千七十二話 <風獣戯画>の獲得と魔軍夜行ノ槍業の師匠たち


 肩の竜頭装甲ハルホンクは両手を覆うほどに袖を伸ばす。

 と、伸びた袖を竜の口へと変化させた。

 次の瞬間、その竜の袖口から風獣仙千面筆帖ふうじゅうせんせんめんふでちょう仙大筆せんだいひつを吐き出した。

 その風獣仙千面筆帖を<導想魔手>で掴み、右手で仙大筆を掴む。

 左手の竜の袖口からは風獣墨法仙帖ふうじゅうぼくほうせんちょう仙魔硯箱せんますずりばこが飛び出る。


 その仙魔硯箱は自然と浮かぶ。


 風獣墨法仙帖は<鬼想魔手>で掴んだ。

 

 浮いている仙魔硯箱からは――。

 自然と墨色の魔力が浮き上がっていく。

 硯からも、自然と液体の墨と墨の魔力が放出されていく。


 風獣仙千面筆帖と風獣墨法仙帖からも墨色の魔力が出ているが、表紙はその墨色の魔力で燃焼していて、布っぽい生地の表面だけが不可思議に燃えているようにも見えた。

 

 その墨色の魔力の中には、細かな悉曇文字しったんもじの群れがあわぶくようにうごめいている。

 

 悉曇文字が躍っている墨色の魔力は、無名無礼の魔槍の燃焼しているような墨色の魔力と似ていた。

 

「「「「おぉ」」」」

「――シュウヤ様の新しい武器はふで!?」

「大きな筆とは珍しい、武術の奥義が記された墨帖ぼくじょう……それらを掴んでいる魔力の手も、実に巧妙な<導魔術どうまじゅつ>の技術が使われておりまする……片方はいささことなると分かりますが、御使みつかい様は<導魔術>系統をも極めておられるということか……」

「凄すぎる!」

「「あぁ」」


 魔雷教の方々が驚く。

 オオツキさんが渋い口調で語っていた。

 魔雷教の方々の一部はやつれて見える。

 先ほどから驚きの連続だからな。


「……先ほども、貴重な闇属性の魔法を部下に与えるように指示を出していましたし……御使い様は、優しくて強くて立派なのに、更なる高みを目指そうとしている……とても素敵です」

「あぁ、しかも、歩む速度をわざと落としてくれていた。俺たち【魔雷教団】の一人一人を見てくれていたと分かる。天井の変化も凄かったが、御使い様の心意気を見て、自然と涙が流れてしまった」

「タル吉、気付いていたのね」

「勿論だ」

「うん……わたしも気付いていた」

「……御使い様は真夜を齎す〝闇神アーディン様の御使い〟であった。【闇雷の森】を取り戻し、【魔雷教団】に奇跡を齎してくれたのだからな」

「しかし【闇の古寺】の真実の名でもある【闇神寺院シャロアルの蓋】のことは、我らは知らなんだ。闇雷の封泉シャロアルのことも知らず……」


 オオツキさんがそう残念そうに語った。

 更に言えば【魔雷教団】の幹部として、これからどうしたらいいのかって印象だな。

 ここに留まって、宿将レンブリアさんとバスティアンさんの部下になるのもいいとは思うが、危険なことは明白。だから、今まで通り、サシィの下で活動してくれると助かる。


 オオツキさん以外の方々も不安そうな表情となっていた。

 一部の方は、不思議そうに仙大筆などを見ているが、とりあえず、魔雷教の方々に元気を出してもらおう。


 そして、相棒に乗って帰還すれば直ぐだが……。

 まだちょいと【源左サシィの槍斧ヶ丘】まで距離がある。


「オオツキさん、【闇の古寺】は実際に〝列強魔軍地図〟にも刻まれていましたし、あの時は【闇の古寺】で正しかったんですよ」

「は、はい」

「闇雷の封泉シャロアルも知らなくて当然だと思います。俺たちも驚いていましたし、それに闇神アーディン様の神像の片目には、本物のアーディン様の右目の魔力が内包されていた。ですから、皆さんは闇神アーディン様と一緒に旅をしたことになる」

「「……おぉ」」

「そして、先の【闇神寺院シャロアルの蓋】の天井から貴方方一人一人に降り注いだ不思議な明かりは、【闇雷の森】を救った魔英雄たちを讃える神の光だと思います……【魔雷教団】は闇神アーディン様に立派に貢献を果たしたことになる!」

「「「「おぉぉぉ」」」」


 【魔雷教団】の方々は口々に吼え、


「そういえば……」

「あぁ、温かい光だった」

「うん、活力のようなモノを得たし、魔力も上がったような」

「あぁ、綺麗なだけではない」

「なにかがあるとは思っていたが……」

「うん!!」


 と笑顔を交えて話していく。

 

 良かった、元気になってくれた。

 と、ヘルメが拍手。

 皆も頷きながら拍手していた。


 さて、仙大筆を握る。すると、右前にいたバーソロンが、


「大きな筆は武器と分かります。左の<導想魔手>が持つ武芸書には膨大な魔力が内包されている。右の<鬼想魔手>が持つ武芸書と浮いている小箱にも膨大な魔力が内包されていますが、何が入っているのでしょう」


 と聞いてきた。


「大きな筆は仙大筆。小箱は、仙魔硯箱」

「すずりばこ……」

「おう。詳しく説明すると、【玄智の森】から離れる際、友のダンからもらった大切な物だ。先ほど試した新スキル<霊魔・開目>とこれらの品は相性がいいらしい。<霊魔・開目>は恒久スキルだから、意識せずとも、様々なスキルの向上に繋がると感覚で理解できている。だから仙大筆を試そうかと」

「そうでしたか」

「あぁ、【玄智の森】にいる友のダンと仙大筆を学ぶと約束していたんだ。だから、ここらで学んでおこうかと思う。あ、皆、【源左サシィの槍斧ヶ丘】か【バーヴァイ城】に戻りたいなら、移動を優先して修業は後回しにしようと思うが、どうだろう。今、俺がここで仙大筆の修業をしてもいいかな」

「戻れというご指示ならば従いますが、自由ならば陛下と共にいたいです」


 バーソロンはそう発言。

 続いて、


「――無論、構いませぬぞ!!」

「――おう!! 閣下の強化こそが、我らの強化!!」


 気合い溢れる光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの言葉はありがたい。

 ビュシエは、


「私も残ります。二つの<導魔術>系統の魔力の手と、その魔力の手が持つ書物もすべてが興味深い。そして、どのような修業か楽しみです」


 と言うと、ヘルメも、


「はい、閣下の仙大筆を扱う修業を見学します!」

「残ります!」

「あ、わたしも!」

「俺も陛下とバーソロン様の傍に!」

「妾も見学しよう! 器の<仙魔術>の進化は楽しみじゃ」

「はい、仙大筆を扱う風獣仙千面筆流はどんなスキルなのか、楽しみです!」

「風獣仙千面筆流は前々から気になっていました。ダンの師であるハジメ師匠が書かれた書物であると」


 皆と貂の言葉に頷いた。

 アドゥムブラリとフィナプルスにアクセルマギナは俺に何も言ってこない。

 特にアドゥムブラリは、『何も言わずとも分かるだろう』といったイケメン面だ。


「バーソロンとビュシエ、【玄智の森】の経緯は覚えているかな」

「……はい、【ドムラピエトーの傷場】、【吸血神ルグナドの傷場】、【アヴァロンの傷場】をシュウヤ様に説明した前後辺りで、【玄智の森】と魔界セブドラの関わりを聞いています」


 ビュシエが、少し思い出すような表情を浮かべてからそう告げた。

 バーソロンも頷いてから俺を見て、


「【玄智の森】は神界セウロスの一部だった。陛下は、水神アクレシス様と神々のお導きで、その玄智の森を救って無事に神界セウロスへと戻したと。神話のような魔英雄の話は、ヘルメ様からも聞いています」

「「「おぉ」」」


 ヘルメを見るとニコッと微笑んでから頷いていた。

 魔雷教の方々は【玄智の森】のことは知らない。


 歓声を発してくれている。

 ヘルメたちを見て、


「【源左サシィの槍斧ヶ丘】とマーマイン戦の時か。俺たちが【源左サシィの槍斧ヶ丘】に戻ってからも間はあったな」


 バーソロンは頷いて、


「はい。塔烈中立都市セナアプアにいる<光魔ノ秘剣・マルア>のマルアさんの話と、現在此方に移動している大厖魔街異獣ボベルファに乗っている仙妖魔と鬼魔人の軍と、魔王級半神のミトリ・ミトン様のことなど、色々と聞いています」


 と告げると、ヘルメと、テンにも会釈。

 テンともそういった会話をしたか。


 ヘルメは指先から水を放出させて、


「――ふふ、合間にバーソロンと色々と会話を。あ、閣下が帰ってきてからは、閣下とサシィとの一戦の間に、新人ちゃんでもあるビュシエたちとも話をしました。広い庭を探索する前にダイザブロウたちとも少し会話をしました。あ、タチバナは、今にして思えば、怪しかったです。源左街でも、炎の精霊ちゃんが集結している不思議な火事場にお邪魔し、そこで働く者たちに、閣下のご偉功を教えました。他にも、見たことのない植物を売る店に水をプレゼントしてあげました。街で球を蹴り合う子供たちにも水をプレゼントして閣下の偉大さを教えました。魔猫たちも水をピュピュッと掛けてあげると喜んでくれたのです!」

「そっか。街の空を飛び回っていたようだな」

「はい!」


 バーソロンとビュシエは互いを見て頷く。

 バーソロンは、胸元に手を当てながらテンを見て、


「……セウロスに至る道の禁忌を破り白炎王山から〝白炎鏡の魂宝〟を盗んだ仙女フーディとその仙女一族と仙骨種族たち、更に、皆さんから、仙王家と仙王鼬族の仙人と仙女の一部が魔界セブドラに堕ちて仙妖魔になった経緯を聞いた時は……感動を覚えました」


 と発言。

 テンとアドゥムブラリとアクセルマギナとビュシエも頷いていた。

 皆も色々と会話していたか。


 闇雷精霊グィヴァにも【玄智の森】のことを説明をしておきたいが、ま、今度だな。


「んじゃ、風獣仙千面筆流を覚えられるか挑戦しよう! ま、修業だ」

「「「はい!」」」

「にゃ~」

 

 黒猫ロロは<血魔力>製の鰺の玩具をビュシエの足下に落として鳴いていた。

 ビュシエに鰺の玩具を投げてほしいんだろう。

 俺も相棒と一緒に<血魔力>製の鰺の玩具を追い掛けてアイスホッケーの遊びをしたくなったが、自重しよう。


「あ、レンブリアさんの結界の邪魔になるかもしれないから、【闇雷の森】を歩きながらの挑戦か修業でもいいかな?」

「おう。その場合、周辺に湧くモンスターは俺たちが対処しよう。主は修業に集中してもらう」

「はい、わたしもがんばります」

「マスターの修業は重要ですからね」


 アドゥムブラリとフィナプルスとアクセルマギナがそう発言。


「はい、わたしたちも!」

「あぁ、陛下のために」

「はい!」


 リューリュとパパスとツィクハルもそう発言。


「分かった」


 皆の了承を得た――。


 <血道第一・開門>を意識。

 体から<血魔力>を噴出させた。


 右手が持つ仙大筆に<血魔力>を送る。

 <導想魔手>が持つ風獣仙千面筆帖にも<血魔力>を送った。

 <鬼想魔手>が持つ風獣墨法仙帖にも<血魔力>を送る。

 すると、風獣仙千面筆帖と風獣墨法仙帖の頁が自動的にパラパラと捲られていく。その頁から次々と動植物の水墨画が急浮上したと思ったら、その水墨画の世界に飲まれた。


 その途端――。


 視界が水墨画で描かれた山川草木さんせんそうもくの自然に様変わり――。


 皆の気配は近くにあると分かるが――。

 と、目の前に水墨画で立体的に描かれた道士帽子を被り小忌衣と似た和風衣装を羽織っている【玄智の森】にいるような仙人が現れる。

 足下の川の上を点々と跳びながら宙空で横回転から前転を繰り返して、岩場の先端に片足の爪先で着地。


 右手に持っている仙大筆を斜め前に構えている。

 その仙大筆から悉曇文字と墨色の魔力が生まれ出ていた。


 眉毛は太く、目は横長で鷲鼻。

 顎髭は少し長いから、もろに仙人様という印象。

 耳朶は太く長い。その仙人様は細長い岩を蹴って俺のほうに向かってきた。

 仙魔硯箱も宙空に浮かせている。

 仙魔硯箱からも墨色の魔力と悉曇文字が発生していた。


 その仙人様は着地。

 大きな筆に魔力を込めてから、俺に会釈してくれた。

 顔には皺がそれなりにあった。


 ダンが語っていたハジメ師匠なんだろうか……。


 礼には礼を、と――仙大筆を持ちながら――。

 無駄のない動きと骨格を意識した『小笠原流の三つ指』を実行する気分で、丁寧に頭を下げた。


 頭をあげると、仙人様は笑顔を見せていた。

 

 俺が持つ仙大筆を見て嬉しそうに頷く。

 心が温まる思いを得る。

 と、仙人様は、俺に見せるように持っていた仙大筆を振るい始めた。

 浮いている仙魔硯箱から出ていた墨が、自然と仙人の周りを蛇の如く回っていく。


 同時に仙人様は顎をクイッと動かす。

 俺の仙大筆を見てきた。


『わしの真似をするのじゃ』


 と微かに渋い思念が聞こえてきた。


『はい!』


 と思念を返すが、仙人様は聞こえていないのか、仙大筆を振るい続ける。


 同時に俺の近くで浮いていた仙魔硯箱から墨色の魔力が迸り、俺の周囲に漂い始めた。


 仙大筆の筆先にも触れると、筆先の墨の魔力が強まる。


 そのまま仙人様をリスペクト。

 師匠の想いのまま――。

 俺も空手の押忍の気分で仙大筆を振るう。


 仙人様の動きを真似していく。


 アキレス師匠やホウシン師匠との修行を思い出すように、仙人様の動きを頭と体に叩き込んでいく――。


 次第に仙人様の動きが激しくなってきた。

 その動きを真似して仙人様の動きを覚えていく。


 仙人様の背後に、宇宙的な模様と大きい古びた天円地方のような建物が浮かび上がった。


 更に、仙人様は仙大筆で色々と描く。


 点点と魔印と悉曇文字と似た文字に――。

 龍蛇に注連縄が絡んだような三十六の動植物が浮かぶと消える――。

 

 続けて地を表す台座と――。

 天を表すような円形の天板に――。

 『六壬式』のような細かな方陣が目の前に描かれていった。


 その点点とした魔印と悉曇文字に龍蛇と動植物と方陣が急に飛来。


 避けることなく――頭部でそれらを受け入れた。


 一瞬で、神経回路が新たに出来上がったと理解した。


 ピコーン※<風獣戯画>※恒久スキル獲得※

 ※<海獣戯画>※恒久スキル獲得※

 ※<仙魔・風獣秘筆画>※恒久スキル獲得※

 ※<仙魔・海獣連想秘筆画>※恒久スキル獲得※

 ※<風獣・仙大筆穿>※スキル獲得※

 ※<海獣・仙大筆穿>※スキル獲得※

 ※<海獣戯画・福神龍鉤蛇ベキカル>※スキル獲得※

 ※<風獣戯画・福神蹴架トウジョウ>※スキル獲得※

 ※<海獣戯画・福神歳刑ディン>※スキル獲得※

 ※<仙魔・龍水移>※スキル獲得※


 やった、スキルを獲得!!

 と、仙人様がお辞儀をしてくれたと思ったら、一瞬で視界は元通り。

 <導想魔手>と<鬼想魔手>が持っていた風獣仙千面筆帖と風獣墨法仙帖が墨色の炎に包まれて消える。

 

 仙大筆と、浮かんだままの仙魔硯箱はそのままだ。

 自動的に墨と墨色の魔力が生成されて俺の周りを回り続けていた。


 この墨と墨色の魔力は<血魔力>や<生活魔法>の水に《水流操作ウォーターコントロール》と同じと分かる。


 皆に、「修業は終えた。<風獣戯画>、<海獣戯画>、<風獣・仙大筆穿>、<海獣・仙大筆穿>、<仙魔・風獣秘筆画>、<仙魔・海獣連想秘筆画>、<海獣戯画・福神龍鉤蛇ベキカル>、<風獣戯画・福神蹴架トウジョウ>、<仙魔・龍水移>を学べた」

「「「「おぉぉ」」」」 


 皆、盛大な声を発した。


「今のように墨もありましたが、閣下の回りには、墨色の霞み掛かった世界が展開されていました。そこでだれかと幻想修業を? 仙大筆を振るっていたのは実際に見えていました」

「仙大筆で突いたり、墨、墨色の魔力を操作したりと忙しそうでしたが、誰かいたのですね?」


 ヘルメとビュシエがそう聞いてくる。

 頷いた。


「あぁ、仙人のようなお爺さんから、<風獣戯画>と<海獣戯画>の基本を教わった印象だが、風獣墨法仙帖と風獣仙千面筆帖の中身も同時に教わった感覚だ。実際にスキルを得られたから、学べたということだろう」

「素晴らしい!」

「「おぉ」」

「ダンとハジメ師匠に感謝だ……いつか【玄智の森】に戻れたら、今の光景をダンに伝えよう」

「ふふ、わたしも神界セウロスに行きたいです」

「はっ、ヘルメさんよ、俺の大眷属なんだから付いてくるのは当然だろう!」

「ふふ、はい!」

「私も行きたいです!」

「皆もだが、ビュシエも付いてくるなら当然大丈夫だ」

「はい!」

「おう!」

「「はい!」」


 アドゥムブラリは自分のやりたいこともあると思ったが、ま、いっか。


「〝闇烙あんかく・竜龍種々秘叢ひそうを出す前に、シュリ師匠のことも報告しとく。先も少し言ったが、闇雷精霊グィヴァと本契約をする時に、精神世界で闇神アーディン様と槍稽古を行ったんだ。更に、闘柱大宝庫にあったシュリ師匠の頭部と両腕も取り戻し、その頭部と両腕をシュリ師匠に返したから、他の師匠たちと同様に雷炎槍流の<雷炎穿>と<雷炎槍・瞬衝霊刃>を学べたんだ」

「「おぉ!」」

「そういえば、主は、戻ってきた時に、一緒に訓練をしたし、と発言していた……シュリ師匠の件といい、凄すぎてスルーしていたが……精神世界とはいえ、闇神アーディン様と槍稽古とか……何度も言うが……今の修業といい、本当に凄まじい展開だ!」


 皆が同意するように頷く。

 少し間が空く。


「あぁ、雷属性を得るため、凄まじい痛みを味わったが……俺も<滔天内丹術>、<性命双修>、<経脈自在>、<光魔血仙経>、<血脈冥想>を使用して、痛みに耐えながら精神修行ができた。そのお陰だ」

「閣下の精神修行……やはり、その中でも<血脈冥想>が要に?」

「あぁ、そうだと思う。同時に、改めて、魔軍夜行ノ槍業の中におられる八人の師匠たちに感謝したい」


 と、皆に半身の姿勢となった。

 魔軍夜行ノ槍業を見せる。


 ヘルメとグィヴァが拍手。

 二人の拍手は凄い音となった。

 

 波頭と波頭に、雷撃と雷撃が衝突しあう――。

 皆も拍手していたが――。


 魔軍夜行ノ槍業が震えて、


『ふふ、感謝には感謝を。いい弟子を持って嬉しく思うわよ』

『はい、師匠、これからもご教授ください』

『勿論する! そして、基礎の<雷炎穿>を学んでくれたことが嬉しい。愛用している<魔槍技>の一つ<雷炎槍・瞬衝霊刃>を獲得してくれたことも凄く嬉しい。でも、一瞬で〝雷炎槍と雷炎魔活〟に〝雷瞬氣魄と闘魂と電光石火〟を学んだのは驚き……弟子の<天賦の魔才>は底が知れないわ』

『弟子の<天賦の魔才>だけではないだろうな。槍武術を学ぼうとする心構え、その精神性故だろう』

『あぁ、シュリも味わったか。<魔槍技>を一瞬で弟子が覚える感覚は凄すぎるからな』


 獄魔槍のグルド師匠がそう発言。

 ヤンキーっぽい方だが、槍はかなり真面目だ。

 続いて、


『しかし、<雷炎穿>を覚えるとはな。闇神アーディンの影響もあるとは思うが、シュリの雷炎槍流は弟子と合うってことか。羨ましいぜ……オレの妙神槍も基礎を覚えてくれるとは思うが……』


 妙神槍のソー師匠から二槍流に合う槍武術も学んでみたいんだが……。


 まだ先か。


『……そうなんだよ。俺の獄魔槍流の<獄魔穿>などは覚えていない……』

『妾もだ! 何回も魔槍技の<女帝衝城>を使こうてくれて嬉しいが、一向に基礎の<女帝穿>は覚えてくれていない……』

『……熟練度の差と相性もあるだろう。弟子の魂魄と霊魂の器は、他と異なるということも考えられる。何しろ、神格を含めた生命力を己の眷属達に惜しみなく分け与える深い慈愛を持つ存在が弟子だ。その深みは槍技にも関係してくるだろう』


 最後の思念はセイオクス師匠の思念だ。

 口が魔糸で覆われているセイオクス師匠はあまり思念を寄越さない物静かなイメージがある。が、今回は珍しく思念を下さった。


 自然と恐縮してしまう。 

 だが、最初の頃、<魔槍技>と槍歩法などを教えてくれる条件に俺の『魂だ』と告げていたし……口が魔力の糸で縫われまくっているホラーな方だから怖いんだよな……。


 すると、


『ふむ。たしかに……塔魂魔槍流の成長度はかなりのモノ、最初に独鈷魔槍で槍譜を突いたのも、セイオクスの塔魂魔槍流であったな。弟子はセイオクスから重要な魔人武術も学んでおる……』


 と飛怪槍のグラド師匠も同意する思念を発した。

 <魔人武術の心得>か。

 たしかに何十年分の経験を一度に得た。


『そうだ。俺の<塔魂魔突>は基礎だが、更に最近、弟子は<勁力槍>の恒久スキルと<無式・紅光一槍>を獲得したのだ……【古都市ムサカ】の【塔雷岩場】にて、俺の塔魂魔槍流の秘伝、〝胸に虚無宿ることなくアムシャビスの紅光が宿るように塔魂魔槍の『勁』と『力』が宿る。反躬自省のまま『八極魔魂秘訣』を獲得し『魔拳打一条線』を得るに至り『一の槍』を極め絶招に繋がる〟を確実に熟しているお陰だろう』

『……シュリの雷炎槍流とセイオクスの塔魂魔流が、弟子には合うということか?』

『『そうだろう』』

『認めん!』

『……私の断罪槍も相性がいいと嬉しいけど』


 そんな師匠たちの思念が遠ざかる。


 素早く雷炎槍エフィルマゾルを取り出した。

 そして、右手で雷炎槍エフィルマゾルの柄を握る。


 皆に向け、


「まずは、基本の雷炎槍流の<雷炎穿>を――」


 雷炎槍流歩法を思い浮かべつつ――。

 風槍流『片切り羽根』を実行。

 ――前傾姿勢から加速で滑るように前進。

 左足で石畳を踏み込む。

 そのまま雷炎槍流の<雷炎穿>を前方に繰り出した。

 雷炎槍エフィルマゾルから紫電のような雷炎が迸る。


 ――よし、決まった。


「「おぉ」」

「それが雷炎槍流の基本か、普通の<刺突>には見えない加速力がある」

「あぁ」

 

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