千五十五話 皆の談笑&血の海老の玩具遊び&サシィの処女刃

 

 ダイザブロウは俺とサシィを見ながら思案顔を浮かべる。

 そして、

 

「承知。光魔ルシヴァルと成った情報を伏せておく理由は、上笠の中に信用できぬ者がいるからですな?」

「そうだ」


 サシィが肯定こうてい

 ダイザブロウは俺を見て、


「……タチバナでしょうか?」

「さすがは上笠首座のダイザブロウさん。鋭いですね」

「バシュウ絡みの調査は進んでおります故」


 バシュウの部下はタチバナと通じていたかな。

 ダイザブロウは優しそうな表情を浮かべて、サシィに、


「それに姫は昔から考え事や秘め事を持つと顔に出る」

「え?」


 サシィの驚いた表情が可愛い。

 ダイザブロウは、目元に指を置いて、


「視線の角度と頬に普段にない動きが出るのじゃ」


 微笑みながら語った。

 サシィは細い指で頬を触りつつ、


「視線と頬の動きか。上に立つ者として、勉強にはなるが、それを意識して調整するのは難しい」


 と語る。皆頷いた。

 表情筋と仕種で人の感情はある程度分かる。心理学では基本だな。


「はは、姫は姫として活動すればよろしい。わしらは、その親方様に付いていくのみ」

「分かった。ダイザブロウが源左にいれば安心できる」


 ダイザブロウは笑顔となった。

 サシィの父のように見える。


 続いて、サシィは、


「光魔ルシヴァルと成ったわたしはデラバイン族とケーゼンベルスと源左の大同盟の証明。しかし、その大同盟交渉成立直後に起きたバシュウの裏切りから、マーマインたちの【源左サシィの槍斧ヶ丘】への奇襲だ。民たちに余計な心配をかけたくないのもある。そして、タチバナも、このまま上笠として大人しく働いてくれるのならば、事を荒立てるつもりはない。しかし、裏があれば質すつもりだ。更に言えば、質すとは異なることになるかも知れぬ」

「……ふむ。分かり申した。タチバナは『身を屈すれども道を屈せず』の精神かも知れませぬな。そして、そのタチバナに対して、何か・・、考えがあるご様子の陛下と姫。お二人が動くことを素直に待っておきましょう」


 ダイザブロウはそう喋っている途中で、俺を凝視してきた。

 

 その凝視と何か・・の部分の意味は……。

 お二人と言ったが、サシィではなく、俺が動いてタチバナをどうにかしろ、かな。


 まぁ、それは思念でもなんでもないただの予想だが、なんとなくそんな気がした。


 そのダイザブロウに、


「……先ほどのバシュウ絡みの調査とは、バシュウの部下、関係者の調査でしょうか」

「そうですじゃ」

 

 サシィも疑問に思ったのか、


「その者たちはどうなっている?」

「上笠金鏢を持つ官奴司と采女司の長は、捕まる前に潔く自害しました。官奴司と采女司の一部は逃走しましたので、捕まえて牢獄に閉じ込めました。尋問は終えています。バシュウがマーマインと繋がっていると分かっていながら己の保身のため黙ってやり過ごしていたようですじゃ」


 納得だ。上笠バシュウの部下も裏切り者だらけ。

 まさに、『悪い木は悪い実』を結ぶ。

 源左を裏切っていなくても薄々は気付いていただろう。

 しかし、縁故と柵の結果、自分の職を優先したか。


「役所ごと人材を総取っ替えすべきか」

「ご尤も、しかし、右場と左場の歩哨隊とマゴザの魔銃部隊の戦死者は多いのです。上笠の兵馬司にも死者がいる。離脱者も出ている現状、中々……」

「分かった。上笠影衆に歩哨隊など軍部の再編もままならないと思うが、裏切り者には容赦するな。その処遇も任せるとしよう」

「ハッ、お任せを」


 サシィとダイザブロウは頷き合う。

 裏切り者の首をあっさりと斬ったことは鮮烈に覚えている。

 そのサシィは俺を見て、


「シュウヤ様、この処女刃をわたしが使う前に、ダイザブロウに光魔ルシヴァルのことを少し説明しておきたい」

「了解した。ついでに、遠征組の一部とビュシエは、ダイザブロウさんに自己紹介するといい」


 ビュシエを見る。


「俺からでいいか?」


 アドゥムブラリがそう聞いてきた。


「おう」


 そのアドゥムブラリが、ダイザブロウに、


「俺はアドゥムブラリだ。元は魔侯爵アドゥムブラリ。元アムシャビス族だ」

「元魔侯爵アドゥムブラリ殿。アムシャビス族……」

「聞いたことがあったか」

「……ありますのじゃ。辻魔楽人と魔楽人の歌から〝夜の歌〟の謳を聞き……複数の旅回り魔楽団の演目でもアムシャビス族の逸話を見たことがある」

「ほぉ~旅回りの魔楽団か、魔傭兵を兼ねた連中なら知っているが……」

「魔傭兵かは分かりませぬが、芝居小屋を運ぶバンドアルは大きかったのでそうかも知れませぬ。名は、【カルタサーカス団】と【駈火舞楽魔団】という魔楽団でした」


 旅回り魔楽団か。

 レフテン王国のネレイスカリを伯爵領に送った先で助けることになった【旅芸人一座・稀人】を思い出す。


 「秘術騎士と旅娘の恋」の演目は面白かった。

 ネレイスカリの姫さんはレフテン王国の立て直しには成功しているんだろうか。

 機密局を掌握したという情報と、サーマリア王国の王太子ソーグブライトと手を結んだことは事実のようだから、売国奴のザムデ宰相の押さえ込みには成功していると分かる。


 ん? 【カルタサーカス団】……。

 前に<従者長>ペレランドラから、


『はい。噂では異界の文字が刻まれた魔導札。その〝カルタ〟を使う〝異相のマゴハチ〟という時空属性持ちの魔術師の方が率いる【カルタサーカス団】がエセル大広場で興業を行う時があるんです』

 という情報を聞いた。

 【カルタサーカス団】に時空属性持ちの魔術師がいるのなら、その【カルタサーカス団】は過去の魔界セブドラに存在していたということ。そして、現在の塔烈中立都市セナアプアの上界、エセル大広場で興業をしている時がある……行ってみたいが、体と精神が幾つあっても足りないな。


 ま、時間が合えば、魔塔ゲルハットの目の前だしな、行ってみよう。

 

 アドゥムブラリは、


「複数の逸話とは?」

「地獄火山デス・ロウの地域に、魔命を司るメリアディ様一派のアムシャビス族の魔侯爵一家があり、多数の門閥貴族を束ね、魔王ベイザール討伐を果たし、魔大竜ザイムを連れて恐王ブリトラの砦をも攻略した。他にも、天魔帝メリディアの一派と仲違いしたアムシャビス族。更に破壊の王ラシーンズ・レビオダと憤怒のゼア様に領域が破壊された空の支配者たち。堕ちた紅光なども」


 ダイザブロウが街で聞いた逸話を聞いたアドゥムブラリは昔を思い出したようだ。

 悲しみが顔に出る。双眸を揺らすが、直ぐに気を強くしたように目力が強まると、


「……ワカッタ。街とは【メイジナの大街】か?」


 と、聞いていた。


「はい」

「了解した。ありがとう」

「いえ」


 アドゥムブラリは数回頷いた。

 視線を寄越す。


「あ、少し長くなった。次はツアン」


 そう喋ったアドゥムブラリは、アムシャビスの光玉と荒神反魂香を欲しがっていた。

 それらの品の情報を、いつか【メイジナの大街】で聞くつもりだろう。

 

「俺はツアンです。<光邪ノ使徒>の一人。使者様、シュウヤ様の部下です」

「妾は

「わたしは

「わたしはテン

「わたしはアクセルマギナ」

「光魔沸夜叉将軍ゼメタスですぞ」

「同じくアドモスと申す」

「わたしはフィナプルス」

「角鬼デラバイン族のリューリュです」

「同じくツィクハル」

「同じくパパス」

「わたしはビュシエ。シュウヤ陛下と同じ光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人。現在は魔界セブドラ側の<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人と言えます。ですから、サシィと同門、同期なのです」

「姫と同じ立場の<筆頭従者長選ばれし眷属>……」

「はい、今、<筆頭従者長選ばれし眷属>の証明をお見せしましょう――」

 

 ビュシエは会釈して、

 そう言いながら<血魔力>は指先から発して、<血魔力>の海老の玩具を生み出した。


「ンン――」


 相棒が早速反応。跳躍を行う。

 海老の<血魔力>製の玩具に、両前足の肉球と指球を拡げながら飛び掛かった。


 後ろ脚が功夫キック気味で面白い。

 

 と言うか、ビュシエは猫の扱いが上手いな。


 黒猫ロロは、宙空を泳ぐような海老の玩具を捕らえる。

 口に咥えて着地。

 海老の玩具を離して畳の上に落とし、前足をその海老の玩具の上に乗せた。


「ンンン、にゃごぉ~」


 喜びの声を発してドヤ顔を示す。


「「「おぉ~」」」

「ロロ殿様~」

「素敵ですぞ~」


 と回りもおだてるから、相棒はドヤ顔を強めた。

 その黒猫ロロさんが面白い。人気YouTuberに成れるぞ。


「ふふ」


 微笑むビュシエは、相棒が踏んでいる海老の玩具を操作した。

 足下で暴れる海老の玩具を見た黒猫ロロは、『にゃご!?』と心で驚いたような表情を浮かべて体を離すが、直ぐにまた海老の玩具に飛び掛かる。

 そのまま海老の玩具を腹に抱きかかえた黒猫ロロさんは、畳の上でごろんとなった。


 興奮した黒猫ロロさんだ。

 後ろ脚の連続キックを海老の腹に喰らわせていく。


 面白い。完全に猫だなぁ。

 と笑いながら、畳に趺坐。


 皆も座り始める。

 相棒の動きに拍手しながら笑顔を送っていたサシィに、


「サシィ、そこの座布団だが、利用していいのかな」

「あ、気付かずすまない。自由に使ってくれて構わない」

「ってことで、皆、敷いて座るといい」


 俺は座布団は使用せず、そのまま畳の上で胡坐を続けた。同時に肩の竜頭装甲ハルホンクを意識して、衣装を軽装に変化させる。


「我も要らない」

「「「ウォン!」」」


 そう語るケーゼンベルスは普通に香箱座り。

 大人しい黒い狼のケン、ヨモギ、コテツも香箱座り。

 畳の上で狼たちが香箱座りするのは面白い。


 その間にも、ビュシエは血のメイスと剣と長柄の武器類を出していく。


「それは<血魔力>の武器召喚でしょうか」

「はい。召喚もありますが、<血道・武具生成>ですね。わたしは、吸血神ルグナド様の元<筆頭従者長選ばれし眷属>だったのです……」

「な、なんと……」

「ビュシエ殿は凄い。同時に我らの貴重な戦力となる。わたしも早く<血魔力>のブラッドマジックを学びたい」


 そのサシィの言葉に、常闇の水精霊ヘルメが、


「ふふ、サシィなら直ぐに学べるはずです。ビュシエもバーソロンも、神聖ルシヴァル大帝国の良き人材となりましょう」

「「「はい」」」

「そして、ビュシエの仲間入りは大きい。吸血神ルグナド様との間にも楔を打てる。ふふ」


 ヘルメが水の女神のように発言。

 そのヘルメは隅っこで、下半身を液体に変化させた不思議状態で浮いている。


 ビュシエは、一瞬<血魔力>を霧散させてから、


「あ、ありがとうございます」


 少し怖じ気づいたような印象で発言。

 ヘルメはひょうきんな面もあるが、不思議と水の女神のような格式高い面もあるからな。

 

 すると黒い狼のコテツ、ケン、ヨモギが、


「「ウォン!」」

「ウォォン!」


 鳴きながら浮いているヘルメの近くに移動していた。

 大人しくしていたが、常闇の水精霊ヘルメの影響か、魔皇獣咆ケーゼンベルスの影響か、尻尾を振っている。

 

 それ以外は、皆、静かにヘルメの言葉に頷いていた。


 そこから俺の<筆頭従者長選ばれし眷属>になった経緯をビュシエ自身の口から説明してもらっていく。


「ハザルハード討伐後ですが、わたしは、シュウヤ様たちを、<誘血灯>や<血道・血法院銀燭道>を使って……【吸血神ルグナドの碑石】にまで誘導したのです。その道中は……」


 ビュシエはサシィたちに話を振った。

 サシィは、


「【ローグバント山脈】を旅したのだ」


 ダイザブロウは、


「……山の旅を! 〝三千世界すべての山々の頂きを目指す〟! 姫たちはマーマイン退治だけでなく、広大な【ローグバント山脈】を旅されたのか!」

「うむ」

「アサカ・ダイゼンの教えを実践なさるとは、素晴らしい経験を得た!」


 サシィとダイザブロウは頷き合う。

 ダイゼンは、俺も好きな名前だ。 

 【ローグバント山脈】の山岳で修業して<山岳斧槍・滔天槍術>を獲得した時にも話に出ていたな。


「妾たちはモフモフの旅」

「ケーゼンベルスちゃんは、神獣様のモフモフとはまた違うので気持ち良かったですよ」

「うふふ、はい」


 そのケーゼンベルスは、


テンが、我の毛が気に入ったようで嬉しく思うぞ!」

「はい、気に入りました」

「わたしもです」

「うむ、妾もじゃ。ということで、その大きい胴体に顔を埋めたいのじゃが」

「――ウォォン、好きにするがいい」


 と魔皇獣咆ケーゼンベルスは横たわった。

 魅力的な腹が見えている。畳部屋が少し狭まった感が出るが、広い部屋で良かった。


「ふふ、やった!」

「わたしも黒毛の枕を借ります~」

「わたしも~」


 テンはケーゼンベルスの黒毛に包まれるように頭部が見えなくなった。

 

 ビュシエは微笑みながら話を続ける。


 ダイザブロウは、時折、<血魔力>の海老とマグロで遊ぶ黒猫ロロを見て笑顔を見せていたが、サシィとビュシエを交互に見ては、


「……最初から<血魔力>が優秀なビュシエ殿とシュウヤ陛下の仲だが……」


 ビュシエは鷹揚に頷いて、


「当然、それも眷属の務め、シュウヤ様次第だが、女になりたい。その場合、シュウヤ様が満足なさるまで協力する」

「……」


 ダイザブロウは思案顔のままサシィを見て少し溜め息を吐いていた。


 サシィの立場を心配していると分かる。

 すると、バーソロンが、


「わたしもそうだ。セラにいる眷属たちにも負けないつもりだ」


 そう発言。ビュシエはニヤッとして、


「それはそうだろう。バーソロン、互いにライバル視している暇はないと思え」

「言われずとも分かっている、ふふ」

「ふふ、ならば……」

「あぁ……」


 畳の上で語らったバーソロンとビュシエは握手。

 すると、座っている俺の左右に並び立つ。

 スタイル抜群の二人だから、ちょいと迫力がある。


「陛下、お傍に寄らせて頂いても良いでしょうか」

「シュウヤ様の隣に座らせてください……」

「あぁ、少しだけな……」


 ビュシエは俺の左腕を胸で挟みながら座る。

 バーソロンは俺の右腕を持ち上げ、己の腰に回すと、体を俺に預けるように寄りかかってきた。


 二人は軽装だったが、乳房と体の柔らかさを上半身で得られた。

 二人からいい匂いが漂う。

 スキルか香水か。

 が、今はダイザブロウもいるし、話の途中。


「……嬉しいが、ビュシエは話を続けてくれ」

「あ、はい」


 ビュシエは離れた。

 バーソロンは『しめた』と言わんばかりに腕の力を強めて、顔を俺の胸に押し当ててきた。

 少しぎこちない。

 野郎慣れした動きではないから新鮮だ。

 そんなバーソロンにありがとうの意味を込めて、手の上に手を重ねた。


 バーソロンは頬と額が、斑に朱に染まっていく。

 顔の炎の模様が煌めいた。

 

「陛下……」


 バーソロンは目を瞑る。

 キスがお望みとあらば、としようかと思ったが、ダイザブロウがもろに凝視している手前、自重した。


 怖いダイザブロウの視線を誤魔化すように視線を泳がせる。

 ビュシエは、皆に話をしようとしたが、バーソロンと俺を見て毒気を抜かれたような表情となっていた。

 

 俺の視線に気付くと直ぐに会釈。


「ゴホンッ」


 とわざとらしく咳を行ってから、吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>だった頃の話を再開。


 話を聞いていると、傍にいるバーソロンが、リューリュとツィクハルを見て、


「おまえたちも陛下が気に入ったのだ。傍に来なさい」

 

 パパスはツアンとアドゥムブラリと会話中。

 フィナプルスとアクセルマギナは畳の素材などと部屋のアイテムを物色していた。


「「はい!」」


 遠慮勝ちだったリューリュとツィクハルは『うんしょ』、『どっこいしょ』と言うように両手と両膝を前後に動かしながら寄ってきた。


 二人の前進の仕方が猫っぽい仕種で可愛い。


 <血魔力>製の海老の玩具で遊んでいた黒猫ロロが、遊びを止めて「ンンン」と喉声を鳴らしつつリューリュとツィクハルのお尻の匂いを嗅ごうとしている。


 それがまた面白かった。


 傍に来たリューリュとツィクハルは体育座りを行う。

 黒猫ロロもその隣に寝るように横たわる。


「陛下……近くに失礼します」

「よろしくお願いします」

「にゃ~」


 リューリュとツィクハルとかなり近い距離。

 緊張しているのかな。二人共、右頬と首にかけての炎の模様が点滅していた。


 デラバイン族の証明の炎の模様は綺麗だ。

 その炎の模様は、バーソロン以上の速度で点滅している。

 感情の表れだろう。


「無理はしなくていい。楽にしてくれ」

「「は、はい!」」


 リューリュの目元の眼鏡のような魔道具には、結構な魔力が内包されていた。

 頬のソバカスが可愛い。


 ヘルメが、


「ふふ、二人とも、閣下の恵み深い愛は普遍です。リラックスして楽しみましょう」

「「は、はい」」


 リューリュとツィクハルの返事からして、まだまだ緊張は取れていない。


 サシィは、俺の横にいるバーソロンたちの行動を見てジト目となった。

 が、頭部を振るってから、ビュシエの語りをダイザブロウと共に聞いていく。

 

 そのビュシエは血のメイスを振るいながら、一生の事象について熱を込めて語る。


 それは舞台女優が演目を披露しているようにも見えた。

 自然とスポットライトを受けたように後光が輝く。

 と、実際にヘルメが体の一部から水飛沫を出して、ビュシエの背後に光を作り出していた。

 ビュシエが体から放つ<血魔力>とのコラボとなって後光の神々しさが増している。


 演技というか、リアルな語りは熱を帯びた。

 ビュシエは苦しそうな表情から、<血魔力>の血を操作して、己の胸元や両手から血を出していく。


 ダイザブロウは目を見張った。

 まぁ普通はそうなる。


 ビュシエは、


「……天把覇魔杖を使い、<渦呪・魔喰イ忌>の悪影響を抑えていましたが、症状の悪化は続いていたのです……そうして、なんとか【吸血神ルグナドの碑石】に辿り着いたのです」


 と告げた。そこで、ビュシエは、


「……ダイザブロウ様、過去【源左サシィの槍斧ヶ丘】の者たちに迷惑をかけたことを謝りたい」

「ビュシエ殿、気になさるな。初めて知った事実。そのような言い伝えもない。それとわしに様は必要ありませぬ」

「分かりました……話を続けます。わたしは<渦呪・魔喰イ忌>の影響で、石棺に眠るしかなくなった……そうして、幾星霜。その間、吸血神ルグナド様の眷属たちも含めた、わたしの一族が、【吸血神ルグナドの碑石】に眠るわたしを守ってくれていた。しかし……ハザルハードに石棺を荒らされた。わたしは片腕ごと天把覇魔杖を奪われてしまい、その片腕が取り込まれてしまったのです」

「……マーマインのハザルハード……驚きですな」


 ダイザブロウはやや興奮気味に話していた。

 その気持ちは分かる。

 ビュシエの情熱の語りは凄い。


 吸血神ルグナド様と宵闇の女王レブラ様が現れたことを思い出したが……。

 

「バーソロン、そろそろ交代だ」

「はい、こんどは器様をモフモフ~」

「器様~」

「分かりました」


 バーソロンが身を引くと、テンは宙空を浮遊しながら抱きついてくれた。


 三人の柔らかい体の感触がタマラナイ。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスの黒い毛が少し舞う。

 つい先ほどまで、狼吸いを実行していたからな。


 すると、テンの行動に釣られたのか、傍にいるリューリュとツィクハルが、おそるおそる指先を伸ばしてきた。


 テンに好きなようにさせながら、リューリュとツィクハルの指先に指を当ててみた。


「きゃ」

「あ、わわ、陛下の指が!」


 反応が可愛い。

 その二人に、


「リューリュとツィクハル、相棒の戯れを見よう」

「ふふ、はい」

「そうですね、可愛い黒猫ちゃん~」


 皆と一緒に、再び<血魔力>製の魚玩具で遊び始めた黒猫ロロの動きを見る。


 ふと、踊るように遊ぶ相棒に交ざろうかな。

 と考えた。


 畳の上を滑るように<血魔力>の海老の玩具を追った。

 

「――ロロ、この海老は俺がもらったァ、とったどー」


 そんな風にふざけていると、


「ンンン、にゃごあ」


 と、『ニャルガクルガ』と化した黒猫ロロから数発の肉球パンチを浴びてしまった。


「「ふふ」」

「あはは、神獣から女たちとイチャイチャすんな、と忠告か?」


 アドゥムブラリから的確なツッコミが来た。

 構わず、<血魔力>の海老を噛むような素振りを取った。


「ンンン――」


 相棒から『なに喰ってんにゃ~』と言わんばかりに耳朶に肉球連続打撃を浴びる。


「はは、神獣の動きと器の動きが面白いな。妾も一緒に遊びたい~」


 がそんなことを言っている間に、<血魔力>の海老玩具を叩いて黒猫ロロに向かわせた。

 黒猫ロロは「ンン」と鳴いて迅速に前足を振るい、<血魔力>の海老玩具を叩き返してくる。


 その<血魔力>の海老玩具を畳の上で寝っ転がりながら、口で咥えた。


「ははは、旦那が猫に!」

「ンン、にゃお~」


 と、相棒が飛び掛かってきたから、<血魔力>の海老玩具を離してあげた。

 俺の胸元に乗った黒猫ロロはゴロゴロと喉を鳴らしながら、海老玩具ではなく、俺の頬に頭部を寄せて、耳朶を甘噛みしてきた。


 痛いが我慢。


「閣下とロロ殿様が楽しそうで嬉しいですぞ!」

「うむぅ。我らも交ざりたいが……ここでは無理だ」


 たしかに、ゼメタスとアドモスが交ざったら畳が壊れる。


「ングゥゥィィ」

「ンン――」

「あぁ」

「時々パンパンと響く音が強烈そうですが、神獣様の肉球パンチは気持ち良さそうですね?」


 バーソロンが冷静に語る。

 右の肩から出ている肩の竜頭装甲ハルホンクを相棒が叩くのが少し痛いとは言えない。


「お、おう」

「……」


 ダイザブロウはチラッと俺たちを見て笑顔を見せてくれている。


 ビュシエも話を止めて、俺たちの様子を微笑みながら眺めていた。少し涙ぐんでいる。


 だれかを思い出しているんだろうか。

 ビュシエの涙ぐむ瞳の中に魔猫が見えたような気がした。

 

 なんとも言えない雰囲気となる。


「悪かった。大人しくまったりしとく」


 俺がそう言うと、ビュシエは笑顔で、


「いえ、心が温まりました」

「はい、わたしも」

「皆もだと思うぞ」

「うむ」


 皆がそう言ってくれた。


 ビュシエは話を再開。

 話の内容が灰色の砦の戦いに戻った。


 ゼメタスとアドモスが、その時に戦ったマーマインの強者の話をすると、

 

 ダイザブロウは、


「マーマインの兵士にも気骨がある存在がいたのですな」

「いましたぞ」

「我らと打ち合えた存在。マーマイン勢力の将軍クラスだったのでしょう」


 皆が頷いた。


 そこからビュシエの話に移行し、ハザルハード戦のことが語られていく。


 ビュシエが話し終えると、ダイザブロウは頷き、


「……マーマインの大将のハザルハード……恐るべき相手だった。ビュシエ殿の片腕に、魔皇ローグバントや愚王バンサントなどの神々の力を取り込めるような存在とは……奇襲を含めて、シュウヤ殿たちがいなければ、我らは負けていた……」

「それは悔しいが事実。だからこそ、シュウヤ様と出会えたことは幸運なのだ。そして、わたしと同じ斧槍を愛好していることも嬉しい……」


 とサシィは頬を斑に赤くしながら語る。

 が、直ぐに表情を厳しくして、


「我らの血脈もハザルハードは取り込んでいたと予測する。更に部下のマーマインたちにも、バシュウだった存在にも……源左の者の体が、マーマインたちの栄養になっていたと思うと歯がゆい思いだ」


 サシィの言葉を聞いて、皆が沈痛の思いとなった。

 

 そして、サシィの口から次々と……。

 マーマインの砦付近の施設の状況と、そのマーマインに捕まって囚われていただろう源左の者たちの末路が淡々と語られていく。


 ビュシエは、自己紹介を兼ねた<血魔力>の説明の役目を終えたと理解したのか、自然と俺の横に移動して肩に頭部を寄せてくれた。


 座り方が乙女だ。

 黒猫ロロもそんなビュシエに寄り添うように片方の膝頭の上に顎を乗せながら休んでいる。


 可愛い。


 すると、サシィが源左の者たちの生皮が剥がされて利用されていた話に入ったところで、優しそうなダイザブロウは、眉間に皺が寄る。


 そして、立ち上がって、


「ぬがぁぁぁ!!」


 と叫び、


「くそマーマイン共ォォ」


 と怒りを顕にする。まさに怒髪天を衝く。


 手元に召喚した片鎌槍の石突で畳を突き刺していた。


 黒猫ロロもケーゼンベルスも驚くほどの怒り具合。


 皆も少し緊張した雰囲気となったが――。


「そんな憎むべきマーマインたちの最期は哀れであった。巨大化したハザルハードの手により燃えていた砦は派手に破壊されたのだ。その崩れた砦だった瓦礫を、下の階層にいた無数のマーマインたちは為す術もなく浴びて押し潰されて死んでいったはずだ。更には、砦の外にいたマーマインの残兵たちも巨大化したハザルハードに踏み潰されていた」


 サシィが冷静に語る。

 ダイザブロウは畳の上にストンと胡坐を掻いて座った。


「……」


 沈黙するダイザブロウ。怒りを鎮めたようだ。

 暫しの間の後、隣にいたケーゼンベルスに笑顔を見せる。


「まさに……様々か、ケーゼンベルス殿と知り合えて本当によかった」

「小童よ、成長したようだ」

「フハハハ、えぇはい。わしも小童なりに成長したようですな」

「「フハハ」」


 ダイザブロウとケーゼンベルスは笑い合う。

 お爺ちゃんと大きい黒い狼か。

 写真を撮りたくなるぐらいに良い場面だ。


 そして、ケーゼンベルスたちと諍いがあった事実を完全に受け入れている証拠か。

 サシィは、


「ダイザブロウ、ざっと遠征についての説明をしたが、理解してくれたかな」

「重に理解しましたとも。陛下の強さ、眷属たちとの繋がり、優しさ、愛を見て、心が熱くなりもうした」

「ふふ、ならば、処女刃の儀式を行うとする」

「分かりました。わしはこれにて。陛下、姫を頼みますぞ」

「おう」

「では」


 ダイザブロウは会釈してから踵を返す。

 部屋から廊下に出ると、足音が遠のいていった。


「んじゃ、サシィ――」


 サシィの傍に<邪王の樹>で大きなたらいを生成。

 

たらいか、この中に入って処女刃を腕に嵌めるのだな」

「そうだ。皆も外に」

「……分かりました」

「「「「「「はい」」」」」」

「了解」

「「ハッ」」

「にゃお~」

「ウォォォン!」

「「「ウォォン」」」

「閣下、一応、廊下側と庭に《水幕ウォータースクリーン》を展開させておきます」

「よろしく頼む」

「はい~」


 皆が部屋の外に出た。

 サシィの方に振り向くと、既に具足を脱いでいた。

 処女刃を持ちながら、ほど良い大きさの乳房を片手で隠している。


「……恥ずかしい……」

「すまん――」


 と背を向けた。


「あ、シュウヤ様……大丈夫だ。わたしを見てくれ……」

「お、おう――」

「ふふ」


 乳房を隠さずに堂々と体を見せてきた。

 長い黒髪は畳に触れている。

 眉と睫毛が凜々しい。

 双眸の黒い眼には力強さがあった。


 鎖骨の窪みと肩骨が艶やかだ。

 ほどよい大きさの乳房。

 桃色の乳首はピンッと立っていた。

 割れている腹筋と臍に細い腰。

 

 秘密の花園の黒毛には艶があり、少しふっくらとしていた。

 肉付きのいい太股とスラリとした長細い足もいい。


 素直な気持ちで、


「綺麗だ。興奮する」

「……あ、ありがとう……あっ」


 動揺したのか処女刃を落としてしまった。

 急いで処女刃を拾いサシィに近付き――。


「あっ」


 抱いてしまった。


 背中といい柔らかい。

 サシィは見上げてくると目を瞑った。


「……」


 そのままサシィの唇に己の唇を当てた。

 優しいキスに留めてディープなキスはしない。

 

 ……唇を離して、


「さぁ、盥の中に入ってくれ。そこで処女刃を嵌めてもらう」


 サシィはキスの余韻で呆けている。


「……ぅん」


 返事が可愛い。


 そのサシィは唇に人差し指を当てていたが、微かに頷く。


 と、笑みを寄越す。

 悩ましい仕種で足を上げてから盥に入った。


 そこで処女刃を嵌めたサシィに、


「スイッチを入れると刃が出る」

「……痛そうだ」

「痛いさ。まぁ、挑戦だ」

「分かった――」


 サシィは眉間にしわを寄せる。

 二の腕から血が垂れた。


「痛いは痛いが……これが処女刃か。理解した――」

「おう。見ておくからがんばれ」

「うん」


 無垢なサシィの笑顔だ。

 が、直ぐに痛がる表情を浮かべる。

 そしてまた普通の表情に戻った。

 


 ◇◇◇◇


 二時間くらい経った。

 盥の奥、サシィがいた畳の上に転がっている巾着袋がアイテムボックスか。

 

 ゲージ幅の厚い魔力を含んだ布と鎖帷子が融合した具足と、陣羽織と胸甲にスカートにも見える草摺など、お洒落な和風鎧はあの中だろう。


 そんなことを考えると――。

 盥に溜まっていた血がサシィの両足に吸い込まれていく現象が起きた。


「お?」

「おぉぉ~、成功した、<血魔力>! <血道第一・開門>を獲得した!!」


 と叫びながら、俺目掛けて跳ぶ――。

 片手を伸ばしながら跳ぶサシィが可愛い――。

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