千十五話 源左サシィの槍斧ヶ丘への移動

 フィナプルスとアドゥムブラリが上空から戻ってくる。魔皇獣咆ケーゼンベルスも寄ってきた。

 魔石拾いのフリッカージャブを止めて深呼吸をするように――血の錫杖を消す。

 同時に、<超能力精神サイキックマインド>で王牌十字槍ヴェクサードを引き寄せ、戦闘型デバイスに格納した。


「ンン――」


 魔石拾い競争の続きだと思ったのか、黒猫ロロは火の粉のような<血魔力>を追うように跳躍してきた。

 ――その黒猫ロロを右手で掬うように下から掴んで腹をもみもみしながら肩に乗せた。


「にゃ~」


 同時に<血道第四・開門>と<血道第五・開門>も止めた。

 すると、魔皇獣咆ケーゼンベルスは、タルナタムの後頭部に鼻先を向けていた。


 タルナタムの後頭部の臭いをフガフガと嗅いでいる。

 大きい鼻の孔から空気を吸い込む音が凄い。

 鼻の穴の襞と微かな鼻毛がブレて動くから、鼻の孔に吸い込まれていく風が見えたような気がした。


 そのタルナタムはケーゼンベルスの行動を察知しているのか頭部を少しだけフルフルと左右に動かし応えている?

 後頭部が吸い込まれそう。


 怖くて震えているわけではないと思うが……。

 タルナタムの生物的な挙動が面白い。

 そんなタルナタムの変な挙動を見つつ――。

 タルナタムに持たせていた武器のすべてを戦闘型デバイスのアイテムボックスの中に仕舞った。


 そして、


「――タルナタム、魔熊ロック退治など色々と活躍してくれてありがとう。また獄星の枷ゴドローン・シャックルズに戻ってもらう」

「ワカッタ! また我を使え、主!」

「おう」


 タルナタムを獄星の枷ゴドローン・シャックルズに格納し、その獄星の枷ゴドローン・シャックルズを戦闘型デバイスに戻した。


 大きいタルナタムが獄星の枷ゴドローン・シャックルズの中へと戻る光景は結構美しい。

 

 アクセルマギナとガードナーマリオルスが戦闘型デバイスに戻ったり現れたりする現象と似ている。と、魔皇獣咆ケーゼンベルスは不満そうに俺を睨んでいた。

 タルナタムの匂いチェックをしたかったのか?


 ――ハルホンクの防護服を意識。シンプルな七分袖の下着と上着を連想した。

 続いて、上着の防護服はジャケット風。

 素材は、魔法のケープ、ミスランの法衣、ゴルゴダの革鎧服、魔竜王の肉と革を融合させようか――瞬時にハルホンクの防護服は新しい衣装にチェンジした。


 近くにいたバーソロンは「あっ」と可愛い声を発して頬を真っ赤に染めた。


「……陛下……」

「ん?」

「ふふ、いえ……あ、このまま源左サシィの槍斧ヶ丘に向かいますか? それともメイジナの大街とサネハダ街道街に向かいますか?」


 出だしの喋り方と、微かに上下した視線と表情の変化が面白かったが、指摘はしない。


 ゼロコンマ数秒の間の変身シーンだ。わざわざ指摘はしてこないはず。


 アドゥムブラリとツアンを見ると、なんとも言えない面で俺を見ていた。


 そんな二人に、俺がベっと舌を出して変顔をすると、二人は額に手を当てて両手を広げるジェスチャーを行いながらふざけた表情を浮かべてきた。


 野郎組との、なんとも言えないフェイスと仕種のコミュニケーションが面白い。

 

 変顔を真面目に戻しつつバーソロンに、


「……源左サシィの槍斧ヶ丘に向かおうと思う」

「主、その際だが、我はどうする」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスが聞いてきた。

 共に移動したら戦闘になる可能性を告げているんだろう。

 数回頷きつつ、見上げて、


「源左サシィのグループだが、ケーゼンベルスたちを見かけた瞬間、問答無用で攻撃を仕掛けてきたのか?」

「否、最初は何か警告を発してきた。だから我らも答えた。しかし……そこから問答無用の魔銃の連射攻撃が始まった。言葉が理解できなかったか恐怖したか……そこからは我らを見かけたら攻撃してくるようになった。そして、サシィを含めた黒髪の一族は、魔素の察知能力に長けている者が多かった印象がある」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは残念そうに語った。


「ならば俺たちが槍斧ヶ丘に姿を晒したら、その源左サシィたちから攻撃を受ける可能性が高い。しかし、その攻撃が、交渉の切っ掛けにはなるかもしれない。俺が矢面に立ちながら魔界王子テーバロンテを屠ったと告げれば……否が応でも交渉は開始されるはずだ」

「閣下らしいですが……」

「虎穴に入らずんば虎児を得ず」

「……昔、閣下から聞きました諺ですね。分かりますが……心配は心配です」


 ヘルメはそう語ると、俺の右肩にいる黒猫ロロに水をあげながら右腕におっぱいを寄せてくれた。

 素晴らしい対応だ。


 バーソロンは何かを言うようにジッと見ている。

 ヘルメは構わず、


「攻撃がない場合でも、源左サシィ側からしたら、閣下が脅しにきたと勘違いするかもですね」

「源左サシィの頭の回転が早いなら、それを踏まえての交渉をしてくるだろう。密偵が優秀なら、ある程度此方側の状況を読めている可能性もある。更に、向こう側からしたら願ったり叶ったりの状況かもしれない」

「あ、密偵……スキルも様々にありますからね。納得です。バーソロン、どう思いますか?」


 ヘルメがそう聞いていた。


「……閣下と精霊様の推察は、さすがの読みだと思います」


 バーソロンは胸元に手を当て頭を少し下げた。


 そう褒めてくれるが、バーソロンがくれた情報だけで源左サシィとレン・サキナガの頭の良さは想像がつく。


 この魔界セブドラで生き抜いているという事実。

 

 魔皇獣咆ケーゼンベルスたちと争いつつも生きている。魔樹を破壊し、モンスターを倒しつつ魔石回収能力が可能な軍隊を持ち、独自の家畜と農業も維持している。


 段々畑か水田か。

 揚水水車などもあれば結構な文明力だ。

 魔界セブドラの環境に合わせた生産地を維持しているってだけでも尊敬に値する。


 【ケーゼンベルスの魔樹海】に白い魔花サクリファスが咲くように、土の循環は惑星セラや地球とは微妙に異なるはずだからな。

 まぁ、環境や自然は種が育ちやすいとかのプラスの作用しかなく、スキルや魔法が存在するから農業も意外に楽なのかもしれないが。


 そして、【メイジナの大街】と【サネハダ街道街】で暮らす様々な魔族たちと友好関係を結んでいる。これも大きい。


 交渉能力を持つ源左サシィは頭が切れる存在なのは確定か。

 または優秀な副官や部下が多いはずだ。


 アドゥムブラリは、


「……主は、貴重な極大魔石の提供とかも考えているんだろうが、ケーゼンベルスの使役にバーヴァイ城のデラバイン族の兵士。これだけでも十分な交渉材料だと思うぜ」

「はい、旦那と神獣ロロ様の存在だけでも、圧倒的かと」

「にゃ~」


 ツアンの発言に、皆、笑顔を浮かべて頷いていた。が、それでは話が終わってしまう。


「ふふ、確かにそうですね。閣下なら単独の交渉も成功に導くと思います」


 ヘルメが笑顔を交えながらそう発言。

 皆、和やかムードだ。


「デラバイン族と源左サシィの魔族のよしみも結構だが、今回の極大魔石の採取こそが、器たちにとってもっとも重要なことなのだぞ」


 沙が神剣を胸に抱きつつそう語る。

 薄着の仙女スタイルだから非常に可愛らしい。帯の輝きもいい。


「……そうだな。塔烈中立都市セナアプアから魔界セブドラ入りが楽になる。傷場の占拠も不要となる」

「あ、……そうですね。閣下は惑星セラを大事にしている。移動手段は用意しましたが、別段傷場に固執する必要はない」

「ふむ……」


 ヘルメの言葉に沙も頷いた。

 そのヘルメは、


「閣下は、魔界セブドラの神々や諸侯とは根本的に異なる。ただ、傷場の占有が閣下にも多大な利益を齎すのならば……話は変わってきますが」


 と、皆に聞くように話をした。


「「「はい」」」


 リューリュ、パパス、ツィクハルが元気よく返事をする。

 バーソロンも遅れて、


「傷場の占有は凄まじい利益を得ますよ?」


 と皆に聞くように言っていた。

 俺は実際の傷場は鬼魔人傷場しかみたことがないからな。


 光魔沸夜叉将軍のゼメタスが、


「はい、バーソロン殿に同意します。傷場占有のメリットは多大ですぞ。魔界セブドラの領土を得たのと同じ。セラの傷場側の周辺で倒れた魂や魔素の殆どが魔界側の傷場を得た存在と眷属たちに注ぎ込まれることになります。閣下も傷場を得たら、我らもまた強くなる。永遠に続くエネルギー源を入手したのと同じことですからな」

「はい、閣下も多大な効果を得られる。傷場を得たら、魔界セブドラに覇を唱える偉大な称号も得られることでしょう」


 アドモスもそう発言。

 ゼメタスとアドモスの星屑のマントが<ルシヴァル紋章樹ノ纏>の効果を得て輝きを発した。


 隣で少し浮いているアドゥムブラリは、


「大きいな。大きい故に主にはデメリットとなる可能性がある……まぁ、今の調子・・・・ならば、傷場の占有に成功したとしても、案外大丈夫なのかもしれないが……」


 途中、細い顎に指を当てながら思案げに語っていた。

 アドゥムブラリの目元は少しピンク掛かっているが、蒼い目の視線は鋭いから少し怖い。


 ヘルメが、


「傷場の占有にメリットとデメリットがあるのですね。知らなかったです」


 俺もだ。と頷いた。


 ヘルメは首を少し傾げてゼメタスとアドモスとアドゥムブラリに不思議そうに聞いていた。

 

 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスにアドゥムブラリの魔界軍団は、


「閣下にデメリット……神格のことか」

「たぶんな。アドゥムブラリ殿、閣下が魔界の傷場を確保するデメリットとは?」


 アドゥムブラリはアドモスとゼメタスを見て片頬を上げる。

 そして、片腕を払い――ポーズを決めた。


 一々格好いいアドゥムブラリは、俺をジッと見て、


「――その通り、神格だ。魔界セブドラで成長すれば、まさにとんでもない魔皇帝となる。が、肥大した神格を持った存在になれば、すんなりとセラに帰還ができなくなるぞ」

狭間ヴェイルに弾かれるか。または、神格を失ってダメージを負ってのセラへの帰還となる。だから、今の調子ならと言ったんだな」

「そうだ。主は純粋に俺たちに偉大すぎる献身を行ってくれた。その献身には深い感謝しかない。だから、その献身を皆に行っていれば、主が多大な神格を有することはないと思うからな……主には辛いことだが……」


 アドゥムブラリの言葉に納得。


「……納得だ」

「なるほど……」

「「「……」」」


 皆、神妙な顔つきだ。

 アドゥムブラリは頬をポリポリと掻いて、


「そうは言ったが、奇想天外の主だ。覇王ハルホンクと融合して、グラドを救出し、正式に壊槍グラドパルスを入手。【極魔破壊魔山グラドパルス】の地名と地形に場所を印した〝列強魔軍地図〟も持つ。更に、<血道第五・開門>と<血脈冥想>も得ている修業マニアだからな。なにか突拍子もないことをやってしまう可能性もある」

「はい」

「旦那ならありえる」

「おう。それに【幻瞑暗黒回廊】を移動できるセンティアの手もある。狭間ヴェイルの作用でセラに戻る際に神格が削られてしまうのは変わらないと思うが、【幻瞑暗黒回廊】には不透明なことが多いからな」


 アドゥムブラリがそう言うと、ヘルメは頷く。

 

「はい。魔毒の女神ミセア様の大眷属キュルレンスは【幻瞑暗黒回廊】を移動してセラにきましたからね」

「おう、そうだった」

「……魔毒の女神ミセア様とも……」

「「「魔界セブドラの神々と通じている、我らの陛下――」」」


 リューリュ、パパス、ツィクハルは狼に乗ったまま頭部を下げてきた。


「「「ウォォォン」」」

 

 黒い狼も乗せている者たちに呼応して香箱スタイルになって頭部を下げてきた。可愛い。


 アドゥムブラリは、その様子を見てフッと笑うと、アクセルマギナと俺を見て、


「アクセルマギナではないが、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスでもあるようだからな……」


 アドゥムブラリの発言を聞いたアクセルマギナは、


「はい! 遺産高神経レガシーハイナーブに<銀河騎士の絆>を持つマスターは、他の銀河騎士マスターと精神同調が可能です。『ドラゴ・リリック』には、他の銀河騎士マスターと戦士を登場させることもできるマスター。更に<光魔の王笏>を持ち、<血道第五・開門>と<光魔の王笏>に合う血の錫杖も得た。そして、この魔界セブドラにも、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルに反応する銀河騎士ガトランスの資質と特殊マインドを持つ者たちがいるかもしれませんので、クリスタルの使用を勧めます」


 <光魔の王笏>と血の錫杖か……確かにな。

 と納得しつつ、


「いるかもな――」


 戦闘型デバイスからフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルを取り出し、魔力を込める。


 フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから魔線が無数に迸る。


 いっぱいいるじゃないか。

 え? バーソロンの胸に当たっている。


「ええ?」

「バーソロンは光魔騎士で眷属だが、<超能力精神サイキックマインド>系統の能力も高いということか」

「そうなります。精神耐性スキルを色々と持っていると聞きましたが、その結果かもですね」


 アクセルマギナがそう指摘すると、バーソロンは己の巨乳を見て、


「……」

 

 微かに頷く。

 そして、皆を見ては……。

 

『なんのこっちゃ』という顔色だ。


 そりゃそんな顔色となる。

 魔界セブドラで生きてきたバーソロンだ。

 惑星セラの宇宙のことは知らないことが多いだろう。

 ナ・パーム統合軍惑星同盟と関係している存在だと言われても、そりゃそうなる。


 しかし、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが反応しているように……。

 宇宙の星系と神々は連動している可能性がある。

 星系の名に神々の名があったのは偶然ではないだろう……共通した意識による波動関数が重なったとか?


 ……仏教哲学にフィボナッチ数列に量子のもつれの観測とか色々と考えてしまうと途方もないから止めとくか。


 バーソロンに、


「バーソロンは優秀な存在だということを、このクリスタルは示しているのさ。ま、バーソロンは既に俺の眷属だからな。既に銀河戦士カリームでもあるってことだろう」

「ハッ! ありがとうございます!」

 

 クリスタルを戦闘型デバイスに戻した。

 アクセルマギナはバーソロンを見て、


「そうですね。バーソロンの両手首から伸びる<ルクスの炎紐>はプラズマの紐を射出する武器にも見えますから。ムラサメブレードなどの武器も似合いそうです」


 ナ・パーム統合軍惑星同盟の星系にも同じようなエネルギー兵器があるようだ。

 まさに『充分に発達した科学は魔法と見分けが付かない』なんだろうな。


 話が脱線したから、少し間を空けてから、


「話を戻すぞ。ケーゼンベルス、源左サシィの顔を直に見たことはある?」

「顔の装備は主の装備と似ていたな。斧槍を巧みに使うが小さい魔銃も使う。我の神意力を交えた脅しにも耐えていた。中々の胆力の持ち主で美しい黒髪を持つ。そういえば、血霊衛士の甲冑と、源左サシィの魔族の黒尽くめ甲冑は、形が似ているな……」

「甲冑が似ているか……そして、ケーゼンベルスの神意力の言葉に耐えたか。俺たちでさえ結構な圧力だったんだ。その源左サシィは相当な人物だな」

「うむ」

「閣下が気にしている人物ですから楽しみです」

「おう。んじゃ向かうか」

「分かった! 乗るがいい我の主。友も、皆も、乗れ――」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスはそう言いながら右の根っこを右前足で潰す。

 後ろ足で地面を掻くように伸ばすと、後ろ足の爪で後方の根っこを突き刺し粉砕するような連続蹴りを繰り出してからスフィンクス座りを行う。


 と、巨大な狼の頭部を下げてくれた。

 大きな鼻から漏れた鼻息と魔息は可愛いが、迫力満点だ。

 デラバイン族の子供たちに人気が出るのも分かる気がする。


「では皆、先に乗ってくれ」

「にゃお~」

「はい!」

「ゼメタスとアドモスにアクセルマギナとツアン、行きましょう――」

「あ、はい――」

「「承知!」」

「了解――」


 皆、<珠瑠の花>に引っ張られてケーゼンベルスの頭部と背中に向かう。

 アドゥムブラリと<神剣・三叉法具サラテン>の沙・羅・貂は、飛んでケーゼンベルスの背中に乗っていく。


「俺は背中の黒毛ベッドを予約だ――」

「妾もケーゼンベルスの背中のモフモフをもらう!」

「「はいッ」」


 貂は一人、ケーゼンベルスの長い尻尾付近に向かっていた。尻尾を有しているから興味があるんだろうか。


「――リューリュ、またも乗らせていただきます!」

「ケーゼンベルス様のお背中に行きます~」

「ケーゼンベルス様、ありがとう、また乗らせてもらう」

「「「ウォォン」」」


 リューリュ、ツィクハル、パパスを乗せた黒い狼たちも巨大な魔皇獣咆ケーゼンベルスの背中に乗り込む。


「主と友も、さっさと頭部に乗れ」

「おうよ――」


 跳躍――。

 血霊衛士を伴って巨大な魔皇獣咆ケーゼンベルスの頭部に乗った。

 バーソロンが横に来る。


 すると、


「――うむ。行くぞッ! ウォォォォォン!」


 と咆哮を発してザッと前進を開始。

 

 【ケーゼンベルスの魔樹海】を駆けていく。


 前方の樹の葉がケーゼンベルスに向けて頭を垂れるように動く。幹が横にズレるのは面白い。


「ンン」


 相棒が肩から降りた。

 と、黒猫ロロは毛の中に埋もれて見えなくなった。

 ヘルメもケーゼンベルスの毛の中で横になっているのか、長い片足が毛の群れの中から飛び出ていた。

 悩ましいポージング中か。


 バスタブに入った美女が長い足を上げて、男を呼んでいるようなシーンを連想してしまう。


 黒猫ロロもモフモフを堪能したいようだ。

 毛並みは相当気持ち良さそうだ。

 

 俺も寝そべりたくなったが……このままだな――。


 今は景色を――時折上下に視界が揺れる景色は好きだ――。

 ケーゼンベルスの頭部から見渡せる雄大な景色をバーソロンと共に楽しむ。


 ――暫し、皆【ケーゼンベルスの魔樹海】の旅行を楽しんだ。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスの速度が落ちた。

 樹が減る、【ケーゼンベルスの魔樹海】から出たようだ。

 荒涼とした丘と幾つかの林と小川の景色となった。

 空には翼竜のようなモンスターが飛び回っている。

 大きなカバと鹿のモンスターの一団が駆けていく。右端のほうに街道が見えた。


「【サネハダ街道街】に通じる道です」


 バーソロンが教えてくれた。

 その街道は一瞬で見えなくなる。

 前方は窪んだ地形となった。

 木々が疎らに生えて、窪んだ先に山と人工的な高台が幾つか見えてきた。

 木々に山から流れてきた川もある。

 傾斜が多くガレ場も増えてきた。

 壊れた柵に傷だらけの丸太と、捨てられた砦に櫓門やぐらもんも見えた。


「陛下、そろそろ槍斧ヶ丘に近いはず……」

「了解」

「うむ。そろそろ源左サシィの魔族の斥候兵が見えてくるはずだ」


 細長い岩場のエリアに突入。

 広い窪地に山道と造られた塁に階段が見えたところで、人の形をした魔素を察知。


「主、ここが【源左サシィの槍斧ヶ丘】だ」



 そう言いながらケーゼンベルスが動きを止めた。

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