千五十六話 サシィと沙羅貂とヘルメとの一夜
サシィの体を受け止めて抱きしめた。
――牛白熊の薄いシャツだから、サシィの乳房の膨らみが俺の胸板で押し潰されていると分かる。
その胸の膨らみが気持ちいい……。
サシィの黒髪の感触もいいな。
その両腕から<血魔力>をサシィにプレゼント。
少しだけ抱きしめを強くした。
「――アンッ」
と身を反らしたサシィ。
直ぐにサシィの背中を両手で押さえて細い体を支えてあげた。
鎖骨とお椀のような美しい乳房が顕わとなる。
そんなサシィから女の匂いが強く漂うと、反らしていた体を戻しながら俺の背中に両手を回し、しがみついてきた。
「シュウヤ殿、血を……」
「あぁ、吸っていいぞ――」
サシィの腰と尻を触るように細い体を少し持ち上げる。
サシィは両足も俺に絡めると犬歯を伸ばしたのか、首に痛みが走った。血を吸われていく。
痛いが、好きなようにさせる。
サシィの血も吸いたくなったが、まぁ、今はいい。
そんなサシィの長い黒髪と背中を右手の指先で撫でつつ……肩甲骨と背骨のラインを指でスゥッと撫でると――サシィはビクッと体を揺らす。
「あぁ……」
感じたサシィ。
息を荒くして、俺の血を吸うのを止めた。
サシィは恍惚気味の表情を見せると、キスできる距離で、小さい唇に付着していた血を舐めていた。
そのサシィの背中と腰に手を回し、両手でお尻を掴み、揉みしだく。
刹那、サシィは再び俺にしがみつき――。
体を震わせつつ頭部を左右に振るう。
「アァァ」と喘ぎ声を発した。
お尻を強く掴むと「アンッ」と一際高い声を発して、体が一気に弛緩。
またも女の匂いを充満させてくる。
サシィの首下や耳元から湯気のような魔力が発せられていた。
その魔力の中を薄い蛍と龍のようなモノが泳いでいる。
源左の<魔闘術>系統、<魔闘気>系統の一端だろう。
お尻への刺激はやめた。片手でサシィの背中を支え続ける。
一物はズボンから出るように反り立ってサシィの腹に当たっていた。
煩悩は高まり続けているが、気持ちを抑える。
暫し、サシィが落ち着くのを待った。
そのサシィが呼吸を整えて、
「……シュウヤ殿、い、いや、シュウヤ様……色々と進化したぞ」
落ち着いたようだ。
「あぁ、様でも殿でもいいが、二人きりの時はシュウヤだけでいいぞ」
と言いながらサシィの体を離す。
「わ、分かった。シュウヤ……」
そう語ったサシィはチラッと唇を見てきた。
意識していることを隠すように視線が揺れる。
キスがお望みとあらば――。
サシィの唇に己の唇を優しく沿わせた。
先ほどの優しいキスを意識して……少し変化を加えた。
サシィの上唇を――俺の上唇と下唇で――。
優しく持ち上げ、引っ張り、戻す。
襞を労るようなマッサージを連想させるように――。
優しいキスを行ってから、素早く唇を離す。
サシィは「……」と感じ入った顔色。
目を瞑りつつ己の唇を細い指の腹で触る。
目を開けると、俺の唇を凝視しては、己の唇を半開きにする。
その指と唇の妖艶な動きを行うサシィから『キスをもっとしたい』と切ない心の声が聞こえたような気がした。
サシィの唇の端から唾が流れていた。
湿った黒髪の一部も引っ掛かっている。
そのサシィの姿から成熟した女を感じた。
魅了されつつ、
「――戦闘職業は進化したかな」
「あぁ、進化した」
「やはり、眷属に成る前はどんな名だったんだろう」
「<源左魔斧槍師>だ」
源左ならではっぽい。
「今はどんな変化を? あ、眷属になった直後にも変化があったのなら教えてくれ」
サシィは頷いて、
「<
「……へぇ、魔斧槍師が基本。その血龍と蛍も、実に源左らしい戦闘職業だ」
「たしかに、源左と光魔ルシヴァルの私専用と言える、希少な戦闘職業だろう」
「あぁ、それに加えて全体的に艶が増した。黒髪美人さんが、更に増して超黒髪美人になったように見える。ま、とにかく戦闘職業の進化はめでたいな。おめでとう」
「ふふ、ありがとう……嬉しい」
サシィは頭部を前に出して抱きついてきた。
耳にサシィの息遣いを感じてくすぐったい。
そのサシィは、
「白っぽい薄着だが、これも頑丈と分かる。ハルホンクは凄い魔装天狗でもあるのだな」
「あぁ、俺と融合しているから魔装天狗とはまた異なるかな。あ、済まん――」
上半身を素っ裸に変更。
「あっ」
「これで血を吸いやすくなったか」
「ふふ、シュウヤは女慣れし過ぎだ。わたしの気持ちをワカッテイルのか?」
「まぁ、多少は分かる、語るか?」
「語るな――もう!」
と、サシィは首筋に犬歯を立ててこない。
普通に首と顎にキスをしてきた。
そのまま自然と唇を奪われたが、はは、ぎこちない。
サシィの唇の動きを助けるように頭部を動かして合わせてあげた。
己の唇でサシィの下唇を引っ張る遊びをしたくなったが、しない。
サシィのキスに合わせてディープなキスに移行した。
サシィの肩甲骨を撫でつつ――。
両腕と舌から<血魔力>を、サシィの背中と口内に送る。
と、サシィは「――アァ゛」と甲高い声を発して派手にイってしまった。
サシィは暫し放心状態となってしまった。
少し刺激が強かったか。御姫様抱っこを行う。
起きたところで、普通にサシィに立ってもらった。
サシィは俺の下腹部をチラッと見てから、
「……すまない……」
と謝ってきた。
「ははは、謝るなって。俺が<血魔力>を送ったことが原因だ」
「あ、うん。でも気持ち良かった。そして、私を想っての<血魔力>は凄く嬉しい……」
「おう。で、サシィ、戦闘職業にもある血龍炎のことだが」
サシィは頷いた。
己の体と両手を見る。
そんなサシィの双丘に薄らとルシヴァルの紋章樹の幻影が浮いて見えた。
幻影の中の光魔ルシヴァルの系統樹に、サシィの古代文字が刻まれていると分かる。解像度の高い幻影だったが、系統樹の模様は薄らぎながら消えた。
そんなサシィの脇腹に小さい九曜紋の〝割り九曜〟の模様が出来ていた。
模様にはサシィは気付いていない。
「サシィ、源左の戦旗の絵柄は九曜紋だよな」
「あぁ、そうだ」
「脇腹に小さい九曜紋が刻まれている」
「え? 銅鏡はここにはないから今度確認しよう」
「どことなく、炎、龍が回っているようにも見えるんだが……」
「ふむ」
「……そして、<光魔の王笏>を用いた際の<
「……そうだったのか……」
「サシィには、まだ秘密が?」
「ふふ、シュウヤには秘密はない。私のすべてを教えるぞ――」
「それは嬉しい――」
サシィと抱き合う。
キスを何回か繰り返した。
このまま一回戦かと、鎖骨からおっぱいにキスを繰り返したが、場所が盥の上ではな。
と、サシィが落ち着くのを待ってから、
「秘密を教えてくれるかな」
「……あぁ、【源左サシィの隠れ洞窟】の地下には、魔斧槍源左と関係している【源左魔龍紋の祠】があるのだ」
「へぇ……あの魔斧槍か。納得だ。そして、ローグバント山脈にも通じているのか」
「通じていると思う」
サシィの言葉に頷きつつ、そのサシィの右腕を上げた。
サシィは直ぐに「あぅ……」と可愛い声を発した。
「腕? 腕が好きなの?」
その少し焦ったような乙女声を聞いて思わず笑う。
「あぁ好きだ、サシィの体ならどこでも――」
そう言いながら腕に嵌まっている処女刃を外して回収。
勿論、サシィの腋の下と、横乳を見ながらだ。
「ふふ、嬉しい言葉だ……」
凄く魅力的なサシィに、
「……<源左魔闘蛍>も進化したのかな」
頬が赤いサシィは、満面の笑みとなって頷いてから、
「――うむ! 進化した」
「良かったら教えてくれ」
「ふふ、当然教える! 私のシュウヤ……」
そう言いながら体を寄せてきた。
「はは、ありがとう」
そう言いながら、サシィの長い黒髪を少し退かしつつ隠れていた耳にキスをすると、
「ひゃぅ……」
と変な声を発したサシィ。
体が震えながら、両手を俺の背中に回してきた。
サシィは裸のままだから、乳房の形がダイレクトに伝わってくる。
そのサシィは見上げながら、
「……<魔闘気>も<源左魔闘蛍>から<魔闘血蛍>に変化を遂げた。これも<血魔力>のお陰だろう。体の……丹田から脳天、子宮もだが、体の底から膨大な力が溢れてくる感覚だ……光魔ルシヴァル化の時よりも、体の変化具合が激しい」
そう語る。
黒い瞳が仄かに血色に輝く。
<魔闘血蛍>効果か、源左特有の魔眼開眼とか?
「……魔族の源左特有もあるとは思うが、<血魔力>の目覚めだからな。さ、盥から出よう」
「あ、うん」
と、サシィの腕を持ちながら大きな盥から共に出た。
大きな盥に残るサシィの血を足から吸引――。
「サシィの血を頂いた」
「<血魔力>は操作できるから直にあげたのに……」
「それは後で――」
と、大きな盥を持ち上げ宙に放る。
「え?」
「畳は傷つけないから安心しろ――」
片足で畳を蹴り跳躍――。
宙空から<生活魔法>の水を撒く。
同時に右肘の<滔天肘打>を繰り出した。
続けて、左掌底の<滔天掌打>を盥にぶちこむ。
右拳の<血仙拳>を連続的にオラオラオラオラオラァァと繰り出して大きな盥を破壊――。
更に<玄智・陰陽流槌>を発動――。
両肘の霧状の水飛沫が円い陰陽太極図と成る。
一瞬で、陰陽太極図と似た水の紋様を両肘の表層に装着し、その左右の肘の連続した打撃を、盥の破片に繰り出した。
<玄智・陰陽流槌>の水の打撃と言えるかもしれない肘の連続打撃を浴びた盥の破片は一瞬で塵となる。
最後に右肩に
「ングゥゥィィ!!」
そう声を発したハルホンク。
肩の竜頭装甲の口から盥の塵をすべて吸い込んでくれた。
<邪王の樹>をハルホンクが取り込んだ形でもあるのかな。
「……おぉ、素晴らしい格闘術。近くで見ると圧倒的だな」
「ありがとう。<槍組手>も学んでいるし、<魔人武術の心得>のスキルも獲得しているからな」
「ふふ、背中の筋肉の張り具合といい、筋肉が躍動する動きは素敵だった……」
サシィは赤らんだ裸のまま長い黒髪を見せる。
そのまま巾着袋から布団を取り出し、敷く。
「シュウヤ……」
「あぁ――」
そこからは、ロロディーヌが呆れるほど――。
夜か朝か分からないほどの間、情事を繰り返した。
◇◇◇◇
展開されている《
《
アイテムボックスから魔煙草を取り出し咥えた。
<武装紅玉・アムシャビス>の指輪を見る。
これがあれば思念で、魔王アドゥムブラリと会話が可能――<ザイムの闇炎>を発動させて、人差し指から闇炎を出す。
その闇炎に魔煙草の先っぽを当てて息を吸った。
休んでいると……。
《
ヘルメが浮遊しながら近くに来た。
「閣下、サシィは?」
「あぁ、寝ているよ」
「そうですか、閣下の珠玉の<血魔力>と一物の体感を一人で受け続けるのは無理ですからね」
「あぁ、<
「ふふ……閣下……」
とヘルメに腕を引っ張られた。
「ヘルメも興奮したか」
「はい」
庭を浮遊しながら前進し、一気に加速上昇。
奥座敷の屋上で、ヘルメと一戦&模擬戦となってから、
「うはは、婚姻の儀の褥――」
「ついにふれあいの儀ですね!!」
「御業の体験を――」
「おう、期待にそえるように、がんばるさ」
「閣下と
「うう、精霊様が優しすぎる!!」
「ふふ、いいから行きますよ~」
と、ヘルメに奥座敷の洒落た部屋に案内された。
「妾からじゃ!!」
飛び掛かってくる
そのまま強引に小さい唇を奪い<血魔力>を送る。
「あぅ――」
同時に<血魔力>を送ると、
「あぁぁ――」
と早々に甲高い喘ぎ声を発して気を失ってしまった。
そこから優しく丁寧に、
そうして、先ほどと同じく、ロロディーヌが呆れるほどの夜か朝か分からないほどの間、情事を繰り返した。
◇◇◇◇
ヘルメの簡易的な<闇水雹累波>を――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で受け持つ――。
更に<
そして、<水血ノ断罪妖刀>を発動。
「それが<水血ノ断罪妖刀>――」
ヘルメは駆けながら――。
両手の指先から伸ばした<珠瑠の花>と<
素直に凄い――。
最後は側転しながら斜め上へと<水血ノ断罪妖刀>を弾いた。
「初見で新スキルの迅速な斬撃に対応するとは、見事だ――」
と、動きを止めた。
ヘルメは両手の<珠瑠の花>を消す。
笑顔満面で「はい!」と返事をすると、
「闇神アーディンの神像のところに行きますか――」
そう言いながら前傾姿勢で前進。
左右の腕は氷剣腕となっている。
ヘルメは氷剣腕を突き出してきた。
魔槍杖バルドークを右手に出して――。
「そうだな、アドゥムブラリたちが街から戻ったら行ってみよう――」
氷腕の突きから袈裟懸けの斬撃を――。
魔槍杖バルドークの柄で防ぎ、払い――横回転。
<黒呪強瞑>と<魔闘術の仙極>を発動。
<滔天仙正理大綱>を意識。
同時に<闘気玄装>を強めつつ<滔天内丹術>と<滔天神働術>を意識。
更に風槍流『左背攻』を繰り出すフェイクから――。
魔槍杖バルドークの竜魔石で、ヘルメの足を掬う。
「――きゃっ」
転んだヘルメだったが、液体状となった足が一瞬で地面をとらえると短く跳躍し、氷剣腕を突き出してきた。
眼前に迫った氷剣腕の切っ先――。
俄に魔槍杖バルドークを持ち上げ――。
その柄で、氷剣腕の切っ先を弾くと同時に<山岳斧槍・滔天槍術>を意識。
左から右へと魔槍杖バルドークを迅速に振るう。
「は、速いぃ――」
魔槍杖バルドークの柄の連続打撃でヘルメの氷剣腕を押し込んでいく。
ヘルメの左右の氷剣腕が――。
ドッと音を発して氷の破片となって、破壊に成功。
そのまま、ヘルメの胴体を魔槍杖バルドークの嵐雲と似た穂先がとらえ斬る。
「――きゃぁ」
庭に常闇の水精霊ヘルメの液体が散った。
ヘルメも蹌踉めいて後退し、片膝で地面を突く。
「ま、参りました」
「おう。ヘルメ、胸は、ってもう回復してるか」
「ふふ、はい。しかし、閣下の魔槍杖バルドーク一本の戦闘武術が飛躍的に上昇したと分かります! 風槍流が基本なのは変わらないと思いますが……」
「おう。圏と呼ばれる螺旋運動の〝幅の自由度〟が増したと言える<山岳斧槍・滔天槍術>を獲得したからな」
「……凄い。先ほどの動きが<山岳斧槍・滔天槍術>なのですね……」
「おう、そうだ」
「……ふふ、槍は本当に奥が深い。閣下は前に槍を〝百兵の王〟と呼んだことがありますが、それがなんなのかよく分かります」
「あぁ、そうだろうな」
すると、皆の気配が奥座敷に増えてきた。
「ヘルメ、模擬戦は一旦中止、縁側に行こうか。闇神アーディン様の神像を調べる前に、皆に確認もある」
「はい」
ヘルメと共に庭を駆けて奥座敷に向かった。
バーソロンとビュシエとアドゥムブラリにフィナプルスとアクセルマギナと黒狼隊とツアンが縁側で談笑している。
「よう、皆」
「はい、旦那、サシィの姐さんが旦那を探してましたぜ」
「あぁ、ヘルメと模擬戦をやっていた」
「はい、打撃音が響いていましたから、そうだろうとは思っていました」
そこに、
団子と羊羹を持っている。
「一番!」
「負けました~」
「うぅ、三着……」
と、
ツアンたちの縁側にもお茶と団子などが色々と並んでいた。
「皆、街で買い物を楽しんだようだな」
「はい」
「あぁ、製鉄所が複数あって驚いたぜ。たたらばは、どれもこれも火力が凄くてな。砂魔鉄と源左魔砂などを溶かす高炉も、粘土とスライム系のモンスターを活かした高炉で、凄い迫力だった」
「はい、魔鉄製鉄所は、一見古く見えましたが、魔科学にも通じています。たたらばは不思議な機構ばかりで驚きました。後、水車を利用した坑道から砂鉄を運ぶ自動コンベアは見事です」
「へぇ」
「わたしは、フクナガが働いている店を教えてもらい、向かいました」
そう言ったのはバーソロン。
「はい、わたしもです」
「ビュシエもか、やはり能力が上がる料理は気になるよな」
「はい」
二人が座る縁側に近付く。
「どうだった?」
「コザクラとオオザクラの店を覗きましたが、混雑していて、料理人のフクナガも姿が見えず……」
「まぁ、そうだろうな」
「二つとも数十人と並んでいました」
「焼けた卵焼きと魚の煮付けの匂いが、食欲をそそる匂いでした。食べたかったですが、ビュシエと共に源左砦の様子を見学していました」
「はい、フクナガの店以外にも、美食家を唸らせる料理屋は多い印象です」
「へぇ、興味深い」
すると、二人は沈黙。
「どうした?」
「……サシィから、<血道第一・開門>の話を聞きました。そして、寝たのですよね」
「勿論、エッチをして、気持ち良くしてあげた。ビュシエも後でやろう」
「え、あ、あ、はい!!」
ビュシエは両頬に己の両手を当てて跳び上がる。
体から<血魔力>を発して浮遊しながら庭に突進すると、白い蝙蝠に変化して飛び立っていく。
大丈夫か、ビュシエの興奮度合いが激しい。
すると、ぬっと目の前にバーソロンがきて、
「……シュウヤ様、わたしもお願いします」
「おう、バーソロンは<
「……はい、大丈夫です!」
少し不安そうな顔色のまま左肩に頬を寄せてきた。
すると、サシィが奥座敷の廊下から現れる。
戦闘用具足のサシィだ。
板の間を滑るように寄ってきた。
「シュウヤ、シュウヤ殿! どこにいたのだ!」
「おう、ヘルメと模擬戦をしていた」
「あ、そうなのか」
「ふふ、閣下との模擬戦は暇があれば行います」
「遠くから精霊様との模擬戦を少し見学してました~」
「はい! 二人とも速くて動きが追えなかった……」
「凄かった……」
黒狼隊の三人がそう発言。
「そうだ、リューリュにパパスとツィクハル。俺が預かった品、〝魔速チャージャー〟と〝バンスルの瞑力〟と〝魔剣ルクトマルス〟を渡しておこう。皆もいいかな」
「え!」
「あぁ、構わんさ」
「はい」
「妾たちは単体で頗る強い、リューリュたちが装備して強化されるのはよいことじゃ」
「そうですね」
「「はい」」
ビュシエも戻ってきた。
白い蝙蝠は可愛い蝶々、蛾に見える。
そんなビュシエは一瞬で女体化。
そのビュシエに、アクセルマギナが、
「賛成です。ビュシエさん、石棺の中にあったアイテムの中で、三人が身に着けられる優秀な物はありますか?」
そう聞いていた。
「あります。〝永遠の加速〟は加速性能が上昇するアイテムです。〝涼風ノ魔籠手〟は物理と魔法防御に優れた防具で、風属性の魔法盾が自動的に攻撃に合わせて展開される。〝闇隠れの才衣〟は物理攻撃と加速能力と<
ビュシエは一瞬で銀鎖のバングルから、複数の銀鎖のバングルを取り出してリューリュたちに渡した。
「あ、ありがとう、でも……」
「……は、はい、あ、こんなに」
「俺も、バーソロン様と陛下……」
「アイテムは装備できる範囲で、各自で決めてくれ」
「うむ、陛下のはからいと思え、選ぶといい。それに、陛下の<従者長>となるのだ。もう少し自信を持つといい」
「「はい」」
「分かりました。リューリュ、ツィクハル、選ぶぞ」
「「うん!」」
<従者長>になる前に、黒狼隊のパワーアップが確定。
「皆もいるしちょうどいい。ちょいと、今の状況を〝列強魔軍地図〟で説明しよう。リューリュたちは選びながら聞いてくれ」
「「「はい」」」
「何の説明をするんだ?」
「魔界王子テーバロンテの打倒の影響からの予測だ」
「はい!」
「分かりました~」
「シュウヤ様……」
ビュシエは俺の腕に寄りかかってくる。
エッチを期待しているビュシエには悪いが〝列強魔軍地図〟を展開し、今までの経緯を踏まえた戦略などの説明を斯く斯く云々と、行った。
「……その関係で、デアンホザーの残党は恐王ノクターや悪神ギュラゼルバンに恭順し、俺たちへの尖兵になる可能性が高い」
「だから、シュウヤ殿は、バーヴァイ城に魔界騎士グラド殿たちを残したのだな」
サシィの言葉に頷いた。
すると、
「ンン、にゃおぉ~」
「ウォォォン!」
相棒と魔皇獣咆ケーゼンベルスが庭に現れる。
「よう、ロロとケーゼンベルス。今ちょいと、〝列強魔軍地図〟で説明中だ」
「にゃ」
「ほぉ、分かった」
二匹は傍に寄ってきた。
〝列強魔軍地図〟のバーヴァイ城に指を当てる。
「ンン」
可愛い前足で真似してくる。
気にせず、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクター以外の魔界セブドラの神々や諸侯の襲撃も可能性は否定はできないと話をしてから……。
魔傭兵ラジャガ戦団の件を踏まえて、魔の扉を使い、セナアプアから眷属を呼び、バードイン城に移動しようと告げる。
それから、
「……だからグラドは【バーヴァイ平原】と【古バーヴァイ族の集落跡】の守りも兼ねている。バーヴァイ城の守りの要は、バーソロンの元護衛部隊だった存在たち。そして、その中でも優秀なアチという名の美人将校がいるんだ」
「ふふ、アチを褒めてくれてありがとうございます」
バーソロンは嬉しそうだ。
パパス、リューリュ、ツィクハルも笑顔を見せた。
「おう」
「では、セナアプアからセラ側の眷属を魔界セブドラに呼ぶ際は、わたしはセナアプアで、【テーバロンテの償い】と繋がる裏情報を【白鯨の血長耳】と【天凛の月】のメンバーたちに告げればいいのですね」
「そうなる」
バーソロンは頷いた。
「次の話題だが、魔王級半神のミトリ・ミトンと大厖魔街異獣ボベルファに乗る鬼魔人&仙妖魔の軍も、俺たちの領域に呼び寄せている」
「はい、シュウヤ様は大厖魔街異獣ボベルファの担い手の一人」
ビュシエの言葉に頷いた。
「うむ」
「あぁ」
〝列強魔軍地図〟に大厖魔街異獣ボベルファの位置が反映されたら便利なんだがな。
「……ミトリ・ミトンに、大厖魔街異獣ボベルファ」
「おう」
「その援軍の大厖魔街異獣ボベルファがいたところは、〝列強魔軍地図〟の近場で言うと……【ゲーメルの大霧地帯】、【ベルトアン荒涼地帯】、【黒魔族の京洛】、【シャントルの霧音唖】の更に北の魔軍夜行ノ槍業と関わりが深い【魔城ルグファント】の北側だった魔界王子ライランの所領にいたからな。もうだいぶ南に移動したはずだが、まだまだ不明」
サシィは、
「前にも聞いた玄智の森と関係した鬼魔人傷場が嘗てあった地域で、神々の争いがあったところか……」
〝列強魔軍地図〟を仕舞う。
「そうだ。いつぐらいの到着となるのか読めない」
「ふむ。何が起きるか」
「……だからこそ、【メイジナの大街】、【サネハダ街道街】も味方につけときたい」
「シュウヤ殿の考えは深い。すべてに納得できる。愛と平和の心に慈しみがあるからこその残虐性なのだな……そこには断固たる意志を感じられるぞ」
「おう。互いに利益となる大同盟。デラバイン族、魔傭兵、ケーゼンベルス、源左のように交渉可能なら、他の勢力とも同盟を結びたい」
「わたしたち【源左サシィの槍斧ヶ丘】に来てくれた理由だな。非常に嬉しく思う」
「あぁ、サシィと出会えて嬉しい」
サシィは一瞬きょとんとした表情になった。
顔が真っ赤だ。
「……うん、シュウヤ殿と出会えて人生が変わった……」
可愛い。
「先ほどの話に戻す。ベサンは不明だが、デアンホザーの残党は恐王や悪神に靡き、敵の尖兵となる可能性が高い。その関係で、バーソロンも話していたが、一部の魔傭兵のように、恐王と悪神の勢力と噛み合わず争い合ってくれていると予想できる」
恐王ノクターは魔界セブドラの神絵巻に載るほどの上級神で、悪神ギュラゼルバンよりも強いはず……二虎競食から駆虎呑狼などの計略は仕組んだわけではないが、自然の成り行きでそうなれば理想だ。
ま、それは俺目線の都合、諸侯は他にもいるし、放浪している魔界騎士もいる。
「……進軍が遅れている……【ベルトアン荒涼地帯】以外の敵も考えねばな」
「「はい」」
「当然だろう。サシィたち【源左サシィの槍斧ヶ丘】の軍部も、【バーヴァイ城】や【バーヴァイ平原】に【ケーゼンベルスの魔樹海】を見て回るべきだと思うぜ」
魔王アドゥムブラリがそう発言。
「たしかに、そうだな。上笠連長に報告しておこう」
「あぁ」
サシィの表情には険しさがある。
マーマインたちを倒して敵は絞れたが、デラバイン族やケーゼンベルスと隣接している源左からは遠い敵のことを考える必要がでてきたからな。
遠交近攻、夷を以て夷を制すなどの言葉を想起しつつ――。
毛利元就の『三矢の訓』の喩えがピッタリと嵌まる。
「その意見には賛成だ。ケーゼンベルスたちとデラバイン族と源左の者たちが手をしっかりと組むことで、この地域はより強固安泰となるだろう」
「あぁ、たしかに!」
「そうだとも!」
「ウォォォォォン!」
「「「ウォォォン」」」
「にゃおぉぉ」
相棒の勝利宣言のような鳴き声が可愛い。
「さて、闇神アーディン様の神像はどこだろう」
「あ、こちらです」
「わたしも案内できる、行こう――」
「おう」
皆で、縁側から奥座敷の庭に出た。
すると、ビュシエが俺の手をギュッと握ってくる。
ビュシエの蒼い目は少し充血気味。
長い金髪が俺の肩に触れていた。
いい匂いだ。
前を歩くサシィとヘルメは特に何も言ってこない。
背後の
「ビュシエ、闇神アーディン様の神像なんだが、俺には、セラにデルハウトという名の光魔騎士がいるんだが……」
ビュシエにサイデイルの女王キッシュの話を伝えると、機嫌を悪くする。
が、直ぐに笑みとなって、
「はい、サイデイルの女王ですね。正直に話をしてくれるシュウヤ様に愛を感じて嬉しいです。すべてを受け入れるつもりですから、ご安心を」
「おう、ありがとうビュシエ――」
と、ビュシエの手を握りながら駆けた。
「はい!」
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