千三十三話 血の女性の幻影と吸血神ルグナドの碑石への道標
細い片腕から血が噴出している影響で肉の塊に血が溢れる。
オベリスクの汚れが綺麗になった。
が、肉片が溶けるように無数の指に内臓などが顕になった。
更に四眼を持つ魔族の頭部と、小箱、柄巻、歪な勾玉、装身具、魔宝石なども顕となる。
沙が、
「器、巨大なオベリスクも膨大な魔力を内包しているが、この血を噴出させている細い片腕も、相当な魔力量だ。アイテムと呼べるか分からないが、秘宝か?」
「あぁ」
「ふむ。肉塊が動いていたのは、片腕から間欠泉の如く迸っている血の影響か。ん? 指に内臓と頭部もあるのか……ぬお?」
「おぉ?」
「――器!」
いきなり血が噴出している片腕が浮き上がった。
沙が神剣の切っ先を、血が噴出している片腕に向ける。
「奇っ怪な片腕が!」
「なんと……シュウヤ殿、おめでとうと言おうとしていたのだが、これはこれで凄いことに……」
サシィの言葉に頷いた。
「閣下、血が噴出する片腕とは! マーマインの敵ですか!」
「閣下! 我らにお任せを、魔獣を逃した鬱憤を!!」
「ゼメタスとアドモス、はやまるな、大丈夫だとは思う」
「にゃご」
「ウォォォン」
相棒とケーゼンベルスも、その血を噴出させている細い片腕に近付いた。
急ぎ片手を上げながら『攻撃はするな』と合図を出す。
相棒は驚いていたが、小さい黒猫の姿に戻っている。
ケーゼンベルスも姿を小さくさせた。
神獣と大魔獣の敵ではないという勘の表れかな?
一応、
「皆、攻撃は無し、落ち着け……」
「片腕だけで生きている?」
沙が血を噴出させている片腕に問いかけた。
すると、片腕から噴出している血飛沫が女性を模る。
「「「「おぉ」」」」
皆驚く。
女性はスカートの衣装を着ていると分かるが、片腕と片足がない。
そこの衣装の部分だけが萎れていた。
状況的に、この血の女性の幻影は吸血神ルグナド様の<
「血の幻影!?」
血飛沫だけだが、陰影画法は見事だ。
アニメーションも起きている。
これで音声が出たら血文字の進化バージョンにも見える。
「吸血神ルグナド様の<
「ウォォォン! 驚きだ……」
「おぉ」
当然だが、魔皇獣咆ケーゼンベルスとアドゥムブラリも驚く。
「にゃぉぉ~」
相棒は暢気に片足を上げて挨拶している。
「ウォォ……」
「閣下に吸血神ルグナド様の眷属がアピールを?」
「器様、吸血神ルグナド様がここにくるかもしれませんね……」
「あぁ……」
すると、女性の幻影の大本の血を噴出させ続けている片腕の指先が機械のような動きで遠くを差す。
やや遅れて、血の女性の幻影も片腕を上げて、真下の血を噴出させている腕と同じ方向を指した。
〝列強魔軍地図〟を出した。
血の女性の幻影と血を噴出させている片腕が差す方向は……【吸血神ルグナドの碑石】が存在する方角と一致している。
更に、その片腕から放出されている大量の血が浮き上がり、その方角に浮遊しながら点々と移動していく。
その点々とした血に、淡い血の銀燭も加わった。
ビーコンとしての誘いか。
【吸血神ルグナドの碑石】までの道標……。
とりあえず、血の女性の幻影に、
「……【吸血神ルグナドの碑石】に、この片腕を運んでほしいんだな?」
そう聞くと、
「……」
血の女性の幻影は頷いたか?
俺たちに懇願するような表情を一瞬浮かべた。
が、散るように片腕の中へと収斂され消えた。
血濡れた片腕も落下するが、点々とした血と、淡い血の銀燭は宙空に残ったまま遠くの方にまで続いている。
「器、皆もだが、驚きの現象だな……」
〝列強魔軍地図〟を格納。
「あぁ、そして、先の女性の幻影とこの片腕は、吸血神ルグナド様の<
皆が頷いた。
アドゥムブラリは、
「点々とした血と血の銀燭の道標は、【吸血神ルグナドの碑石】へと俺たちを導いている」
「ふむ。ハザルハードは贄にしたと言っていたらしいが、ビュシエの秘宝を体内に忍ばせながら儀式を行ったか」
「魔杖の中に格納されていたとかもありそうだ」
「それで、吸血神ルグナドが飛んでくるかもしれないが、回収するとして、碑石に向かうのか?」
アドゥムブラリがそう聞いてくる。
「行こうか」
「吸血神ルグナド様がくるかもしれません」
羅がそう発言すると、皆は周囲を見る。
「【ローグバント山脈】にか……」
アドゥムブラリがボソッと呟く。
【吸血神ルグナドの碑石】という名だが、吸血神ルグナド様は関知していないのかもしれない。
すると、アクセルマギナが、
「大丈夫なのでは? 魔神殺しの現象が起きても、マスターに好意と敵意を抱く神々は現れていない」
「あぁ、が、現れていないからこそ、急に?」
アクセルマギナは、アドゥムブラリにそう告げられると、
「……神出鬼没のようですからね。転移もありますから、突如として攻撃を仕掛けてくる可能性も否定はできませんね」
と言って俺を見てきた。
アクセルマギナの双眸には五芒星が宿っている。
線の内側にアルファベットと数列が並ぶ。
アナグラムがありそうな魔法文字の横に1.618と数値も並んでいるのは変わらない。
「まぁ、戦いとなったらなんとかしようか、否、するしかない」
「そうだな。俺たちがいる」
「私たちもいますぞ」
「我ら光魔沸夜叉将軍が閣下のために働きまする!」
頼もしい光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモス。
大魔獣の乗りこなしには失敗したのか、連れていない。
それとも途中で放棄したのかな。あ、さきほど鬱憤と言ってたから魔獣を逃したか。
それは置いておいて、
「器がその片腕に魔力を込めたら、その片腕から、その吸血神ルグナドの<
「器様は<霊呪網鎖>を持ちますから、この状態の片腕に<霊呪網鎖>を用いたら吸血神ルグナド様の<
羅がそう発言。
「あぁ、両方ともありえるな。無魔の手袋で掴みつつ【吸血神ルグナドの碑石】まで行こうと思っていたが……」
「それこそ吸血神ルグナド様をここに呼ぶことになるんじゃねぇか?」
「そうかもな。まぁどちらにしろ碑石に向かう。そして、先に周囲の肉片から出てきたアイテムを回収しようか。まず白い魔宝石の付いたオベリスクを回収しておく」
「はい、では、わたしたちも――」
貂が迅速に動く。
「では、妾も――」
沙はそう言うと、神剣の切っ先を他の肉片に刺していた。
肉片は蒸発して消えながら血濡れた紙片へと変化。
紙片には、マーマインの文字が記されている。
「変化した! 魔術書の紙片?」
「触っても大丈夫かは分からないが……」
「――ぬ?」
沙はもう掴んでいた。
血濡れた紙片を泳がせている。
魔力が吸われるとか取り憑かれるとか、呪いが怖いが……。
まぁ、<神剣・三叉法具サラテン>だしな、大丈夫か。
「大丈夫そうでよかった。んじゃ俺も――」
二つの巨大なオベリスクを掴んでから――。
右腕の戦闘型デバイスを意識。
アイテムボックスの中に巨大なオベリスクを格納――。
オベリスクが嵌まっていた窪地の血が揺れる。
戦闘型デバイスのアイテムボックスから夢追い袋を取り出し、中から無魔の手袋を出す。
それを装着して、他の指と小箱と魔族の頭部など、諸々を回収――。
依然、血が噴出している片腕も掴んだ。
貂は周囲の肉片を神剣で刺して勾玉に変化させていく。
他にもアイテムが出現したのか、色々なアイテムを集めていった。
すると、
「気になると思うが、【吸血神ルグナドの碑石】に向かうぞ」
「ンンン」
と頷くように返事をして俺の肩に乗ってくる。
首筋と耳朶に、己の頬から頭部を擦り当ててきた。
可愛いが、少しくすぐったい。
皆に向け、
「……【吸血神ルグナドの碑石】は荒らされていると思うが、まだ何かあるのかもな」
「あぁ」
すると、
「器様~肉片を複数突いたら丸いモンスターとマーマインの頭蓋骨が大量に出現しました!」
「大主さまぁ」
貂とイターシャの声が響く。
振り向いたら本当に白っぽい毛玉のようなモンスターが白鼬のイターシャと貂にシャボン玉のような魔力玉を投げては爆発して死んでいく。
アドゥムブラリが振り返りながら、
「あぁ、ガルモナーダだ。ハザルハードはガルモナーダも取り込んでいたのか。貂と白鼬、その魔力玉を受けると魔力と体力が強まるぞ。瞬間的に体が膨れるが、体の傷の回復力も高まるはずだ」
「え、膨らむ? 少し勇気が要りますが……」
「テュンさま、では、私が魔力玉を受けましゅ!」
白鼬イターシャが、魔力玉を体に受けると、見事にふっくらと膨らんで、ぽんぽこタヌキに変化したように見えた。
お腹が膨れすぎて、手足が小さく見える。上手く起き上がれていない。
「「ははは」」
「大主さまぁ、テュンさまもぉ、笑ってないで助けてェ」
「「ふふ」」
皆笑う。
「お腹が膨れたイターシャ!」
「面白い剣精霊だな」
笑っていたアドゥムブラリがそう呟く。
「わっ――」
羅のほうを見ると、マーマインの頭蓋骨が連なった蛇のようなモンスターが湧いていた。
そのマーマインの頭蓋骨の蛇を、羅の神剣が細断に処した。と、その細断された頭蓋骨だった破片は一カ所に集結し、漆黒の三日月のような剣身の魔剣に変化していた。
「その魔剣は――」
「――はい!」
と言って羅が掴んだ。
呪いとかは大丈夫なようだ。
「羅が使いたいなら」
「要りません、器様に差し上げます――」
と両手の掌に魔剣を載せて、頭部を下げながら近付いてきた。
「ありがとう。アイテムボックスに入れておく」
「はい」
その後、数十分ほどガルモナーダ祭となった――。
サシィの可愛い姿が見られて嬉しかった。
「さて、【吸血神ルグナドの碑石】に向かうぞ」
「はい」
「「承知!!」」
「ウォォン!」
先を行く魔皇獣咆ケーゼンベルスは尻尾をぶんぶん振り回す。
面白い。菊門は見えない。ふさふさ過ぎる毛で良かった。
「にゃお~」
と、相棒が、その菊門辺りに顔を寄せていく。
止めはしない、くちゃ~な匂いチェックを行うのは獣の習性だ、仕方ない。
皆も何も言わず、微笑んでいた。
そして、ツアンが前に出て、
「旦那、行きましょう!」
頷いてから、片手を上げて、血が噴出している片腕を皆に見せる。
アドゥムブラリは頷いて、
「おうよ、楽しみだぜ!」
「「「「はい!」」」」
「「「ウォォン!」」」
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