千十一話 ミトリ・ミトンとの念話にバーソロンの吐息

 本契約のクリスタルを取り出して皆に見せる。

 

「これが、大厖魔街異獣ボベルファの本契約のクリスタル。大厖魔街異獣ボベルファを呼び寄せられると聞いている」


 形は松果体や松ぼっくり。

 花の水芭蕉で有名な肉穂花序にくすいかじょにも似ている。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスが魔息を発し、


「ウォォォン! 大厖魔街異獣ボベルファか。テーバロンテに追い詰められる前に何度か見た。山のような生き物が魔街異獣であろう!」


 と少し興奮したように発言。喉元の毛が逆立っている。

 近くのデラバイン族たちは避難するように散った。

 代わりに黒い狼たちがケーゼンベルスの周囲に集まる。

 元護衛部隊を乗せていた黒い狼たちは、アチたちの傍を離れていない。もうかなり懐いているようだ。


 頭部を下げたケーゼンベルスに、


「そうだ。見たことがあったか」

「うむ。主は、あのような魔街異獣をも使役していたのだな……少し意外だ……ふん」


 え? 不服なのか。

 魔街異獣は大きいからライバル視?

 友と呼ぶ相棒とは、また違う感覚なのか。

 

「お、おう」


 皆は、大厖魔街異獣ボベルファとの本契約の証拠でもあるクリスタルを凝視中。


「……魔街異獣の本契約のクリスタルは、生まれて初めて見ました。クリスタルの中にもう一つの世界があるようで、とても神秘的ですね」

「あぁ、引き込まれる……」

「「「うん」」」

「綺麗ですねぇ」

「見事な造形だ……」


 アチ、リューリュ、ベイア、キョウカ、ツィクハル、ドサチ、パパス、ベンがそう語る。

 元護衛部隊たちは神聖ルシヴァル大帝国の上級将校と認識しよう。


 その中でも優秀と分かるアチが、


「陛下はバーソロン様にお話をされていた時にも、大厖魔街異獣ボベルファのことを発言されていましたね」


 そう笑顔で聞いてきた。

 金髪のショートカットが可愛らしいアチに頷く。

 艶のあるアイグロスのアイシャドウが目元の陰影を生んでいる。

 シャープな顔立ち。デラバイン族の炎のマークと合う。


 その目元が渋くて可愛いアチと目が合う。

 アチは頬が赤らんだ。

 アチといいリューリュも可愛いからドキッとする。

 すると、バーソロンが、


「アチ、陛下に気軽に話しかけるとは……」


 アチを睨んで叱っていた。


「す、すみません」

「今後は気を付けるように」


 アチは謝ってきたが、別に謝る必要は……。

 バーソロンに視線を向けると、バーソロンの視線が泳ぎ、頬を斑に赤く染める。

 顔にある炎のマークが薄らいでは強い炎になった。

 感情で変化するのか? 面白いなぁ、デラバイン族。

 あ、バーソロンが王族だからってこともあるのかな。

 ま、注意してくれたのは、魔皇帝の流れから権威を維持しようとがんばってくれているんだろう。


 さて、元護衛部隊の面々に、


「皆、大厖魔街異獣ボベルファと似たような魔街異獣を見たことがあるようだな。意見を聞かせてくれ。大厖魔街異獣ボベルファのような移動できる都市を持つ巨大生物を持つ勢力はそれなりにいるのかな」

「「「はい」」」


 皆、イエスマン。

 責めるようにバーソロンに視線を向ける。

 バーソロンはハッとし、瞳を潤ませると、直ぐに表情を切り替えて、


「皆、陛下の言葉を聞いただろう! 陛下に意見を述べるチャンスでもある! リューリュ、ツィクハル、パパスも、知っている範囲、噂でもいいから、大厖魔街異獣について発言するのだ!」


 と、軍曹と呼びたくなるぐらいの気概で話をした。


「ハッ、魔街異獣には色々と種類があると聞きます。そして、暴虐の王ボシアド様、魔翼の花嫁レンシサ、鳴神ハヴォス、恐王ブリトラ様は、使う機会が多いという噂を聞きました」

「はい、私は、闇神リヴォグラフ様、魔界奇人レドアインの大眷属の軍団が遠くに遠征するときに用いていたと聞いたことがあります」

「吸血神ルグナド様と狂神獣センシバル様の大眷属の軍団は、変わった魔街異獣を用いることがあるとも聞きました」

「……魔皇ラプンツィル様、闇遊の姫魔鬼メファーラ様、宵闇の女王レブラ様、魔眼の悪神デサロビア様、淫魔の王女ディペリルなどが魔街異獣を使うと聞きました」


 リューリュ、ツィクハル、パパス、アチがそう発言。


「一度だけ遠くで進む山のような異獣を見たことがあります」


 ベンがそう発言。

 他の皆も、


「私も数度あります」

「俺もあります。魔街異獣は大陸が移動しているような印象でした」

「俺も見たことがある。暴虐の王ボシアド様の死海騎士が連れていた軍隊が魔街異獣を連れていた。神界セウロスの戦神側の戦力を生け捕りにしたと、大凱旋しながら移動していたな。二度目は魔界騎士が先導していた小グループだった」

 

 小グループか。

 大厖魔街異獣ボベルファにも種類があるということか。

 死海騎士の一人を知っていたアドゥムブラリに聞こうと思ったら、魔皇獣咆ケーゼンベルスに乗っていた。


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは大厖魔街異獣ボベルファのことを知らなかったが、皆結構知っている。

 オオクワの副将のディエも知っていた。

 武王龍神だった光魔武龍イゾルデも知っていたが、ゼメタスとアドモスが知らないように、場所や地域によって大きく異なるか。


 それだけ魔界セブドラは広いということか。


「他にも、神々や諸侯に大眷属が持っている巨大な魔界装甲車を見たことがあります」

「へぇ、装甲車か、鋼鉄の戦車とか?」

「はい。騎馬隊の一部で特攻よりも魔法の盾としての運用が主な部隊です」


 そう言えば……。

 玄智の森の鬼魔砦を攻めてきた魔界王子ライランの戦力には攻城兵器があった。

 その攻城兵器は鬼魔人&仙妖魔の軍隊が接収していたから、合流したら、俺たちも攻城兵器が使えるということになる。


 すると、金色の穂先が綺麗な魔槍メゼンを持つベイアが、


「狂王ペルソナの巨大な魔界装甲列車を見たことがあります」

「列車まであるのか……ま、それは追い追いだな。バーソロン、このクリスタルを使う。大厖魔街異獣ボベルファを呼ぶぞ」

「はい!」

「しかし、目的地の変更を知れば、ミトリ・ミトンに怒られてしまうな……」


 俺がそうボソッと発言したのを聞いていたバーソロンは瞳を揺らし、


「へ、陛下は当初の予定を変更して、我らのために大厖魔街異獣ボベルファを寄越そうとしてくださるのか……なんという優しさを持った陛下なのだ……あぁ……」

 片方の目から溢れた涙が頬を伝う。

 そのバーソロンは片膝を地面に突けた。


「「「「陛下――」」」」

「「「ありがとうございます」」」


 護衛部隊の面々が一斉に片膝を床に突く。

 すると、それを見ていた広場の兵士、子供、老人、女性たちも、地面に両膝を突くと、頭を下げ始めた。


「――皆、敬う気持ちはありがたい。が、俺のことを考えているなら、気が重くなるから立ってくれ。アイムフレンドリーが一番だ。それに皆も俺と同じ立場なら同じことをしただろう? それと同じだ――」


 そのまま広場にいる皆に向け、


「皆もだ――立ってくれ。そして、今後はバーソロン、アチたち将校と相談してほしい。優秀な献策があれば種族、立場関係なく採用しようと思う。ということで広場に集まっている皆、解散!」

「「ハッ」」


 返事は一部の兵士だけだったが、構わず身を翻す。

 皆、立ち上がった。

 そのままバーソロンとヘルメとアイコンタクトしつつ、


「相棒、ケーゼンベルス、端のほうに行こう」

「分かった」


 広場の端に移動しながらバーソロンたちに、


「バーソロン、城の修復の是非や内政の判断は皆に任せるとして、戦う以外に得意分野があれば……」

「戦い以外の得意分野……」


 ま、虻蜂あぶはち取らずか……。


「アチを含めた皆のことを高級将校と考えている。だから、高級将校として戦い以外の任務に就いてもらう可能性があると言いたかった。ま、考えておいてくれ」

「「「分かりました!」」」


 第一次産業、アーバンデザインなどは地球の歴史から多少知っている程度。

 天然資源、硬貨などもセラの南マハハイム地方とは異なるだろうからな。

 

 玄智の森の玄智宝珠札が、ここでも使えれば便利なんだが。


 アチは敬礼をしてから身を翻し、他の元護衛部隊たちに、


「――ターチベルとデン、陛下とケーゼンベルス様に神獣様の存在感がありすぎて、皆が帰ろうとしない。強い口調でいいから解散の指示をお願いね。そして、皆さん――」

「「了解――」」


 ターチベルとデンは、斧を持った厳ついデラバイン族だ。

 細身の美人将校アチと一緒に、まだ広場に残っているデラバイン族たちに指示を飛ばしていく。


 その様子をゼメタスとアドモスが全身から魔力を噴出させながら見て、


「無辜の民がこんなにも……」

「バーヴァイ城にいるのは兵士だけかと思っていたが……」


 と発言。

 本契約のクリスタルを使用する前に、バーソロンたちに、


「ゼメタスとアドモスに、ケーゼンベルスに皆、本契約のクリスタルを使用するから、少し待っていてくれ」

「「承知!」」

「――主、俺はケーゼンベルスのモフモフを堪能しとくからなぁ」

「にゃお~」

「閣下~」

「器、まだなのかぁ」

「器様~」

「ロロ様と一緒にモフモフベッドを堪能中です~」

「旦那、先に乗らしてもらってます~」


 皆の間の抜けた声がケーゼンベルスの頭上から響く。

 バーソロンと目が合うと共に少し笑った。

 

「――おう、直ぐ終わると思う」

「はい」


 バーソロンの言葉を耳にしながら本契約のクリスタルに魔力を込めた。

 更に<魔街異獣の担い手>を発動させた。


 刹那、本契約のクリスタルは浮くと淡い光を放つ。

 幻影の肉穂花序にくすいかじょが至る所に発生。

 バーソロンは見えていないようだ。


『ブペペッペッぺ~……』


 大厖魔街異獣ボベルファの思念が響くと頭部が少し揺れた感覚を受けた。更に『ブペペッペッぺ~……』とまたも思念が響き体に衝撃を感じた。

 

 Wi-Fiから位置情報を違法取得して衛星から電磁波攻撃って感じか?

 

 ボベルファの生命システムが俺の精神体を捉えたと言ったほうが妥当かな。


 更に周囲の空間が薄まる。

 噴水場を彷彿とさせる、半透明の〝霊脳魔花ボベルファの場〟の空間と、今俺たちがいる空間が重なった。


 円状の壇の中は浅い水が張り複数の支柱根が生えている。

 砂曼荼羅的な魔法陣と水場は変わらないが、壇の中心にある血色と水色に輝く座布団の真上に、俺は浮いていた。


 これは……センティアの手のような感覚か。


 ミトリ・ミトンは過去、この場所を……。

 大厖魔街異獣ボベルファと意識を共有する場所と語っていた。

 俺は、


『この〝霊脳魔花ボベルファの場〟は、一種の司令室? 使役スキルか魔法で大厖魔街異獣ボベルファのコントロールを行う場所でもある?』


 そう聞いて、ミトリ・ミトンは、


『似たような場所です』

『あの座布団に俺が座れば、儀式が始まる?』


 そんな会話を行った。


 昔のことを思い出した直後、なんとなく分かった――。

 <血脈冥想>を意識し発動しながら――。

 座布団に結跏趺坐けっかふざを実行。

 

 ほぼ同時に『ブペペッペッぺ~……』とまた不思議な思念が響く。

 底知れない……なにか……。

 大厖魔街異獣ボベルファの精神のようなモノを感じた。

 すると、見通し場がある方角から、焦ったような幻影のミトリミトンが霊脳魔花ボベルファの場に現れる。


『あ! え、霊脳魔花ボベルファの場が動き出して、ボベルファが急激に転回を始めたけど、もしかして、シュウヤがアクセスを!?』


 そう思念を飛ばしてきたミトリ・ミトン。

 

 帽子は変化していないが、魔法のローブは着ていなかった。

 ブッティちゃんを周囲に数匹浮かせている。

 薄い下着と上着は少し捲れて、はだけている。灰銀色と灰色と青白い肌が見えていた。

 四本腕だったのか。短杖を二つの腕に持つ。

 二つの腕は少し細長い。その細長い手は壊れた人形の手にも見える。


 下着の上から薄らと小さい乳首に、パンティが見えていた。


『お? ミトリ・ミトンの思念が聞こえたが』

『あ、本当! え、わたしの姿を見ているのですか!?』

『あぁ、ばっちりと……』


 乳首とパンティーとは言わず。

 ミトリ・ミトンは急ぎ二つの細長い腕を隠す。

 ワンピースの上に魔法の羽衣を生み出した。

 この間のローブではないから色々と種類が豊富なようだ。

 

『……今の私の姿を見ました?』

『見たような気がする』

『……忘れてください。あぁ、殿方に見られてしまった……』

『忘れられないかも』

『……忘れてください……』

『忘れる努力はしよう』

『いいから、忘れろ……』

『忘れる、忘れない、パンティ……』

『あぁぁぁぁぁ、急ぎ会いましょうか! そして、シュウヤ、これを飲んでください……』

『なんですか、その松茸の上に分厚いスライムが何重にも盛られた凶悪そうな食べ物は……』

『ふふふふ』


 殺気のようなものを感知した。

 魔王級半神のミトリ・ミトンの本気が見えたような気がした。


『それよりも、大厖魔街異獣ボベルファは俺がいる方角に向かい始めたってことだな』

『あ、本契約のクリスタルを使用しスキルを使ったのならそうなります。シュウヤは、セラの傷場から、魔界セブドラに?』

『傷場での移動ではなく、魔の扉の鏡と魔杖バーソロンで魔界セブドラに乗り込んだ。そして、ゼメタスとアドモスから聞いているが、グルガンヌ地方には、まだ到着していないんだよな』

『はい。直線的に向かえば違うとは思いますが、まだまだ遠い。神々と諸侯の争いに加えて、怒り狂った厖婦闇眼ドミエルや魔傀儡ホークの一団、放浪の魔界騎士らしき者にも追跡を受けたので、遠回りして南下中です。ドミエルは途中で、体が爆発した影響で楽に逃走できましたが……と言いますか、今どこにいるんですか!』


 厖婦闇眼ドミエル……。

 キルアスヒを喰らうようにフクロラウドの魔塔に出現した存在。

 セラの、そのフクロラウドの魔塔では滅したが、魔界セブドラ側では、まだ生きていたか。

 ルシエンヌの<渚ノ神聖剣>が斬ったキルアスヒの心臓は、魔界側の厖婦闇眼ドミエルとの楔を断ち切っただけだったかな。


 ま、爆発したようだから、多少はダメージを与えただろう。

 そのことは言わず、


『……魔界王子テーバロンテの領域だったところだ』

『……そこは……もしかして、魔神殺しの現象が起きている方角ですよね』

『あぁ、先ほど、俺が魔界王子テーバロンテを滅した』

『……』


 暫し、呆然としたミトリ・ミトン。それには構わず、


『デラバイン族、正式には角鬼デラバイン族を助けたから、大厖魔街異獣ボベルファに乗せることも視野に入れようかと思って、呼んでみたんだ……だから急な方向転換を謝りたい』

『……移動に関しては、<魔街異獣の担い手>の一人がシュウヤですから、文句はありません。しかし……魔界王子の称号を持つ神を倒せる存在が……』

『ブペペッペッぺ~……』


 ボベルファの思念が響く。

 ミトリ・ミトンも聞こえているのか数回頷いていた。

 ボベルファの思念も言葉と同じで理解不能だ。しかし、ミトリ・ミトンは違う。


『ボベルファは……選ばれし民は特別、この会話も特別……あ、たしかに……』


 思念でボベルファとの会話について呟くミトリ・ミトン。

 そのミトリ・ミトンに、


『思念の会話はたしかに特別だ。それで、鬼魔人と仙妖魔たちは元気かな』

『はい、ボベルファの街で活動してもらっています』

『なるほど。そのまま皆を頼む。今の俺がいる場所のことをオオクワとディエ、ザンクワにも伝えておいてくれ』

『分かりました』

『今、俺たちはバーヴァイ城とケーゼンベルスの魔樹海を中心に動いているところだ。ま、大厖魔街異獣ボベルファが近付けば直ぐに分かるか』

『遮蔽モードのままだとまず分からないので、元魔界王子テーバロンテの領域に近付いたら遮蔽モードを解きます』


 遮蔽モードとかあったのか。


『了解した。それでは一旦切る』

『はい』


 <血脈冥想>を止めた。

 同時に本契約のクリスタルへ注いでいた魔力を止める。

 視界は一瞬で元通り。


 目の前にいるバーソロンは心配そうに俺を凝視していた。

 顔が近いからキスしたくなる。が、自重。

 瞬きをわざとらしく繰り返した。すると、バーソロンはハッとして、少し体を引かせる。


「――陛下。大厖魔街異獣ボベルファは……」

「さすがに瞬間移動はないから時間がかかるが、<血脈冥想>の効果でボベルファのコントロールルームのような場所と繋がった。そこで、大厖魔街異獣ボベルファのもう一人の担い手でもあるミトリ・ミトンと思念会話ができたんだ。そのミトリ・ミトンに近況を短く伝えた」

「おぉ、<血脈冥想>とは……やはり時空属性の……」


 頷いた。

 リューリュたちもケーゼンベルスの背中に乗ったようだ。

 横幅が大きくなったケーゼンベルスの移動速度は遅くなるが、ま、【ケーゼンベルスの魔樹海】は近いからな。


「閣下、先に――」

「オォォ――」


 魔界沸騎士長のゼメタスとアドモスが、相棒の触手で持ち上げられていく。

 クレーンで荷物を運ばれているような印象でケーゼンベルスの後頭部のほうへ運ばれた。


 その様子を見てからバーソロンに向け、

 

「色々と繋がっている。ということで、ケーゼンベルスに乗るぞ――」


 バーソロンの手を掴んで跳躍――。


「あっ」

 

 そのままバーソロンの腰に手を回し抱えながら――。

 足下に<導想魔手>を生成し、それを蹴って高々と跳躍――。


「陛下……」


 バーソロンの吐息を鎖骨に感じた。

 煩悩が刺激されたが我慢しながらケーゼンベルスの頭部に着地。

 

 バーソロンの背中を支えながらケーゼンベルスの柔らかい毛の上に優しく降ろしてあげた。


 背中のほうでアドゥムブラリと沙たちが騒いでいるが、ほうっておく。

 バーソロンは俺の手をギュッと握りつつ、


「……すみません」

「にゃ~」

「いいってことさ、俺も男だからな」

「ぁ……はぃ」

 

 バーソロンの照れた表情が可愛い。

 俺の手を掴んでいたが、その手で、己の顔を隠していた。

 

「ンン」


 黒猫ロロが喉声を発しながら俺の肩に戻ってきた。

 ほぼ同時にケーゼンベルスが前進を開始、振動はあまりない。

 ケーゼンベルスの長い耳に備わる二つの内の一つの魔皇獣耳輪クリスセントラルが光る。

 【ケーゼンベルスの魔樹海】に向けて、ゆっくりと歩き出した。歩く度に、視界が上下にゆっさゆっさと揺れる。相棒とはまた違う機動だから、面白い。

 同時に、こんな体験ができることに感謝しないとな。

 ――魔皇帝よりもケーゼンベルスに乗っている今のほうが楽しいや。


 ――極大魔石を有した魔樹らしき存在はここからでは分からない。

 【ローグバント山脈】の山々は見えていた。

 さっきはあの山頂付近にいたんだよな……。

 

 さて、ケーゼンベルスに、


「ケーゼンベルス、極大魔石を有した魔樹を破壊した直後に湧くモンスターとは、リベーラの魔猿、緑竜カデル、毒大蛇セケム、魔蝶系統のモンスター、魔熊ロック、ロペル螟蛉蟻、樹毛剣バハ、トレント族とかか?」

「そうだ! が、我がいれば大丈夫である! すべてを引き千切ってくれる!」

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