千二十二話 <累剣・残滓残光>獲得

 サシィを守る二体の血霊衛士を動かした。


「サシィ、左右の地面を――」

「シュウヤ殿、血霊衛士の守りはありがたいが、私には必要ない!」


 と、サシィの左右の地面が爆発したように弾ける。

 土煙も舞うと、そこから土色の装束を纏う忍者が出現――。


「「もらったァァ」」


 土色の忍者は刀ごと身を投げ出すように吶喊――。

 既にサシィに背を向けた二体の血霊衛士は忍者に相対し腰を沈めて待ち構えている。


 その二体の血霊衛士は棍の杭刃で<血穿>を繰り出した。

 血の衝撃波を発した<血穿>の杭が忍者の刀を弾き腹をぶち抜いた。

 忍者の下腹部は爆発したように散る。


「おぉ、威力が高い<刺突>系スキルだ!」


 と、血霊衛士の<血穿>を褒めたサシィ――。

 そう褒めつつも、右に跳躍しながら魔斧槍源左を迅速に振るっていた。


 上半身だけの忍者の頭を魔斧槍源左の斧刃が捉えて、潰すように真っ二つ。


 サシィは長い黒髪を靡かせながら――。

 魔斧槍源左を振るった影響を活かすように横回転を続けて着地。

 地面と擦れた穂先から蛍の魔力に炎のような魔力が噴出している。

 その魔斧槍源左を消して、二体の血霊衛士と俺に向け会釈し、


「――必要ないと宣言した手前で恥ずかしいが救われた。ありがとうシュウヤ殿」

「おう。ま、血霊衛士の<血穿>が無くても大丈夫だっただろう」

「それは、たしかに。ふふ」


 サシィは強い。

 源左の頭領、親方様だから、守る意識が強かったが、血霊衛士は必要ないだろう。そう尊敬の眼差しを向けていると、先ほどまでサシィの傍にいたムサシが数十の手勢を率いて寄ってくる。


「シュウヤ様の血霊衛士の扱いは見事! しかし、勝利を確信した直後の伏兵とは、今倒した伏兵もバシュウが用意していたのでしょうか」

「……私が庭を進み出したら突撃をかけろと事前に指示を出していたんだろう」

「はい」

「ムサシたちは、上笠影衆と連携し、この奥座敷近辺の庭を徹底的に洗え。先もダイザブロウに語ったが、マゴザの魔銃隊のこともある。ダイザブロウたちの指示を仰ぎながら迅速にことを為せ。私はシュウヤ殿たちとマーマイン瞑道に向かう」

「承知致しました! 皆の者、得物を持て、警邏に移るぞ!」

「「「ハッ」」」


 ムサシたちはサシィに向け一斉に声を発すると、奥座敷にいる仲間たちにも声を掛けて庭を進み出した。


 同時に松の木が並ぶマーマイン瞑道がある方角の戦いも終結していた。

 沙羅貂とゼメタスとアドモスが大半のマーマインを倒したようだ。


 源左の者を助けていたアクセルマギナと黒豹ロロとケーゼンベルスにパパス、リューリュ、ツィクハルもムサシたちと交代するように寄ってくる。


 庭のあちこちで勝利の声と歓声が聞こえてきた。

 アドゥムブラリとツアンも近くに移動してきた。


 マーマインは奥座敷から【マーマイン瞑道】に退いたか。


 連携していた槍斧ヶ丘の山峡と窪地に侵入してきたマーマイン軍も退いたかもしれない。


 庭で行われていた戦いが収まったのを見ながら魔槍杖バルドークを消す。


「亜種マーマイン武者を率いているバシュウは頭が切れる」

「あぁ……」


 暗い顔のサシィ。

 上笠は重臣で、今の今までバシュウはサシィを慕っているように見せかけていた。


 その心は怒りと共にかなり傷付いているだろう。

 頭領、君主、親方様としての気構えなら裏切りも覚悟の上だと思うが……。


 先ほどのバシュウの部下への斬首の対応といい、サシィは、かなり心理面でダメージを受けていると予想する。


 そんなことを考えつつ、二体の血霊衛士を近くに移動させた。

 奥座敷の入母屋の屋根を見ながら<導想魔手>から降りて着地。


 頭上に浮かせた血の錫杖はそのままで〝列強魔軍地図〟を再び出した。


 ――【源左サシィの槍斧ヶ丘】の最奥地にある源左砦。

 その源左砦の奥座敷は山の片側を削ったような地形を利用した建物で、大きな庭も山と繋がっている。


 そして、山と言えば【ローグバント山脈】だ。


 皆を見据え――。


「皆、マーマインとバシュウの上笠影衆の伏兵に気を付けながらマーマイン瞑道へと進み、バシュウを追うことになるが、そのマーマインへの反撃作戦を簡単に〝列強魔軍地図〟で説明したいから聞いてくれ。この【ローグバント山脈】には――」


 【源左サシィの隠れ洞窟】。

 【魔皇ローグバントの庵】。

 【愚王バンサントの洞窟】。

 【吸血神ルグナドの碑石】。

 【テンシュランの石碑】。

 【マーマインの砦】。

 【マーマイン瞑道】。

 【大盗賊チキタタ回廊】。


「この【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷の庭と地下で繋がっているところがある」

「はい、【マーマイン瞑道】と【源左サシィの隠れ洞窟】……」

「【マーマインの砦】が【ローグバント山脈】にあるな」

「そうだ。マーマインの本拠だろう。そこに俺たちだけで乗り込むのが反撃作戦だ」

「「「「おぉ」」」」

「ウォォォン! 主、そのことを事前に考えていたのだな?」

「ぼんやりとな。それに俺たちは客人の立場で、まだ同盟も交渉段階だった。偵察用ドローンを含めた作戦活動と戦略的な発言も控えていたんだ」

「シュウヤ殿は、最初から【マーマインの砦】を落とすつもりで私たちと……」

「あぁ、〝列強魔軍地図〟の地形と地名を見ているからな。漠然とした未来予測の一つ。同時に交渉の予測もしていたが、先のバシュウ絡みで、既に交渉は消えたと考えている」

「そうだな……バシュウめ……」


 サシィは目に角を立てる。

 アドゥムブラリが、


「【ケーゼンベルスの魔樹海】への突入といい、その高い予測力は魔皇帝に相応しい」


 と褒めてきた。


「ありがとう。が、〝列強魔軍地図〟の地形と地名を見れば、地政学的にある程度の予測は可能」

「……その地政学を知っていることが、既に魔君主の器だな」

「マスターは、遺産高神経レガシーハイナーブに対応できる遺伝子を持っていたので頭がいいです」

「アドゥムブラリの旦那、大旦那は、戦闘以外でも<天賦の魔才>を発揮していますから、当然かと」


 アクセルマギナとツアンがアドゥムブラリに続いてそう発言。

 ツアンの大旦那とは俺のことか。初めて聞いた気がする。


「ふむ。器は隠そうとしているが、実は、地頭がいい」


 沙も褒めてくる。俺が視線を合わせると、キッと睨んで目をそらしてきた。が、直ぐに恥ずかしそうな表情を浮かべて微笑む。沙の微妙な表情の変化が面白い。


 サシィが、


「……その地政学とは……」


 と、申し訳ないような顔つきで聞いてきた。


「色々とある。魔界セブドラだと必ずしも当て嵌まるとは限らないが、ランドパワーが有名か。国が持つ陸地から考えられる軍事力や経済力を示す言葉。海ならシーパワー。魔界セブドラならエアパワーのほうが重要かな。巨大なドラゴンを使役している将軍とかいるかもだからな」

「おぉ~シュウヤ殿は軍師もできそうだ!」


 サシィの瞳には熱が籠もっている。


「軍師か。俺の知識は生兵法。サイデイルにいるトン爺のほうが上だろう」

「トン爺……」

「主、セラのサイデイルのことをサシィに話をしてもわからんだろう」

「あぁ、すまん」

「しかし、今のように謙虚なところもあるからな。モテるわけだ。女殺しめ」

「モテているか、まぁ……」


 サシィとリューリュとツィクハルの熱い視線には気付いているが……。

 リューリュとツィクハルは頬を赤く染める。


「ふはは、<筆頭従者長選ばれし眷属>たちの怒れる顔が目に浮かぶ――」


 アドゥムブラリは変な声を発して真上に飛翔していく。

 釣られて笑ったが、魔皇獣咆ケーゼンベルスを見て、

 

「今はマーマインに集中だ。で、ケーゼンベルス。数人を乗せられるぐらいの大きさに変化してくれ」

「ウォォォォン! 分かった――」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは巨大化。

 体長は十メートル前後か。

 頭部に二、三人は乗せられるぐらいにはなった。


「サシィよ、乗れ」

「え、私が、ケーゼンベルス様……」

「ふっ、主に気に入られたいのなら、さっさと乗れ――」


 そう話をした魔皇獣咆ケーゼンベルス。

 強い鼻息を吐いていた。


 サシィは一瞬、俺をチラッと見てから、直ぐにケーゼンベルスに、


「はい――」


 と答えてケーゼンベルスの頭部に跳び乗った。


「さぁ、行こうか!」

「「「はい!」」」

「うむ」

「行きましょう」

「マーマイン瞑道から砦に!」

「「承知!」」

「にゃお~」

「「「ウォォォォォン!」」」


 三匹の黒い狼のケン、ヨモギ、コテツも返事を寄越す。


「アクセルマギナ、一端戦闘型デバイスに戻ってくれ」

「はい」


 アクセルマギナは胸元のマスドレッドコアを輝かせる。

 その輝いたマスドレッドコアから虹色の魔力が噴出すると、アクセルマギナの義手と体が一瞬で銀色の魔力粒子に変化しつつ、宙空に銀河の渦を形成するように渦を巻く機動で右腕の戦闘型デバイスの中に戻ってきた。

 原子か不明だが、銀色の魔力粒子の輝きは一種の宇宙誕生か?


 浪漫を感じながら相棒とアドゥムブラリとアイコンタクト。

 二体の血霊衛士を連れて、松のような樹が生えている庭を駆け出した。


 ――途中からシダのような植物が増える。 

 ――所々に敷き詰められた石場があるが、雑木の庭のような空間となった。


 里山のような雰囲気――。

 岩場から巨大な段平が伸びているような平たい岩を駆け上って出っ張りから一気に跳躍――。

 慣性落下で股間がギュンッとなった――。

 落下中の金玉の感覚は、光魔ルシヴァルでも人族と変わらない――。

 そんなオカシイことを考えつつ<生活魔法>の水を足下に撒く。

 ――血霊衛士の足下に水が付着していくようにも見えるのは不思議だ――。


 水の上を《水流操作ウォーターコントロール》で滑るように――。

 ――地面すれすれをスケート機動で低空飛行を行った。

 足下に咲く花々は踏み荒らさない――。


 ナデシコ科の多年草の仙翁と似た草と――。

 ――赤い仙翁花センノウゲの花と似た花々が咲いている。


「はは、単眼球の頃とは違う! 主の速さについていけるぜぇ――」


 アドゥムブラリの声が背後から響く。

 すると、前方の繁野に不自然に凹んでいる場所が増えてきた。

 マーマインたちが多数通り抜けた跡か。

 周囲から複数の鳥が飛び立っていく。

 前方から蝙蝠のようなモンスターが絶叫のような音を轟かせてきた。


 ここから先はマーマインが待ち伏せしている可能性が高いか。

 源左の上笠影衆の一部は裏切っているから伏兵にも気を付けたい。


 ――足を止めて〝列強魔軍地図〟の地形と今見えている地形を比べていく。

 【マーマイン瞑道】はあの先か。瞑道は水場の環境だろう。そして、庭が広すぎる。

 振り返った。アドゥムブラリと沙羅貂が宙空で止まる。

 俺の先を進んでいた相棒も「ンンン――」と喉声を鳴らしつつ、魚を咥えながらバックステップで戻ってきた。


 相棒は、ゴルディーバの里の周りの環境と似ていることもあって、昔を思い出したか?

 ゴルディーバの里にいた頃に近いネコ科魔獣の姿に変わっていた。頭部の大きさはあまり変わらず。

 黒豹とグリフォンに犬っぽい。胸元の毛はフサフサだ。

 アドゥムブラリが、


「――主、どうした? あ、足跡か。数は多いな」


「あぁ、この先が【マーマイン瞑道】だからな」

「了解した」

「はい、この先が【マーマイン瞑道】……〝列強魔軍地図〟によれば野原がまだ少し続くようですが」

「待ち伏せの可能性があります」


 貂と羅の発言に頷く。

 すると沙が、


「待ち伏せだろうとねじ伏せる。で、器、奥座敷に侵入してきたマーマインは、ワザと退いたか?」

「あぁ、たぶんな。俺たちをマーマイン瞑道に誘い込むためとか?」


 俺がそう言うと、アドゥムブラリと沙・羅・貂が頷く。


「うむ。バシュウとやらは策士のようだからの」

「なら、間諜として源左に忍び込んだバシュウはマーマインにとっては重要人物か」


 と発言。

 沙とアドゥムブラリは頷き、アドゥムブラリは、


「源左からのバシュウ離脱のためだけにマーマインの軍が動いたことになる。だから【源左サシィの槍斧ヶ丘】にはマーマインが欲する何かがあるってことだろう」

「魔銃の技術か?」


 俺が魔銃のことを言うと、アドゥムブラリと沙・羅・貂が頷く。


「なるほど……軍の拡充のためか。では、魔石の採取の目処はマーマイン側にもあるということか」

「たぶんな。ま、他にも先祖代々争っていたとか、理由はあると思うが……」


 皆と頷き合う。すると魔皇獣咆ケーゼンベルスとリューリュ、パパス、ツィクハルにツアンと光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスが到着。

 ケーゼンベルスに乗っているサシィは腕を振るっていた。

 腕を上げ、「この少し先が【マーマイン瞑道】だろう」と発言。

 

「そのようだな。〝列強魔軍地図〟で見た地形と同じ」

「あぁ」

「ここまでは待ち伏せはありませんでしたが……」


 ゼメタスの言葉に頷く。

 その光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの機動力は前とは雲泥の差だ。

 ソンリッサという魔獣に乗ることが多いようだが、もう必要ないかもな。

 それとも光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスに似合う大魔獣が必要かな。

 そのことは言わず、〝列強魔軍地図〟を仕舞う。

 二体の血霊衛士を先に歩かせながら、


「さて、行こうか。ん? ロロ、何か匂うのか?」


 足下にいる相棒は鼻をクンクンと動かす。

 マーマインの匂いが濃い方向の匂いを嗅いでいるのかな?

 その神獣ロロは、


「ンン、にゃ」


 と鳴くと首から一つの触手を前方に伸ばす。

 先端から伸ばした骨剣の先端を、マーマイン瞑道の方角に向けた。 


 紅色と黒色が織り成すつぶらな瞳で俺を見つめてくる。


「よし、突撃と行こうか」

「ンン――」

 

 神獣ロロは喉声を響かせながら長い尻尾を振るって俺の脹ら脛を叩く。

 相棒はマーマイン瞑道の方角へと走り出し、瞬時に二体の血霊衛士を越えた。

 俺も加速して血霊衛士と共にそのロロディーヌを越える。


「――我らも行きまする!」

「――おう!!」


 背後の光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスの声は近い。

 やはり、かなり速い。

 右斜め低空からアドゥムブラリも付いてくる――。

 沙羅貂も飛翔しながら俺たちの機動に低空飛翔で合わせてくる。


 野原は一瞬で終了、細長い岩とガレ場が多くなる。

 小川が流れ滝もある水場の環境。

 同時にマーマイン瞑道が見えた!

 前方に待ち構えていたマーマイン部隊も――。


「前方に敵集団、数は三十以上、各個撃破――」

「「「おう」」」

「にゃご――」


 <導想魔手>を前方に生成し、それを蹴って斜め前方へと跳ぶ。


 二体の血霊衛士はツアンの側に展開させる。

 皆の位置を把握しつつ――。

 

 宙空から<鎖型・滅印>を発動――。

 ――両手首から<鎖>を射出する。

 二つの<鎖>の先端が二体のマーマインの頭部を貫いた。


「ぎゃッ」

「ぎょッ」


 二体の頭部をヘッドショット。


 <鎖>を手首を仕舞う仕種から、空を駆けるが如く――<導想魔手>を蹴って斜め右へと跳び――再び<導想魔手>を足下に造り、それを蹴って高く跳びながら横回転――。


 【マーマイン瞑道】の出入り口が移り変わる視界となった。

 大きな海食洞のような印象だが、出入り口には、魔法の膜のようなモノが展開されている。


 そして、瞑道という名からして、異界のようなモノでもある出入り口か?


 その瞑道の前には大量のマーマインたちがいる。


 マーマインの部隊の右側にツアンと血霊衛士組が突撃し、数体のマーマインを屠った。


 神獣ロロは岩を蹴って前進しながら、左側のマーマインの群れに向かう。

 

 アドゥムブラリと沙・羅・貂に光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは正面からマーマインの群れに突撃を噛まし、数体を一瞬で屠る。

 更に数体を背後のマーマイン瞑道の中に押し戻すように倒しながら前進していく。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスから飛び下りたサシィが見えた。


 ケーゼンベルスと共に高台の岩の斜面を下りながら【マーマイン瞑道】に近付いていく。


 リューリュ、パパス、ツィクハルも続いた。


 俺は周囲の滝の水飛沫を活かすように――。

 <水神の呼び声>を発動――。

 <滔天仙正理大綱>も意識、発動。

 <破壊神ゲルセルクの心得>を意識、発動。


 <仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>も発動しながら前進――。


 二体のマーマインに近付く。

 

 右手前のマーマインは俺に気付くが遅い。

 槍圏内になったところで右手に壊槍グラドパルスを出す――。

 左足の踏み込みから――。


 <闇穿あんせん魔壊槍まかいそう>を発動――。


 <闇穿>の壊槍グラドパルスから闇色の十字の形をした魔力が周囲に吹き荒れる。


 と、巨大なドリルがマーマインの槍と胴を穿った。その壊槍グラドパルスはブレる。


 溶けるように手元から消えた直後――。


 前方の空間が捻れると渦が発生。 

 その渦から転移するように壊槍グラドパルスが点滅しながら現れる。

 壊槍グラドパルスは穂先の巨大なドリルで、周囲の渦ごと空間を喰らうように空気と魔力を吸いながら直進――怒号喇叭を鳴らす壊槍グラドパルス。

 奥にいたマーマインの体を穿つと、体は一瞬で崩壊して塵となる。

 巨大なドリルが螺旋回転していく壊槍グラドパルスはマーマイン数体を螺鈿細工に巻き込みながら直進し、滝の水飛沫も消し飛ばす。

 

 樹木と地面をくり貫きながら虚空へと消えた。


 直ぐに肩の竜頭装甲ハルホンクを意識し、


「右手に壊槍グラドパルスを出してくれ――」

「ングゥゥィィ」


 長袖の先から直ぐに壊槍グラドパルスが飛び出てくる。


 よしっ――。


 右手で掴み直した壊槍グラドパルスを真横に振るった。


 が、マーマインたちは壊槍グラドパルスの挙動を見ても恐怖はしていない。


「なんだ、魔界騎士か?」

「瞑道に被害はないが……樹と地面ごと皆が……」

「あの黒髪の魔槍使いは厄介だ、囲め!」

「数で潰せ」

「「おう――」」

「げ、他にも仲間が――」

「源左サシィが俺たちを追ってきたのか!」

「数で囲め、瞑道から仲間を呼ぶ――」

「ヴィスファント様を呼べ」

「「おう」」


 そして、壊槍グラドパルスの<闇穿・魔壊槍>が魔法の膜のようなモノを穿って中の一部分が見えていた。

 

 傷跡は大きな時計の鍵穴に見える。

 すると、<魔闘術>系統が巧みなマーマインが、その【マーマイン瞑道】から現れた。


 衣服は他と異なりローブ姿だ。

 緑と紫が基調の頭部はリザードマン風だが、ゴブリンにも似ている。


「どうした? トロイスはもう瞑道を通った。ん? 追撃だと!?」


 そう叫びながら開けたローブから両手を出して、その両手に魔槍のような武器を召喚していた。

 

 そのマーマインに向け、壊槍グラドパルスを格納させてから、


「よう、トロイスとは? お前は俺の言葉が通じるか?」

 

 と、無難に話しかけた。


「あぁ? お前の身なり、源左の者ではないな……鬼姫サシィと接触を果たした異邦人か……死ね――」


 厳つい戦士のような幻影を発した二槍流のマーマインは突進してきた。


 <血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>。

 

 バックステップから軸をずらしつつ――。

 左手に神槍ガンジスと右手に魔槍杖バルドークを召喚――突き出してきたマーマインの<刺突>を魔槍杖バルドークの螻蛄首で下に弾く――。

 直ぐに下から手首を捻る機動で魔槍杖バルドークの竜魔石をマーマインの下腹部に向かわせるが、マーマインの右手が持つ魔槍の柄に防がれた――。


 ほぼ同時に左手の神槍ガンジスで<光穿>を放つ――が、左手の魔槍に防がれた。


 マーマインは迅速に退きながら距離を取った。

 素早い。


「チッ、<血魔力>に光の<刺突>だと?」

「あぁ――」


 と、二槍流のマーマインに向け――。

 右手と左手の魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを<投擲>した。


 前傾姿勢で前進――。


「な!?」

 

 戦闘型デバイスを意識――。

 <血魔力>を再び戦闘型デバイスが吸い取る。

 と同時に古の風戦師フィーリーの仮面を装着。


 一瞬で衣装が戦士風の小豆色と金色の飾りがあるメイルに変化した。


 胸元に風を感じさせる羽が付く。


 同時に右手に蒼聖の魔剣タナトスを装備。

 左手に古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を握る。

 

 古の風戦師フィーリーのスタイルのまま――。

 蒼聖の魔剣タナトスで<飛剣・柊返し>を実行。

 魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの<投擲>を二つの魔槍で防いだマーマインの槍使い――。

 その片腕を蒼聖の魔剣タナトスの刃が切断――。

 そのまま義遊暗行師ミルヴァの短剣で<黒呪仙炎剣>を繰り出した。


 マーマインの首へと短剣から伸びた黒い炎が吸い込まれると、そのマーマインの首を刎ねた。


 ピコーン※<累剣・残滓残光ざんしざんこう>※スキル獲得※


 おおぉ、スキルを獲得。


「え――」

 

 頭部だけとなったマーマインから、そんな声が響く。


 転がっていた神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを<超能力精神サイキックマインド>で引き寄せ消した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る