九百八十五話 【テーバロンテの償い】のバルミュグとの戦い

 鉄の曲大剣を消す。

 第三の手に握る聖槍アロステも消す。

 そして、イモリザを意識し右肘の肉肢に戻しつつ、左手に神槍ガンジスを召喚。

 バルミュグたちと戦う<神剣・三叉法具サラテン>たちに加勢しようと近付いた。


 が、バルミュグが新しく召喚した骨の百足が数匹飛来してきた。飛んでくる百足の頭部から先端が細い骨の刃が出て、骨の多脚も蠢いて、それらが骨の刃と化した。


 あんな骨の百足の飛び道具を持っていたのか――。

 動きを止めて<双豪閃>――。

 飛来してきた骨の百足を神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの矛でぶっ壊すように破壊した。


 バルミュグは後退。


 すると、大きな蜘蛛と戦っていた貂が、尻尾の幾つかを煌めかせつつ、右手に持つ神刀と着ている魔法の衣から緑色の霧の波動を放つ。


 大きな蜘蛛は複眼をギョロリと動かすと、


「フシャァァ」


 口から銀色の糸を吐き続けて、周囲に銀色の蜘蛛の巣を幾つか造り上げる。


 大きな蜘蛛と蜘蛛の巣は魔線で繋がっていた。


 その銀色の蜘蛛の巣は、各個色違いに光りながら、貂が神刀と衣服から繰り出した緑色の霧か、緑の衝撃波か、緑の波動のようなたとえるのが難しい不思議な遠距離攻撃と衝突した。


 緑色の不思議な遠距離攻撃と蜘蛛の巣は、これまたたとえるのが難しい不思議な光芒を衝突空間に生み出すと、相殺され、共に消えた。


 大きな蜘蛛は複眼を煌めかせ、


「フシャァァ」


 とまたも銀色の糸を吐く。複眼が意外に可愛いかもしれない大きな蜘蛛は、周囲に銀色の蜘蛛の巣を作り防御を優先。


 貂は、再び神刀を振るう。

 その神刀から緑色の霧、緑色の波動を放つ。

 衣服からは出していない。緑色の霧の波動は、銀色の蜘蛛の巣は衝突し、またも銀色の蜘蛛の巣と共に消えて相殺。


 貂は神刀を仕舞うと、無数にある尻尾を靡かせるように後退しながら羅の近くに向かう。


 すると、


「槍使いをバルミュグ様に近づけるな!」

「おう! 【テーバロンテの償い】のために!」

「――サイドンたちを倒した槍使いを潰す!」

「あぁ、【テーバロンテの償い】のために!」

「「【テーバロンテの償い】のために!」」


 漆黒色のローブを着た者たちが寄ってくる。


 距離があるから先に――抜き身の魔剣を持つ魔剣師たちに向け――<仙玄樹・紅霞月>を繰り出す。

 同時に右手の武器を白蛇竜小神ゲン様の短槍に変えた。

 <仙玄樹・紅霞月>の宙を直進した三日月状の魔刃が、漆黒色のローブを着た魔剣師たちと衝突し、数人の魔剣師の体を切断し、体を突き抜けて右側の壁と衝突。一方で、二人の魔剣師は両手持ちの魔剣で三日月状の魔刃を切断し、前進してくる。


 その<仙玄樹・紅霞月>を防いだ二人の魔剣師に向け――。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》と<鎖>を放つ。

 続けて足下に<血魔力>を集結させつつ前傾姿勢で二人の魔剣師に向け前進。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>を強めた。

 左の魔剣師は魔剣で《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を防いでいる。

 その魔剣師に左足の踏み込みから白蛇竜小神ゲン様の短槍で<白蛇穿>を繰り出した。

 白蛇竜の幻影魔力が白蛇竜小神ゲンの短槍から出現し、杭刃の穂先を越えて魔剣師が持つ魔剣と衝突、閃光を発した。


「眩し――」


 魔剣師は慌てて魔剣を上げるが、白蛇竜小神ゲン様の短槍の穂先は、その魔剣と交差するように通り抜けて魔剣師の腹に突き刺さり背まで貫通、魔剣師の腹を穿った。


「ぐぇァ」


 腹の風穴を晒しつつ吹き飛ぶ魔剣師は見ない。

 密かに俺ににじり寄っていたもう一人の魔剣師の魔剣を見る――。

 魔剣師は袈裟斬りを繰り出してくる。

 その魔剣の刃に向け――左手の神槍ガンジスの穂先を斜め上に運び、双月の矛を魔剣の下部に衝突させた。

 同時に右手が握る白蛇竜小神ゲン様の短槍を右手から消す。

 神槍ガンジスの穂先と衝突した袈裟斬りの剣刃は斜め上に弾かれ――キィィィンッと甲高い硬質な音が響く。


「チッ」


 脇を晒す格好となった魔剣師は舌打ちしながら、魔剣を握る腕を正眼の位置へ戻すように魔剣を振り下げてくるが、相手の動きに乗らず――神槍ガンジスの角度を横にズラす。


 蒼い槍纓は使わず――。

 神槍ガンジスで再び魔剣師を突くフェイク。

 刹那、右手に召喚し直した白蛇竜小神ゲン様の短槍を――。

 魔剣師の腹目掛けて突き出す<白蛇穿>を繰り出した。


「――ぐをァッ」


 魔剣師の腹を右腕で貫いたが如くの<白蛇穿>の杭刃が、魔剣師の腹を貫いた。同時に神槍ガンジスに魔力を送る。

 槍纓は瞬く間に刃と化した。

 その槍纓の蒼い刃で魔剣師の上半身を斬り刻む。


 魔剣師は何も言えず――。

 幾重にも分断された肺の断面を見せながら背後に倒れた。


 両手の武器を消しながらバルミュグたちに寄りつつ、そのバルミュグと戦う沙を見た。


 バルミュグは、柳の葉が風で揺れるような体の動きで沙の斬撃を避ける。

 頭上を回っていた魔杖は背中に回していた。


 と、沙に向け鉄扇を振るう。


 鉄扇から伸びた骨刃が沙の首に向かった。

 その鉄扇の斬撃を、沙は神剣を僅かに上げ上に弾く。

 と、速やかに神剣を持つ細い腕を反対方向に振るい、一閃を繰り出す。


 両手を拡げたバルミュグは仰け反って、沙の一閃を避けた。

 身軽だ。漆黒の鎧は重騎士風だが、軽業師でもあるような仰け反り方。そのバルミュグは、体と足下から強い魔力と小さい虫を放出しながら背後へと何かに引っ張られるように仰け反った姿勢で後退していく。


 虫は余計だが、非常にしなやかだ。


 飛行術とは違う虫魔法? 

 飛行術系統のスキルだろうか……。


 そして、鉄扇の扱いが華麗だ。レンショウは魔略麗流。

 バルミュグが扱う流派はなんていうんだろう。


 沙は後退したバルミュグを追う。

 一方、羅と貂は【魔の扉】の槍使いと戦う。


 羅の弦楽器の音波のような攻撃を交ぜた神剣による斬撃に押された槍使いは後退。


 二人は槍使いではなく、沙と同調するようにバルミュグのほうに向かう。バルミュグは沙・羅・貂の動きを見て、鉄扇を閉じながら微笑む。


 待ちの姿勢となった。


 沙は浮くように真上から斜め後方に後退すると、羅と貂が揃いの動きで、


「「<水風・白鶴剣>――」」


 とスキル名を叫ぶ。

 羅と貂は、バルミュグに向け、片手が握る神剣を突き出しつつ前進した。


 貂は右手に羅は左手に神剣を持つ。

 貂と羅は反対の腕で鶴の頭部を模るような構えを取っていた。

 

 かなり渋い剣法だ。


 沙が、貂と羅の機動を察知しているように宙空で反転し、神剣を持つ片手をバルミュグに向けたまま直進していく。バルミュグは羅と貂の神剣を、閉じた鉄扇と、頭上に戻した魔杖でスムーズに弾くと、後退してから横へ移動し、開いた鉄扇から骨刃を沙に飛ばした。


 沙は飛翔速度を落とし骨刃を斬る。


 バルミュグは後退。


 羅と貂は、バルミュグを追わず、神剣の刃に人差し指と中指を揃えて、その二本の指を当てながら、二本の指を切っ先に動かしていく。


 二本の指から神剣に魔力が伝わったのか、剣身はキィィンと音を立てながら仄かに蒼色に輝いた。


 羅と貂は視線を合わせると、その仄かに蒼色が灯る神剣の剣身を重ねた。


 刹那、その二つの神剣から「キュィン」と音が響く。更に蒼い波紋となってバルミュグに向かった。


 バルミュグは蒼い音波の攻撃を凝視――。


 体から魔力を放出させると、魔杖を回転させながら前方に動かした。 


 その回転する魔杖からエイリアンの胎児を思わせる虫を幾つも放射状に放出させる。


 エイリアンの胎児を思わせる虫は、羅と貂の音波の連携攻撃を吸収して爆発。


 相殺か。

 バルミュグはまたも後退。


 代わりに大きい蜘蛛が前進。


「フシャァァ」


 と口から糸を沙・羅・貂に向けて吐いた。

 三人は神剣の切っ先をバルミュグに向けつつも大きい蜘蛛が放った糸に反応し、飛翔しながら後退を行う。


 すると、揃いの動きで上方へ飛翔する。

 <神剣・三叉法具サラテン>たちは、俺に大きな蜘蛛の機動と癖を教えようとしているんだろう。


 その大きな蜘蛛が口から糸を放つ瞬間の口と、回りの器官の動きと、魔力の動きを読む。

 触れたら精神を削る糸の軌道も読む。

 大きな蜘蛛の腹と多脚の動きも把握していく。


 トン、トン、タタタタン、タッ、タッ、トントントン、タタタタッ――と、脚の動きは多彩で跳躍力も高そうだ。

 が、節々の筋肉の動きは読める。


 大きな蜘蛛の動きを分析していると、飛翔している沙と羅は、貂と会話したようだ。


 沙と羅は半透明の戎衣を纏い始めた。


 半透明だが、夜空を彩るような輝きを帯びながらヒラヒラと舞う。


 その沙と羅が纏う半透明の戎衣は、貂と似た衣だが、微妙に貂と異なるようだ。

 仙鼬籬装束と呼べるかな。


 可憐な三人の姿は、まさに仙女で、『る者くこと無し』だろう。


 魅了されていると、背後にクレインの<血魔力>を察知。続いて、元【髪結い床・幽銀門】の面々の魔力も正門辺りから察知した。半身の姿勢になりつつ振り返り、


「ウビナン、ジョー、アビン、ヒムタア、ここが【魔の扉】の魔塔の中! ユイさんに続け! 皆、漆黒のローブを着た者を倒すぞ――」

「「おう」」


 気合いの入った声だ。

 パムカレが元【髪結い床・幽銀門】の面々に指示を飛ばすと、手元から棒手裏剣を<投擲>し、一度に二人の魔剣師の頭部を棒手裏剣でヘッドショット。


 パムカレは渋いな。

 そして、【白鯨の血長耳】の兵士たちと行動を共にしているようだ。


 同時に背後から俺に近付いたクレインが、


「盟主のシュウヤ、屋上で手強い魔人の二人組と、その部隊の大半を片付けたさ」

「おう。さすがだが、相手は強かったようだな」


 チラッとクレインを見る。

 クレインは笑顔を見せつつ頷き、


「魔人の二人組。連携といい、バッタと牛の舌のような虫で体を強化していたのか、かなり強かった。傷も受けたさ。ま、盟主ほどではないが……同時に【テーバロンテの償い】もかなりの人材がここにはいると分かる。地下にはお宝もあるかもだ」


 そう言ってから、バルミュグたちを見て、


「それより、あの頭上に魔杖を旋回させながら沙たちと戦っている強者がバルミュグさね」

「おう、分かってる。虫といい動きの質が高い」

「その通り、あいつは強い」


 戦ったことがある口振り。

 ま、当然か。傭兵商会の【魔塔アッセルバインド】で活躍したクレイン。

 下界の仕事はリズと共に色々と経験済みだろう。


「漆黒の鎧、今は虫の骨と融合した鎧を着たバルミュグとやりあったか」

「あぁ、装着している武具は異なるが……」


 装備類の進化はバルミュグが成長した証しでもあるかな。


「……クレインと戦って生きているなら、バルミュグは相当な強さを持つと分かる」


 クレインは頷き、バルミュグを見ながら、


「……沙たちの攻撃を往なしているように、あの体格に似合わない軽業師のような動きと、様々な虫を生み出して囮に使用し、相手の意表を鉄扇で突く。更に、虫を使った相手を嵌め殺す大技は注意さ。非常に厄介な存在さね。まさに毒沼の親分と呼べる――」


 クレインは語尾のタイミングで前に出た。

 銀火鳥覇刺を上に振るいながら足を止め、矢を切断。

 俺も魔槍杖バルドークを右手に召喚。

 矢を放った射手は右側にいる。

 クレインは左手を上げた。

 『あいつはわたしが』という意味だろう。そして、鋭い視線を射手に向けた。


 射手は慌てて振り返り、背を見せるが、遅い。


 クレインは射手を追った。


「<龍騎・突>――」


 体ごと、右手と左手が持つトンファーの銀火鳥覇刺と金火鳥天刺の切っ先を突き出し突進し、射手の背を銀火鳥覇刺と金火鳥天刺が貫いた。

 射手は爆発するように散る。

 強烈な突貫スキルを使用したクレインは、左右のトンファーをくるっと回しながらバックステップ。

 俺に再び近付き、もう一度バルミュグたちと周囲の状況を把握して、


「背後は精霊様とユイにレベッカもいるから大丈夫そうだが……【魔の扉】の中で内輪揉めでも起きていたのかい? 寝返りとか」

「バルミュグは戦闘奴隷と言っていたから、寝返りではないだろうな。中央の魔神具に戦闘奴隷たちの魂を集めるような生贄の儀式でも行ってたっぽい。で、俺がここに<紅蓮嵐穿>で突入した時に、その一部をぶっ壊したようだ」

「……痛快痛快。その場を見たかったねぇ。しかし、儀式か……下界は狂った邪教のたまり場だねぇ……やはり滅するしかない……」


 クレインの双眸が一気に冷たい眼差しになる。

 クレインは、長期間、【テーバロンテの償い】などと争い続けているからな……。

 金火鳥天刺に<血魔力>が集結すると、クレインは気合いを入れるように銀火鳥覇刺を振るい、<血魔力>を込めた金火鳥天刺をバルミュグたちに向ける。


 俺も気合いが入った。


「……あぁ、そうだな。バルミュグを討伐しよう」

「承知! いい面だ。さて、わたしは右回りから楽器を持つ部隊を掃除しつつ裏からバルミュグたちを突くとしよう」

「おう。俺は正面から乗り込む」


 クレインはもう一度、周囲と歩廊を見上げつつ頷き、


「……挟撃ができたらいいが、中央の奥の大きな魔塔を守る【魔の扉】の部隊は多い。そして、大きな魔塔の上も気になるが、地下へ通じる道もあるようだしねぇ――」


 と喋っていたクレインと俺に向け短剣が飛来。魔槍杖バルドークを下げて、短剣を柄で弾いた。

 クレインも銀火鳥覇刺を振るい短剣を叩き落とした。

 クレインの背中から<血魔力>が放出されている。


 湯気のように揺らめく<血魔力>は少し輝いている。


「ま、臨機応変に戦おう」

「了解――」


 クレインは広場から離れた。

 右にいる【魔の扉】の漆黒のローブを着た集団に突進。


「【テーバロンテの償い】!! 昔から、しつこいほど追跡上手で、逃げずに立ち向かってくるのは変わらないねぇ! ま、その狂った執念はリスペクトしようか――」


 そう叫ぶと、他の【魔の扉】の連中がクレインに釣られて追う。

 その数は十人を超えた。

 さすがに多い――<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を五発放つ。


 そのクレインを追った連中の背中を<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が貫いて倒した。突き抜けた<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は直進し、壁際にいた漆黒色のローブを着た者たちの腹を貫いて壁に突き刺さって止まった。


「盟主、ありがとうさね――帰ったら――」


 と、クレインの踵落としからの前転打ち下ろしが、漆黒色のローブを着た者の頭部に『天誅』と言葉が響いてきそうな勢いで決まったところで、クレインの言葉は騒音で聞こえなくなった。


 さて、バルミュグを見る。

 まだまだ奥の手はありそうだ。


 バルミュグは、足下に骨粉が素材の魔法陣を生成した。

 刹那、中央に設置されていた魔神具から凶悪な表情を持った魔人の幻影が浮かぶ。


 と、瞬く間に骨の魔法陣から魔人のような者が現れた。

 虫と骨が融合した甲冑を被った侍的な魔人か。いや、双眸が異質などす黒い渦で不気味すぎるから魔人ではなくモンスターかな。


 どちらにせよ、強い存在で、バルミュグの守り用だろう。


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを呼ぶか。

 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを触り魔力を送りつつ同時に右手の戦闘型デバイスを見る。


「――アクセルマギナも出ろ。あの侍モンスターの牽制と、細かな虫の掃除を頼む」


 風防の上にあるアクセルマギナの高精細な立体映像が敬礼しながら消えた瞬間、戦闘型デバイスから銀色の魔力が噴出。

 その銀色の魔力は一瞬で汎用戦闘型アクセルマギナになった。

 そのアクセルマギナはブルパップ方式のP-90と似たアサルトライフルのような魔銃を構えている。


 半身の肋骨と背骨を保護している外骨格のようなプロテクターは渋い。


「マスター、了解です――」


 アクセルマギナの魔銃が火を噴く。

 炎の線にも見えるエネルギーの弾丸が、中くらいの百足とマダニを潰すように貫いた。次々に虫がバルミュグの回りに生まれるが、エネルギーの弾丸が潰していく。

 バルミュグと侍モンスターにも、魔銃から放たれたエネルギーの弾丸が衝突していた。


 侍モンスターの甲冑の一部が弾け飛ぶ。

 バルミュグの漆黒の鎧からも閃光がパパッと発生すると、バルミュグは半身の姿勢を繰り返す。が、同時に漆黒の肩防具が弾け飛ぶ。


 バルミュグは、いきなりの遠距離攻撃に面食らったようだ。


「――なんだ!? 生きた魔導人形ウォーガノフの攻撃だと!?」

「――失礼ですね、わたしは選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスマスターの専属人工知能アクセルマギナです。そして、初期型戦闘型デバイスの開発チームの主任フーク・カレウド・アイランド・アクセルマギナ博士が主にわたしを造ったと言えましょう――」


 そうバルミュグに説明していた。

 バルミュグは「分からないが……異質な魔機械兵士か……」と言いながら魔弾を魔杖と鉄扇で弾き続けた。


 しかし、アクセルマギナの魔銃を撃つ度に揺れるお尻に魅入ってしまう。


 見事だ。


 人の指のような金属のアーマーが腰とお尻と太股の外側広筋を悩ましく覆い、間に見えている太股とお尻の膨らみが、魔銃を撃った反動で揺れに揺れているがな!


「「閣下ァァ」」


 と、魔界から出戻りとなる魔界沸騎士長ゼメタス&アドモスの声で現実に戻された。


「よう、インターバルのほうは大丈夫だったようだな。そして、ここは戦場、魔杖を回している存在がバルミュグという親玉で、近くにいる槍使いも【魔の扉】の幹部だ。背後には皆がいる、漆黒色のローブを着た者が敵だ」

「承知――」

「<神剣・三叉法具サラテン>の沙殿たちが見事な戦いを見せてくれていますな」

「おう。ま、フォローでも盾代わりでもいいから、漆黒色のローブを着た者を倒すぞ」

「「ハッ」」

「アドモス、先陣はもらう――」


 魔界沸騎士長ゼメタスが先に駆けた。


「抜け駆けは許さん――」


 アドモスもゼメタスの後に続いた。

 貂と羅が宙空で位置を交代するように戦っている槍使いの背後に向かう。


 さて、左側から沙に向けて糸を吐いている大きな蜘蛛を優先して倒すか……糸を喰らったら精神を削られることは確実。右手の魔槍杖バルドークを消去。

 そして、


「――沙・羅・貂、巨大な蜘蛛は俺がやる、バルミュグと槍使いは任せた――ゼメタスとアドモスにアクセルマギナを有効活用しろ」

「承知――」

「「はい」」


 前傾姿勢で前進しつつ――。

 <血液加速ブラッディアクセル>と<闘気玄装>と<龍神・魔力纏>と<黒呪強瞑>の強弱を変化させて、減速しては、加速を強める。


 大きな蜘蛛は、俺の動きに反応。


「フシャァァ」


 俺に向け、口から糸を放つ。

 横に移動して、その糸を避け前進。


 ――<水神の呼び声>を実行。

 ――<水の神使>を意識し実行。

 <生活魔法>と《水流操作ウォーターコントロール》を用いて水を体に纏い、水を撒く。

 <仙魔・暈繝うんげん飛動ひどう>も実行しながら横移動。


 水神アクレシス様の分身が周囲に出現。


「フシャァァ――」


 そのまま地面を滑るように<仙魔・桂馬歩法>を使い――。

 大きな蜘蛛が口から放つ糸の攻撃を避けていくが、俺の動きに合わせ、糸を正確に放ってくる――大きな蜘蛛の動きは速い。

 が――トン、トン、タタタタン、タッ、タッ、トントントン、タタタタッ――と、事前に見た通りの動きで分かりやすい。


 <霊纏・氷皇装>を意識し実行。


 ※霊纏・氷皇装※

 ※霊纏技術系統:上位<召喚闘法>※

 ※霊纏技術系統:上位<闘気霊装>※

 ※<魔力纏>技術系統:極位※

 ※氷皇アモダルガの魂と融合した使い手のみが扱える。<召喚闘法>が必須※


 体から蒼い魔力が出現した。

 更に<水神の呼び声>の水神アクレシス様の濃密な魔力を有した幻影が俺の体内に集約してきた。

 体が痺れる。

 前と同様に、氷皇アモダルガの凶暴な獣の意識を強烈に脳、体内、心で感じた。


「――ゴラァァ!」

「ングゥゥィィ!!」


 ハルホンクと共に咆哮しながら――。


 そのまま前方の左右へ転移するように移動を続けて、変則軌道を取る。

 移動方向を変えたところで直角軌道を取る。


「フシャァァ」


 と吐かれた蜘蛛の糸を掻い潜って大きな蜘蛛に近付いた。


 大きな蜘蛛は、近付いた俺の動きを把握していたのか、複眼近くに備わる粉瘤を爆発させると、そこから杭刃を伸ばしてきた。


 ――杭刃のカウンター攻撃か。

 これは初見――。

 迅速に右手に魔槍杖バルドークを召喚しながら横移動を行い、紙一重で杭刃を避けようとするが、魔槍杖バルドークの柄と杭刃が掠る。火花が散ったが、構わず――。


 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。

 そして、重心を下げて槍突の構えを取ると同時に<氷皇アモダルガ使役>を意識し使った。


 白熊の氷皇アモダルガが俺の体から飛び出る。

 その姿は十メートル強――。


「「「「おぉ~」」」」

「「巨大白熊ァァァ!」」

「ひゃぁ」

「――うはぁ、あれが、びっくりしたじゃない! あ、いっけぇぇ!」


 後方からのレベッカの声が強烈。

 素っ頓狂な声と応援を聞いて、思わず笑いつつ活力を得た。


 大きい氷皇アモダルガは、


「グォァァ――」


 大きい氷皇アモダルガは咆哮。

 体がブレながら前進した氷皇アモダルガは大きな蜘蛛に噛み付いた。

 大きな蜘蛛の複眼を含めた上半分を喰らう。更に尋常ではない熊手の一閃が、大きな蜘蛛の多脚ごと下半分を切断した。


 同時に体に痛みが走る。


「ぐえ……」


 胃が捻れた。

 胆汁が口に溢れるような感覚……。


 魔力消費も尋常ではない。

 <仙魔術>を使うと毎回だが、今回はとびきりキツイ、が、まぁいい。


 大きな蜘蛛を倒した氷皇アモダルガは魔力粒子となって俺の体に帰還。


 氷皇アモダルガの魔力粒子は、竜頭金属甲ハルホンクの防護服の表層に現れるように融合。

 氷の魔法鎧のような防護服に変化を遂げた。

 そのまま、魔槍杖バルドークを消しながら、<神剣・三叉法具サラテン>とアクセルマギナと魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが戦うバルミュグに向かって前進。


 【魔の扉】の幹部の槍使いは倒れている。

 皆が倒したようだ。


「器が吼えて、いつもと違う氷の鎧を纏った!」

「沙、いいから、器様に合わせますよ」

「そうです、沙、やりましょう。<仙王術・鼬速>――」

「うむ! ここぞの場面で使う!」

「はい」


 バルミュグは後退。

 魔杖からエイリアンの胎児のようなモノを召喚し続けていく。が、その度にアクセルマギナのエネルギーの弾丸を浴びて、そのエイリアンの胎児は爆発し散る。


 骨の魔法陣付近にいる虫と骨が融合した甲冑を纏った侍モンスターが前進。


 バルミュグの前に出る。

 双眸がどす黒い渦。

 その虫と骨が融合した甲冑を纏った侍モンスターは骨の太刀を引き抜くと駆けてきた。


 アクセルマギナの魔弾を体に浴びた虫と骨が融合している侍モンスターの甲冑が更に削れ飛んだ。

 が、魔弾を浴びても構わず前進してくる侍モンスターは頑丈だ。


 魔界沸騎士長ゼメタスと魔界沸騎士長アドモスが立ちはだかった。

 そのゼメタスに、侍モンスターは骨の太刀を振るう。

 星屑のマントを煌めかせたゼメタスは、骨の盾を掲げ、「のガァァ――」と気合い声を発して、侍モンスターの骨の太刀を受け止める。


 侍モンスターは骨の太刀を引く。

 刹那、アドモスが、ゼメタスの背後からぬっと出て「遅い――<悪式・愚烈骨斬>」と袈裟斬りを繰り出す。侍モンスターは肩口をざっくりと切断された。続けて、ゼメタスが、


「――<悪式・亜連骨突>」


 骨剣で侍モンスターの腹を突く。

 更にアドモスが回転しながら、


「――<悪式・盾噴火>」


 侍モンスターは右肩と右鎖骨が凹むシールドバッシュを喰らうと、体勢が崩れながら袈裟斬りの影響で切れかかっていた体がちぎれた。

 続けざまに繰り出しされたゼメタスの一閃が、侍モンスターの首に決まる。

 侍モンスターの頭蓋骨が空に舞った。


 更に、アクセルマギナの魔弾を浴びた侍モンスターの体は、爆発して散った。


 バルミュグの足下に生成されていた骨の魔法陣が振動し爆発音を轟かせると、激しく燃焼し、大きな鼠花火のような爆発を真上に発生させた。


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは、体から凄まじい量の魔力を噴出させながら、バルミュグに向かう。


「――ウゴァァァ、敢争! 敢戦! 敢死!」

「――私たちは閣下の尖兵!」


 バルミュグは、


「魔具の指輪で魔界セブドラから魔界騎士を召喚か……」


 そう呟きながらも虫を召喚し続け、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスに衝突させ続けている。

 そのバルミュグは、回っていた魔杖を掴む。


「……テーバロンテ様、ここでこれを使うことになるとは……」


 その瞬間、空から<神剣・三叉法具サラテン>の三人がバルミュグを急襲。


「使わせないです! <瞑道・瞑水>――羅仙瞑道百妙技<仙羅・絲刀>――」


 羅から琴の音が響く。

 と同時に魔力の糸が放たれる。バルミュグの左肩や首筋などの左半身に突き刺さるが、大半は魔杖に弾かれる。

 <神剣・三叉法具サラテン>たちは、


「よーい――」

「「「ドン――」」」


 ――三人は重なり合い神剣の上に立って飛翔を開始。


「「「<御剣導技・沙剣桜花擢>」」」


 とスキルを発動。

 沙と羅と貂は、お揃いの桜色の戦装束に変身し消えては出現を繰り返しつつ嵐的な機動の<御剣導技・沙剣桜花擢>で直進。


 凄まじい螺旋回転でバルミュグへ突進。

 バルミュグは鉄扇から骨刃を伸ばすが、アクセルマギナの魔弾を浴びて、その鉄扇の骨刃は散る。

 更に、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが、バルミュグに向け駆けながら骨剣を一閃――。

 俺も、ゼメタスとアドモスの位置に気を付けながら、<神剣・三叉法具サラテン>の<御剣導技・沙剣桜花擢>の機動に合わせ、<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を五つ放つ。


 バルミュグは魔杖を回しながら虫を周囲に散らしつつ、鉄扇の下部と魔杖で魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの骨剣の一閃を防御。

 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスがバルミュグの斜め横に出た刹那、


「くっ――」


 そこに五つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が魔杖に一つ、二つ、弾かれるが、虫を貫きながらバルミュグの体に突き刺さった。


「ぐあぁぁ」 


 更に、沙・羅・貂の<御剣導技・沙剣桜花擢>が、バルミュグの掲げていた魔杖と衝突。魔杖を持つ指が蒸発したように切断されて消え、魔杖が落ちる。

 沙・羅・貂の<御剣導技・沙剣桜花擢>は直進してバルミュグの漆黒の鎧と激突し、あっさりとバルミュグの左半身を突き抜けた。

 百足などの細かな虫が構成していたバルミュグの血肉が散った。


 沙・羅・貂は少女の姿に縮みながら神剣の中に戻って魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの横を通り、俺の真上に戻ってきた。


 三つの神剣は一つに重なる。

 前と同じく神剣も小さくなった。

 『ご苦労さん』、『がんばったな』の思いを込めて左手の掌の中に戻ってもらう。


 が、まだ生きているバルミュグは左半身を再生させつつあった。


 三つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>の後部が光の網に変化して、その光の網が、生きて再生しかけている体を覆っていく。

 そのバルミュグ目掛けて突貫。

 <氷皇・五剣槍烈把>を実行。

 幻影の熊手が俺と重なる。

 <霊纏・氷皇装>と融合した白銀の剣と槍を五本両腕から突き出して、バルミュグの体を斬り、貫きまくる。


 氷皇アモダルガの猛々しい心を表に出すように、


「ウガァァァァ――」


 と咆哮を発しながら、再生しようとするバルミュグの内臓と血肉と筋肉繊維を構成する細かな虫たちを<氷皇・五剣槍烈把>の白銀の刃で斬り、貫きまくった。


 管と虫が表面に付いていた心臓もばっさりと斬る。

 心臓と繋がっていた虫の卵も貫いて破壊する。


 脊髄にこびり付いていた魔印が刻まれた百足の群れが見え隠れ、尋常ではない量の魔力を内包している百足の群れだ。


 しかも半透明にもなる百足の群れだと?

 その得体の知れない百足の群れを斬り刻んだ。

 

 刹那、得体の知れない百足が真っ二つとなった空間が湾曲。

 

 更に、バルミュグの内臓の残骸が、その湾曲した空間に吸い込まれ消えると、次元の裂け目のようなモノが斬った空間からパッパッと発生し、その次元の裂け目のようなモノから数十の繊維のような魔線がひょろひょろと出てそよぐ。

 その魔線の幾つかには、数個の極大魔石が束ねられていた。

 その極大魔石は連凧のように下に連なっている。

 それらの極大魔石が地面に落下。流れるまま暴れる心を有した<氷皇・五剣槍烈把>の白銀の刃で、それすらも斬ろうとしてしまうところを自重――。


 直ぐに胸元の<光の授印>が光る。

 そして、鐘が響いた。

 冷静さを取り戻しつつ、魔力消費が凄まじい<氷皇・五剣槍烈把>を解除。


 バルミュグだった血肉の残骸は地面に散乱していた。

 バルミュグを倒したか。


 が、落ちていたはずの魔杖が急に浮かぶ。


「『不遜なり、我の眷族を――』」


 中央が割れている魔杖は浮かびなら発言。

 割れた部分は口のような造形だ。


 魔杖は、魔界セブドラと通じているのか?


 更に魔杖の柄の縁が拡大し、真ん中に大きな孔が空く。


 と、その大きな孔が風を吸い込む? 否、周囲の魔力の吸引を始めた。


「――シュウヤ、魔神具が光っている。破壊するから」

「分かった」


 ユイの声が背後から響く。


「『させぬ――』」


 魔杖の下部が蠢き枝のようなモノを広場、中央に設置されたままの魔神具に伸ばそうとした。


 同時に枝が蠢きながら百足を産む。


 左手に召喚し直した魔槍杖バルドークに膨大な<血魔力>を送りながら手放すように下から放り、縦回転させた魔槍杖バルドークの紅斧刃で魔杖から伸びた枝と生まれ出たばかりの百足を切断。


「『――グァァァァァァ』」


 魔杖の下部は縮れて萎む。

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