九百七十四話 【八葉風妖】の異風長トフカとの戦い

 水蒸気のような魔力が体から噴出――。

 気温が下がった感覚を得る。

 <水神の呼び声>と《スノー命体鋼・コア・フルボディ》の効果も元に戻った。


 黒髪の大魔術師アークメイジのレイン・グレイホークが大舞台に展開させていたアンチマジック系統の巨大魔法陣が消えたからな。が、《スノー命体鋼・コア・フルボディ》は魔力消費が激しいから一旦解除。


 トフカの空中機動を見ながら――。


 そのアンチマジック系統の魔法陣に対し僅かに効いていた<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を終了させた。


 両足に闇と血が吸引されるように消える。


 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>は<魔闘術>を扱うように俺の足下の半径五センチ前後に展開させていた。


 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を纏いつつ戦うのもアリだと思うが、魔力を大量に消費するだろうから終了――。


 すると、トフカが虹色の魔力を体から発した。


 銀色の瞳の魔剣師と大きい黒猫の相棒は少し距離を取る。


 トフカは金色の髪を逆立てる勢いで、


「――ヒャッホー! 体中に絡み付いていた魔法の枷が外れた気分だぜぇ!」


 そう嬉しそうに叫ぶと飛行速度を上げる。

 巨大魔法陣がネックだったのは皆と同じ。

 銀色の瞳の魔剣師も同じ。


 彼女は、両手を拡げながら蒼と赤の色合いの魔力を体から放出させる。

 その魔力の中では、波紋が複数発生し、梵字のような魔法文字も流れていた。

 そして、波紋と梵字を有した魔力の影響か、ポンチョと防護服の色合いが紫を基調とした色合いになると、一部の衣装が先鋭化。


 留め金も首、鎖骨、肩を守るような防具に変化を遂げる。

 背に靡いていた頭巾は風を孕んだようにふわふわと上がり、金髪もそよぐ。


 レザライサと同じような魔装天狗の衣装変換魔道具か。


 その銀色の瞳の魔剣師は黄金の翼の推進力を得たように速度を上げてトフカへと近付いた。


 <血液加速ブラッディアクセル>と<闘気玄装>に<龍神・魔力纏>を重ねた速度に近い。


 が、後退したトフカも速い。

 銀色の瞳の魔剣師は、そのトフカを追って、


「――【八葉風妖】の異風長の一人、通称、風のトフカ! わたしの毒駕飛剣、否、毒華飛剣流の弟子がどこまでお前に通用するか試させてもらおう――」


 そう発言しつつトフカに宙空から突進。

 トフカは体から風の魔力を噴出させながら驚く。


「俺を知るだと?」


 トフカは宙空でホバーリングし、旋回しながら銀色の瞳の魔剣師を見据える。

 【八葉風妖】はおそらく組織名。

 異風長とは、その組織の隊長か最高幹部ってところか。


「ンン――」


 大きい黒猫ロロも銀色の瞳の魔剣師と連動――トフカへ近付いた。


 後退したトフカは銀色の瞳の魔剣師と相棒を見ながら左手を前に出した。

 武術の構えを見せ、


「<風の想刃衝装>――」


 風の女精霊ナイアの幻影と衝撃波を周囲に発生させる。

 風の女精霊ナイアの幻影と重なったトフカは<瞑道・霊闘法被>のような戦士系の魔法法被を纏った。


 銀色の瞳の魔剣師は、風の揺らめきを思わせる魔力の<風の想刃衝装>の衝撃波に耐えた。

 その体がブレると、


「<毒駕・連環剣>――」


 迅速な魔剣の斬り下ろしから斬り上げのスキルを繰り出す。


 トフカは風の女精霊ナイアの幻影が混じる衝撃波を再び発した。


 更に螺旋状に形が変化した魔法の杭を両手付近から射出。


 その衝撃波と螺旋状の魔法の杭が――。

 流れるような剣技<毒駕・連環剣>の連続切りを実行中の銀色の瞳の魔剣師と衝突。


「くっ――」


 銀色の瞳の魔剣師は、風の女精霊ナイアの幻影が混じる<風の想刃衝装>の衝撃波を体に受けながらも、螺旋状の魔法の杭を切断していく。


「にゃごぉ~」


 大きい黒猫ロロにも風の女精霊ナイアの幻影が混じる衝撃波が向かう。


 相棒は口から炎を前方に吐いた。


 炎は扇状に拡がり、衝撃波を防ぎながらも、その勢いに押されてしまう。


 大きな黒猫ロロは後退していくが、体から橙色の魔力を発した。

 その途端、相棒が吐いている炎が強まった。


 衝撃波を炎で消し飛ばすことに成功。

 が、大きい黒猫ロロに魔法の杭が迫った。


「ンンン――」


 黒猫ロロは体から複数の触手を突き出す。


 迫る魔法の杭を、触手骨剣で貫いて破壊しつつ前進するが、空中機動が速いトフカは後退し、相棒との距離を遠距離に保つ。


 銀色の瞳の魔剣師も身に迫る魔法の杭を斬り捨てると、相棒の動きに合わせて前進――。


 トフカは相棒と銀色の瞳の魔剣師に向け、再度衝撃波を発した。


 風の女精霊ナイアの大きい幻影魔力は、トフカの指輪を含めて、体の至る所と魔線で繋がっている。


『トフカの周囲に風の精霊ちゃんが無数にいます。そして、ナイアは風神セード様の大眷属かもしれないです』

『それほどの存在と本契約。あるいはヘルメのように精霊が成長したか』

『はい』


 銀色の瞳の魔剣師は、梵字の形をした魔印を宙空に発しつつ魔剣を盾にして、先ほどよりも威力が向上していそうな衝撃波を防ぐ。


「くっ、強力な――」


 と言いながら後退。


「にゃごお~」


 大きい黒猫ロロは炎を吐く。

 衝撃波に宿る風精霊を倒すように炎を吐き続けて衝撃波を滅していた。


 更に、コントロールした炎を銀色の瞳の魔剣師と衝突している衝撃波だけを狙い撃つように当てて、その衝撃波だけを打ち払うことに成功。


 銀色の瞳の魔剣師は火傷などは負っていない。

 その見事な炎を吐いた大きい黒猫ロロは、複数の触手を拡げつつ斜めに上昇。


 大きい猫の体と複数の触手を盾にして、銀色の瞳の魔剣師を庇い守る仕種を取った。


 魔法法被を着ているトフカは追撃せず。


 銀色の瞳の魔剣師を守る大きい黒猫ロロディーヌから距離を取った。


 銀色の瞳の魔剣師は、


「礼を言う、神獣様――」


 と言いながら、大舞台スレスレを飛翔する旋回機動で相棒と離れた。

 美しい横顔に金色の髪が舞った。

 ブーツが光ると斜めに上昇していく。

 その機動は空戦魔導師を思わせる。


 大きい黒猫ロロは大舞台に触手を突き刺した。

 その触手を基点に回り始める。

 そのまま回転する勢いを遠心力に変えた旋回機動でトフカへ空中から突貫。


「ンン――」


 見た目は大きい黒猫なだけに、迫力というか可愛い。魔雅大剣が少し小さく見えた。


 トフカは、


「巨大な黒猫と戦うのは荒神猫キアソード以来だな――」


 そう言いながら後退を続け、両手付近に無数の魔法の杭を生み出し、それらの魔法の杭を、俺と銀色の瞳の魔剣師と大きい黒猫のロロディーヌに向けて飛翔させていく。


 俺は魔法の杭を魔槍杖バルドークで弾きながら横移動を繰り返す。


 トフカは、足下に土の塊を生み出し、その土の塊を蹴って高く飛翔していた。


 大きい黒猫ロロは銀色の瞳の魔剣師と俺を見てから、


「にゃごぁ――」


 口から指向性の高い炎を吐いた。

 魔法の杭を一つ一つ溶かす。


 皆を守ろうとする神獣ロロディーヌ。

 感謝――。


 その直後、


「<怒噴土霊槌>――」


 トフカがハンマーの形の大きい塊を相棒の真下に生み出し、相棒の腹とハンマーが衝突。


「ギャッ――」

「な!」


 相棒は吹き飛んでいた。

 咥えていた魔雅大剣を離した大きい黒猫ロロ


 口から血を吐く。


「ロロ!」

「ンン――」


 大きい黒猫ロロは喉声を発した。それは『大丈夫』という意味だと分かるが……俺も腹に強烈なダメージを受けた感覚を味わった。


 大きい黒猫ロロは横回転――。


 同時に体から伸びていた多数の触手を絡ませ一つの大きな触手に変化させる。

 その大きな触手の先端が膨れると、その先端部からフランベルジュを思わせる骨剣を突き出させた。

 フランベルジュの骨剣は<怒噴土霊槌>の塊を貫き真っ二つ。

 続けて、首下から伸びていた触手が魔雅大剣を拾う。

 その魔雅大剣を収斂させる機動から素早く触手ごと魔雅大剣を振るう。

 相棒の<豪閃>的な豪快な斬り払いが、真っ二つにされた塊に更に決まった。


 大きな触手のフランベルジュは消えると、複数の触手に分割された。

 それらの触手を相棒は自らの下に向かわせ、触手から出た骨剣で大舞台を突き刺していく。

 大きい黒猫ロロは、その刺した触手を胴体に収斂させ、大舞台に吸引されるように着地。


 <怒噴土霊槌>を喰らった腹を舐めていた。

 胃に来る。トフカめ、相棒にダメージを与えるとは――。


 トフカは回避行動中。

 銀色の瞳の魔剣師が繰り出した魔刃を<顧法ノ大鐘タルヴァ>で弾いていた。


 そのトフカに向け――。

 右手首の<鎖の因子>マークから<鎖>を繰り出した。

 トフカは<顧法ノ大鐘タルヴァ>を消し、<鎖>を見つつ、横に回転しながら後退。

 またも周囲に無数の魔法の杭を生み出すと、それらの魔法の杭を<鎖>に衝突させてくる。


 <鎖>は消えない。魔法の杭も特別だと思うが、相性は良い。


 トフカは岩の魔法事典からも大量の礫を繰り出し、<鎖>に衝突させてきたが、<鎖>の速度が落ちた程度。が、その速度が落ちることが厄介だ――。


 速いトフカは足下に土の壁を幾つか生み出す。

 その土の壁を踏んで跳ねて、点々と宙空へ移動を繰り返し、<鎖>から逃げた。


 <仙魔・桂馬歩法>的な歩法に見える。

 土の壁には小さく何かの魔印が浮いていたから、空戦魔導師が得意とするような空中歩法か空中機動スキルだろうか。


 ――<鎖>を思念で操作。

 逃げるトフカに<鎖>をさし向けた。

 が、梵字が煌めく<鎖>はトフカの空中機動に追いつけない。


 このまま長く宙空に伸ばし続けると<鎖>がこんがらがってしまう。


 それに、相棒と銀色の瞳の魔剣師にも邪魔になる。


 一旦、<鎖>を消す。


『トフカは強い。妾たちも外に出て戦うか?』

『<神剣・三叉法具サラテン>を使うかもしれないが、フクロラウドがどう出るか』

『大魔術師ケンダーヴァルか。貴重な妾たちを見たら、奪いに動くと判断したか』

『運命神アシュラー様を斬れる沙は貴重なシークレットウェポンで、トキメキなんとかだからな?』

『ときめきトゥナイトな運命メモリアルじゃ! それより、トフカを倒すのだぞ!』

『おう』


 そう思念を返しつつトフカに集中。

 トフカに、銀色の瞳の魔剣師が繰り出した魔刃が向かう。


 その魔刃はトフカが右手に持つ魔杖から伸びた魔刃で切断されてしまった。

 その魔杖を振るったトフカに相棒が近付く。

 それに合わせてビームライフルを召喚、素早く撃つ。

 ビームは素早いトフカに当たらず――。

 トフカは近付く相棒に向け、周囲に浮かぶ岩の魔法事典から大量の礫を飛ばし弾幕を張る。


 大きい黒猫ロロは触手骨剣で無数の礫を切断して貫きつつ、横に移動していく。


 再びトフカにビームを撃ったが、避けながら、礫と魔法の杭を寄越してきた。

 ビームライフルを消して、魔槍杖バルドークを盾にしつつ横移動を行い、礫と魔法の杭を避け、魔槍杖バルドークで潰して対処。


 大舞台を駆ける大きい黒猫ロロにもトフカの偏差射撃が迫る。

 相棒が通り過ぎた床に無数の弾痕のような傷痕と長細い岩の道ができていく。


 相棒は斜め横に跳んだ。

 銀色の瞳の魔剣師は、着地しながら魔剣を振るい回す。

 礫と魔法の杭を切断すると反対方向へ跳ぶ。


 大きい黒猫ロロは跳んだ先で胸から出した触手の骨剣で魔法の杭を貫き破壊。

 魔雅大剣を上下から左右に振るい回す。

 その魔雅大剣で、複数の魔法の杭と礫を両断――。


 トフカ目掛けて再度<鎖>を繰り出した。

 トフカは<鎖>に岩の魔法事典から出した大量の礫を当ててきた。


 <鎖>は消えず直進――。

 大量の礫を貫きながらトフカに向かう。

 トフカは「チッ」と舌打ちした後、魔杖から伸ばした魔刃で<鎖>を弾き後退。


 その後退したトフカに蒼い魔刃と赤い魔刃が迫った。


 トフカは、岩の魔法事典から出した大量の礫と魔杖から伸ばした魔刃と反対の手の近くに生み出した魔法の杭で、蒼い魔刃と赤い魔刃を弾き上昇した。


 そのトフカに下から弧を描く機動の触手骨剣が向かう。


 飛翔しているトフカは追尾ミサイルのような触手骨剣に反応。


 下向きに魔刃を振るいつつ体を大きく下側に傾けながら、魔法の杭を飛翔させて<顧法ノ大鐘タルヴァ>を真下に召喚。


 魔刃を左右に振るい、無数の触手から出た骨剣を弾きながら、反撃の魔法の杭を大きい黒猫ロロに飛ばしつつ、<顧法ノ大鐘タルヴァ>の大きな鐘でも触手骨剣を弾く。


 <顧法ノ大鐘タルヴァ>を従えるように斜めに急上昇していくトフカ――。

 銀色の瞳の魔剣師と相棒と俺からも距離を取った。


 半身の姿勢で銀色の瞳の魔剣師を見て、


「魔剣師は、槍使いと黒猫の仲間だったのか?」


 銀色の瞳の魔剣師は、俺と相棒を見て、


「仲間ではない。が、槍使いはエンクリファのラグキューガを討伐してくれた。その礼だ――」


 そう喋ると、魔剣から蒼っぽい色合いの魔刃をトフカに跳ばす。


「――お前が固執していたテイマーがエンクリファだな。が、この戦いは偶然性を極めた戦い。その結果、槍使いがラグキューガを倒したに過ぎない。なぜ槍使いと黒猫の味方をする!」


 とトフカは聞いていた。

 銀色の瞳の魔剣師は俺と相棒を再度チラッと見て、


「ふっ、偶然よりも蓋然性は強いと思うが、まぁ、強いて言えば、黒猫の日向の匂いか?」

「にゃご!」


 銀色の瞳の魔剣師の笑った声に呼応した相棒。


 触手骨剣をトフカに繰り出していく。


 トフカは、


「ひなただと、ふざけたことを!」


 と言いながら魔法の杭を手の近くに召喚。


 周囲に浮いている岩の魔法事典からも大量の礫を発生させると、それらの魔法の杭と礫を、相棒に向けて飛翔させていく。


 俺は、


「互いに魔力は無尽蔵か? 切りが無い――」


 そう言いながら<鎖>を飛ばす――。

 トフカは加速して<鎖>を避ける。


「はっ、それこそが戦い! ま、正直言うと、赤髪を仕留めた<魔槍技>の直線上に居たくないだけだ――」


 そう発言したトフカ。


 すると、魔法の杭と大量の礫をすべて潰して対処した大きい黒猫ロロが、


「にゃごァ」


 ビーム状の炎をトフカに吐いた。 

 トフカは俺たちに体を向けながらビーム状の炎を<顧法ノ大鐘タルヴァ>と風の魔法陣を使い防ぐ。

 と、後退、そこに銀色の瞳の魔剣師が放った蒼い魔刃が向かう。


「しかし、卑怯だぞ! 槍使いと組むとは――」


 と発言しながらトフカは魔杖を消す。

 代わりに棍を右手に出現させて、下に振るう。

 蒼い魔刃に棍を衝突させて、蒼い魔刃を潰すように消した。


 棍は魔棍か、長いメイスとでも呼ぶべきか?

 紫色の魔力を発している。


 銀色の瞳の魔剣師は、


「ははは、笑わせる。お前だって魔銃使いの女とレインと組んだ時もあったように見えたが?」

「チッ」


 トフカは舌打ち。

 魔法の杭と大量の礫を銀色の瞳の魔剣師に向けて放った。

 銀色の瞳の魔剣師は、<黒呪鸞鳥剣>のような剣舞で飛来してきた魔法の杭と大量の礫を切断しまくる。


 トフカはその動きを見ながら、


「……魔剣師。お前はレリック地方出身か――」


 銀色の瞳の魔剣師に向かう礫の量が減った。

 銀色の瞳の魔剣師は素早い斬り上げで礫を斬り、


「――あぁ」


 と返事をしつつ、上げていたバスタードソードの魔剣を下げて、構え直す。

 トフカは、


「やはり。毒華飛剣流の名は知っている。しかし、これほどの使い手ならば有名になっていてもおかしくないが……名は?」


 そう聞くと、銀色の瞳の魔剣師は、俺を見て、


「わたしの名はファシャ」

「……毒華飛剣流のファシャか、お前はエンクリファ打倒が本命だったとして、サセルエル夏終闘技祭の優勝の名声にフクロラウドとの縁も目的か――」

「それがどうした」

「――俺も同じような目標。俺が優勝したら、賞品の一つをお前にやってもいいから退け、目的が達成されたのなら無駄に命を散らすこともないだろう」 


 トフカは、礫の攻撃を繰り返しながら発言。


「――お前から指図を受けるつもりはない」

「ハッ――」


 魔法の杭を、銀色の瞳の魔剣師のファシャに飛ばすトフカ。

 その魔法の杭を魔剣で両断したファシャは笑顔を俺に見せた。


 トフカは俺にも、


「――お前はどうだ、槍使い! お前の目的もサセルエル夏終闘技祭とは別にあったんだろう?」

「あぁ、あった。当初の目的は達成している」

「なら話が早い、手を退け、優勝したら賞品の一つを分けよう」

「そこのファシャはどうする」

「あぁ、死んでもらう――」


 大量の礫をファシャに飛ばす。

 ファシャは後退しつつ魔剣を振るい、飛来してくる礫を正確に潰していた。

 トフカは逃げるファシャを追わず、黒猫ロロの触手骨剣を魔棍で弾いてから、俺に向け、


「なぁ、どうだ、退かないか?」

「退かない。血月布武の名が掛かっている。それに、相棒に攻撃を喰らわせたから気に食わない」

「ケッ、猫好きの殺し屋ってか?」


 トフカは嘲笑するようにそう言いながら、魔法の杭と大量の礫を飛ばしてくる。

 <鎖>と魔槍杖バルドークで魔法の杭と礫を潰して対処。


 そんなトフカの足下に蒼い魔刃が向かう。

 

 トフカは、その蒼い魔刃を<顧法ノ大鐘タルヴァ>で吸収しつつ――。


 俺の左斜め上を高速飛翔しては斜め下に旋回を数回繰り返す。


 その間に、岩が表面に付いた魔法事典のような魔法書から大量の礫を俺たちに向けて繰り出してくる。


 爆撃機かよ――。

 魔槍杖バルドークを上下に振るって、飛来してくる大小様々な礫を潰す。


 盾として鉄の曲大剣を左手に出したくなったが、出さない。


 左右への横移動を繰り返してから、軽く跳躍して低空に<導想魔手>を生成し、それを蹴る。


 横へ低空移動を行いながら<闘気玄装>を強めてトフカに近付いた。

 近づきながら嵐雲と似た穂先を突き出し、魔法の杭を貫く。


「チッ」


 <豪閃>――。

 トフカは左手に持つ魔棍を前方に掲げて、魔槍杖バルドークの<豪閃>を受けた。

 そのまま後方に退くと見せかけたトフカは、右手に召喚していた魔杖の魔刃で、俺の胸を狙ってきた。


 魔槍杖バルドークを下げた。

 ――その剣の<刺突>と呼べる剣突の魔刃を柄で受けた。


 トフカの持つ魔杖は一種の魔法剣、その魔杖から伸びている魔刃はプラズマブレード的だから、硬い感触はないが、魔刃を受ける度に、背筋が寒くなるほどの剣気が感じられた。


 その剣豪の雰囲気を醸し出した直後、トフカは嗤いながら槍圏内の近い距離から魔法の杭を生み出し、俺の頭部に飛翔させてくる。


 カリィなどのトリックスターを思わせるトフカか――。


 <血道第四・開門>――。

 <霊血装・ルシヴァル>を発動。

 ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の面頬で魔法の杭を噛み砕く。


 同時に、<血魔力>を体から発して、左手に血魔剣を召喚。


 髑髏の十字の形をした柄の左右からプラズマを彷彿とさせる血の炎が出た。


 トフカは、


「――<天喰破杭>を歯で噛み砕くとか、初めて見たぜ――」


 そのトフカ目掛け、本来ギミックが必須だが、試す――。

 <飛剣・血霧渦>を繰り出す――。


 血魔剣はブゥンとムラサメブレード・改に近い音を響かせる。


 体を捻りながら自らトフカに特攻――。


 魔槍杖バルドークでトフカが持つ魔棍を回しながら奪うことも想定――。


 血魔剣と魔槍杖バルドークで宙に螺旋を描く<飛剣・血霧渦>に近い機動で近付く俺に反応したトフカは、


「血の飛剣流!?」


 驚きながらも、<顧法ノ大鐘タルヴァ>を盾に血魔剣の<飛剣・血霧渦>を防ぐと同時に左腕ごと回っていた魔棍をアイテムボックスに仕舞った。

 

 荒い動きだったか。


 <飛剣・血霧渦>はムラサメブレード・改のギミックが必須なだけに洗練はされていなかったようだな――。

 後退したトフカは、先ほどと同じく――周囲に浮かぶ岩の魔法事典から大量の礫を発生させる。


 魔法の杭も両手の周囲に発生させた。


 それら魔法系統の遠距離攻撃を寄越してくる。


 <豪閃>――。

 <水車剣>――。


 <顧法ノ大鐘タルヴァ>は大きい鐘だから――。

 ――トフカの視界は大きい鐘で埋まっているはず――。


 が、俺の位置を正確に把握しているようだ――。


 魔槍杖バルドークと血魔剣で防御を意識しつつ、二つの武器を振るいまくって礫と魔法の杭を切断しまくった――。


 そして、<仙魔奇道の心得>を意識。

 <仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>を再度発動。


 <飛剣・柊返し>――。

 鮮血がブレードと化したような血魔剣を左から右へと動かす一閃で横並びの魔法の杭を切断――。


 更に、右から左上へと血魔剣を振るう<黒呪仙炎剣>を繰り出した。


 ※黒呪仙炎剣※

 ※黒呪咒剣仙流技術系統:上位斬り※


 ラメ調の黒炎が混じる血魔剣のブレードが、礫を一閃。

 闇の炎の余波が他の礫を溶かす。


 トフカが繰り出し続けてきた魔法の杭と礫をすべて斬った。


 柄の髑髏の双眸から出ている血の炎は腕から肘を巻いてとぐろを作る。


 そして、効かない、或いは魔力の糧にされてしまう可能性が高いが――。


 その血魔剣を右斜め上に振り上げながら<血獄魔道・獄空蝉>を放つ――。


 ※血獄魔道・獄空蝉※

 ※血獄道技術系統・独自遠距離魔術※

 ※闇属性必須※


 血魔剣の周囲に<血獄魔道・獄空蝉>の血の礫が無数に発生しトフカに向かう。

 トフカは<顧法ノ大鐘タルヴァ>で<血獄魔道・獄空蝉>の血の礫を防ぐ。


 甲高い鐘の音が数回響く。


 トフカは<顧法ノ大鐘タルヴァ>を真上に上げ、その大きな鐘の<顧法ノ大鐘タルヴァ>を確認していた。


「驚きだ。<顧法ノ大鐘タルヴァ>で吸えない魔法系統が存在していたのか――」


 <血獄魔道・獄空蝉>の血の礫は通じる。

 血獄魔道は他の次元の吸血鬼ヴァンパイアの<吸血王サリナスの系譜>と関連する。


 吸血王の証しの魔剣の血魔剣。


 更に俺は称号の〝血魔道ノ理者〟を有する。


 ※時空属性と闇属性、光魔ルシヴァルの<光魔の王笏>を持ち、諸法無我しょほうむがを歩む混沌とした者だからこそ外宇宙、他次元出身の吸血鬼の血と強く反応した。その結果、新たな称号を獲得※

 ※外宇宙の理を持つ第二の称号は、この世界の神々には、異様、混沌、異質さの極みとなって視える。必ずしも良しとはしないだろう※


 トフカは左右の空から近付いていたファシャと相棒に魔法の杭と礫を飛ばしていた。


 そのトフカに<鎖>を射出。


 トフカは<顧法ノ大鐘タルヴァ>を目の前に動かして<鎖>を簡単に弾くと、斜めに上昇。


 <鎖>の吸収はされていないが、盾として<顧法ノ大鐘タルヴァ>はかなり優秀か。


 銀色の瞳の魔剣師のファシャは、魔剣を振るい飛来してきた魔法の杭と礫をすべて切断していた。

 そのファシャは大舞台の床を蹴って低空を飛翔し、トフカを追う。


 相棒もトフカを追った。


 ファシャは片手半剣のバスタードソードの魔剣に膨大な魔力を込めた。


 その魔剣を左右へ振るいつつ、


「――<霊魔蒼刃・シグ>、<霊魔紅刃・バハキル>――」


 とスキルを発動。

 魔剣から、大きい赤と蒼の魔刃を連続的にトフカに飛ばしていた。


 ――合わせよう。

 逃げるトフカの先を読む。

 偏差射撃風の二丁拳銃、否、<鎖型・滅印>――。


 両手首の<鎖の因子>マークから勢い良く二つの<鎖>が飛び出ていく。


 トフカは<顧法ノ大鐘タルヴァ>を盾代わりにして、二つの<鎖>を巧みに防ぎながら後退――。


 己を追尾してくる<霊魔蒼刃・シグ>、<霊魔紅刃・バハキル>をも<顧法ノ大鐘タルヴァ>で防ぐと、逆方向へ加速しながら飛翔していく。


 そんなトフカの逆方向から相棒の触手骨剣が向かう。


 トフカは俺の<鎖型・滅印>の<鎖>攻撃と、ファシャの<霊魔蒼刃・シグ>、<霊魔紅刃・バハキル>を<顧法ノ大鐘タルヴァ>で防ぎつつ――。


 魔杖の魔刃を上下に振るい、相棒の触手骨剣を弾いた。

 あの辺りはムラサメブレード・改を想起。


 トフカは、またも反転し斜めに上昇――。

 <鎖型・滅印>の<鎖>を避けきった。

 <霊魔蒼刃・シグ>、<霊魔紅刃・バハキル>も消滅している。


 トフカは二つの<鎖>を操作している俺と触手骨剣を繰り出す相棒とファシャに向け、またも岩の魔法事典から大量の礫を生み出し、飛ばしてきた。


 <仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>を強めて――。

 左右に横跳びを連続的に実行し、礫を避け続けた。


『ふふ、閣下の体から霧の魔力が迸っています~。他の水の精霊ちゃんたちも集まってきました~』


 精霊が視える眼を持つヘルメが喜ぶ。

 トフカの寄越す礫の魔法は弾丸並みの速度だが、追尾性能がない場合が多い――。


 大きい黒猫ロロディーヌも胴体に見合う量の触手で迎撃。


 先端から出した骨剣で礫を次々と貫き破壊し続けた。


 その触手の一部はファシャの守りに回す。

 トフカは己の機動力を上昇させながら――。


 再び、岩の事典と魔杖の魔刃と<顧法ノ大鐘タルヴァ>の大きな鐘で、相棒の触手骨剣の攻撃とファシャの蒼い魔刃と赤い魔刃を迎撃していく。


 その間にファシャはトフカに近付く。

 が、トフカの速度は速く、ファシャは間合いを詰められない。


 そのトフカの機動を読みつつ――。

 トフカの裏に移動。

 そのトフカは「チッ、だんだんと――」と俺の行動を指摘してくる。

 が、トフカもトフカだ。かなり優れた戦い方、中距離と遠距離の間合いを維持するように加速と減速を繰り返しながら上昇下降に方向転換を巧みに繰り返す。


 何世代も改良を重ねた最新戦闘機を思わせる旋回機動を行うトフカは、


「もうレインの邪魔はないんだからな! わざわざお前らの好きな間合いで戦うことはしない!」


 と言いながら螺旋を描くように宙を飛翔していく。


 同時に、岩の魔法事典から礫と、両手付近から魔法の杭を生み出し、その礫と魔法の杭を、ファシャと相棒と俺に飛ばしてきた。


 大きい黒猫ロロはファシャを守るように触手を宙空に展開させる。

 礫と魔法の杭の攻撃を触手から出た骨剣で迎撃していく。


 <顧法ノ大鐘タルヴァ>があるから魔法では狙いにくい。


 そのトフカ目掛けて――<鎖>を射出。

 トフカは「あははは――当たらなければどうと言うことはない!」と叫びながら<鎖>を余裕の間で避けた。


 <顧法ノ大鐘タルヴァ>を盾に使わず避けることを優先か。

 まぁ、先の<闇の次元血鎖ダーク・ディメンションブラッドチェーン>を見ていたのなら、そう何回も<鎖>の攻撃を<顧法ノ大鐘タルヴァ>で受けたくはないよな。


 <鎖型・滅印>を発動――。

 両手首を突き出すように<鎖の因子>マークから<鎖>をトフカに向けて飛ばしまくった。


 トフカは連続的に迫る<鎖>を回避していく。

 飛翔速度が尚も上昇。

 右上左上へと移動しては、連続的に直進していく<鎖>を避けまくる。

 俺は<龍神・魔力纏>を強めて<仙魔・桂馬歩法>を実行――。

 トフカの行動を予測しつつ<導想魔手>を蹴って左側へ飛ぶ――。

 トフカの機動と<鎖>が揃う、ビンゴ――<鎖>を連続射出――。


 <鎖型・滅印>でかなり<鎖>が速い。


「チッ」


 トフカは<鎖>を避けられず、<顧法ノ大鐘タルヴァ>で<鎖>を弾く。

 <鎖型・滅印>の二本の<鎖>の射撃戦術で、トフカの向かう方向を限定させながら<血鎖の饗宴>で仕留めるか? <血鎖の饗宴>なら盾に利用するだろう<顧法ノ大鐘タルヴァ>を破壊してトフカを撃破できるかもしれない。


 が、何か奥の手があるかもだ。


 <脳脊魔速>の加速で一気に間合いを詰めて<魔槍技>などで仕留めるチャンスもあると思うが――。

 ――<脳脊魔速>の加速にも対応してくるかもしれない。


 風の女精霊ナイアを外に出していないのも怪しい。

 トフカとナイアの<精霊珠想>のような魔法法被状態だから飛行の速度が上がっている?


 風の女精霊ナイアを指輪に格納させているから可能なスキル?


 そう予測――。

 今も、<鎖型・滅印>の二つの<鎖>を凄まじい速度で避けているトフカ。

 俺とトフカの機動と戦いに、背後の相棒とファシャはついて来られない。

 ――大きい黒猫ロロが繰り出す遠距離攻撃が当たらないことが増えてきた。


「相棒とファシャ、無理はするな」

「ンン、にゃおお~」

「――分かった」

『銀色の瞳のファシャの魔刃は速くて強力だと思いますが、トフカも速いですから』

『あぁ』

『閣下、わたしはいつでも行けますので』

『分かってる、感謝だ――』

『アンッ、わ、わたしもです』


 左目にいるヘルメに魔力を渡してしまった。

 常闇の水精霊ヘルメは本当に頼りになる。


 ヘルメに礼をする気分で<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を再度出現させる。

 大きな駒をトフカに向けながら、<血液加速ブラッディアクセル>と<闘気玄装>を弱めてから強めて速度を急上昇させた。


 トフカの背後から近付く。

 トフカは上昇しつつ回転して俺に体の正面を向ける。


 俺に向け魔法の杭を無数に飛ばしてきた。


 <血道第一・開門>――。

 全身から膨大な血を放出させた。

 《スノー命体鋼・コア・フルボディ》を再発動。

 同時に<水月血闘法>を強める。

 <滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>を意識して発動。


『ヘルメ、俺が対処する』

『はい』


 トフカごと血の視界となるが構わず――。

 <血液加速ブラッディアクセル>――。

 <闘気玄装>――。

 <龍神・魔力纏>――。

 <魔闘術の仙極>――。

 <瞑道・瞑水>――。

 <瞑道・霊闘法被>――。


 を意識して消しては連続的に再発動。

 そのままトフカに向けて<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒を盾にしながら直進。

 大きな駒で魔法の杭を防ぎつつ――両手から<鎖>を射出。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒の左右から出た二つの<鎖>で、トフカの左右後方を狙う。


 同時に発動した<導想魔手>に神槍ガンジスを握らせた。

『イモリザ、出番だ』

 一瞬で右肘から外に生えた第三の腕に魔槍グドルルを握らせる。


 左手の血魔剣を上げ、<血外魔道・石榴吹雪>をトフカに向け発動。

 血魔剣の膨れ上がった剣身から――。

 血の石榴ざくろが出現。

 血の石榴はトフカの周囲に転移。


「チッ、血で――」


 後退したトフカは<顧法ノ大鐘タルヴァ>を召喚したようだ。

 血の吹雪と化した<血外魔道・石榴吹雪>がトフカと共に爆発したような音が響いた。

 同時に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒に衝撃、トフカが、何かの武器で<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を押さえたと予測、次の瞬間――。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消した。


 傷を受けているトフカは「え?」と驚く。


 そのトフカは左右の手の魔棍と魔杖から出た魔刃と、周囲の魔法の杭に、岩の魔法事典から出していた礫で、二つの<鎖>を防ぎ、<顧法ノ大鐘タルヴァ>で<血外魔道・石榴吹雪>と<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を防いでいたようだ。


 そのトフカに<滔天魔瞳術>を発動。

 やや遅れて<仙羅・幻網>を発動。

 左手の武器を仙王槍スーウィンに変更。

 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。

 一瞬で、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を装備しつつ――。


 <破邪霊樹ノ尾>を意識し発動、大量の樹でトフカを固める。


 血塗れのトフカは双眸が時計のように回転。

 渦のマークが浮かんでいたが、<滔天魔瞳術>で対抗。

 トフカは更に体から風の衝撃波を放つと、<滔天魔瞳術>を破り、<破邪霊樹ノ尾>の樹をも破る。

 そのトフカの体から風の女精霊ナイアが出かかるが、<火焔光背>を実行――。

 風の女精霊ナイアの魔力を吸い取った刹那、<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を至近距離から五発発動――続けざま<導想魔手>が握る神槍ガンジスで<光穿・雷不>を発動。


「な!? がっ――」


 トフカは<導想魔手>が握る神槍ガンジスの<光穿>と五発の<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を<顧法ノ大鐘タルヴァ>で防ぎ魔力を吸収。


 神槍ガンジスの真上の宙空から轟音が鳴り響く。


 <顧法ノ大鐘タルヴァ>を活かして退こうとするトフカの背後に再び<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚、動きを押さえた。血濡れた魔槍杖バルドークを引く。

 八支刀の光が連なるランス状の<光穿・雷不>の雷不が出現、刹那、第三の腕が握る魔槍グドルルで<血龍仙閃>を発動、<血龍仙閃>がトフカの右半身を縦に捉えた――。


 右の胸をざっくりと切断――。

 その切断した右半身が引き合うように回復していく。


 <導想魔手>が握る神槍ガンジスを引く。

 その間に、八支刀の光が連なりランス状の光となって轟音を立てつつ一点に集約する<光穿・雷不>は、トフカに直進――。

 回復を終えそうなトフカは、二つの<鎖>を武器で防ぎ続けている。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>がトフカの背後を押さえているからトフカは動けない。


 そのトフカは思念で<顧法ノ大鐘タルヴァ>を目の前に運ぶ。


 刹那、闘技場の形を読みつつ、トフカの右半身を拝むように足下に移動しながら――。

 右手が握る血濡れた魔槍杖バルドークで、<闇穿・魔壊槍>を発動。


「チッ――」


 トフカは反応。

 魔槍杖バルドークの闇を纏う<闇穿>の嵐雲の矛と<顧法ノ大鐘タルヴァ>が衝突。


 大きな鐘に<闇穿>は防がれた。


 素早く魔槍杖バルドークを引くと、同時に恐怖を感じる光雷の矛雷不が<顧法ノ大鐘タルヴァ>の左側に衝突。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消す。


 光雷の矛雷不の吸収はできないようだが、<顧法ノ大鐘タルヴァ>に防がれた。


 が、衝突面が爆発。

 放電も始まると、トフカと俺の体を焦がす。

 二人の体から火花が散った。


 光雷の矛雷不を防ぐ<顧法ノ大鐘タルヴァ>は激しく振動――。


 凄まじい轟音が轟くと<顧法ノ大鐘タルヴァ>が窪む。


 放電のようなモノが更に<顧法ノ大鐘タルヴァ>から迸る。


 空中にも稲妻のようなモノが拡がった瞬間――。


 豪快な怒号喇叭が吹き荒れた。

 絶殺の意志が宿る壊槍グラドパルスが出現し、螺旋回転の渦を周囲に作りながら直進――。


 光雷の矛雷不を防ぐ<顧法ノ大鐘タルヴァ>ごと、トフカの右半身をくり抜いた壊槍グラドパルスはそのまま直進――。


 トフカの血や内臓を周囲に散らしている左半身は落下。


 壊槍グラドパルスは、大舞台の魔法の膜を突き抜け、フクロラウドの魔塔の天井をも抉ってから虚空の彼方に消えた。


 <顧法ノ大鐘タルヴァ>は爆発して散り、凄まじい量の破片が迫った。


 <導想魔手>を武器ごと消す。


 同時に<超能力精神サイキックマインド>を発動。

 宙空ですべての破片を<超能力精神サイキックマインド>で防ぎつつ、素早く魔槍杖バルドークで<龍豪閃>――破片の大半を切断。

 再び発動した<超能力精神サイキックマインド>で破片を吹き飛ばす。



 そのトフカの左半身は回復する兆しはない。

 会場は俺だけになったように静まり返る。


 イモリザの第三の腕を元に戻し、全ての武器を消去。

 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼も消す。


 すると、静かな余韻を壊すように、下から、


「にゃおおおお~」


 相棒の勝利の咆哮が轟いてきた。

 銀色の瞳の魔剣師のファシャは〝輝けるサセルエル〟を、円盤に乗っているフクロラウドに向けて放っていた。


 すると、大舞台の上に転がっているトフカの左半身に風の魔力を感知。


 <火焔光背>で魔力は結構吸ったが、風の女精霊ナイアは生きている?


 まぁ、魔力は魔力か。

 契約や<霊呪網鎖>とは異なるからな。


『閣下、勝利です! が、小さいですが、ナイアの風の精霊ちゃんの魔力を下に感じます』

『おう』


「「「シュウヤさまぁぁぁ」」」

「シュウヤ様~」

「ご主人様の勝利!」

「ん、大勝利!」


 右腕に装着している戦闘型デバイスの表面が煌めく。

 ウェアラブルコンピューターの風防の真上には、高精細な光学技術のアクセルマギナとガードナーマリオルスの立体映像が浮かんでいた。


 アクセルマギナは敬礼してくれている。

 すると、会場の魔素が膨れ上がった。


「「「おぉぉぉ~」」」


 同時に観客が一気に歓声を寄越す。

 すると、フクロラウド・サセルエルを乗せている円盤が動いた。一応念の為、降下してトフカが死んだことを確認。

 風の女精霊ナイアが格納されている指輪はあるが……。

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