千十話 ミジャイとバーソロンの元護衛部隊たち
地下に向かう階段にはまだ進まない。
<光穿・雷不>が衝突した出入り口側の瓦礫はまだ積もったままか。
床の傷も酷いから、バーヴァイ城を活用するなら俺がさっさと片付けて、<邪王の樹>で補強したいところだが……。
このバーヴァイ城を捨てる可能性もある以上は、今は手を付けないでいいか。
反対側の大ホールの壁と床にも穴と傷がある。
テーバロンテの親衛隊隊長メヌーアを屠った<獄魔破豪>の威力は高い。
大ホールの状況を確認しつつ<血道第五・開門>の<血霊兵装隊杖>を解除。
「主、その魔皇帝、否、血皇帝と呼べるルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を解いちまうのか?」
「おう」
と片腕を上げつつハルホンクを意識。
「――衣装はゴルゴダの革鎧服も気に入っているし、魔竜王装備も好きだからな――」
片腕に嵌めていたフェニムルの紐腕輪を消す。
「ングゥゥィィ、ゴルゴダァ……」
ゴルゴダの革鎧服に、牛白熊とギュノスモロンと銀ヴォルクの特殊繊維を組み合わせたシンプルな戦闘装束を一瞬で身に纏った。
「おぉ、一瞬で変身。主が自由に衣装を変えることはよく知っているつもりだが、毎回、渋い衣装をよくイメージできるもんだ」
「ありがとう。ま、俺のイメージを具現化できるハルホンクが優秀だからだな」
俺がそうハルホンクを褒めると、ハルホンクの竜頭装甲が右肩に出現。
その竜頭は髭と鼻の部分が微妙に赤らんでいた。
そのハルホンクは竜頭を回転させる。
後ろ向きも可能なのか。
「――ングゥゥィィ、喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星ニ、吸イ込マレテ、イキテタ、ハルホンク! 主に喰ワレテモ、イキテタ、ハルホンク、優秀、ゾォイ!」
ハルホンクが嬉しそうにアドゥムブラリに向けてアピールしている。
「ハルホンク……覇王……しかし、その肩のポールショルダーも、結構自由度が高いんだな」
「ングゥゥィィ、深淵ノ星ニ、覇王ゴト吸イ込マレテ……アドゥムブラリ、マリョク、ウマソウ、ゾォイ……」
「……お、おぃ、なんだ、急に、お、俺は美味くない。というか、蒼眼と牙を光らせながら魔力を有した液体を垂らすなよ……怖いだろう」
「ピカピカ、ヒカル! ハルホンク! コワクナイ、ゾォイ!」
「ンン、にゃ、にゃ~♪」
ロロディーヌも楽しそうにハルホンクに合わせて声を発した。
相棒は黒豹から黒虎に姿を大きくさせている。
その
「シンジュー、ハルホンク、スキ?」
「にゃお~」
黒虎のロロディーヌなだけに
「「おぉぉぉ」」
「――黒虎ァァ!?」
外の広間から歓声が響く。
一部の兵士から
その
「ングゥゥィィ」
と、
すると、アドゥムブラリが、
「
頷きつつ、
「生成する度に<血魔力>や魔力をそれなりに消費するが、<
「ふっ、はは、それはそうだな」
アドゥムブラリの言葉を聞きながら皆と大ホールの出入り口に足を向けた。
しかし、広場の魔素の気配が山々を思わせる。
戦場と化していた大ホールと広場は敵味方の魔素だらけで必死だったが……今は落ち着いた環境だ。そんな状態で掌握察から察知できる多数の人々を一度に体感できてしまうのは、中々に面食らう。
数千人が共通の目的を持って集結している魔素の群れをまともに察知していく掌握察……ま、先ほどのように意識をしているか、していないのかの微妙な差もあるから慣れだな。
――アーチ状の出入り口を潜って広場に出る。
「「陛下――」」
「シュウヤ様とバーソロン様たちが戻られたぞ!」
「「閣下ァ」」
「俺たちの閣下ァァ」
「常闇の水精霊のヘルメ様もいらっしゃる~」
「「「魔皇帝様――」」」
「「「「おぉぉぉ」」」」
「「ウォォォォォン」」
デラバイン族とケーゼンベルスたちが声を発して出迎えてくれた。
女性と子供に老人まで、いつの間にか集まっていたのか。
ケーゼンベルスの眷属の黒い狼たちも増えている?
【ケーゼンベルスの魔樹海】も広いからな、黒い狼たちがすべて味方となったのは大きい。
耳をピクピクとさせている魔皇獣咆ケーゼンベルスは広場の横で休んでいた。
スフィンクスに近い姿で座って、大きい頭部の首は地面に付いている。
その巨大な魔皇獣咆ケーゼンベルスの鼻先に小さいデラバイン族の姿が見えた。
子供たちが楽しそうに魔皇獣咆ケーゼンベルスの巨大な鼻に手を当てて喜んでいる。
子供たちは怖がっていないようだ。
その魔皇獣咆ケーゼンベルスは鼻息を発したのか、子供たちは転がってしまった。
デラバイン族の母親か親族たちが急いでその子供たちを連れていく。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは、鋭い双眸で俺たちを捉えると、頭部を上げた。
威厳を感じたが、犬っぽい仕種で可愛さもある。
その魔皇獣咆ケーゼンベルスは、ゆっくりと頷くような素振りを見せてくれた。
神格を有する以前に、たたずまいからして魔皇獣咆ケーゼンベルスには風格がある。
そんなケーゼンベルスと<魔皇獣の心>で強い繋がりを得ているから嬉しかった。
しかし、少々不安になるぐらいの気高さを醸し出しているから、身が引き締まる思いを得る。
そのケーゼンベルスが、
「ウォォォォォン! 光魔ルシヴァルの<血魔力>を持つが、見知らぬ強者がいるぞ!! 主、どういうことだ!」
魔皇獣咆ケーゼンベルスがそう聞いてきた。
「あぁ、俺はアドゥムブラリだ」
ポーズがキザだが、似合う。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは口を広げ、驚いていた。
「なにぃぃぃ、あのアドゥムブラリ殿な、のか……それは失礼をした。が……主、城の本丸の地下を調べると語っていたが、何かとんでもない秘宝の入手を?」
単眼球のアドゥムブラリと、今の金髪で端正な顔立ちのアドゥムブラリは、かけ離れているだけに、驚きは分かる。
そのアドゥムブラリを見ながら、ケーゼンベルスに、
「テーバロンテを倒した際に成長したが、そのスキルを試しつつ修業を重ねたら、また成長を遂げた。その流れで、アドゥムブラリに<光魔・血霊衛士>をプレゼントした。その状態のアドゥムブラリは血霊衛士アドゥムブラリ。武装魔霊のことはケーゼンベルスにも説明していたから分かると思う。更に、元々の指輪に込められていた<武装魔霊・紅玉環>の契約の証しに<光魔血仙経>や<性命双修>などを試しつつ、盛大に魔力、生命力を込めて、それをアドゥムブラリに返却し、その紅玉環を嵌めてもらったんだ。そうしたら、アドゥムブラリが復活した」
「ウォォォォォン! 驚きだ。主は、武装魔霊の契約の因果律をねじ曲げたか! 凄まじい。しかし、アドゥムブラリ殿は魔侯爵級に思えないが……」
アドゥムブラリは前に出て、魔皇獣咆ケーゼンベルスの近くに移動した。
「そうだとも、俺は魔王級に昇華を果たした! 主と魔界騎士の儀式も行った。そして、俺に自由をくれたんだ……」
「おおお、魔王級に進化を……眷属の中でも
「「「ウォォォォォン!!」」」
ケーゼンベルスとケーゼンベルスの黒い狼たちが一斉に吼えてアドゥムブラリを歓迎している。
狼たちがアドゥムブラリに頭部や体を寄せていく。
「ンン――」
相棒も仲間に加わった。
アドゥムブラリの足に黒い狼と一緒に頭突きを行う
少し大きい
「はは、凄まじい歓迎っぷりだな! 嬉しいぜぇ!」
アドゥムブラリは両手を広げながら回っていく。
金色の長い髪がふわりと風を孕み浮かぶ。
その髪から虹色の魔力が発せられていた。
なんか、絵になるな。
さて、そのアドゥムブラリとケーゼンベルスたちの和やかな様子を見ていた、デラバイン族と魔傭兵たちに向け、
「――皆、集まってくれてありがとう。少し前に兵士たちには告げたが、改めて名を告げよう。俺の名はシュウヤだ。バーソロンを救い、魔界王子テーバロンテを倒した。皆、宜しく頼む!」
魔槍杖バルドークを掲げた。
横にいるヘルメが、俺の周囲に噴水のような水柱を幾つか発生させる。
どこでこんな演出を覚えたんだか、面白いなヘルメは。
「「「――はい!!」」」
「「「おぉぉぉ」」」
「シュウヤ様ァァ」
「シュウヤさまぁぁ」
「きゃぁぁ、魔皇帝さまぁぁ」
「魔皇帝、シュウヤ・カガリさまぁぁ」
歓声の勢いは一気に加熱。
デラバイン族の老人が杖を掲げては、両手を何回も上げて、万歳しながら泣いている。
支城だから重要だと思うが、魔界王子テーバロンテの圧政で苦しんでいた?
ま、力を持つバーソロンの胸にバビロアの蠱物を入れて、バルミュグに魔杖バーソロンを持たせて、使いっ走りに使っていた。弱者は、テーバロンテにとって、ただの養分としか考えられていなかっただろうから、圧政どころではなかったのかもしれないな。
苦しんでいたのなら、救いとなったのなら、魔界王子テーバロンテを倒したかいがある。
本当によかった。
「わしを見たァァ」
「きゃぁぁぁぁ、こっち見てぇぇぇ」
「ボクを見て笑ってくれたぁぁ」
「「うあぁぁぁ」」
「私を見てェェェ」
デラバイン族の兵士、子供、女性、老人たちからの熱い声が心に刺さる。
「魔皇帝シュウヤ・カガリさまぁぁ」
「「「魔皇帝! 魔皇帝! 魔皇帝!」」」
魔皇帝か……ヘルメを見ると満足そうに頷いていた。
先ほどの、羅の言葉を聞いて可愛く動揺していた表情とは雲泥の差。
そこがまた魅力的なヘルメだな。
だからこそ、この神輿に乗った以上は、ヘルメの期待に多少は応えたい。
そして、今の俺なら、その
だからこその魔界王子テーバロンテ討伐であり、魔神殺しの蒼き連柱だ。
更に、いつかは、魔城ルグファントを取り戻す。
……腕を上げて、デラバイン族たちの歓声が止むのを待った。
この中に魔軍夜行ノ槍業に住まう八人の師匠たちを知る存在がいるんだろうか。
すると、グラドとツアンとバーソロンの護衛部隊の一部が寄ってくる。
その様子を見ながら、皆に、
「元城主バーソロンや魔皇獣咆ケーゼンベルスから色々と説明があったと思うが、俺からも話をしよう。今、皆がここに集結しているように、バーヴァイ城と平原は多少安定した状況にある。【ケーゼンベルスの魔樹海】を持つ魔皇獣咆ケーゼンベルスとの同盟も大きいだろう。しかし、周囲はまだまだ混沌としている状況なのは変わりない。悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力の正確な情報もまだまだ不足している。偵察用ドローンも飛ばし、遠くを視察しながら徐々にバーヴァイ城の近辺を固めることに協力するつもりだ」
「「「はい!」」」
「そして、正直に語るが、このバーヴァイ城を放棄する可能性も捨てていない。バーヴァイ城、バーヴァイ平原などにある家、土地、田畑、己の資産などを捨てる覚悟はもっといてくれ」
「「……」」
「ウォォォォォン! そんなことは百も承知! 我らは自由!! デラバイン族よ、ここや平原に周辺地域が破壊されたら、我の【ケーゼンベルスの魔樹海】に逃げればいい。我らはもうともがらなのだからな!!」
と、魔皇獣咆ケーゼンベルスが吼えるようにデラバイン族の無辜の民たちに伝える。
「「はい!」」
「分かりました!」
「「分かりましたァァ」」
兵士たち以外の戦えないデラバイン族たちがそう叫ぶ。
その姿を見ると一気に責任感が増した。
そんな重責から逃げるようにアドゥムブラリに視線を向けると、アドゥムブラリは黒い狼たちに衣装の端を引っ張られて逃げていた。面白い。同時に少し救われた。
ありがとなアドゥムブラリ。
そこに横にきたツアンとグラドが、
「旦那、魔の扉の鏡の回収を?」
「おう、回収した。いつでも塔烈中立都市セナアプアに戻れる」
「それを聞くと安心できます」
「あぁ、魔薬関連の情報をレザライサに伝えたいところだが……まだ戻れない」
「そうですね、この状況では、はい。兵士だけでも数千、平原や周辺地域を含めれば、まだ増える」
「そして、この無辜の民の数だ。一度に何人移動できるのかまだ聞いていないが、さすがに数千人も移動できるわけがない。普通は
「はい、魔の扉の鏡の移動は我らだけにしておきましょう」
「おう。で、グラド。バーヴァイ城を見回った印象は?」
「崩壊した城壁から魔界王子テーバロンテとの激戦が容易に想像できました。まだ東側は見ていませんが、無傷のようですから、マセグド大平原での戦いには備えることはできそうです。そして、閣下が迅速に【ケーゼンベルスの魔樹海】に動いた理由もその辺りの大局的見地からの行動とお見受けしました」
グラドがそう発言。
馬魔獣ベイルから下りている。
「おう、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターほか、諸勢力以外にも単機で飛んでくるとんでもない神々がいる以上は、味方となる勢力はなるべく取り込むほうがデラバイン族のためになる」
「はい」
グラドは、デラバイン族たちを見ていく。
ツアンは
「地下の探索はしたんですかい?」
「まだだ。先に源左サシィのところに向かう予定だ」
「あ、なるほど」
ツアンたちに頷くと、見知らぬ鎧を着た方々が気になった。
同時にバーソロンが寄ってくる。
「陛下、あの者たちが、今回我らについた主な魔傭兵、魔傭兵ラジャガ戦団です」
「了解」
バーソロンは前に進み、細長い腕をその魔傭兵たちに向ける。
「ミジャイ、忙しい陛下だが、特別に時間を用意してくれた。こちらにこい!」
「忙しい? ふっ……」
「何を笑っているミジャイ、早くこい!」
「へいへい――」
そう喋りながら、俺たちに寄ってきたミジャイ。
双眸は二つ。紺碧の色合いで鼻筋は高い。
顎はオークのソロボと似て厳つい。
首も分厚い。ドレッドヘア気味の顎髭が渋い。
その髭にはドワーフと似た金具を嵌めていた。
武者ドワーフのイグを思い出すなぁ。
胴体は骨と鋼を用いたスケイルメイル。
両腕は分厚い。その両腕をモンスターの骨をつなぎ合わせたような腕防具が覆っていた。
何かの仕掛けか、盾にも使えそう。
肌の色合いは灰色が多く、筋骨隆々。
防具のない部分から焦げ茶色の龍鱗のような肌が見えていた。
武器は見えないが、ドワーフの戦士ってよりも全体的にバイキングを彷彿とさせる。
ミジャイは、片膝で床を突く。
「シュウヤ陛下――初めまして、魔傭兵ラジャガ戦団の団長ミジャイ・ド・ラジャガと申します。魔界王子テーバロンテの討伐、おめでとうございます。そして、この魔傭兵ラジャガ戦団を正式に神聖ルシヴァル大帝国の軍勢に加えて頂けないでしょうか」
「初めまして、ミジャイさん。バーヴァイ城から逃げずに残って、デラバイン族と一緒に百足魔族デアンホザーたちと戦ったことから、ある程度は推察できますが、俺たちには敵が多い。それでも俺たち側に付くんですか?」
と丁寧に答えたら、少し驚いた様子のミジャイ。
バーソロンも少し驚く。
「……はい、付きます」
「ここからは普通に聞くとしよう。理由を聞かせてくれ」
「……【バードイン迷宮】に囚われている仲間を救いたいからです。魔界王子テーバロンテが消えたのなら、そこを支配していた魔界王子テーバロンテの眷属、魔歯ソウメルも無事ではない。バードインの領内も混沌としている状況のはずですから……」
「仲間の救出に俺たちの戦力を借りたいか……仮に協力し、仲間の救出ができなかったら? そのあと魔傭兵ラジャガ戦団はどうするつもりなんだ?」
「……成功するにしろ失敗するにしろ、魔傭兵ラジャガ戦団は解散し、シュウヤ陛下、バーソロン閣下の部下であり続けます」
「部下たちとは話をつけたんだな」
「はい」
「……バードイン迷宮に囚われている仲間の救出か……向かうにしても、直ぐに離脱するような環境になっていると予測する。そして、直ぐにはバードイン迷宮には向かえない。まずはバーヴァイ城の周囲を固めることを優先する。それでもいいか?」
「はい、当然の策。バードインの領域は悪神ギュラゼルバンが暴れていると予想します……それに魔界王子テーバロンテを滅してくれた。そして、俺たちをゴミのように扱ってきた百足魔族デアンホザーを倒してくれた……それだけでもシュウヤ陛下についていく理由になります」
「分かったが、バーソロン、どうだ?」
「陛下に従います」
なら、バーソロンにがんばってもらおうか。
「バーソロンの配下となるなら受け入れよう」
「……」
ミジャイはバーソロンを見て、俺に視線を向け直してから敬礼し、
「分かりました。バーソロン閣下の指揮下に入らせて頂きます!」
バーソロンも敬礼、そして、
「了解した。我の護衛部隊、否、もう神聖ルシヴァル大帝国の師団以下、まだ規模として小さいですから、大隊の一部隊として入ってもらう」
「ハッ」
「ミジャイ、軍の役回りだが、俺たちも再編成を行っている最中なんだ。色々と変わるだろう。ま、働き次第では上に行くと思えばいい、それでも絶対はないと考えておけ」
「はい! よろしくお願いします!」
「働きに期待する」
「では――」
ミジャイは最初の態度とは変わって、敬礼してから後退。
魔皇獣咆ケーゼンベルスたちとアドゥムブラリが寄ってくるのを見ながら、バーソロンを見て、
「バーソロン、元護衛部隊の面々だが、指揮を任せられるのはどの人物だ」
「あ、はい――」
バーソロンはデラバイン族を見渡し、
「アチ、リューリュ、ベイア、キョウカ、ツィクハル、ドサチ、パパス、ベン、此方にきてくれ」
「「「はい!」」」
バーソロンは護衛部隊の面々からメンバーを呼び寄せた。
整列するメンバーたち。
「皆、陛下と我と一部の者たちで、源左サシィの槍斧ヶ丘に向かうことになった。そのことで、デラバイン族の指揮権を一時託せる者はいないかと陛下が我に話をされたのだ。だから、お前たちをこの場に呼んだ」
「「「ハッ――」」」
「「「光栄の至り!!」」」
胸元に手を当て礼を行う。
バーソロンも応えて、先に礼を崩した。
その護衛部隊たちもバーソロンの礼が終わったあと、手を下ろし、姿勢を正すように両手を背中に運ぶ。
胸を張った姿勢もあるが、選ばれた護衛部隊の面々は誇らしげだ。
【ケーゼンベルスの魔樹海】でも俺たちの動きについてきた護衛部隊の面々。
その中でも精鋭が彼ら彼女ら。
森の中での戦闘を思い出すが……。
リベーラの魔猿や樹毛剣バハをスムーズに倒していた面々だ。
バーソロンに視線を向け、
「右端のメンバーから名前を教えてくれ」
バーソロンは「ハッ」と挨拶してから腕を右端に伸ばす。
右端の護衛部隊男性はまたも胸に手を当てた。
「陛下、右の男の名はベン。紅魔刀を扱います」
「ベンと申します。シュウヤ陛下、よろしくお願いします! がんばります!」
「ベン、よろしくたのむ。バーソロン、次を」
「続いて、その隣の女がアチ、斥候や強襲前衛、後衛、どこでも可能。武器は長剣、三節棍、短剣、投げ手裏剣、弓を扱います。敵指揮系統錯乱スキル<黙瞑角音狂>、敵集団の筋力を落とすスキル<力網角散開>、戦術系スキル<馬剣角囲い>などがあります」
「アチです。距離関係なく戦えます」
ショートカットのアチは優秀そうだ。
「アチ、これからも宜しく。バーソロン、次を」
「隣の女はリューリュ――魔法棍と短剣と弓を扱います」
「わ、リューリュです! がんばります!」
「おう、リューリュ、これからもよろしく、バーソロン、次を」
「隣の男がベイア――魔槍メゼンと炎の魔法を扱います。隣の女がキョウカ――短槍と水の魔法を扱います。隣の女がツィクハル――斧や斧槍を扱えます。隣の男がドサチ――大槌使いです。その隣の男がパパス――魔斧レガールを扱います」
バーソロンが紹介する度、挨拶していった。
俺が注目していた眼鏡のような魔道具を目につけている女性は、リューリュ。
バーソロンは、
「陛下、このメンバーは全員、テーバロンテ王婆衝軍驍将に推薦できただろう人材です。護衛部隊に入る前は、皆、百人長~五百人長を経験済みで、我の代わりに指揮権を託せる者たちです」
「了解したが、俺が選んでいいんだな?」
「陛下がお選びくださったほうが、皆も納得いくかと」
そりゃたしかに。
では、単純に――。
「アチ、バーソロンの不在時の一時的な指揮を任せよう」
「はい、お任せください」
「東のテーバロンテの残党の始末を頼む。余裕があるなら他地域へ早馬を飛ばせ、魔傭兵の受け入れの判断も任せる。様子見や保留でも構わない、敵対して戦いとなったら潰せ」
「ハッ」
アチは敬礼。
俺は頷いて、ラ・ケラーダの挨拶を返す。
そして、
「バーソロン、〝槍斧ヶ丘〟か【メイジナの大街】と【サネハダ街道街】に向かうか」
「はい。閣下たちと少人数で向かいますか? それとも騎兵隊の一部も同行しますか?」
「騎兵隊の同行は、すべてではなくリューリュなどの一部だけでいい」
「分かりました。リューリュ、ツィクハル、パパス。陛下と共に【源左サシィの槍斧ヶ丘】などに向かうぞ」
「「「はい!」」」
すると、魔皇獣咆ケーゼンベルスと黒虎の相棒が前に出ながら、
「主、我も一緒がいいだろう」
「にゃお~」
アピールしてきた。
アドゥムブラリはグラドとツアンの横に並んだ。
ケーゼンベルスを見ながら、
「……源左サシィのグループはケーゼンベルスの魔樹海に侵入し、煙雨を吐く極大魔石を有した魔樹を破壊し、極大魔石を奪うとかだったな。その極大魔石は、交渉材料になるかもだが……」
「ほしいなら持っていけ。破壊すればモンスターが湧くが……」
「お、なら先に入手しておこうか」
「うむ! では、【ケーゼンベルスの魔樹海】に向かおう! 主と友よ、我の頭に乗れ!」
「了解、グラド、アチと共にこのバーヴァイ城の守りを任せるがいいか?」
「はい、陛下、お任せを。単機で【古バーヴァイ族の集落跡】の探索とテーバロンテの残党狩りも可能です!」
「おう。アチと相談しつつ頼む」
「ハッ」
さて、鼻息を荒くしている魔皇獣咆ケーゼンベルスに乗る前に――。
いつものように
地面に付いた魔力の糸と地面は沸々と音を発すると、その地面から煙のような魔力が噴出し広がった。
その煙のような魔力を吸い込むように魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが出現。
「閣下ァァ」
「閣下ァァ、敵は何処に!」
ゼメタスとアドモスが出現。
「よう、さっきぶり、グルガンヌ地方には無事に戻れたようだな」
「あ、はい! 戻れましたぞ。グルガンヌ地方には、まだ大厖魔街異獣ボベルファは到着していません」
「はい、グルガンヌ地方の南東にはまだ到達していないです」
魔公爵ゼンの三衝軍、魔界王子ライランの軍などの勢力からも避難はするだろうから。
ここに呼んだほうがいいんだろうか。
魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスのグルガンヌ地方に俺が行けば、何かが起こりそうだと思うが、さすがに遠いからな……。
本契約のクリスタルを意識すると、ハルホンクの胸元のポケットから出現。
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