千四十六話 ビュシエの知る吸血神ルグナドの情報


 〝列強魔軍地図〟が鮮血のような色合いに変化。が、一瞬で元通り。

 ビュシエの<血魔力>が浸透した影響だろう。

 同時に新しい立体的な地形が〝列強魔軍地図〟の上にジオラマ風に刻まれていく。


【血炎大山エショド・ルシュハア】。

【血法大魔城トータルヴァインド】。

【高祖吸血鬼達ノ永久墓廟】。

【ルグナドの血法大院】。

【ルグナドの血大迷宮】。

【ルグナドの大森林】。

【吸血騎士養成学校】。

【イモータルの血技魔城】。

【ルグナドの脾臓宮】。

【ペースン大峡谷】。

【魔皇レドクリアの森】。

【血炎地獄柱エウマウ】。

【トモラギの荒涼地】。

【夜魔と怪魔の新古代碑】。

【戦神ヴァイスとの大闘地】。

【ウラニリの大霊神廟】。

【第十三次魔界大戦勝利記念碑】。

【神狼忌丘ハーヴェスト】。

【双月ノ破壊碑マハハイム】。

【第二次魔界大戦勝利記念碑】。

【血大刀キシュヌの地】。

【吸血神ルグナドの大地】。

【旧神ゲベルの討伐記念碑】。

【吸血神ルグナドの傷場】。

【神威クドレスト大山脈】。

【荒神猫キアソードの封印地】。

【キュイル大街城】。

【ドバーの港街】。

【怪夜の暗黒街セイヴァルト】。

【怪魔の街ヴァルアン】。

【吸霊忌・リヴォグラフ仇黒戦場】。

【血の大海ハブランドア】。

【ルグナドとレブラの避暑地】。

【魔街異獣の繁殖地】。

【ヴァルマスクの大街】。

【パイロンの丘】。

【ドムラピエトーの傷場】。

【ミドランドの寺院】。

【ハルゼルマの荒涼地】。

【ローレグントの砂古城】。

【ペインアルファの高魔城】。

【ソシエールの血大城】。

【アヴァロンの傷場】。

【ホーグマルクの湖】。

【バフシュルトの血谷】。

【異界地下パゼル=ベルア】。

【フォーラルの血道】。

【荒神パグルの右腕封刹山】。

【レブラの大斜塔】。

【デンヤーエルの魔塔】。

【キュルハ湖岩樹大家】。

【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】。

【ミアンラロスクの脚岩】。

【ドムラランの庵】。

【古代魔界大戦の跡地】。

【欲望の王ザンスイン旧領地】。

【血炎大竜ヴァインシュルトの大峡谷】。

【古代吸血鬼ラヴァレの大砦】。

【怪魔キーレファニスの墳墓】。

【ルグナドの大血沼】。

【吸血神ルグナドの大灯台】。

【吸血神ルグナドの類縁地】。

【吸血断崖城エイジハル】。

【トークマダルクの大魔塔】。

【虚無ノ大源森】。

【廃城ギリコル】。

【堕落の戦巫女シチィルの宮廷】。

【ロクヴァンドの大闘技場】。

【水帝フィルラームの血風大岩山】。

【戦巫女バーメルの砦跡地】。

【元八大龍王ニルヴァーナ永眠の地】。

【戦神ドン・ベルアン打倒記念碑】。

【ヒイラギの血湖】。

【アゼイドラルドラゴンの岩石群】。

【ヒアドゥの森】。

【戦技魔姫ザスーヌの地】。

【変異獣の大森林】。

【ヘーフィル城】。

【廃城エイゲルバン】。

【アジャベリの巣】。

【破壊の王の足跡】。

【姫魔鬼と吸血鬼の闇地下酒場】。

【魔霊大森林キジキル】。

【吸血鬼サミュエルの砦】。

【アンブーシャの巨頭郡】。

【恐王ノクターの祈願魔塔】。

【魔霊弧の墓】。

【冥々ノ大迷宮】。

【牙魔ノ眠り森】。

【恐蓮キヒマリフの毒沼】。

【霊堕サーチモルの旧宮】。

【死海の地】。

【血雷幻塔キシュアル】。

【悪魔族キィレンの地】。

【バンドアルの魔獣平原】。

【大吸血鬼魔竜蒼ムーンの月影】。

【ゲトビ・ソルガンの牢獄大魔城】。

【エイヴィハンの地】。

【エイヴィハン街】。

【レンガ・マフィルの魔連血九刀群】。

【ディーラの断崖迷宮】。

【覇王メイズスの魔谷】。

【古城ゼド・マリス】。

【フォンマリオンの魔塔】。


「「「おぉ」」」

「地名に地形が、凄まじい情報量!」

「ビュシエが吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>として過ごしてきた期間は膨大と分かる……長い歴史だな」

「……はい」


 ビュシエの表情にはどこか哀愁があった。


「……広大な魔界セブドラの地が埋まる勢いだ。優秀な魔地図が〝列強魔軍地図〟と分かる」

「はい、宗主様だからこその〝列強魔軍地図〟。ですが、魔地図は普遍的なアイテムの類」

「うむ。大魔商のデン・マッハ、ゲンナイ・ヒラガ、パイルド・モトハも魔地図を持っていた。が、ここまで広大な魔地図は初めてだぞ。シュウヤ殿の称号の格と能力が高いからか?」

「そうだと思います」


 ビュシエとサシィがそう発言。

 サシィが語った中にあった平賀源内の名が気になった。


 転生者か同姓同名の魔族の方は興味深い。


 火浣布や摩擦起電機を造った発明家なら、魔界セブドラでも何かを発明しているかも知れない。と、アドゥムブラリが〝列強魔軍地図〟とビュシエを見て、


「さすがは吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>だっただけはある」


 そう発言。皆頷いた。

 ビュシエは笑顔を見せながら右腕の銀鎖のバングルを見せるように胸元に手を当てる。気品のある会釈をしてくれた。

 光沢のある上下揃いのサテンドレープ。

 繻子織りのような魔裁縫技術で造られているように見える。


 複数の経糸たていと緯糸よこいとが組み合わさっていた。

 その繊維一つ一つに濃密な魔力が内包されているから、貴重な衣服に違いない。そんな衣装が似合う美人さんのビュシエに魅了された。

 するとアクセルマギナも、


「色々と刻まれました! そしてマスター、これをアーカイブに残しました。意識するか、旧OSメニューに切り替えた表示画面の〝記録〟でもアーカイブは再生が可能です」

「了解」


 戦闘型デバイスは色々と便利だ。

 そして、アイテムボックスの古いOSメニューの一つだった記録。

 その記録をポチッと押したら入れた迷宮産の魔石と関連したモンスターの資料が表示されるんだったな。


 モンスター図鑑的で面白い機能。

 迷宮都市ペルネーテ以外の魔石もぶっこんでいるが、そのモンスターの資料も表示されるんだろうか。


 すると、


「ウォォォン! 気になるぞ――」


 神獣ロロディーヌの隣を走る魔皇獣咆ケーゼンベルスがそう発言。


「ンン、にゃ~」


 神獣ロロはゆったりとした動きになる。

 頭部を傾げようとした。

 が、己の頭部に俺たちが乗っていることを思い出したように傾けるのを止めてくれた。

 

 時折天然なところがある神獣ロロさんだ。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは鼻息を荒くしつつ、


「――友と主、ありがとう。ツアンと黒狼隊よ、主たちがいる友の頭部に移るのだ!」


 そう叫ぶと、魔皇獣咆ケーゼンベルスの頭部にいたツアンたちが、一斉に返事をしてから此方側に跳び移ってきた。早速、ケーゼンベルスも小さくなると、相棒の頭部に乗ってくる。


「大旦那、新しい地図にも見える〝列強魔軍地図〟を見せてもらいたいです」

「シュウヤ様、わたしも〝列強魔軍地図〟を見せてください」

「わたしも見たいです」

「俺も頼みます」

「「「ウォォン」」」


 パパスたちに頷いた。

 ケン、コテツ、ヨモギの黒い狼たちも鳴き声を発しながら、〝列強魔軍地図〟の回りに集まる皆に釣られてリューリュたちの膝の裏に頭部をぶつけていた。リューリュたちは転けそうになっている。


 その様子を見て、笑顔となりつつ、


「当然、見ていいさ」

「「「はい」」」


 ゼメタスとアドモスは少し距離を取ったが、皆が〝列強魔軍地図〟の周りに集結。

 この〝列強魔軍地図〟の立体地図はジオラマ風の造形で精巧。

 戦闘型デバイスにある『ドラゴ・リリック』の映像的なダイナミックさは無いが、箱庭的な地図だから、ここに人形を置いて飾りたくなった。


【血槍イーヴァルの丘】。

【バーヴァイ平原】。

【悪神デサロビア吸霊山脈】。

【天魔鏡の大墓場】。

【魔蛾ノ大塔】。

【地獄の大平原】。

【リルドバルグの窪地】。

【狩魔の大平原】。

【魔神血沼】。

【キスバル大平原】。

【怪夜ノ霧】。

【怪魔ノ崖】。

【血沼地下祭壇】。

【ヘイヴェーン闇牙峡谷】。

【穿山ウアンの戦場】。

【魔牛馬ラナディスの暴風】。

【ゴウルボウルの魔鋼の森】。

【十層地獄大門層】。

【古城レムリア】。

【エジムンド街道】。

【ライランの血沼城】。

【魔城ルグファント】。


 これらの地方と地続きとなった〝列強魔軍地図〟は結構壮観。

 すると、【ケーゼンベルスの魔樹海】と【源左サシィの槍斧ヶ丘】までの端のほうの【ローグバント山脈】の中に、


【魔皇ローグバントの古城】。

【ルーレの廃墟】。

【ヒュポルアの渓谷】。

【トムラ・ヒュポルアの孤児院】。

【バルアの古道】。

【ケムサーの里】。

【テンシュラン遺跡】。

【シテングの古代遺跡】。


 などの新しい地名が刻まれる。


「【ローグバント山脈】に知らない地方と地名が増えた」

「はい、もう通り過ぎた位置だと思いますが」


 アドゥムブラリとアクセルマギナがそう発言。

 テンも〝列強魔軍地図〟を凝視しながら、


「【トムラ・ヒュポルアの孤児院】が気になる。魔界で孤児院を営むとは、しかも【ローグバント山脈】の奥地だぞ」

「沙、寄り道したい気分なのは分かりますが、もう通り過ぎました」

「ぐぬぬ、神獣も加速を止めない以上は仕方あるまい」


 俺も気になった。すると「ンン」と相棒が動きを止める。

 鼻先を【ヒュポルアの渓谷】がある方向に向けていた。


「あぁ、まさかだな。マーマインたちが多かった【ローグバント山脈】に、身寄りのない子供を受け入れている存在がいるとは。が、ロロ、今は気にせず、【源左サシィの槍斧ヶ丘】に戻っていい」

「にゃ~」


 ビュシエは、


「わたしも【トムラ・ヒュポルアの孤児院】と【ヒュポルアの渓谷】は知りませんでした。最低でも数百年は石棺の中。腕と杖もハザルハードに取られましたからね。【ローグバント山脈】に辿り着いた時も、魔地図はありませんでしたから、いつ【トムラ・ヒュポルアの孤児院】ができたのかも不明です。【ヒュポルアの渓谷】は昔からあったとは思いますが」

「ビュシエも知らないなら皆も知らないか」


 皆が頷く。貂は、


「はい。【ローグバント山脈】は広大です。未知の地域もまだあるということでしょう」


 そう語ると、サシィを見る。

 サシィは、


「源左にトムラ・ヒュポルアという名の人材はいないはず。わたしも初めて知った」


 サシィの発言に頷きつつ、〝列強魔軍地図〟を凝視。

 新しく刻まれた地名は……。

 吸血神ルグナド様と関係した地名が多い。

 そして、〝列強魔軍地図〟の傷場の場所をズームアップし、


「――ビュシエ、【ドムラピエトーの傷場】と――【吸血神ルグナドの傷場】と――【アヴァロンの傷場】についてだが……」


 そう聞くと――。

 ビュシエは俺に聞かれるだろうと思っていたのか、直ぐに、


「【ドムラピエトーの傷場】、【吸血神ルグナドの傷場】、【アヴァロンの傷場】は、吸血神ルグナド様が占有していた三つの傷場です。わたしは、ルグナド様の命令で、魔王の楽譜第九章と魔王の楽譜第五章とハイセルコーンの角笛にバイオリン属の擦弦楽器の〝ベベルハンの悪魔〟を使い、ドムラピエトーとアヴァロンの傷場からセラに渡ったことがあります。またその逆もあります。ルグナド様の名が付く傷場は利用したことがありません」

「「「おぉ~」」」


 皆、どよめくような声を発した。

 その声に、ビュシエは少し視線を泳がせて驚く。

 瞳の動きが可愛いビュシエに、


テンとツアンとアドゥムブラリの反応は、俺も魔王の楽譜第三章とハイセルコーンの角笛を持っているからなんだ」

「そうでしたか!」


 ビュシエは納得したようにそう発言。


 頷きつつ、ツアンとアドゥムブラリとテンに視線を送り、


「魔王の楽譜を入手するために地下オークションをがんばったからな?」

「がんばった? 【梟の牙】を倒した際に得た大金であっさりと落札だろ」

「【残骸の月】の収入もありますぜ」

「妾たちは地下オークションの現場には居なかったぞ」

「はい、ヴィーネ、レベッカ、エヴァ、ユイから色々と聞いています。レザライサたち【白鯨の血長耳】もその場にいて、エセル界で捕まえた人材を売っていたとか」

「はい。私的にはショックですが、奴隷売買は南マハハイムでは共通している文化のようですからね」


 羅は人権派か。ま、気持ちは分かる。

 ビュシエに視線を向けると、そのビュシエが、


「ふふ、納得です。では、シュウヤ様も傷場を領有しているのですね」


 そう言ってきた。


「傷場は持っていないんだ。俺と相棒がセラから魔界セブドラへと渡れた理由は、魔の扉という名の魔界王子テーバロンテが製作した鏡を利用したからだ。玄智の森に帰還可能なゲートのような傷場ではない」

「魔界セブドラの傷場の占有はしていないのですね。理解しました」


 ビュシエはあっさりと受け入れた。

 魔の扉の転移アイテムは知っているようだ。


「ウォォン! 友にはもう傷場を占有できる戦力はあるように思えるが、そこまで必須ではないだろう」

「傷場の占有は、閣下にはデメリットがありますからな」

「はい、閣下の神格が拡大したら惑星セラに戻れなくなる」


 ゼメタスとアドモスの言葉に頷いた。


「にゃお~」


 巨大な相棒も同意するように鳴き声を発した。

 そして、ゴロゴロと喉音を鳴らし始める。


「極大魔石の回収は【ケーゼンベルスの魔樹海】のお陰で目処が立ったから、魔の扉というセラから魔界への移動方法は使えるようになったが、魔王の楽譜を使った魔界セブドラへの移動方法も、ちゃんと利用するつもりなんだ」

「そうでしたか。では、もうセラ側の傷場の確保を?」

「それがまだまだ……セラの魔境の大森林の傷場は、セナアプアよりも北だから、ちょい距離がある」

「そうですか。その傷場を支配している魔界側の存在が気になります。魔界の神々か諸侯なのか……」

「狩魔の王ボーフーンだと思う」

「では、〝列強魔軍地図〟で言うと……」


 ビュシエは、魔毒の女神ミセア様の領土の一部と闇神リヴォグラフの支配領域の辺りを指す。


「あぁ、その辺りにセラの魔境の大森林に存在する傷場の出入り口があるのか」

「はい」

「そして、魔の扉に話を戻すが、魔の扉の使用には、この場にいないバーソロンが絡んでいる」


 リューリュとツィクハルとパパスは頷いていた。魔の扉の前でバーソロンが魔界騎士に成る経緯を見ていたからな。


「デラバイン族の話は少し聞きました」

「おう。セナアプアでは、魔杖バーソロンと敵対関係だった俺たちだ」

「はい」

「俺は【天凛の月】という闇ギルドの盟主で、総長なんだ。で、敵対していたグループの一つが【テーバロンテの償い】だった」

「その名は有名です。セラで長く活動していて、魔界王子テーバロンテに魂を捧げていた」

「そうだ。邪教と呼べる」

「はい」


 テンとアドゥムブラリにツアンとアクセルマギナも頷いた。


「【テーバロンテの償い】だが、【闇の枢軸会議】の枠に入っていた。【闇の八巨星】と呼ばれている武闘派とはまた異なる」

「大陸を跨ぐ巨大な組織の【闇の枢軸会議】ですね、知っていますよ。【黒の預言者】、【血印の使徒】、【魔神の拳】、【闇の教団ハデス】、【セブドラ信仰】、【ロシュメールの亡霊】、【魔獣追跡ギルド】、【幻獣ハンター協会】、【悪夢の使徒ベラホズマ・ヴァーミナ】など、多数の組織が集合した組織でもある」

「そうだ。知っていたか」

「あ、敢えて省きましたが……セラ側の<筆頭従者長選ばれし眷属>の幾つかも協力していましたので……」

「ヴァルマスク家かな」

「はい。他にも、情報を仕入れるためのアンダーカバーだと思われます。わたしも聞いた程度です」


 皆静まる。クナ以外は、皆同じ反応だろう。

 そして、レザライサの顔を思い出しながら、


「……俺の組織【天凜の月】と同盟を結ぶ【白鯨の血長耳】は共同で、その【テーバロンテの償い】と戦うことになったんだ」

「はい」

「塔烈中立都市セナアプアの下界には【血銀昆虫の街】という名の街がある。東には、港と近い倉庫の建物が密集しているんだが、その場所に魔塔を有した大きい施設があった。そこが、闇ギルド【テーバロンテの償い】のセナアプアの根城だった。その【血銀昆虫の街】を進んだんだが、そこでも結構な争いになった」

「下界の【血銀昆虫の街】にも諸派が多そうなイメージです」


 頷く。


「ケルソネス・ネドーの大商会と、その傘下の商会が持っていた闇ギルドの縄張りを通る際に、ライカンスロープの連中と争った」

「やはり、そのような種族がいたのですね」

「おう。他にもいる。十層地獄の王トトグディウスを信奉する【血印の使徒】などだ。そいつらを蹴散らしながら、【魔の扉】という一部隊を操る【テーバロンテの償い】の幹部バルミュグが君臨する魔塔を目指した。で、その魔塔に突入。そこでも凄まじい激戦となったが、バルミュグと対決し勝利。そのバルミュグは、肝心の魔杖バーソロンを持っていた」

「バルミュグは、魔界王子テーバロンテの眷属ですね?」

「そうだ。そのバルミュグが持っていた魔杖バーソロンには、バーソロンと魔界王子テーバロンテの意識の一部が内包されていた」

「え……」

「本当です! バーソロン様は魔界王子テーバロンテに常に見張られていた。バーソロン様の胸、心臓には、バビロアの蠱物が刺さっていたんです」


 リューリュが涙目となって訴えている。

 ツィクハルとパパスが数回頷いていた。


「……その魔杖バーソロンと会話をしながら、セナアプアの地下に移動することになった。移動するごとに強者の待ち伏せにあったが、そのすべてを撃破。そうして、地下の洞窟のような場所に到達した。その洞窟は広かった。ハイム川の水も流入していて水気の多い鍾乳洞が拡がる地下世界だったな……で、その地下祭壇の天辺に、魔の扉という名の鏡があったんだ。その鏡を守っていた百足魔族デアンホザーの隊と戦って、それも倒した。そこから魔杖バーソロンと長い会話を再び行った。ある意味闘いと言える交渉だろう」


 サシィは、

 

「魔杖バーソロンに、魔界王子テーバロンテの意識の一部が入っていたのなら、相当なことが……」

「あぁ、俺も当初は分からなかった。あ、俺にはもう一人の相棒と言える常闇の精霊ヘルメがいるんだが、そのヘルメは魔杖バーソロンの異変に気付いていた。神意力の有無について違和感があるようなことを言ってくれていたんだ」

「あの精霊様のことなら少しは分かる」


 サシィはそう発言。ビュシエは、


「精霊のヘルメ様という方を使役しているのですね」

「おう。ちょい前にも話をしたが、今向かっている【源左サシィの槍斧ヶ丘】にそのヘルメはいる」

「はい」


 一呼吸の後、


「その後、眷属と仲間たちを集めて、もう一人のリーダー的な【白鯨の血長耳】の総長レザライサにセナアプアから離脱しろと警告して、眷属と仲間たちと共に離脱してもらった。魔の扉には爆発する罠もあったようだ。で、その魔の扉を素早く利用した俺と相棒は、【塔烈中立都市セナアプア】の下界から魔界セブドラのバーヴァイ城に突入したんだ」

「……深い話です」

「あぁ、結構深い。【テーバロンテの償い】と長く争っていた<筆頭従者長選ばれし眷属>がいるからな」

「そうでしたか……」

「あぁ、魔界セブドラに渡っていきなりのバーソロン本人とのご対面も、中々に鬼気迫る状況だったさ。当時、俺が白蛇竜小神ゲン様のグローブで握っていた状態の魔杖バーソロンには、まだ魔界王子テーバロンテの意識とバーソロンの意識が入った状態だったからな」

「……」


 ビュシエは表情を強張らせながら、リューリュたちを見ていた。


 リューリュたちは泣きそうな表情だ。

 気持ちは分かる。

 

 あの時は、死が隣り合わせの状況だ。


 ビュシエに、


「……そこからデラバイン族のリーダー格だったバーソロンを助けて、魔界騎士の眷属に加えた。そこから、バーヴァイ城で共に暴れることになった。が、直ぐにその異変を察知した魔界王子テーバロンテが、無数の眷属たちを引き連れて、バーヴァイ城に攻め込んできた」


 ビュシエは少し唖然としながら、


「……なんという事象か……」


 そう発言。

 少し素が出ている。


「……ウォォォォン! 神々との戦いか。震えてくる話だ」


 ケーゼンベルスはそう発言しながら、俺の足に体を寄せてくれた。

 モフモフの毛がいい気持ち。

 すると、「ンンン」と喉声を発した相棒が、触手を寄越し、その触手でケーゼンベルスを払い退けていた。


 神獣ロロの嫉妬が可愛い。

 サシィは、ケーゼンベルスの前足の黒い毛を撫でて、


「ふふ、武者震いか――」

「うむ!」


 ケーゼンベルスの嬉しそうな声のあとに続いて、ツアンも、


「あの時はイモリザが活躍してくれましたが、ドキドキしてましたよ……強烈な体験です」

「あぁ、俺は単眼球状態だったし、主に貢献はできたが……」

「今にして思えばなんとやらだが、凄まじい戦場だった。……妾も、思い出すと……手が震えてくる」


 がそう発言。

 テンも頷く。


 そうだな。

 大広間の闘いといい、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの大軍。


 凄まじい闘いの連続だった。

 ……少し思い出すと、皆と同じように両手が震えてきた。


 はは、自分が勝った戦いだってのに。 


「ンン」


 相棒が喉音を響かせてくる。

 その神獣ロロが言いたいことはなんとなく分かった。


 少し笑いつつ、ビュシエに、


「……で、魔界王子テーバロンテを討伐した。その魔の扉は、戦闘型デバイスに入れてある。更に、魔の扉は、魔界王子テーバロンテの居城のバードインにも通じている」

「そうなのですね。簡易ゲートのアイテムが魔の扉、希少なアイテムです」

「おう。更にバーヴァイ城で俺たちの傘下に加わった魔傭兵の一団から仲間の救出依頼を受けているんだ。だから魔の扉を使い、バードイン城に移動しようかとも考えていた。そして、塔烈中立都市セナアプアにいる<筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネたちを魔界セブドラに呼ぶかもだ」

「はい」


 少し間を空けて、


「だが、塔烈中立都市セナアプアでも、【テーバロンテの償い】の残党狩りがある」

「セラの【テーバロンテの償い】は巨大な組織ですからね、魔界王子テーバロンテが消滅したとはいえ……」

「あぁ」

「それを考えると……」


 アドゥムブラリもそう発言。

 

「わたしも血を吸っていた側ですからなんとも言えないですが、【テーバロンテの償い】はあくどいことも多かったようですから……」


 頷いた。


「あぁ、その【テーバロンテの償い】を利用して、魔薬取り引きを行っていた評議員たちがいるんだ。ただの金持ち連中だと思うが、そいつらは……表沙汰にならんように闇ギルドの流通ルートの地下を通じて、違法な人身売買を行っていた。人魚なども多いと思うが、人族の子供や大人の臓器を、己の薬品造りの商会に利用していたようだ……吸血鬼ヴァンパイアではないが、血液も使いようによっては若返るようだからな」

「生命の元……錬金術とも関係がありそうですね」

「あぁ、あるだろうな」


 松果体で生成されるアドレナリンに止血剤や薬物としても有名な血のアドレノクロムの暗い話は真実だった。


「バーソロンは、その情報に詳しい。だから、同盟相手の【白鯨の血長耳】の総長レザライサにその情報を伝えたいんだ。そして、【テーバロンテの償い】が利用していたセナアプアや南マハハイムの地下流通ルートを、できるだけ潰したいところだ。その問題を先に進めるかもしれない」

「……はい、忙しそうですね」

「「「……」」」

「……シュウヤ様は、凄すぎる……」


 ツィクハルがそうボソッと発言。

 リューリュは口をあんぐりとさせて数回頷いていた。そのリューリュと目が合う。


 と、瞳が泳ぎ、頭部がふるふると震えて眼鏡が揺れていく。


 頬が一気に赤く染まるし、なんか面白い。


「リューリュ?」

「ひゃい!?」


 リューリュの瞳が変な方向を向いて、変な声で返事をしてくれた。


「はは、大丈夫か?」

「だ、だいじゅうぶれす……」

「……リューリュ……でも気持ちは分かる」


 ツィクハルがそう言いながらリューリュの背中を撫でていた。

 パパスはコテツを撫でていた。


 パパスはあまり俺の眷属入りには興味がないようだ。

 ビュシエに視線を戻して、


「……忙しいが、できることをしていくまでだ」

「はい」


 サシィは、


「……ビュシエ殿、シュウヤ殿が上級神の一柱を倒した証拠として、空を見れば分かると思うが、真夜だ」


 と空を見る。


「あ、たしかに斜陽が消えている。魔界王子テーバロンテが倒された証拠ですね」


 ビュシエの発言に、皆もチラッと空を見てから視線を合わせた。


 サシィは、


「その通り、シュウヤ殿が吸霊胃無アングストラや超大型巨人ハザルハードを倒したように、魔界王子テーバロンテを倒したのだ。ハザルハードとの戦いも凄かったぞ」

「うむ。友と主は強い……超大型巨人ハザルハードは、我の牙を受けても立ち上がってきた強者であった……」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスもそう発言。

 アドゥムブラリも、


「魔皇や愚王の力以外にも吸血神ルグナド様の力を利用、取り込める存在のハザルハードだ、結構な存在だったと思うぜ。神獣の紅蓮の炎を防いだんだからな」


 アドゥムブラリの言葉に頷く。

 相棒は、


「ンンン」


 と、頭部を少し前後させる。

 本気の紅蓮の炎だったんだろうか。


 サシィは足下の揺れに反応して、片膝をおろして神獣ロロの頭部を撫でていた。そして立ち上がると、ハッとした表情を浮かべて、ビュシエに、


「――まだ正式に名乗っていなかった。わたしの名は源左サシィ。過去に一族の者と争った幻影を見ているが……許そう」

「あ、はい。吸血鬼ヴァンパイアのビュシエ・ラヴァレ・エイヴィハン・ルグナドが起こしたことですね……正式に、サシィ殿と源左の者たちに謝罪致します」

「あぁ、気にするな。わたしは知らない。そして、過去は過去、今は今なのだ。が、その謝罪は受け入れよう。だから、これからも宜しく頼みます」


 サシィは頭を下げた。日本式だ。他の国の頭の下げ方ではない。

 日本人の血が流れていると分かる。

 ビュシエも頭を下げた。

 二人は顔を見合わせると笑顔となる。


「こちらこそ! 宜しく頼みます」

「はい」


 固い握手。

 俺も握手したくなるほどの美人さんの握手は良い!


「わたしも光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>に成ればビュシエ殿と同じ。シュウヤ殿と家族になれる」

「はい」


 皆が微笑んだ。


「ビュシエ、ドムラピエトーの傷場とアヴァロンの傷場のことが気になります」


 貂がそう聞く。


「あ、はい」

「うむ」


 羅と沙もそう続いた。

 アドゥムブラリも、


「ヴィーネ、ユイ、エヴァ、レベッカ、ミスティ、ヴェロニカたち<筆頭従者長選ばれし眷属>や<従者長>も同じ気持ちだろう。セラに存在する傷場の名は、魔境の大森林以外では滅多に聞かないからな」


 そう発言。


 ツアンも数回頷いてから、俺をジッと見て、


「たしかに、嫉妬と愚痴が聞こえてきますぜ……旦那……」

 

 大旦那ではなく旦那という言葉のニュアンスには『お気の毒さま』といった感情が感じられた。


 両手を上げて『なんくるないさ~』的な気分を態度で示す。アドゥムブラリとツアンは、信用ならんという胡乱そうな目付きで『……そうですかい』といった顔つきを浮かべてきた。


 ま、その時はその時だ。


「ですが、その大旦那と美人さんたちでもある眷属たちとのやりとりは、かなり羨ましい光景でもありますぜ?」

「あぁ、まったく、ヤレヤレだぜ」


 ツアンとアドゥムブラリはそう語るとなんとも言えない顔つきから直ぐに笑顔を見せる。


 俺は半笑いのまま、両手でメルのようなジェスチャーをしつつ、


「いいから、ビュシエに話をさせろ」


 と言って、指先から<血魔力>を出して遊ぶ。

 アドゥムブラリとツアンは笑いつつ、


「へいへい」

「はは、はい」


 テンは俺たち野郎組のやりとりを見て少し笑っていた。


 すると、アクセルマギナが、


「血文字があれば、多少なりとも、眷属たちにはクッションになり得たかもですね?」

「そうかもな」

「が、使えたら使えたで、血文字の嵐となっただろうよ」

「……たしかに。レベッカからの言葉は直ぐに思いつきます。そして、女王キッシュも気になったと思いますよ」


 それを言ったらサイデイルの皆も、魔界セブドラで光魔ルシヴァルの拠点を築いたことを知れば気になるだろう。


 サイデイルには、ルシヴァルの紋章樹が育っているんだからな。それに宿るルッシーもいる。 


「……あぁ」

「ふふ、では、惑星セラと魔界セブドラの間に次元障壁の狭間ヴェイルがあるお陰で、器様は少し助かった?」


 貂がそう語りながら寄ってきた。

 やっこいおっぱいが左腕に当たって気持ちがいい。

 同時に、貂の無数の尻尾が俺の背中と尻と太股を撫でてきた。


 股間の象さんが本気を出してしまう。

 が、顔には出さず、


「……あぁ、そうとも言える」


 貂は、俺がそう語っている最中にも、男心を理解しているように耳に息を吹きかけてきた。

 ……象さんが起きてしまった。


 が、無言で寄ってきた沙が貂を引き離してくれた。

 羅も〝列強魔軍地図〟を見ながら俺に近付くと、


「ふふ、血文字のコミュニケーション、大事は大事ですが、魔界セブドラの出来事からしたら余計な時間となっていたことでしょう。これでよかったんです」


 と発言。

 俺から離れた貂も、


「はい。皆には悪いですが、急いでいましたからね」

「そして、器様が眷属たちに責められたら、ちゃんと擁護しますのでご安心を」

「妾もじゃ」


 テンがそう発言。


 優しい言葉だ。皆天女のような美人さんだから、魅了される。

 

 すると、ビュシエが細い指先で血文字を描く。


『ふふ、魔界セブドラの次元内なら、当然血文字は使えます』

『おう。が、<血映像>はまだ獲得できていない』


 と血文字を返した。


「はい。しかし、シュウヤ様は吸血神ルグナド様が持つような<始祖ノ古血魔法ファウンダー・オールドブラッドマジック>を獲得された。更に未知の<水血ノ混沌秘術ウォーターブラッド・シークレットアーツ>を開発、獲得なされたのですから……いずれは様々な血道系のスキルを獲得できるはずです」


 ビュシエの言葉に皆が頷いた。

 すると、ビュシエは血文字で、


『眷属たちの嫉妬があれば、わたしもシュウヤ様を守ります……』


 そう血文字を寄越しながらウィンクしてくる。

 俺の傍に寄ろうとしてきた。

 が、途中で止まり、ぎこちない動きとなる。 

 その辺りも可愛い。


 すると、リューリュとツィクハルが、


「わぁ~、血文字で愛のメッセージ? いいなぁ」

「うん。あ、わたしたちもいずれは使えるのよ? ふふ」


 サシィも、


「わたしも<筆頭従者長選ばれし眷属>になったら……」

「おう、三人とも使えるようになるさ」

「ハイ!」


 リューリュは眼鏡を揺らしていた。

 ツィクハルは、


「やった、シュウヤ様と繋がれる……」

「ふふ、シュウヤ殿と遠くにいても話ができるのは嬉しい!」


 サシィがそう発言。

 満面の笑みだ。


 黒髪が似合う美人さんだけにドキッとした。

 すると、ツィクハルが、


「あ、でもバーソロン様が……」

「嫉妬か。あるかもな。だからバーソロンにも<筆頭従者長選ばれし眷属>化を提案してみる」

「「「「おぉ」」」」


 皆が驚いた。


 と、アドゥムブラリが、


「魔族の<魔心>と主が契約をしたのが光魔ルシヴァルの光魔騎士だ。しかも、ルシヴァルの紋章樹にも系統樹として名が刻まれている。そんな俺でもあるんだが……光魔ルシヴァルの血の眷属に移ることも可能なのか?」


 そう真顔で聞いてきた。

 目鼻立ちの好い顔のアドゥムブラリだけに、少しビビる。


「……可能なはずだ。魔界騎士としての光魔ルシヴァルと、<筆頭従者長選ばれし眷属>や<従者長>との間で、能力的な差異はあるとは思うが」

「おぉ、それは興味がある!」

「アドゥムブラリの判断に任せるが、<筆頭従者長選ばれし眷属>か<従者長>に成るか?」

「なれるならなっとく。が、バーソロンの後でいい」

「了解した」


 頷いた。アドゥムブラリは嬉しそうだ。


 自由に羽ばたいてくれれば嬉しかったが……。

 家族になりたい思いは俺も同じ。

 それはそれで嬉しいし、遠くにいても連絡ができる血文字があれば、アドゥムブラリがやりたいことの手伝いも可能になるだろう。


 ルリゼゼのように自分を律して……。

 艱難かんなんなんじたまにすを目指すのもありだと思うが……。


 皆が皆、同じではないからな。

 それぞれ個人の意思、自由がある。


「ビュシエ、話を傷場に戻す」

「はい」

「ドムラピエトーの傷場とアヴァロンの傷場が、惑星セラのどこにあるのか知りたい。ビュシエが分かる範囲でいいから、セラ側の傷場の説明をしてくれないか?」

「お任せを……」


 ビュシエはそう言いながら斜め上を見る。

 セラの光景を思い出すような素振りで、白魚のような細い指先を顎に当てて、


「……エイハブラ平原の西北に、【ドンレッド蛮王国】という国があります。その国の【バルムスの大街衝】という名の巨大な都市の地下にドムラピエトーの傷場があります」

「へぇ、ドムラピエトーの傷場は塔烈中立都市セナアプアから遠い北西ってことか」

「はい、そうなります」


 皆頷いた。

 一呼吸後、ビュシエは、


「……一方、アヴァロンの傷場は、空島にあります。その空島ですが、南マハハイム地方からではあまりにも遠くて、正確な位置は不明で曖昧ですが、はるか遠い北のゴブリンたちが支配する地域の空に存在しているはず」

「へぇ、ロロリッザ王国よりも北ってことか」

「あ、そうですね、はい」


 ビュシエはロロリッザ王国の名は聞いたことがあるようだ。


「主、空島ってことは……」

「器の二十四面体トラペゾヘドロンから行ける場所には空島があった」

「あぁ、気になる重大情報。が、今はビュシエ、話を続けてくれ」


 秘書スタイルのビュシエは胸元に腕を当て、「ハッ」と返事をして会釈。

 

 ソフィスティケーションな仕種だ。 

 そして、爆乳ばくにゅうとまではいかないかもだが、豊かな乳房の大きさを物語るように腕がサテンドレープの上服にめり込んでいる。

 

 腕を放すと、サテンの布の襞が伸びるように衣服越しにおっぱいの揺れが顕わとなった。


 素晴らしい。


 その美乳を持つビュシエは、


「ドムラピエトーの傷場ですが、セラ側の支配は、その名の通り吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>〝始祖の十二支族家系図〟のドムラピエトー家が担当しています」

「ビュシエが先ほど語った女帝バムアさんかな」

「はい。アヴァロンの傷場も同じくアヴァロン家が支配しています」

「魔界セブドラ側とセラ側の傷場の支配者は異なるのか?」

「魔界側のドムラピエトーとアヴァロンの傷場の支配は吸血神ルグナド様の直轄です。主に魔界側の<筆頭従者長選ばれし眷属>が守ることが多い。<筆頭従者>、<従者長>、魔界騎士、魔傭兵なども守りにつく。わたしも守りに付いたことがありました」

「セラ側から魔界側に応援はあるのですか?」


 羅が聞いていた。


「ありません。魔王の楽譜とハイセルコーンの角笛は貴重品ですから。魔の扉と似た転移アイテムもありますが、貴重なアイテムですから、まずセラ側では入手は不可能かと」

「初めて知りました、面白い」


 と笑顔を見せる。


 沙も、


「たしかに、吸血神ルグナド側の事情は分からないことだらけだったからな。非常に興味深い話ぞ!」


 沙も興奮していた。

 美しい顔だし、衣服がはだけて少しエロいとは言えない。


「はい、改めて、ビュシエの存在の大きさが理解できました」


 貂の言葉に皆が同意するように頷く。

 

 俺も同意。

 ……吸血神ルグナド様の魔界側の元<筆頭従者長選ばれし眷属>だった存在のビュシエだ。

 セラ側の<筆頭従者長選ばれし眷属>の女帝たちよりも位は上に当たるだろう。


 長い金髪を持つ美しいビュシエ。

 そのメイスっ娘の美しいビュシエを、光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>に迎えることができたことを再認識して、最高の気分となった。


 が、一番良かったことはビュシエを救えたことか。


 サシィもだが、ビュシエには……。

 これからも長く生きてほしい。


 俺もがんばらないとな。


 そして、源左の裏切り者バシュウと源左の者を苦しめていたマーマインの親玉ハザルハードを倒せたことにも、強い達成感を覚える。


 本当によかった。


 二つの巨大なオベリスクも入手できたし。

 俺も成長した。


 アヴァロンの傷場の〝空島〟のことをもう少し聞いておこう。


「……アヴァロンの傷場がある空島とは、塔烈中立都市セナアプアのような浮遊岩の島?」

「塔烈中立都市セナアプアは見たことがないので、想像の範疇となりますが、はい……」

「すまん、そうだよな。空中に浮いている大陸、陸地が、アヴァロンの傷場がある空島かな」

「はい。無数の大地、岩、水が自然に湧くほどの森に山を有しています。下に流れていく景色は雄大ですよ」

「「「おぉ~」」」


 皆が歓声を発した。


「アヴァロンの傷場かぁ~。パレデスの鏡から見えた空島が気になってくる。主も気になるだろう?」


 アドゥムブラリが笑顔を見せながら聞いてくる。

 ツアンも笑みを見せる。


 『あぁ、当然』と言うように頷き、


「そりゃそうだろ。二十四面体トラペゾヘドロンのまだ行ってない面の先は、すべて行ってみたいさ……が、分かっていると思うが、他にもやることがあるからな」

「はい、大旦那は、魔皇帝である前に冒険者ですからね」

「おうよ、その通りだ」


 ニヤッとしたツアンは、


「伊達に<光邪ノ使徒>はやってませんぜ? それに、眷属たちも鏡の先の冒険は楽しみなはずです」


 頷いた。


 アイテムボックスから魔煙草を差し出したくなった。


 その思いのままビュシエたちに二十四面体トラペゾヘドロンのことを説明する。


「俺は、セラの中で転移が可能な二十四面体トラペゾヘドロンというアイテムを持つんだ。その十二面にあるパレデスの鏡の先に、空島が見えたんだ。そして、その気になっている空島には、まだ足を踏み入れたことがない――」


 二十四面体トラペゾヘドロンを見せる。

 魔界セブドラでは起動しないが……。


「……それが二十四面体トラペゾヘドロン……」

「おう」


 二十四面体トラペゾヘドロンを仕舞う。


「では、アヴァロンの傷場は気になりますよね。空島は複数ありますから、その近くにパレデスの鏡があるのかも知れません」


 ビュシエの言葉に頷いた。


「おう。そのアヴァロンの傷場がある空島にパレデスの鏡があれば、直ぐにそのアヴァロンの傷場から魔界セブドラに行けるってことになる」

「偶然が重なればそうなるが、そう都合良くはいかないだろ」

「あぁ」

「そうですね。そして、魔王の楽譜の番号によっては、傷場で通用しないこともありえますので」

「季節ごとに変化するとか……『楽譜は楽譜で演奏できる者が限られているようです。専用の楽器も必要と聞きました』と、【アシュラー教団】のカザネが言ってたが……」

「はい。傷場によってはありますね。シュウヤ様の魔王の楽譜第三章は希少な部類ですから、演奏する楽器もハイセルコーンの角笛一つだけで、すんなり傷場も開くはずです」

「そうなのか、まだ一度も傷場で使用したことがないから不安だった」

「わたしも傍にいますので大丈夫かと。魔王の楽譜第九章、魔王の楽譜第五章、ハイセルコーンの角笛に、バイオリン属の擦弦楽器の〝ベベルハンの悪魔〟もありますので、シュウヤ様が持っている魔王の楽譜第三章も一緒に利用すれば、大半の傷場は開くはず。魔界側で支配する神々や諸侯の干渉も防ぐはずです」

「「おぉ~」」

「主、朗報だな」

「あぁ、今回の魔界セブドラの旅も間違いではなかった」

「「はい」」

「ふむ。やはりビュシエはいい人材ぞ!」


 沙がそう発言すると、ビュシエは少し恥ずかしそうな表情を浮かべていた。手元に何回かメイスを召喚して消すのを繰り返す。


 そのビュシエに、


「……アヴァロンの傷場。吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>アヴァロン家ってことだろう?」

「はい、セラ側の<筆頭従者長選ばれし眷属>アヴァロン家です」

「ビュシエ、傷場のことですが、吸血神ルグナドは、三つ以外は占有していないのですか?」

「吸血神ルグナド様の勢力は強い。他の傷場を諸侯や神々から奪っている可能性はあるかもです。ただ、傷場の争いは厳しいので、早々取れることはないと思います。更に、わたしは石棺で眠っていた時期がある。ですから、その眠っている間に吸血神ルグナド様の軍勢が、幾つかの傷場を占有している可能性はあるかもです」


 皆頷いた。

 

 吸血神ルグナド様の勢力はかなりの強さのはずだ。

 敵対勢力は多々ある中で、俺を殺すため、或いは見るためか、その理由は定かではないが……。

 

 魔界王子ライランが支配する地に派兵したことは事実。


 アドゥムブラリが、


「……吸血神ルグナド様は魔界大戦でも勝利が多いと聞く。傷場の占有数といい、〝列強魔軍地図〟を見る限り、もっと拡がっていてもオカシクはないな」


 そう発言。

 ビュシエも、


「そうですね。が、魔界セブドラですから、わたしの一族が悪神デサロビアに敗れたように、何があるか……〝列強魔軍地図〟には、吸血神ルグナド様の名が付いた土地がありますが……他の勢力が奪取している可能性もあるかと」


 そう発言すると、皆考え込む。

 羅が、


「……エイゲルバン城の戦いですね」

「はい。エイゲルバン城では、無数の眷属たちが討ち死にを……悪神デサロビアと恐王ノクターに闇神リヴォグラフや無数の魔傭兵の諸勢力に敗れた……皆……」


 ビュシエは最後にボソッと呟く。

 エイゲルバン城……。 

 そこに、四腕魔族の戦公バフハールが訪れたことが気になったが……。


 ビュシエは、己の両手を見て……。

 その両手で己の震えた体を押さえる。

 ……悲壮感を出してしまった。


 そんなビュシエの肩に体を寄せた。そして、


「……そう悲しむな。昔の眷属たちは、今もビュシエの力になっているんだろう?」

「……あ、はい」


 ビュシエは体から少し<血魔力>を出す。


「そして、俺たちはもう仲間で家族だ。その辛さも共有しよう」

「……ありがとう……」


 ビュシエの微笑。

 深い歴史を感じた。


「……ビュシエの【吸血神ルグナドの碑石】に移動するまでの記憶は吸血神ルグナド様と一緒に俺たちも見ているから、なんとなく理解できる」

「……はい」


 ビュシエの返事と同時に皆も頷いた。

 ビュシエは笑顔を見せると、サシィをチラッと見て、


「過去は過去です。ルグナド様も重に理解した上で独立させてくれたのですから、光魔ルシヴァルとして、がんばります!」

「ふふ、いい笑顔だ」


 サシィもいい笑顔。

 ビュシエだけでなく、皆に言うように、


「期待している」

「はい!!」

「あ、主、〝列強魔軍地図〟を貸してくれ」

「おう」

「妾も手に取って見たい!」

「「はい!」」

「わたしも見たいです」


 アクセルマギナとテンに、


「いいぞ。アドゥムブラリ、あとで皆にも回せ」

「分かった」


 〝列強魔軍地図〟をアドゥムブラリに手渡した。

 そこから談笑を兼ねて〝列強魔軍地図〟の勢力について語り合う皆。

 

 サシィとビュシエも〝列強魔軍地図〟を見ながら発言していく。

 アドゥムブラリやツアンから、ヘルメとバーソロンの名が時々出ているのは、存在の大きさ故か。

 バーソロンは魔界騎士となったが、戻ったら<筆頭従者長選ばれし眷属>になってもらえるか聞くかな。

 

 さて、相棒の触手手綱から手を離した。

 ステータスでも調べるか。

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