千七十五話 円盤大顔お化けと<風獣戯画>と<海獣戯画>の極意
闇烙竜ベントラーに乗って【闇雷の森】を後にした。
「ギュロォォ」
「ギュリァァ」
闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスは元気な声を発した。
隣の上空を飛翔している闇烙龍イトスの頭部付近には光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが見えた。
魔雷教の方々の一部はイトスの背に乗っている。
イトスには背鰭のような部位があった。
俺たちを乗せている闇烙竜ベントラーの頭部と厳つい肩にも魔雷教の方々は乗っている。
ベントラーの両肩はアメリカンフットボールのポールショルダーにも似ていた。
その竜と龍に乗ってバーヴァイ城に向かう。
【闇神寺院シャロアルの蓋】と【闇雷の森】に結界を張ったと思われるレンブリアさんと、バスティアンさんの体の動向が気にはなるが、俺は闇神アーディン様の正式な眷属ではないしな。
――それに、【闇雷の森】はもうかなり後方だ。
俺たちは魔界セブドラの真夜を飛翔しながら――。
先を駆ける神獣ロロディーヌを追いかけるように進んだ。
俺たちが普段乗ることの多い神獣ロロディーヌ……。
その凜々しい後ろ姿を見て、改めて、強い感動を覚えた。
姿は黒豹と黒獅子に黒馬が半々と言いたいが……。
まあ、ネコ科風の美しさと力強さを併せ持つ黒い神獣と言えばいいか。
そんな歌詞にもありそうな言葉がポンポンと浮かぶ相棒ちゃんは、時折高々と跳躍を敢行し、前方へと跳ねるように飛ぶ。
巨大な後ろ脚で蹴られた山が吹き飛ぶ様は凄まじい。
その
刹那、左上と右上の真夜に巨大な魔素を察知。
「シュウヤ様、モンスターの気配です」
「あぁ、魔界セブドラの空も弱肉強食かな」
ビュシエは見上げながら<血道・武具生成>を発動。
片手に<血魔力>が集結。
一瞬で鉄球が備わるメイスを生み出す。
「――はい。セラと同じように苛烈」
そのビュシエがそう返してくる。
バーソロンにも目配せしつつ、
「……そりゃそうだよな。セラよりも魔界のほうが強そうに思えるが」
「一概にそうとは言えないかと」
「はい」
ビュシエも頷く。
ヘルメとグィヴァにも視線を向けると、コクコクと頷いていた。
フィナプルスは見上げてから、隣を飛翔している闇烙龍イトスと後方に気を配ってくれていた。
更に、口から先端が細まった紅蓮の炎を吹いている。
炎の槍にも見える紅蓮の炎が、黒い飛来物を撃墜。
その
同時に姿を大きい黒猫に変化させた。鼻がクンクン動いている。
攻撃を繰り出してきたモンスターに反撃か。
同時に美味い匂いも察知したようだ。
「「おぉ?」」
「おぉぉ~ロロ殿様が~」
隣の宙空を飛んでいるイトスに乗っているゼメタスの声だ。
アドモスも見えたが、声は聞こえない。
「わぁ~本当に巨大な黒猫ちゃんが真夜の空を飛んでいる!」
「ロロ様の機動は面白いですが、相手も巨大ですよ」
「「……」」
「神獣様……」
「ロロ様は巨大な黒猫の姿でとても可愛いですが、可愛いは正義と、ベントラーやイトスに実力を示すつもりなのでしょう」
ヘルメの説明が少し面白い。
「可愛い……でも陛下、大丈夫なのですか?」
リューリュがそう聞いてくる。
「大丈夫だと思うが、俺も参戦しよう」
「大きいモンスターは一体、否、二体ですか、私も出ますか?」
「陛下、わたしも」
「ビュシエとバーソロンは、闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスの近くにいてくれ。ナギサは俺と相棒の戦いを見ておくといい」
「「はい!」」
「分かりました」
「ヘルメとグィヴァ、両目に来い。ちょいと
「「はい――」」
「はい、守りはお任せを」
「ハッ」
一瞬で液体となった常闇の水精霊ヘルメを左目に格納。
右目に黒い閃光を浴びるように闇雷精霊グィヴァを格納。
ゼロコンマ数秒もない速度だったが、右目の有視界に閃光が走った。
少しビリビリ感を右目に得たから混乱を覚えたが――。
これはこれで癖になりそうだ。そして、前にも試して平気と分かっているが、念の為、もう一度カレウドスコープを確認しよう――。
人指し指の腹で――。
右頬の金属素子のカレウドスコープをポチッとな――と触って起動させた。
普通に視界の解像度が上昇し、▽のカーソルにスキャンも可能となった。
よし、同時に右腕の戦闘型デバイスの風防硝子の真上に
闇烙竜ベントラーに乗っている皆の位置情報がしっかりと表示されていた。
そのまま
目の前に仙大筆と仙魔硯箱が出現。
同時に闇烙竜ベントラーの頭部から離れた――。
神獣ロロディーヌは黒い火球と墨のような攻撃を避けまくっている。
と、突進した神獣ロロディーヌ――。
神獣ロロディーヌが向かった先にいる巨大モンスターは……。
蜻蛉のような羽と蝙蝠のような皮膜が融合している六枚の翼を背中に有した大怪物か。
頭部と体に無数の象の鼻と一対の長細い鎌刃腕を持っている。
象の鼻から繰り出されていく墨を――神獣ロロディーヌは、口から吐いた炎で相殺した。
炎の息吹を口に吸い込みながら鎌刃腕を触手骨剣で貫く。
そのまま体から複数の触手を前方に伸ばし、それらの触手から出た骨剣を大怪物の体に突き刺しまくる。
と、その突き刺した触手骨剣を収斂させて大怪物との間合いを潰すように近付く。両前足でしっかりと鎌刃腕の根元ごと大怪物の体を掴むと、そのまま大怪物が吐いた炎を口から吸い込みつつ、その口で大怪物の体に噛み付いた。そして、至近距離で紅蓮の炎を吐き出す。
大怪物は炎に包まれながら墜落しつつ大爆発。
凄まじい魔素を得られた!
神獣ロロディーヌは、宙空で留まりながら「ガルルルゥ」と唸り声を発して咀嚼中だった。
そんな神獣ロロディーヌに向かう新手の大怪物を凝視。
見た目は空飛ぶ円盤……が、なんだありゃ。
円盤は円盤だが、上下に、角を額に生やし、三眼を擁した頭が禿げているゴブリンと似た巨大な頭部が嵌まっていた。
その眼球は眼窩から溢れた気色悪いヘドロに押し出されるようにヘドロの上に浮いていた。
ヘドロの液体のようなモノは零れて散って一種の攻撃になっている。
円盤は横回転しているから、その回りに輪状の魔法の刃が生成されていた。
ヤヴァそうな敵だ。
あのモンスターにも名はあると思うが、とりあえず円盤大顔お化けにしようか。
冒険者ギルドの等級で表すなら、討伐ランクはSS位か?
円盤大顔お化けは、巨大な
光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装のまま――前進――。
《
<血道第三・開門>――。
<
<水月血闘法>を発動。
「――相棒、食べながらでいいから此方側に来い――」
モグモグと口を動かし喉元を膨らませている暢気な巨大な
「ンンン、にゃおお~」
と鳴きながら飛翔してきた。
同時に、その相棒を追うように円盤大顔お化けが近付いてくる。
左手でその円盤大顔お化けを掴むように掌を翳す。
そして、視界に浮かぶ仙大筆と仙魔硯箱に墨の魔力もあるが……。
最初は――。
《
水の魔法陣が目の前に生成される。
そこから凍った刃たちが滲み出て、一瞬で縦と横に重なり合いながら巨大な氷の網と化して直進していく。
一方、円盤大顔お化けは超音波的な魔力の波動を上下の頭部から吐き出した。
気象悪い色合いの波動攻撃か。
無数の巨大な氷の網と、その超音波的な魔力の波動が宙空で衝突。
最初の《
連続的に超音波的な魔力の波動と、《
と、その超音波的な魔力の波動はドッと音を立てて消えた。
そして、一つの《
円盤大顔お化けは「「ウギョァァァ」」と変な悲鳴を轟かせてひっくり返った。
上と下の三眼を有したゴブリン顔を何度も晒す。
ゴブリン顔というか鬼顔か。
口から出ている長い舌のようなモノが宙を躍っていた。
額の角は折れて、その顔は凍り付いていく。
が、円盤大顔お化けの体は切断されていない。
その回転しながら後退する円盤大顔お化けの体に、更に二つの《
続けざまに残りの《
円盤大顔お化けの円盤部分が大きく欠けた。
が、まだ生きている円盤大顔お化けはタフだ。
円盤大顔お化けは回転しながら後退していった。
円盤大顔お化けの周囲に黒色と朱色の血飛沫が飛び散っている。
円盤大顔お化けの体には網目状の傷が多い。
大小さまざまな賽の目状の血肉が、これでもかとブラブラ揺れていた。
今にも死にそうに思えた円盤大顔お化けだったが、体の魔素が急激に増える。
内部の心臓部が優秀らしい。
円盤大顔お化けが虹色に光る。油膜のようなモノに表面が覆われた。
石油のように虹の環がその表面を走ると、円盤大顔お化けの体の再生が始まった。
その円盤大顔お化けは、
「「ギュゲガァ、ゲェッベ!!!」」
またまた奇声を轟かせる。
「にゃご!」
円盤の上下に備わる顔の口から縦に連なった腕がニョキニョキと生えて伸びると、刃となった。
円盤大顔お化けに向かっていきそうな相棒を「相棒、あいつは俺が倒す」と言って止めてから、
「下で動きを止めている闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスに、皆の守りに専念してくれ」
「ンン」
と、俺の頬と背中を長い尻尾で撫でてくれた。
「あはは、大丈夫だ」
「にゃ」
優し気な声を発した
円盤大顔お化けは回転しながら飛来してくる。
「「グヨヨ、バヨバヤ……ゲェッベァ……ゲゲファヴァ、ゲガ?」」
と何か言いながら動きを止めた。
円盤大顔お化けの言葉を翻訳すると、
『あの巨大な黒猫は強烈で強い。要警戒だが、下に逃げたのはなぜだ?』だろう。
そんな円盤大顔お化けに向け――。
<
続けて<
円盤大顔お化けは、奇声を発して横から斜め上へと移動を繰り返す。
速度が上昇した円盤大顔お化けは強まったか。
その円盤大顔お化けは、禿げている部分から閃光を発した。
二つの閃光を発した円盤大顔お化けは――。
<
『閣下、<精霊珠想>の準備はできています』
『御使い様、<闇雷想腕>の準備もできています』
『おう、後ほど使うかもだ。今は――』
接近戦は望むところだが、後退――。
「「グヨヨ、ゲェッベ、ベァァ、ゲェッベェェ」」
俺を追ってくる円盤大顔お化けは奇怪過ぎる。
雷炎槍エフィルマゾルを装備してシュリ師匠から学べた<雷炎槍・瞬衝霊刃>を試したい。<闇神式・練迅>を使用しながら使えばかなり凶悪な<魔槍技>になるはずだ。トースン師匠は<悪愚槍・鬼神肺把衝>を用いていたが。
そして、<鬼想魔手>に魔槍か神槍を持たせて繰り出す<魔雷ノ風閃>などに……。
他にも闇神アーディン様との稽古で獲得できたスキルは豊富……。
だがしかし、今回は、円盤大顔お化けと相対しつつ後退を続けて――。
――<経脈自在>を意識、発動させる。
――<黒呪強瞑>も発動だ。
――<魔闘術の仙極>も発動。
――<闘気玄装>も発動。
――<破壊神ゲルセルクの心得>を意識、発動。
――<霊魔・開目>を意識し、発動。
――<滔天仙正理大綱>を意識、発動。
――<滔天魔経>を意識し、発動。
――<龍神・魔力纏>を発動。
――<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動。
――<光魔血仙経>を意識して発動。
ゼロコンマ数秒も経たず――。
発動していた<水月血闘法>に様々な<魔闘術>系統が重なるように融合を果たす。
風獣墨法仙帖と風獣仙千面筆帖を読み、理解し――。
ハジメ師匠か不明な仙人様と修業を果たした成果を試したい。
風獣仙千面筆流と海獣の流派も活かす――。
後退しつつ、墨の魔力を操作して周囲に展開させた。
<風獣戯画>と<海獣戯画>の恒久スキルを意識し発動――。
『六壬式』のような細かな方陣が浮かぶ。
同時に仙大筆を操作し――。
魔力をかなり消費する覚悟で――。
<海獣戯画・福神龍鉤蛇ベキカル>――。
<風獣戯画・福神蹴架トウジョウ>――。
<海獣戯画・福神歳刑ディン>――。
を連続発動――周囲の水墨画の波頭と波頭が重なる。
その面に浮くように現れた闇炎の墨模様と油膜染みた水墨画が
それら墨の魔力の世界から瞬く間に――。
福神龍鉤蛇ベキカルと福神蹴架トウジョウと福神歳刑ディンが生まれ飛び出ていく。
福神龍鉤蛇ベキカルと福神蹴架トウジョウと福神歳刑ディンは仙大筆と墨の魔力と魔線で繋がっている。
福神龍鉤蛇ベキカルは巨大な龍で、男型の福神蹴架トウジョウと女型の福神歳刑ディンは巨大な魔人風だ。
福神蹴架トウジョウは巨大な棹のような物を持つ。
福神歳刑ディンは大刀を持つ。
福神蹴架トウジョウは螺旋回転しながら宙を飛翔。
福神歳刑ディンは直線機動。
福神蹴架トウジョウは福神龍鉤蛇ベキカルを追い抜くと、円盤大顔お化けが繰り出してきた墨の爆弾のような遠距離攻撃を巨大な棹を振るって消滅させながら直進。
円盤大顔お化けは退きながら――。
「――ゲェッベ!! モリモリ!!」
「――モリモリ、ガベェッベ!!」
円盤大顔お化けの上下の頭部は初めて別々の言葉を発した。
上下の頭部の口から出ている腕の刃を虹色に輝かせながら、近付いてくる福神蹴架トウジョウに向けて伸ばした。
福神蹴架トウジョウは巨大な棹を突き出して棹の先端部で腕の刃を止める。腕の刃の先端は朱色に染まると震えて爆発。
福神蹴架トウジョウは巨大な棹を振るいあげた。
円盤大顔お化けの下の頭部の口から出ていた連結腕と巨大な棹が衝突。
連結腕は、巨大な棹の力によって曲げられると、衝突部位が朱色に変色するや否や大爆発が起きた。
そこに、福神歳刑ディンが突き機動で福神蹴架トウジョウを越える。
福神歳刑ディンは、大刀で連結腕の一部を貫く。
続けざまに逆袈裟斬りから真一文字の剣閃を繰り出した。
更に返す大刀の刃が連結腕を真っ二つ――。
一瞬で円盤大顔お化けの上にある頭部の口から出ていた連結腕を七枚下ろしに処した。
その間に福神龍鉤蛇ベキカルは円盤大顔お化けに向かう。
円盤大顔お化けは頭部から出ていた連結腕を失ったが、上下に回転を始めて後退。
誘う動きのまま、上下の頭部の三眼球から怪光線を放つ。
上と下に怪光線が一直線に走る。
下に繰り出された怪光線は、森林を一直線に燃焼させていった。
魔界の真夜も真っ二つにされる勢い。
大気を割るように水蒸気が凝固したような軌跡を発生させていた。
地面と天が抉られる。
福神龍鉤蛇ベキカルも両断されるかと思われた。
が、福神龍鉤蛇ベキカルは口を開けたまま怪光線を放つ円盤大顔お化けを飲み込んでいた。
刹那、福神龍鉤蛇ベキカルは、体の内側から大爆発を起こす。
福神龍鉤蛇ベキカルは消えた。
円盤大顔お化けの体は大半が溶けながら小さくなり、墨色の炎に包まれた。
その直後、福神歳刑ディンが大刀を振るった。
紫電一閃――。
円盤大顔お化けは完全に微塵切りにされた。
円盤大顔お化けだった塵は魔界の真夜に消える。
結構な魔力を得た! 倒した!
円盤大顔お化けは結構な大物だったということか。
<
名はバーソロンかビュシエが知っているかもな。
福神龍鉤蛇ベキカルは消えたが、また召喚が可能。
福神蹴架トウジョウと福神歳刑ディンは振り返るような仕種を取った。
福神蹴架トウジョウは、片手で巨大な棹を持ち上げて勝利の報告を行いながら、体から墨色の魔力と悉曇文字と魔法文字の放出し始める。
その福神蹴架トウジョウは、一瞬で悉曇文字のような文字が集結した人型となって、その文字群が崩れ去って消えた。
福神歳刑ディンは大刀を振るい回してから、俺を見て動きを止める。
笑顔を見せてから、福神蹴架トウジョウと同じく――。
体から墨色の魔力と悉曇文字のような文字を放ち異世界文字が集積した人型となって、それらの文字は式神が散るように消えた。
仙大筆で『六壬式』のような細かな方陣を描きつつ――。
墨色の魔力を体に纏わせながら<風獣戯画>と<海獣戯画>を終わらせた。
仙大筆と仙魔硯箱は『六壬式』のような細かな方陣と共に俺の体に取り込まれる。
さて、下に向かおう――。
大きい
笑顔となって
闇烙竜ベントラーに乗っている皆のところに降り立った。
「器、格好良かったぞ」
「はい、仙大筆でシュルッと魔法文字と方陣を描くのは、とても素敵でした」
「ふふ、はい。筆の扱いは、槍と通じるものがありますね」
「はい、希少戦闘職業である魔法絵師のような戦いっぷりでした」
すると、ヘルメが、
「――閣下、ザ・顔面魔王のような敵を圧倒して倒しましたが、今のが仙大筆と仙魔硯箱を活かした<風獣戯画>と<海獣戯画>のスキル! 風獣仙千面筆帖と風獣仙千面筆帖を会得した証明ですね!!」
「おう、そうだ。<風獣戯画>と<海獣戯画>に、墨の魔力を活かした<海獣戯画・福神龍鉤蛇ベキカル>と<風獣戯画・福神蹴架トウジョウ>と<海獣戯画・福神歳刑ディン>だ」
「「おぉ」」
「圧巻だった。見事な勝利だ。そして、遠距離戦の手札が増えれば、無傷の勝利も増える」
アドゥムブラリの言葉に、
「あぁ、そうだが、ま、俺は槍使いだ。今回は今回、試しだ。本来は近々~近距離戦を主軸にすることに変わりはない」
「おう。だが、敵が増える状況はこれからも必ずあるだろう。だから、あのような召喚系スキルは重宝するぞ。しかも、<海獣戯画・福神龍鉤蛇ベキカル>と<風獣戯画・福神蹴架トウジョウ>と<海獣戯画・福神歳刑ディン>は、潰されたとしても何回でも使えるんだろ?」
「あぁ、使える」
「「「おぉ~」」」
「素晴らしい!」
闇烙龍イトスに乗るゼメタスとアドモスが、
「――閣下に素晴らしい部下が……」
「ゼメタス、我らも奮闘せねば……」
と少し不満気だ。
まぁ、再生可能な部分と自分たちを重ねているんだろう。
が、<風獣戯画・福神蹴架トウジョウ>と<海獣戯画・福神歳刑ディン>も仙大筆に仙魔硯箱と墨の魔力があっての存在だからな。
「ゼメタスとアドモス、安心しろ、お前たちは絶対的な俺の盾で剣だ」
「「オォ……」」
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは体が震える。
全身から粉塵の魔力をあまり出さず、眼窩の奥に漂う炎をこれでもかと大きくさせ、その眼窩からたくさんの炎の粒を発生させていた。
泣いているのか。
皆微笑む。
少し照れたから、ヘルメとグィヴァとビュシエとバーソロンを見た。
そのバーソロンが、
「……陛下、上空での戦闘はお見事でした。<風獣戯画>と<海獣戯画>の極意に見えましたよ」
「極意か、素直に嬉しく思う。あ、円盤大顔お化けと相棒が戦ったモンスターの名は知っているかな?」
「「はい」」
バーソロンとビュシエがハモる。
ビュシエはバーソロンに視線を送り、バーソロンは頷いた。
軍服が似合うバーソロンは頬の炎の模様を煌めかせて、
「――神獣様が倒された六枚の翼を持つ大怪物の名は〝魔愚烈モースファルドー〟、魔元帥~魔王級クラスで、かなりの強敵です。相性だと思いますが、あっけなく倒されていました。そして、陛下が仙大筆を活かして倒された円盤の上下に怖い頭部を持つモンスターの名は〝顔面大盤ボボ=ドド〟です。魔界セブドラの空ではかなりの強敵。諸侯ですら粘り強く絡むことの多い顔面大盤ボボ=ドドは避ける相手です。魔力量はかなり乱高下するので、等級は分かりません」
と教えてくれた。
ビュシエも頷いている。
「へぇ、両方とも倒してかなりの魔力を得たから納得の相手だ」
「「「はい」」」
「それじゃ、バーヴァイ城を目指そう」
「「はい」」
「ンンン――」
神獣ロロディーヌは先に走る。
俺たちの乗る闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスも続いた。
神獣ロロディーヌの走る姿を見て、皆から感嘆の声が上がっていた。
俺も相棒が走る姿は何度も見ているが、普通に魅了されるからな。
色々な角度から見たくなる。
精巧なフィギュアが欲しくなった。
両前足と両後ろ脚がダイナミックに前後するストライドは美しい。
だれも乗せていないから、凄まじい速度の走りだ。
しかし、山々や樹木を踏むことが多いから肉球はあまり見えない。
太股の毛と尻尾の毛が、モフモフと音を響かせるように揺れている。
その
その相棒の姿は見えなくなったが……。
すぐに、
「ンンンン――」
と大地が震えるような重低音の喉音を鳴らしつつ戻ってきた。
「神獣が躍動しておる……」
「ふふ、大きくなっても、お目目が可愛い神獣ちゃんですね」
沙と貂が語る。
頷いた。
角のハンドルといい、全体的にベントラーはゴツくて渋い。
魔界騎士が乗るような闇烙竜ベントラーだが……。
俺的には、相棒の乗り心地のほうがいいかな。
足下の鱗は滑りやすいし、相棒のように頭の毛と地肌から伸びた触手がリアルタイムに動いて俺たちの足に合わせることもない。代わりに角のような鱗の塊が出てくるだけだ。ケーゼンベルスも相棒に近い乗り心地だが……。やはり、
と考えながら、前方の山々を蹴って跳ぶ神獣ロロディーヌを見て……。
いつも乗っている相棒に『いつもありがとう、ロロ』と感謝の念を抱いた。
横にいる軍服が似合うバーソロンが胸元に手を当てつつ、
「陛下、そろそろ【ローグバント山脈】の領域から【ケーゼンベルスの魔樹海】に入ります」
「分かった」
と、魔皇獣耳輪クリスセントラルが揺れる。
『ウォォン、主ノ匂イヲカンジタ! 合流シタイ! 我モ、バーヴァイ城ニ行ク!!』
『了解した。ツアンはバーヴァイ城に送ってくれたと思うが、俺の思念は届かなかったな』
一応思念を魔皇獣咆ケーゼンベルスに送ったが、届いていないようで返事はない。
「皆、ケーゼンベルスが俺の匂いを察知してバーヴァイ城に来るようだ」
「はい」
「<光邪ノ使徒>のツアンはちゃんとバーヴァイ城に送ってもらったのでしょうか」
「そのはずだが、ツアンの中にはイモリザとピュリンがいる。ケーゼンベルスに指示を飛ばして、【ケーゼンベルスの魔樹海】の探索とか、極大魔石を集めるとかやっているかもしれない」
「はは、ありえる」
「ふふ、そうですね」
「たしかに、イモちゃんのテンションなら……」
フィナプルスの言葉が少し面白い。フィナプルスはイモちゃんと呼んでいるのか。
「ま、そうだとしても、バーヴァイ城で合流となるだろう。グラドたちにも報告しないと」
「陛下、グラドとツアンへの、闇神アーディン様と【闇神寺院シャロアルの蓋】に瞑界シャロアルに付いての説明はお任せください」
とバーソロンが言ってくれた。
「ありがとう。頼む」
すると、森が繁る【ケーゼンベルスの魔樹海】を抜ける。
バーヴァイ平原に出た。
その先にバーヴァイ城に向かっている魔皇獣咆ケーゼンベルスの後ろ姿が見えた。
「ンン、にゃお~」
相棒が駆けると、魔皇獣咆ケーゼンベルスは「ウォォォォン!」と鳴いて振り向く。
「『友と主よ! 匂い通り! 待っていたぞ! では、先に行く、競争は我の勝利!!! ハハハハハ――』」
と、先にバーヴァイ城の手前の崖に跳躍して崖の岩場を蹴り、バーヴァイ城の城壁を跳び越えて先に入っていった。
「にゃおおおお」
バーヴァイ城に跳び付くように入っていきながら、姿を小さくさせていくのが見えた。
「俺たちは普通に門から入ろうか」
「はい」
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