千六十六話 新たな闇雷精霊の誕生だ


 レンブリアさんは数回うなずいた。


 が、まずは、青白い炎の魔槍を回収しておくか。

 俺の思念を理解した肩の竜頭装甲ハルホンクは袖の形を竜の口へと変化させた。

 その竜の袖口から、銭差ぜにさしのように玄智宝珠札と棒手裏剣が連なった物が伸びて、青白い炎を発している魔槍に絡み付く。


 一瞬で青白い炎の魔槍を吸い寄せて回収した。

 袖から伸びていた銭差ぜにさし的な物は消えて普通の袖口に戻る。

 今見えていた銭差ぜにさしの形状は腰から出せばタセット防具にもなるか。


 何度か見ているが、銭差しの部分はフキナガシフウチョウの飾り羽根に見える物だ。


 すると、今の回収と肩の竜頭装甲ハルホンクなど、俺の装備を見ていたレンブリアさんは、闇精霊ドアルアルの塊を凝視してから……。


 闇神アーディンの神像の片目と、その片目から出ている光を見てから片膝で床を突く――。


 ズゥンと地響きが響く。

 仁王と似たレンブリアさんはブカシュナよりも小さいが、身長は三メートルは超えているからな……。


 その重そうなレンブリアさんは、


「――御使い様と闇神アーディン様、礼が遅れて済みませぬ――」


 改めて聞くと、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスのように野太い声だ。

 そのレンブリアさんに、


「とんでもない、戦いの最中だったのですから、頭を上げて立ってください」

「ハッ、御使い様」


 レンブリアさんは立ち上がる。

 そのレンブリアさんに、


「この、浮いている神像の片目には、やはり闇神アーディン様の右目の力が宿っていたようですね」


 俺がそう聞くと、レンブリアさんは不可解そうな表情を造る。

 太い眉毛と表情筋の動きはダイナミックだ。


「……はい、御使い様」


 すると、闇神アーディン様の神像の片目が動いて輝きを強めると、前方に闇神アーディン様自身の幻影を造り出す。


 魔槍を持つ姿は凜々しい。


「アーディン様――」


 レンブリアさんは、直ぐにまた片膝で床を突く。

 ズンッと重低音が響いた。

 闇神アーディン様の幻影と魔槍を凝視。

 魔槍には紫色の茨のような稲妻が絡む。

 穂先はリアルタイムに笹穂槍ささほやりと上鎌十文字槍に変化していた。

 変化の仕方が朧気おぼろげ蜃氣楼しんきろう的だ。なんという名の魔槍なんだろうか。持ち手の部分も銀色と金色と漆黒色に紫色がシックに決まっている。


 アーディン様の指を縁取っている銀色の魔線か模様が渋すぎる。


「『レンブリア、暫くぶりだな。そして、状況は理解しているな?』」

「はい、魔界セブドラの【闇雷の森】の一つに何かが起きた。更に、〝闇雷の封泉シャロアルの封入の儀〟を行う必要性があったのですね」

「『そうだ。さすがは我の二十四の宿将が一人、闇神の宿将レンブリアだ。シャロアルの闘柱大宝庫を守り続けていただけはある。そして、我の横にいる槍使いは、我が気に入った大眷属と心得よ』」

「はい――」

「『では早速、穢されていたが、なんとか源泉は保ち続けていた闇聖霊ドアルアル復活の儀を精霊棚で開始する。そして、この槍使いシュウヤの言葉をしかと聞き、要望に応えるのだぞ』」

「ハッ、分かりました!!」


 レンブリアさんの気合い溢れる声が響くと、闇神アーディン様の幻影は薄くなっていく。

 レンブリアさんは立ち上がった。


 アーディン様の幻影は消えてしまった。


「御使い様、此方です――」


 レンブリアさんはそう言うと、さっと身を翻す。

 先を行くレンブリアさんの背中を見ながら進む。

 大きな柱が上下左右に並ぶところを通った。

 その柱には、魔族の体の部位や、武器類が飾られている。


『……』


 思念は寄越してこないが、魔軍夜行ノ槍業にいるシュリ師匠を強く感じた。

 生暖かい風を感じながら大きな柱の前にある祭壇に到着。

 柱の前には大きな階段がある。俯瞰ふかんで見たら円状だろう。


 その階段を上る度、闇精霊らしき存在たちが現れていく。

 役小角えんのおずののような姿の幻影たちも出現していた。


 先に階段を上がっているレンブリアさんに続いた。

 右の前に浮かびつつ俺に付いてくる神像の片目から出ている光を背に浴びているレンブリアさんは精霊棚と思われる大きな器へと腕を差す。

 筋肉が生々しく隆起している腕もかなり太い……。


「御使い様、その闇精霊ドアルアルの塊に魔力を込めて、この精霊棚に置いてください」

「分かりました」


 闇精霊ドアルアルの塊に<血魔力>を込めた。

 塊から鼓動こどうが響くと音に似合うりつ動を始める。

 片腕が震えるほどの振動となった。


 振動している闇精霊ドアルアルの塊から魔線がほとばしり、祭壇の大きな器とつながった。闇神アーディン様の神像の片目も反応。強く輝くと片目から放射状に魔線が迸る。


 その放射状の魔線は傾いて大きな皿とくっ付いた。

 闇神アーディンの神像の片目は――。

 直線状の太い魔線となった上をゆらゆらと進む――。


 大きな皿の上に載ると、一瞬で溶けて黄金色と灰銀色と漆黒色と紫色に輝くスープとなってしまった。


 その大きな皿の上に近付き、急ぎ、闇精霊ドアルアルの塊を置いた。


 すると、闇精霊ドアルアルの塊は、神像の片目が元の黄金色と灰銀色と漆黒色と紫色に輝くスープを瞬く間に吸い取って閃光を放つ――。


 更に、ドンッと重低音を立てながら浮かんでうごめいた。

 続いて、どこからともなく稲妻がとどろく。

 連続的に雷鳴も響いた。と、大きな祭壇から放たれた黒雷が闇精霊ドアルアルの塊と大きな皿を直撃――。


 闇神アーディン様の魔槍が貫いた幻影が一瞬見える。


 燃焼を始めた闇精霊ドアルアルの塊は大きな孔を造ってしまう。

 巨大な槍の穂先が刺さった痕にも見えた。

 が、その闇精霊ドアルアルの塊は、動きが活性化し、盛大に蠢く。

 

 その波打つ表面に殻や鱗のようなモノが生成された。

 と、その龍やドラゴンのものにも見える殻や鱗の表面と内部に、黒い稲妻を帯びていく。

 闇精霊ドアルアルの塊だったモノは雷属性を得たように黒い放電を強めながら自ら回転を始めた。形は、もう分からない。


 そのまま心臓が律動するような振動を起こす。


 闇精霊ドアルアルだった蠢くモノは、ケミストリを起こしている?

 黒い放電以外にも奇怪な文字を表面に生み出した。


 更にそのルーン文字のような文字が増え始めて光り輝く。

 その光り輝く文字の真上にも同じ文字が浮かぶ。

 それらの様々な文字は、黒い放電の中を生きて泳ぐおたまじゃくしや原子核の回りを巡る電子に見てくる。

 

 虚数やガウス素数もあるような雰囲気だ。

 回転しながら蠢くから、六面立体パズルの列が乱雑に回転しているようにも見えてきた。


 不思議な音も何度も響かせてくる。


 黒い放電の間には、闇神アーディン様の幻影が見え隠れ。

 闇の放電といったほうがいいのかも知れない。周囲に雷属性の結界を作っているようにも見えた。

 ……神意的、奇跡的、覇戈神魔ノ統率者に備わる〝神魔高位特異現象増嵩〟か。

 

 時折、異世界のもののような文字が浮かぶと――。


 ヒフミヨイマワリテメクルムナヤコト。

 アウノスヘシレカタチサキ。

 

 というカタカナのような形の文字も見えた。


 それらの異世界文字とルーン文字などを闇精霊ドアルアルの塊だったモノは吸収しているのか文字類は消えていく。


 と、闇精霊ドアルアルの塊だったモノは、蠢きながら一回り大きくなった。

 そのまま大きな皿をも吸い取る。

 

 また大きくなって光を帯びながら真上に浮上――。

 段々と人型、女性の姿となっていく。


 女性の半透明な体となった。


 背後の祭壇に闇神アーディン様のであろう魔印が浮かぶ。


 と、半透明な女性の体から魔線が迸る。

 魔線は背後の祭壇の魔印と衝突し、魔印は消えた。が、数秒後――。

 祭壇を覆うほどの闇神アーディン様の幻影が出現した。

 闇神アーディン様の、失われていた右目は元通りとなっていた。

 最初に見えた闇神アーディン様の幻影だ。


 その間にも、半透明な女性の体に紫色と闇色がつき始める。

 すると、その闇精霊ドアルアルと推測される皮膚の一部に小さい銀色の葉を有した光魔ルシヴァルの紋章樹が刻まれた。


「『成功したようだな。ドアルアルから昇華した闇雷ルグィの復活……否、新たな闇雷精霊の誕生だ』」


 と、闇神アーディン様の幻影の声が周囲に響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る