻尾をピンと立たせたまま、トコトコと皆の足に向かう。

 ムーの小さい足にまで、頭突きを行って体を寄せる。


 甘え上手な子猫たち。


 その黒猫ロロ銀灰猫メトはムーに捕まる前に、「「ンン」」と喉声を発しながら逃げてきた。

 

 俺の足下を一周した二匹。

 アーゼンのブーツの甲に小さい前足を乗せると、見上げてきて、つぶらな瞳で何かアピールしてくる。


 くっ、可愛い。


「どうした、相棒とメト、ごはんか?」

「「ンン」」


 と喉声を発した二匹は、アーゼンのブーツの匂いを嗅ぐ。

 そして、前転を行う二匹――。

 転ぶようにアーゼンのブーツへと体を擦り当ててきた。

 可愛い甘え方だな。素早く立ち上がってピンと尻尾を立たせているし、菊門ちゃんも可愛い。


 ――思わず片膝の頭で地面を突いて姿勢を下げた。

 相棒と銀灰猫メトは、俺のアーゼンのブーツの甲を、己の腹で擦って跨ぐようにゴロニャンコ行動を繰り返している。

 可愛いぽっこりと出たお腹には、産毛が隠している可愛い乳首さんが見え隠れしていた。


 可愛すぎる。

 そんな相棒と銀灰猫メトの頭部と腹を撫でてから――。


 皆に、


「――そうだ。その白熊が氷皇アモダルガ。その氷皇アモダルガの言葉は分からなかったが、相棒と同じくコミュニケーションは取れた。そして、氷皇アモダルガの肉球と似た硬い掌に掌を合わせたんだ――」


 と、寝転がる相棒の肉球を人差し指で突く。


「にゃ~」

「ほぉ~」

「「ふふ」」

「……っ」


 ムーも銀灰猫メトの前足に人差し指を押し当てると、銀灰猫メトは俺の反対の足側へと逃げた。


「……っ!」


 ムーは少しいじけたような表情を浮かべたから、そんなムーの頭部を右手で撫でる。


 そして、ゴロゴロ音を鳴らす黒猫ロロ銀灰猫メトの喉も左手で撫でながら、皆に、


「……その直後、氷皇アモダルガは魔力粒子となって散る。だが、その散った魔力粒子は俺の体内に入り込んできた。次の瞬間――膨大な魔力を得ると共に、<水の神使>と<王氷墓葎の使い手>と<氷皇アモダルガ使役>と<霊纏・氷皇装>などのスキルと恒久スキルを獲得していった」


 と言ってから、立ち上がって両手を広げた。

 黒猫ロロ銀灰猫メトは「「ンンン」」と喉声を鳴らし、俺の両手の動きに釣られて両手に飛び掛かってきて前腕に乗ってくる。


「「――ンン、にゃ~」」


 掌の大きさの二匹は、本当に俺の掌に乗った。


「「「おぉ」」」

「連続してスキルを……」

「詳細は初めて聞きました!」

「はい、叙事詩のようなお話です。でも、ロロ様とメトちゃんがとても可愛らしい~」

「はい、神獣様とメトちゃんは可愛い~♪」


 蜘蛛娘アキの言葉に「「ンン」」と喉声だけの返事を発した黒豹ロロ銀灰猫メトは掌を蹴って、前腕を伝うように両肩に上ってきた。

 

 二匹の可愛い体重を肩に得る。

 と、首筋に二つの小鼻の冷たい感触を得ながら……。


「ふふ、ロロちゃんとメトちゃんが、シュウヤさんの首に鼻キスを! トレビアン・ヌコの可愛さを超えている!」

 

 ヒナは跳び上がって大興奮。

 丸眼鏡は完全にズレていた。

 悧巧さを感じる黒い眼だが、やはり可愛い。


 そんなヒナを含めた皆に、


「ロロとメトの可愛さは分かるが、話はまだまだ続く。それから、玄智の森の鬼霧入道ドンシャジャが湧く空中迷宮と呼べる【二十八宿・妖霧鬼魔突兀瞑道】という場所に移動した際に……〝玄智闘法・浮雲〟の修業がてら、鬼霧入道ドンシャジャという名のモンスターに<霊纏・氷皇装>と<氷皇アモダルガ使役>を試したんだ。すると、白熊の氷皇アモダルガが俺の体から飛び出て、モンスターの鬼霧入道ドンシャジャへと直進、その鬼霧入道ドンシャジャの半分の体を喰らうと、そのまま幻影の魔力粒子となって俺に帰還、その幻影の魔力粒子と融合し合体した。そうして、<召喚闘法>と<氷皇・五剣槍烈把>を獲得できたんだ」

「ンン、にゃ」

「にゃァ」


 二匹が両肩から跳んで離れたから、ついでに――。

 <霊纏・氷皇装>と<氷皇アモダルガ使役>を実行。


 俺の体から氷皇アモダルガが出現――。

 そして、氷の鎧、防具のようなモノが体に出現していく。


 氷皇アモダルガは、訓練場の中央に突進していく。


「ガォォォ――」

「「「「おぉ」」」」」


 シュヘリアとヴェハノとクエマとソロボは歓声を発しながら拍手。ハンカイも楽しそうだ。ムーはびびってソロボの背後に逃げていた。


 その氷皇アモダルガは消えるように魔力粒子となって俺の体に帰還。合体はしない。


 唖然としているヒナ&サナに……。

 もう一度日本語で説明――。


「わぁ……白熊さんには驚きましたが、融合しているなんて凄い! そして可愛い! あ、ロロちゃんとメトちゃんも!」


 ヒナがそう発言。

 まだ眼鏡がズレている、可愛い。

 続いて、サナが、


「ふふ、シュウヤさんは修業が好きと皆さん言われますが、本当なのですね」

「おうよ、研鑽を重ねることは好きだ」

「……っ」


 ムーはソロボの後ろで樹槍を掲げて応えた。

 皆に、


「今の氷皇アモダルガと一体化すると、両腕に五つの白銀の刃を生やせるんだ。その<召喚闘法>のスキルが<氷皇・五剣槍烈把>となる。氷皇五剣槍流技術系統で、奥義<召喚闘法>。獲得条件には、<霊槍獄剣師>などの他に、剣と槍と複数のスキルが必須だったんだ」

「「なるほど~」」

「おぉ~なんか感動を覚えるほどのスキル連鎖ですね!」

「たしかに……積み重ねと修練のお陰で獲得できたのが<氷皇・五剣槍烈把>の奥義スキルであり、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼なんですね」

「あぁ」


 皆は納得しつつ鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を凝視。

 ムーも凝視、鼻息を荒くして、前髪が持ち上がっている。

 可愛い。


 シュヘリアは、


「……玄智の森の経験といい……【塔烈中立都市セナアプア】の様々な経験は、陛下にとって凄まじい貴重な経験だったと分かります」


 その言葉に皆が頷いた。

 魔界セブドラもあるからな……。

 ヒナは丸眼鏡に指を当てズレていた丸眼鏡の位置を直し、


「はい、その魔界の出入り口を有したセナアプア……上界と下界があるようですが、凄まじい都市です。そして、ペルネーテもヘカトレイルも、大都会なんですよね……」


 と、何かを考えるように発言していた。

 もしかして、サイデイルを離れて、それらの都市を冒険、体感したいのかな。まぁ、俺もそうだったしな、色々と世界を見てみたいよな。


 同時に、アキレス師匠の気持ちも理解できたような感じがする。

 否、ゴルディーバの里の家族たちの気持ちだな。


 俺が下山したい、外に行きたいという気持ちを、皆が理解して喜んで対応してくれた。ラビさんにもラグレンにも感謝だ。

 レファだけは、離れてほしくなかったんだろうが、最後は幼いなりに理解してくれたと思いたい。


 そんなゴルディーバの里のことを想いながら、


「……そうだ。アメリカ大陸を横断するような大河のハイム川には、城塞都市ヘカトレイル、王都ファダイクなど、大都市が点在している。勿論、街に村も多い。バルドーク山の近くには鉱山都市タンダールもある。そうした南マハハイム地方には、多種多様な種族が暮らしているんだ。大都市だと、百万人は暮らしていそうな印象がある」

「凄い!」

「はい!」

「……」

 

 人口は違うかも知れないが……。

 サナとヒナ以外は頷く。

 

「……セナアプアか。俺もここで様々な経験を積んでいるつもりだが、ますます興味を持った」

 

 ハンカイの言葉に頷いた。

 そのハンカイを含めた皆に、


「おう。で、この鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼なんだが、先ほども言ったが、元々は骨の塊だったんだ」

「ほぉ、骨の塊が防具に……」

「「へぇ」」

「「……」」


 ハンカイとヴェハノとアキたちは烈戒の浮遊岩の事象は聞いていないか。

 シュヘリアにクエマとソロボとサナとヒナは頷いている。


 アキは、鋏角で南無南無とするように擦っているのがどうしても目についてしまう。

 

 結構な美人でもあるアキ。

 そのアキと合体できるんだよな。

 指先を合わせてフュージョンってか。


 俺は俺でありたいが……。

 イモリザの第三の腕などがあるし、光魔ルシヴァルの宗主だ。

 蜘蛛王の能力を活かすこともアリかも知れない……。


 が、俺はあくまでも人型、一槍流の槍使いが理想だ。


 アチュードとベベルガと人造蜘蛛兵士たちは片膝を地面に付けた状態でこちらを見ている。


 人造蜘蛛兵士たちだが、人と蜘蛛が融合しているアチュードと少し似た造形だ。


 その皆に向け、


「烈戒の浮遊岩で、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を入手した直後のことも聞くか?」

「「はい」」


 サナ&ヒナは、俺の装備への興味が深そうだ。

 クエマが、俺が装着している鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を見て、


「主とレベッカさんから聞いていますが、直に聞きたいです」


 ソロボも、


「俺もメルさんたちから血文字で情報を得ていますが、聞きたいです。そして、その関連で、メルさんから『転移陣など移動が容易になれば、いずれ鉄角都市ララーブインと闇ギルド【髑髏鬼】の関連で、出撃をお願いするかも知れません』と言われました」


 闇ギルド【髑髏鬼】はペルネーテにも進出してきたからな。

 メルの父と戦っている存在もいる。

 

 そして、シュヘリアはルシヴァルの紋章樹をチラッと見てから、


「はい、女王キッシュからセナアプアの事象はある程度聞いていますが、陛下から聞きたいです」


 頷いて、皆に、


「鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の元の骨の塊に<血魔力>を送ると、骨の塊から骨の棘が出て手に突き刺さった。その棘から俺の<血魔力>を吸い取った骨の塊は、輝きを放ちつつ、骨の板のような不思議な魔術書に変化を遂げた。そして、その骨製の魔術書のような表紙には『鬼骨・魔霊氣』という文字と鬼のような顔が描写されていた。指を嵌め込む窪みもあった」

「そのようなことが」

「あぁ」


 少し間を空けてから、


「それでは、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を骨の板に戻すから見ていてくれ。ついでに衣装も変化させるとしよう」

「「「はい」」」

「了解」

「――っ!」


 ムーが急いでソロボの背後に隠れた。

 そう言えばムーも動体視力は良い……。


 ま、師匠の悪癖と思ってくれて構わない――。

 悪いと思いながらも肩の竜頭装甲ハルホンクも意識した。


 ――上下のインナーは漆黒のコスチューム。

 ――上着は師匠からもらった革ジャンを連想して右腕の一部のみ厚い材質の革にする。

 そして、全体的な素材は……。

 ――魔竜王素材とギュノスモロンの素材を主力に使うとして、左腕だけ七分袖にしよう。

 ――更に、革ジャンの胸元のボタンと留め金とポケットの模様は……。

 ヒトデの紋様と魔竜王と槍とハルホンクの模様にし、胸にはルシヴァルの紋章樹と俺と相棒の絵をイメージしていく。


 続いて鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を意識。


 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の胸甲と――。

 ――腰当。

 ――肘当。

 ――手甲。

 が浮くと、それぞれから魔線が出て繋がった。

 それらの鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼は宙空に集結し融合して骨の板に戻った。

 ゆらゆらと揺れている骨の板は浮遊しながら左手の掌に収まってきた。

 骨の板の表紙の鬼の顔はホログラフィック風かつ劇画タッチで、アメコミ風だ。

 

「わぁ~」

「おぉ、衣装が……そして、本当に板のような魔術書に変わった」

「はい、骨の板、石板にも見えますが、魔造書のような印象です」

「シュウヤさんが素敵な衣装に変身したことも見逃せません!」

「ふふ、シュウヤさん、その素敵な衣装も鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼と関係が?」


 サナとヒナがそう聞いてきた。


「今の格好は、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼とは関係がない。革ジャンはアキレス師匠に譲ってもらった物を連想しつつ、肩の竜頭装甲ハルホンクが得た素材を流用した完全オリジナルだ」

「前にも増して衣装のセンスがいいです!!」

「うん、日本にあるような革ジャンと似ているけど、違う! 戦闘にも使えてお洒落な装備をイメージできるって素敵……」

「うん、漆黒のインナーにも銀色の模様があるし、センスがある!」


 俺の知らない地球文明の日本で育ったサナとヒナがそう褒めてくれた。

 サナとヒナが育った地球文明も結構な高度文明だろうから、興味がある。

 毎度だが、俺の知る地球が存在する宇宙次元から幾重にも分岐した宇宙次元なのか……それとも宇宙創生のインフレーションの際にできたとされる泡宇宙の中に存在していた物理定数が異なる宇宙次元の太陽系第三惑星地球かも知れない、と考えてしまう。


 パラレルワールドに多次元宇宙など、フィボナッチ数列に振動数と周波数を考えると面白い。人の脳の中では量子のもつれが行われているとか……。

 人々の意識次第で世界は変わるとも言うからな。


 と、ヒナが、


「モノトーン気味ですが、ピンポイントにヒトデと槍のような銀の模様があります。渋くて可愛さもある。新しい!」


 と言ってくれた。


肩の竜頭装甲ハルホンクが俺のイメージを活かしてくれるんだ」

「ングゥゥィィ」

「「はい」」

「では、骨の板から装備に展開させる」


 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の骨の板を意識。

 一瞬で、骨の板は鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼に変化。


 その骨の防具類の鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼は紫色の魔力を発しつつハルホンクの防護服の表面を移動し、防具に合う位置の前や真上で静止した。


 骨製の胸甲は、胸の前で浮かんでいる。

 骨製の腰当は、腰の前に浮いていた。

 骨製の肘当は、両腕の真上だ。

 骨製の手甲ゴーントリットは手の上に浮かぶ。


 防具の表面には鬼の顔の紋様が浮かんでいて渋い。

 その浮いている鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の胸甲、腰当、肘当、手甲が装着された。

 

 ポーズを取りたくなったが、せず――。

 直ぐに鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を肩の竜頭装甲ハルホンクへと吸い込ませるように消した。


 ソロボは「おぉ」と小さく歓声を上げてから片膝で地面を突いて頭を下げる。


「……鬼神キサラメ様と戦神グンダルン様に認められた大いなる主よ。血潮が沸いたぞ……このソロボ、光魔ルシヴァルの<従者長>として、改めて主に忠誠を誓いまする!」

「あぁ、わたしもだ! トトクヌ支族の【鬼神の一党】の誇りを取り戻してくれた主――」


 クエマとソロボが片膝で地面を突いて、頭を垂れてきた。

 ムーも真似しようしているから、笑顔で、


「はは、ムーが真似しようとするから止めてくれ。さ――」


 クエマとソロボに近付いて、手を差し出した。


「あ、はい!」

「主――」


 二人に立ってもらって

 そのクエマとソロボに、


「魔界帰りに、ララーブイン山の奥地にある鬼神キサラメ様の修業場所に向かうかも知れない。が、現時点ではいつになるか分からない」

「「はい」」

「その際だが、ついでに鉄角都市ララーブインの闇ギルド【髑髏鬼】の盟主に挨拶するかも知れないな。そして、このサイデイルの防衛メンバー次第だが、ララーブインに向かう時は声を掛けよう」

「「ハッ」」


 <従者長>クエマとソロボに続いて光魔騎士シュヘリアと、蛇人族ラミアのヴェハノが、


「「はい!」」

「……っ!」


 ムーもララーブイン山に行きたいような感じの顔色を示す。危険な目に遭うかも知れないが、いい修業になるのか? が、ここに居て安全に暮らしてほしい思いが強い……。


「了解したが、ここも忙しいからな」


 というハンカイの言葉に頷いた。

 シュヘリアも、


「ルシヴァルの紋章樹が成長し、妖精ルッシーも強まって防備が強まったサイデイルですが……城下町と通商路の守りは大変ですから」


 と発言。

 血獣隊、紅虎の嵐、墓掘り人、ルマルディ、アルルカンの把神書、ロターゼがいるからサイデイルの防衛は成り立っていた面がある。


 そのルマルディとアルルカンの把神書の空軍が抜けることになる。

 そうなると制空権が心配だから、トン爺は俺にレネ&ソプラの眷属化を勧めてきた。

 

 直ぐに眷属化を行うのもアリだが……。

 処女刃があると時間がかかる。やはり、魔界に戦力を送ってからだな。

 

 すると、後方のログキャビンからルマルディとアルルカンの把神書が、


「皆さん~」

「よぉ!」


 と出てきた。

 アルルカンの把神書は、俺の耳元に来ると、


「主よ、改めて、ルマルディを頼むぞ……」


 と伝えてきた。


「あぁ。ルマルディとアルルカンの把神書、準備はできたようだな」

「はい、塔烈中立都市セナアプアに戻ります」

「おうよ、できているぜ」


 ルマルディとアルルカンの把神書はそう発言しつつ、蜘蛛娘アキたちとシュヘリアと会話をしていく。


「では、皆、キッシュたちがいる女王の間に行こうか」

「「「はい!」」」

「うむ!」

「ンン」

「にゃァ」


 両肩に黒猫ロロ銀灰猫メトを乗せたまま走る。

 訓練場の高台から滑るように下に向かった。


 女王の間に入り、キッシュとデルハウトたちに挨拶。キッカを交えて色々な話をした後、城下町に出ていたクナたちが戻ってきて合流。


 その後、【剣団ガルオム】を取り込んだ【天凛の月】の運営方針を血文字でメル、ヴェロニカ、ベネット、カルードたちと話し合う。

 カルードと傍にいる鴉さんの血文字を通してポルセンとアンジェともコミュニケーションを取った。

 ノーラは、エヴァの故郷近くを移動しているようだが、まだ見つけられていないようだ。


 貿易や傀儡兵に利用できる素材が豊富なホルカーバムの地下街アンダーシティの一角を占拠した【天凛の月】に抵抗するように【血印の使徒】の反撃が激しくなったせいで、姉のノーラ捜索は一時断念しましたという報告も受けた。


 そうして情報交換を行ってから、地下に向かう。

 転移陣から塔烈中立都市セナアプアの転移陣ルームに帰還した。


「ンン――」

「にゃァ~」


 先に黒猫ロロ銀灰猫メトが走った。

 ペントハウスの二階の渡り廊下から下を見ながら歩いていると、


「ご主人様!」


 と、下からヴィーネの声が聞こえてきた。

 二階から飛び降りたくなったが――。

 

 素直に廊下を走り、階段を下りて皆がいる一階に戻った。


「――ご主人様!」


 また俺を呼びながら飛び込んできたヴィーネを抱く。


「はは、ヴィーネ……」


 可愛いヴィーネの体重とおっぱいの膨らみは変わらない。

 そして、長い銀髪が顔に触れて、いい匂いを堪能~。


 ヴィーネの耳元と首筋にキスしたくなったが、自重した。

 ヴィーネは、耳元で、


「ご主人様、魔界の出来事をすべて! 聞いて覚えたぞ……」


 と切なそうに言ってくれた。

 ヴィーネの唇が首筋について、数回キスされた。

 嬉しい思いのまま、俺もヴィーネの首筋にキス――。


「ぁん……」


 喜ぶヴィーネの背中を……感謝の思いと、魔界セブドラに向かったことでの寂しさを合わせて……。


 『ごめんな』と謝るように撫でた。


 そして、


「……ヴィーネも魔界セブドラの援軍に来るか?」


 と聞くと、微かに頷いて、


「はい……」


 と言ってくれた。

 ヴィーネがいれば非常に心強い。

 が……塔烈中立都市セナアプアの防御が不安だ……。


 まぁ、それは仕方がない。


 そのヴィーネは皆の気配を察して離れた。


 レベッカ、エヴァ、クレイン、ビーサ、ヘルメとも抱き合う。

 

「閣下、バーソロンとピュリンと共に、魔界セブドラの事象を一から詳しく説明しました~」 

「おう、ありがとう。ピュリンとバーソロンもありがとうだ」

「「はい!」」


 ユイとキスマリもいたが、抱きついては来ない。

 レベッカが、再度俺に抱きつきながら――。

 

 背後にいたルマルディたちを見たのか、


「あ、ルマルディにハンカイさんもいる!」

「はは、まったく、シュウヤに夢中な金髪レベッカは変わらんな?」


 と、背後にいるハンカイが笑いながら挨拶。

 レベッカは俺から離れた。


 その二人を見てから、一階を見渡す。

 カットマギー、レンショウ、カリィはペントハウスにも植物園にもいない。


 外か魔塔ゲルハット内かな。

 レベッカは、


「うん、ごめん。シュウヤを見ると気持ちが抑えられないのよ……」


 と言いながら、頬を赤く染めていた。

 そのレベッカは、俺をチラッと見てから、ハンカイたちに挨拶していく。


 ルマルディは、


「ふふ、気持ちは分かりますよ。そして、皆様、お久しぶりです。わたしも光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人として、塔烈中立都市セナアプアに戻ってきました」

「うん、家族で姉妹、よろしくね、ルマルディ!」

「はい!」


 レベッカとルマルディは握手。


「おう、俺も握手したいぜぇ、レベッカよ!」


 アルルカンの把神書もそう言ってレベッカに近付くが、


「ンン――」


 喉声を響かせた相棒に噛み付かれる。


「ひぃぁぁぁ、そこは噛むなぁ、って、俺を運ぶなぁぁ」


 と言いながら、相棒に運ばれていく。

 

「ンン――」


 銀灰猫メトも追い掛けていった。


「ん、ルマルディ、血文字でも言ったけど、<筆頭従者長選ばれし眷属>化おめでとう。これからもよろしくお願いします」

「あ、はい。エヴァさんもよろしくです」

「お帰り~! ルマルディとキッカ。そして、評議員ヒューゴ・クアレスマにぶっこみをかけるならトコトン付き合うからね。レザライサたちとは仲良くなったから喧嘩は止めてほしいけど」


 と、ユイはマジ顔で語る。


「はい、大丈夫です。【天凛の月】と【白鯨の血長耳】の同盟は重要と理解していますから。あ、評議員ヒューゴ・クアレスマと揉めたら、お願いするかもです」


 ユイは「うん」と頷いてから、俺に抱きついてきた。

 優しく、そのユイの背中を撫でていく。


 胸元に顔を埋めていたユイは数回頷いて、


「ふふ、安心安心~。あぁ、癒やされる~。でも、なんだろう。このシュウヤの匂いと温かさを得ると、ジュンって感じちゃう……」


 と、恥ずかしそうに小声で言ってくれた。

 俺も感じてしまうがな。


 とは声に出さず、可愛いユイの背中に手を回して、ユイの抱きしめを強めた。


 ユイは「ぁ……」と小さく喘ぎ声を発すると、強く俺を抱きしめてきた。


 そのユイは、俺から離れて、


「ハンカイさんも、久しぶり」

「おう、塔烈中立都市セナアプアでは大活躍しているそうだな」

「はは、うん、副長メルの代わりもあるけどね。最近はペレランドラが色々と精力的に活動してくれているから、楽になったの」

「ほぉ~」


 と、ハンカイと【天凛の月】の塔烈中立都市セナアプアの活動の会話をしていく。


 エヴァが、


「ん、蜘蛛娘アキと知らない部下さんたちと皆、ひさしぶり。シュウヤもお帰りなさい。皆に魔界セブドラの出来事をすべて説明したつもり。あ、亜神夫婦のお墓には行った?」


 エヴァがそう聞いてきた。

 勿論、ルマルディと奮闘した後に、


「あぁ、ジョディとシェイルと果樹園に行った。途中に採取した花で、皆の分も献花をしといた。その後、ムーの義手と義足のメンテナンスと訓練に……今までのことを説明した」

「ん」

「うん、血文字で伝えていたけど、伝わっていないこともあると思うからね」


 レベッカの言葉に皆が頷く。


「ん、ムーちゃんは元気?」

「凄く元気だった。そのムーに〝闇速ベルトボックス〟をプレゼントしたら喜んでくれた」


 ムーの笑顔を思い出すと活力が湧く。

 それは皆も同じ気持ちなのか、笑顔満面となる。


「ん、ふふ、わたしも凄く嬉しい!」

「うん、それを聞いたら、ムーちゃんと会いたくなったわ」

「あ、マスターたち、お帰り~」

「ワン!」

「グモゥ!」


 台所にいたミスティたちも寄ってきた。

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