千三話 <空穿・螺旋壊槍>の獲得とケーゼンベルスの魔樹海

 

 魔煙草を吸っていると、【ケーゼンベルスの魔樹海】の森の中から複数の魔素を感知。

 直ぐバーソロンに、


「なんとなくこうなる予感があった。森には魔皇獣咆ケーゼンベルス以外にもモンスターが多いようだな」

「はい。手前の森はテーバロンテが強引に百足魔族デアンホザーの部隊を送り支配を豪語していた領域、わたしたちもよく派兵させられました。【ケーゼンベルスの魔樹海】では、魔皇獣咆ケーゼンベルスが多くの縄張りを維持。魔界王子テーバロンテの攻撃を跳ね返して名を示しているように、かなり強いです」


 頷きながら黒猫ロロをチラッと見た。

 森の手前で、玄智宝珠札と棒手裏剣で遊んでいた黒猫ロロは遊びを止めている。


「そのケーゼンベルスの見た目は黒豹か黒虎か、神獣のロロディーヌと似ているらしいが」

「はい、巨大な狼、巨大な虎にも見える神格を有した存在がケーゼンベルス。そんな森にはリベーラの魔猿、緑竜カデル、毒大蛇セケム、魔蝶系統のモンスター、魔熊ロック、ロペル螟蛉蟻、樹毛剣バハ、トレント族などが棲息しています。地面は根が張って薄暗く歩きにくいです。少数で【ケーゼンベルスの魔樹海】の奥に向かう時は太い枝を足場に利用し、前方の太い枝に飛び移りながら奥へと移動していました。奥には、西から北東にかけて【ローグバント山脈】などが地続きで存在します」


 頷いた。


 列強魔軍地図にも刻まれていた地域。


 【バーヴァイ平原】、【古バーヴァイ族の集落跡】、【ベルトアン荒涼地帯】、【デアンホザーの地】、【デアンホザーの百足宮殿】、 【テーバロンテの王婆旧宮】、【源左サシィの槍斧ヶ丘】、【百足大迷宮】【ゲーメルの大霧地帯】、【黒魔族の京洛】、【メイジナの大街】、【メイジナ大街道】、【メイジナ大平原】、【メイジナ海】、【シャントルの霧音唖】、【レムラー峡谷】、【レン・サキナガの峰閣砦】、 【蜘蛛魔族ベサンの魔塔】、 【ベサンの大集落】、【サネハダ街道街】、【廃城デラバイン】、【デラバインの廃墟】


 などがバーヴァイ城の周辺地域か。


「〝列強魔軍地図〟があるし、まず迷うことはないが、情報をありがとう」

「は、はい!」


 バーソロンがそう言った瞬間、魔素の反応が俺たち側に寄った。


 ざわざわと【ケーゼンベルスの魔樹海】の樹の葉が揺れまくる。

 と、樹と樹の間から枝や葉を飲み込むように青白い大きい蟻がわらわらと複数出現してきた。


 樹を押し倒す一際大きい蟻も現れる。


「陛下、あれはロペル螟蛉蟻です」


 バーソロンがそう報告。

 どことなく兵隊蟻ソルジャーアント鎧将蟻オフィサーアントと似ている。

 ヴァライダス蟲宮と城塞都市ヘカトレイルとキッシュたちを思い出した。


 その兵隊蟻ソルジャーアントのような蟻モンスターのロペル螟蛉蟻が、俺たちの下に突進してくる。


 突進速度は鎧将蟻オフィサーアントよりも遅い。

 ロペル螟蛉蟻は、なかなかの迫力だ。


 頭部には触角風の角がある。

 クワガタかカブトムシの遺伝子も入ってそうな造形の蟻だ。


 《スノー命体鋼・コア・フルボディ》を意識し発動――。

 魔槍杖バルドークの穂先を青白いロペル螟蛉蟻たちに向けながら、


「――魔界王子テーバロンテが倒れたことで、【ケーゼンベルスの魔樹海】の箍が外れたか」


 と発言。バーソロンは、


「そのようです。【ケーゼンベルスの魔樹海】と【ローグバント山脈】の爆発の連鎖も、魔皇獣咆ケーゼンベルスが暴れている結果でしょう。このロペル螟蛉蟻も、その影響かもしれません」


 そう話をしたバーソロンは、蟻の進軍を見ながら手首から炎の紐を垂らした。

 デラバイン族の兵士たちも魔剣の切っ先を前方に向ける。


 ツアンが、


「ここで蟻モンスターの襲来とは、イモリザだけではないと旦那と皆に力を示せる」

「にゃご」


 ツアンと相棒が少し前に出た。


「閣下、わたしが――」

「「閣下ァァ!」」

「ベイル! 光魔騎士の一人となった私が出る!」

「ヒヒーン」

「皆、待った。ツアンとグラドにも悪いが、あいつらは俺が倒す――」

「「「ハッ」」」

「ンン――」


 ベイルに騎乗した格好良いグラドが前進していたが、直ぐにベイルは足を止めた。

 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの位置を越えて皆の前に出る。


 黒猫ロロは青白い蟻を見ながら、小さい口から炎を少し吐いた。


「相棒も少し下がってくれ、蟻以外にも奥から現れる兆しがある。そして、試すことがある」

「ンン、にゃお~」


 前に出ていた黒猫ロロも後退。

 同時に《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を発動。


 魔槍杖バルドークの先の宙空から《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》が生まれ出ると、直進し、黒猫ロロの真上を通り抜けて、手前にいたロペル螟蛉蟻の頭部を捉えた。


 その頭部をぶち抜いた《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》は宙を劈くように背後にいたロペル螟蛉蟻の頭部と胴体を貫いた。


 更に、その背後の青白いロペル螟蛉蟻の頭部をも貫いた《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》は【ケーゼンベルスの魔樹海】の太い樹の幹と衝突。


 幹は破裂するように爆発。

 幹と衝突した《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》は木屑が混じるダイヤモンドダストとなって四方に散る。


 《スノー命体鋼・コア・フルボディ》の水魔法上昇効果は高い。


 兵隊蟻ソルジャーアントのようなロペル螟蛉蟻数体を一瞬で屠ったが――。


 更に【ケーゼンベルスの魔樹海】の樹を押し倒して青白いロペル螟蛉蟻の群れが現れる。


 青白いロペル螟蛉蟻の群れは森の中にいる何かに追われて逃げている?


 バーソロンが言ったように魔皇獣咆ケーゼンベルスが大暴れ中かもな。


 ――構わず《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を連射。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》が青白いロペル螟蛉蟻の頭部と胴体を貫き、体を転がすように倒しまくる。


 複数のロペル螟蛉蟻の体を蜂の巣に処した。 

 蟻たちを森の中へ押し返すように粉砕を続ける――。


「おぉ、陛下は氷の魔法を<無詠唱>で放てるのですな……」

「旦那は槍使いですが、魔法も巧みですぜ」

「閣下は水神アクレシス様の恩恵を獲得しているのです。わたしも水神アクレシス様の眷属でした」

「なるほど……あ、精霊様……」

「あ、まだ名乗っていませんでしたね。わたしの名は常闇の水精霊ヘルメです。閣下の水で、閣下の左目に棲んでいます。植物に水をあげることが至上の喜び。ロロ様に水をあげることにも嬉しさを感じます。そして、<精霊珠想>などで閣下を守る戦い方が好きです」

「はい。常闇の水精霊のヘルメ様、これからも宜しくお願い致します。横の美しい女性も精霊様なのでしょうか」

「ふふ、わたしは汎用戦闘型アクセルマギナ。マスターの右腕の戦闘型デバイスに住んでいる人工知能です。胸のマスドレットコアのお陰で、体が構成できています。更にマスターの遺産高神経レガシーハイナーブのお陰でもあります。マスターの右目のカレウドスコープとも連携が可能です。更にガードナーマリオルスも戦闘型デバイスにはいるんです」


 背後でヘルメとアクセルマギナの自己紹介が始まっている。

 そして、グラドとツアンの語りも背後で感じながら――。


 【ケーゼンベルスの魔樹海】の手前の森が雪景色となる勢いで、上級:水属性の《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を連射しまくった。


 すると、青白いロペル螟蛉蟻を喰らうように緑色の鱗を持つ竜の群れが現れた。

 緑色の鱗を持つ竜たちは炎を吐く。

 雪化粧した樹の一帯を一瞬で溶かし燃やし始めた。


 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を止めた。


「ガルルゥ」

「ブルルゥ」


 背後から黒猫ロロと獣声とベイルの馬声だ。


「神獣様は本当に黒豹に変化を!」


 グラドが驚きの声を発した。

 相棒が黒猫から黒豹に姿を変えたようだ。

 そして、


「あれは緑竜カデルです、森の外に出るなんて初めて見ました。見ての通り大小様々で口の牙と四肢の爪に尻尾の棘も強力。強いモンスターです。魔皇獣咆ケーゼンベルスよりは弱いとされていますが、とにかく、ケーゼンベルスの魔樹海で何かが起きていることは確実です。そして、陛下、わたしも戦います」

「ありがとうバーソロン、が、俺が対処する。壊槍グラドパルスを試したいんだ」

「あ、はい、分かりました」


 壊槍グラドパルスを試すとして、一旦仕舞うか。

 転移、召喚が可能ならば……。

 念の為、壊槍グラドパルスに魔力を込める。

 ――痛ッ、壊槍グラドパルスの柄から濃密な魔力が流入してきた――。

 魔力の逆流入とか初めてだ――腕が痛い。

 全身にもズキズキとした痛みが走った。

 目に見えない電子ニードルを体に受けて、攻撃を受けている感じだ。

 魔力を得て痛むって新鮮な感覚――が、これも修業だ、気合いが入った――。


 刺激の周波数帯を浴びせ続けた新たな万能細胞で生命体の可能性を引き上げるってか――。


 その魔力の逆流入が止まった瞬間――。


 ピコーン※<破壊神ゲルセルクの心得>※恒久スキル獲得※


 おぉ、<破壊神ゲルセルクの心得>で、大きな活力を得た。

 <鬼神キサラメの抱擁>と似た感じで、<魔闘術>系統が強まった印象もあるが、まだ何かありそうだ。破壊神ゲルセルク様に『ありがとうございます』と祈っておこう。


 祈りのパワーは螺旋のパワー、螺旋のパワーは無限大だ。

 壊槍グラドパルスを使用するに当たり必要になるスキルと分かる。


 迅速に防護服の想像をしながら――。

 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識――。

 右肩の上に半袖の防護服と似合う小形の竜頭ポールショルダーがポンッと出現。初期の肩頭装甲よりも洗練されたデザインでかなり渋い。


 二の腕を意識し光輪防具アーバーを出現させる。

 渋い竜頭ポールショルダーの口から複数の鎖が垂れて、その二の腕の光輪防具アーバーと繋がった。


「主――」

「おう」


 <ザイムの闇炎>も発動。

 肩の竜頭装甲の口から垂れている複数の鎖と二の腕の光輪防具アーバーが闇炎で縁取られた。


 その新装備的な肩の竜頭装甲ハルホンクに壊槍グラドパルスを当て、


「ハルホンク、壊槍グラドパルスを少しの間、格納してもらう」

「ングゥゥィィ」


 ハルホンクの防護服の中に壊槍グラドパルスを格納してもらった直後――。

 緑色のドラゴン目掛けて前傾姿勢で走る。


 <血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>――。

 <闘気玄装>と<黒呪強瞑>と<水月血闘法>を発動――。

 <破壊神ゲルセルクの心得>も意識、発動――。


 走りながら魔槍杖バルドークに魔力を込めた、ゼロコンマ数秒後――森から出た緑竜カデルが槍圏内になった。


 緑竜カデルの尻尾と右の前脚が動いたが、反応速度は遅い。

 そのまま魔槍杖バルドークで<闇穿・魔壊槍>を発動――。


 刹那、心臓がドクンと跳ねた。


 <血魔力>が体から吹き荒れると同時に<破壊神ゲルセルクの心得>が要因の半透明な魔力が<血魔力>を飲み込むように体から溢れて、魔槍杖バルドークごと俺は不可解な加速感を得た。


 そのまま半透明な魔力と闇の魔力を纏う魔槍杖バルドークの穂先が緑竜カデルの鱗を突き破り肉体に突き刺さった。


 次の瞬間――。


 魔槍杖バルドークの真横の宙空の空間が歪む。

 その歪んだ空間から<ザイムの闇炎>を思わせる猛炎と神威の半透明な魔力が噴出し、ドリルの形状の先端が更に細まった壊槍グラドパルスが出現――。


 ――よっしゃ。


 圧縮された空気が外に放出されたような音が周囲に拡がった。 

 耳朶に聴骨など三半規管や後頭部が揺れるような感覚を受けた。


 壊槍グラドパルス酔いってか――。

 ピコーン※<空穿・螺旋壊槍>※スキル獲得※


 おぉぉ、マジか。

 壊槍グラドパルスが進化し、更にスキルも獲得!


 その壊槍グラドパルスの穂先のドリルが<闇穿>の魔槍杖バルドークを瞬時に越えて緑竜カデルの肉体に突き刺さる。


 緑竜カデルの巨体は内側から強引に折り畳まれるように壊槍グラドパルスに吸引されていく。


 怒号喇叭を鳴らす壊槍グラドパルスは――。

 緑竜カデルの血肉を吸い寄せながら奥に出現していた緑竜カデルの頭部を貫き直進――螺旋回転が止まらない壊槍グラドパルスはドリルを活かすように、緑竜カデルの血肉と骨と臓腑を攪拌し蒸発させながら突き進む。


 奥の青白い蟻の群れも弾き散らす。

 新たな緑竜カデルの胴体をぶち抜きながら【ケーゼンベルスの魔樹海】の樹を幾つも突き抜け――他の緑竜カデルたちごと森の周囲の空間を抉り続けながら直進――。


 濛々とした土煙をも吸い寄せている。

 えげつない威力。


 その壊槍グラドパルスは、前方に出現していたであろう虚空に消える刹那、閃光を発して俺と繋がった。

 と理解した瞬間――土煙ごと壊槍グラドパルスは消えていた。


 壊槍グラドパルスが通り抜けた地面の抉られ方と一直線の痕跡が凄まじい。


 下向きの巨大なアイスディッシャーが【ケーゼンベルスの魔樹海】の森林をくり抜き続けながら奥に直進したような印象だ。


 直ぐに魔槍杖バルドークを消す。

 そして、肩の竜頭装甲ハルホンクを意識――。


「ハルホンク、壊槍グラドパルスは戻ってきているよな?」

「ングゥゥィィ――」


 右腕を斜め下に動かしつつ壊槍グラドパルスを右手に出現させた――よっしゃ。


 ドリル状の穂先の先端は回転していた。

 ドリルから放電電流のような稲妻が外に迸っていた。

 そのドリルもランスらしく、少し幅が拡がったか?


 螺鈿細工に今までにない模様が出現していた。

 山の風景のような飾りも追加されている。


 そんな真・壊槍グラドパルスは焼け焦げた血肉の臭いと紫色と闇色の魔力を噴出させている。柄も振動していた。


 いつも通り召喚スタイルで壊槍グラドパルスを使えるのは大きい。


 <闇穿・魔壊槍>と<空穿・螺旋壊槍>の二パターンの召喚パターンがあるってことかな。


 <闇穿・魔壊槍>は闇属性、<空穿・螺旋壊槍>は時空属性かな。


 壊槍グラドパルスを直に使うとどんな感じになるんだろう。


「おぉ~閣下、壊槍グラドパルスは前方に消えたように見えましたが、また閣下、ハルホンクの中に転移して戻った?」

「そうなる」

「「おぉ~」」

「壊槍グラドパルスは、いつものように<闇穿・魔壊槍>での運用が可能なようですね。あ、壊槍グラドパルスの穂先が変化を?」

「あぁ、壊槍グラドパルスに魔力を込めた際に<破壊神ゲルセルクの心得>というスキルを獲得した。そして、<空穿・螺旋壊槍>の必殺技も獲得した。壊槍グラドパルスの変化と、それに対応するためだと思うが、<破壊神ゲルセルクの心得>を覚えた時は右腕と体が凄く痛かった……」

「「おぉ」」

「まぁ!」


 と、背後からヘルメに抱きつかれた。

 優しいヘルメに『ありがとう』と想いを返すようにヘルメの片手を掴んで「あっ」と素早くヘルメを抱いた。


「ありがとな。だいぶ癒やされた」

「ふふ、はい――」


 と、首筋にキスされた。擽ったい。


「ひゃう」


 レベッカ的な反応を起こしてからヘルメと離れた。

 少し恥ずかしさを得ながら、皆を見る。

 皆は別段気にしていないようだが、バーソロンは口を広げて、双眸を少し震わせている。


 そんなバーソロンを含めた皆に、


「壊槍グラドパルスが進化を遂げた。<空穿・螺旋壊槍>は<闇穿・魔壊槍>を使い続けた結果の進化だと思う。俺の魔力と、狭間ヴェイルの穴の魔力に、魔界王子テーバロンテの血肉を吸い取っていたことも進化の理由かもしれない」

「「はい」」

「たぶん、そうだと思います」

「陛下は魔槍や聖槍などを複数持ち、剣術も心得ているように見えましたが」

「あぁ、<血想槍>や<血想剣>も使える。槍を主軸にする戦い方は変わらないが、剣や格闘なども常に学びたい。武芸十八般を向上させて、強くなりたいんだ」

「ふふ、はい」


 頬を朱色に染めているバーソロンは笑顔を見せた。

 同時に顔の右側に多い炎の模様が煌めく。


 すると、周囲、【ケーゼンベルスの魔樹海】から魔素の反応を得た。壊槍グラドパルスを魔素の反応が強い場所に向ける。


「このまま少し、【ケーゼンベルスの魔樹海】の中を探索しようか。今の壊槍グラドパルスの威力を見てもモンスターたちには関係がないようだしな。バーヴァイ城側に押し寄せてくるのも困る。今叩けるだけ叩いておこう。が、頃合いを見て、バーヴァイ城に撤退する予定だ。魔の扉の鏡を回収しときたい」

「「「「はい!」」」」

「行きましょう!」

「「おう」」

「あ、右と左からリベーラの魔猿の大群! 皆様、わたしたちは右側を担当します――」

「くっ、皆の動きが早い。が、左を担当するぞ、ゼメタス」

「承知! 閣下は見ていてくだされ、行くぞ、アドモス!」


 壊槍グラドパルスで切り開いた右側から大きな猿のモンスターたちが次々に俺たちに向かってきた。

 バーソロンとデラバイン族の兵士たちが、その右側に向かう。


 大きな猿は、オランウータンのような見た目だ。


 左側の先頭は常闇の水精霊ヘルメとベイルに乗った光魔騎士グラド、ツアンにアクセルマギナ。

 壊槍グラドパルスが削った部分は、荒れた大地で足場が悪いが、グラドを乗せたベイルは気にしていない。


 やや遅れて魔界沸騎士長ゼメタス&アドモスも続いた。

 俺の傍で相棒は待機。

 皆の力で、時間にして五分もかからず、リベーラの魔猿を倒しきる。リベーラの魔猿は、猩々をも思わせた。

 大きな猿で太い両腕と指を棍のように変えながら殴り掛かる凶暴さを持っていたが、皆の敵ではなかった。


 続けて現れた樹毛剣バハという名のモンスターも皆で倒しまくる。

 樹毛剣バハの見た目は、樹枝のような硬そうな毛が楕円形に集結している塊。

 楕円形の樹の体の周りには剣のような武器が針鼠の如く無数に付いている見た目だった。

 

 そんな樹毛剣バハを、グラドは片手に召喚した魔槍の穂先で複数の剣ごと貫く。突き機動の魔槍を持つ腕を引きながら槌を右手に出現させると、その槌を豪快に振るう。

 グラドはその二つが主力武器か。

 <豪閃>のような機動の槌と衝突した樹毛剣バハは、左へと吹き飛ぶ。

「あれはお任せを!」

 と言いながらバーソロンは吹き飛んでいる樹毛剣バハに向け跳躍。

 宙空から細い両手を振るい、両手首から炎の紐を前方に伸ばした。

 炎の紐は知恵の輪を描くように無数に重なったように見えた機動で樹毛剣バハの楕円形の体を通り抜けると、ジュアッと蒸発音を響かせた一瞬で樹毛剣バハの体が細断された。

 

「新参に負けていられぬ!」

「おう! 新手の魔猿は我が!!」

 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは、右側から現れたリベーラの魔猿に突貫――。

 豪快な袈裟懸けを繰り出し、リベーラの魔猿の腕から胴体までを骨剣が両断していた。

 そのまま【ケーゼンベルスの魔樹海】を前進し続けていると、前方から――。

 腐臭を纏わせた毒大蛇セケムが現れる。毒液を大きな牙から垂らしている大蛇か。


「旦那、お任せを――」

 素早く斜め上へと跳躍したツアンが枝に光糸を引っ掛けながらぶら下がる。

 と、その逆さま状態から光るククリ刃を振るう――その光るククリ刃から<血甲光斬糸>の血色に光る糸が前方にゆらりと伸びた。その<血甲光斬糸>の血色に光る糸が毒大蛇セケムの頭部を通り抜けた刹那、その毒大蛇セケムの頭部が真っ二つ。

 

「見事だ、ツアン――」

「はい!」 


 毒を吐く大蛇も皆で倒しまくった。

 グラドを乗せたベイルはさっきとは違う足場の悪さでも気にしていない。

【ケーゼンベルスの魔樹海】の中の戦いも、根っこが邪魔で、馬魔獣のベイル的にどうなんだ。と思っていたが、大丈夫だった。


 ベイルは四肢の大きな蹄で根っこを砕くような踏み込みから斜め上に高々と跳ぶ。

 宙空で加速したグラドを乗せたベイルは、樹の幹を蹴って三角跳び。


 相棒のような機動力――。

 宙空で体から朱色の魔力を放出させたグラドを乗せたベイルは、毒大蛇セケムへと近付く。グラドは迅速に魔槍を突き出し「――<愚王鬼・刃風突>」を繰り出した。

 魔槍の穂先が毒大蛇セケムの頭部を穿ち倒した。


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