九百七十話 【八指】暗光ヨバサとの戦いと<鬼神・鳳鳴名鳥>
暗光ヨバサのところに乱入するかと思ったが、魔矢が飛来――。
その魔矢を魔槍杖バルドークで無難に切断して対処。
<四神相応>と<
フクロラウドが敵となった場合が怖い。
<仙魔・
大舞台の上で魔矢を連続的に射出してくる射手に向け――。
宙空から無造作に<仙玄樹・紅霞月>を放つ。
射手は魔力の分身を造って気配を消す。
<仙玄樹・紅霞月>の三日月状の魔刃を避けた。
分身を残して消えた射手は移動が速い。
【闇の八巨星】のどこかに所属している【八指】の一人だろうか。
先の軍人帽子を被った射手とは違う。
ザ・暗殺者という印象を持たせる気配殺しと分身だ。
射手の分身は、キマイラ風の魔獣モンスターに喰われて消える。
射手の本体は<無影歩>に近い気配殺しを行いながら、キマイラ風のモンスターは無視して、そのキマイラ風のモンスターを使役しているだろう魔剣師テイマーの背後に移動していた。
魔察眼でその射手の動きは追える。
ま、後回しだ。
宙空からレザライサと
暗光ヨバサを再び注視。
大舞台の中央の少し北側の乱戦の中で目立つ存在だ。
半袖の武道着と鎖帷子のような装備に傷はあまりない。
優秀な証拠か。
その暗光ヨバサが戦っている相手は、凄腕の槍使い。
暗光ヨバサはその槍使いと、数十合打ち合い離れ、また接近し数合打ち合うと再び離れた。
暗光ヨバサと槍使いが離れたところで、互いの前後から迫ってきた他の強者と激突。
それらの強者たちを連続的に斬り、突いて、殴り、斬って倒した。
二人とも強い。
茶色髪の槍使いは、長柄を肩に通し二槍使いと斧使いを往なす。
そのまま風槍流『案山子通し』のような技術を使い、魔槍の柄と螻蛄首を二槍使いの胴体と斧使いの腹に当て二人の臓腑を破壊し、倒すと反転、暗光ヨバサへ向かう。
茶色髪の槍使いの得物の魔槍に薄らと炎が走った。
その炎の魔槍を扱う槍使いは、迅速に暗光ヨバサとの間合いを詰める。
と、魔槍の柄からルーン文字のような炎が出現しては消えていく。
その炎の魔槍使いを凝視する暗光ヨバサ、待ちの姿勢。
居合いが得意そうだからな、当然か。
穂先の炎が武火となった魔槍で隙のない突きを織り交ぜた<刺突>を連発。
暗光ヨバサは居合いの連続した一閃で、魔槍の突きを連続で弾く。
炎の魔槍使いは、その炎の魔槍を引くと背中を見せる横回転。
そのまま上下左右に炎の魔槍を振るい回しながら<豪閃>的な薙ぎ払いを連発。
暗光ヨバサは魔刀と鞘を防御に回す。
炎の魔槍を正確に上下に弾き続けた。
炎の魔槍使いは<黒呪強瞑>のような<魔闘術>系統を強め、動きを加速させる。
と、左右の腕がブレる。緩急を付けた<豪閃>と<龍豪閃>的なスキルを繰り出す。
その炎の魔槍の薙ぎ払い系スキルを繰り出した直後――炎の魔槍使いは穂先の突きに切り替えた。
炎を押し当てるように、連続的に暗光ヨバサを突く。
防戦一方となった暗光ヨバサ。
炎の魔槍使いは、一段ギアを上げた。
炎の乱舞槍と呼べるような穂先と石突を活かす風槍流の『風雅の舞』に近い奥義風の技を繰り出した。
暗光ヨバサは苦しげな表情を浮かべながらも二つの魔刀の構えを崩さず。
炎の魔槍使いの突きと払いの猛攻撃を二本の魔刀を振るい凌ぐ。
その魔刀の機動を把握。
数合凌いだ暗光ヨバサも<黒呪強瞑>のような<魔闘術>系統を強めた。
衝撃波の魔力を周囲に飛ばして後退――。
炎の魔槍使いは、炎を帯びた魔槍を掲げ動きを止めた。
暗光ヨバサが後退した位置は大舞台の北側の縁。
場外に落ちても失格ではないと思うが、暗光ヨバサは追い詰められた感がある。
その暗光ヨバサは二つの魔刀を左右の腰の鞘に戻す。
腰を少し落とし、柄巻に手を当てながら左足を前に出してジリジリと前進し、動きを止めた。
落ち着いた居合いの所作。
静の動き。
その暗光ヨバサの足下に闇色の魔力が滲むように出現。
闇色の魔力の縁際から蛍火のような灰色の魔力が舞っていた。
炎の魔槍使いは炎を帯びた魔槍の構えを変える。
炎の魔槍使いも動きを止めた。
暗光ヨバサの殺気と足下の不可解な闇色の魔力を見て、ただならぬ雰囲気を感じたんだろう。
が、背後から食い千切られたような肉片の群れが飛来した直後、炎の魔槍使いは覚悟を決めたのか<魔闘術>を強めると吼えて吶喊。
後方でゴリラと熊が融合したような大魔獣と戦う強者たちの剣戟音に影響を受けたかな。
炎を帯びた魔槍の穂先を暗光ヨバサの体に向けた。
<刺突>を連発するような<魔槍技>か?
待ちの居合いの暗光ヨバサ。
その暗光ヨバサは、炎の魔槍使いの動きに合わせ、腕と体が前にブレると、目にもとまらぬ速さで二つの魔刀を引き抜く。
魔槍の炎を帯びた穂先に、暗光ヨバサの片手が握る魔刀の刃が衝突した刹那、もう片方の魔刀の刃が炎の魔槍使いの首に吸い込まれていた。
炎の魔槍使いの首が刎ねられ、その頭部が飛ぶ。
普通の人族だったのか、頭部を失った傷痕から間歇泉から温水が迸るように血が噴出していた。
頭部を失った炎の魔槍使いは大量出血の反動を受けて慣性のまま背後に虚しく倒れた。
同じ槍使いなだけに悲しくもあるが、武人の死としては本望か。
心の中で、よく戦った、名の知らぬ炎の魔槍使い。と祈った。
そして、暗光ヨバサは居合い術の一環の分身剣術だと思うが……。
前に移動していた本体に分体が吸い込まれるように戻って見えた。
その暗光ヨバサは二つの魔刀を鞘に納めて、横回転。
足下に展開させていた闇色の魔力を黒装束の衣装に吸い込ませるように闇色を強めていた。
当初に見せていた気配殺しのスキルだろう。
『閣下の<無影歩>とまではいきませんが、見事な気配殺し』
『あぁ、高度な<
『はい!』
チラッとレザライサと相棒を見ると、西側の端から南側を駆けていた。
逃げている?
否、戦っていない。
そのレザライサの体に触手を絡めながら大舞台を走る相棒を良く見たら、観客席の応援に応えるように走っていた。
あぁ、走る相棒の前方に焼けたトウモロコシが転がっている。
本当に客席からの応援か。フクロラウドの関係者からは特に攻撃はないから大丈夫か。
あ、トウモロコシではなくランターユだったか。
触手に掴まれた状態のレザライサは
少し気が抜けたが、気合いを入れて暗光ヨバサに視線を向けた。
暗光ヨバサは周囲を窺う。
その暗光ヨバサの近くに移動しようと宙空を駆けた。
射手からの攻撃は来ない。
キマイラ風のモンスターとテイマー魔剣師と激戦中か。
その背後の中央ではトフカVS赤髪の強者VS四つん這いの魔剣師VS黒髪の
ゴリラ魔獣を扱う他のテイマーも入り乱れると、状況は読めない。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒を回してから、肩に魔槍杖バルドークを乗せて大舞台に着地――。
即座に暗光ヨバサは俺に気付くと闇色の靄のような魔力を霧散させた。
黒い眼で俺を見据えながら……。
懐から取り出したポーション瓶の上部を噛むように中身の液体を飲み干す。
ポーション瓶の中身は、体力&魔力の回復効果のあるポーションかな。それプラス魔力&力の倍増効果とかもありそう。
暗光ヨバサは片方の魔刀の柄巻に片手を当てて横に少し移動を行う。
その武芸者バリバリな暗光ヨバサに、
「お前が【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の暗光ヨバサだな?」
「……そうだ。お前の名は?」
声質は男に思える。
顔には髭はない。
中性的で、端正な顔立ちだ。
双眸に魔力を溜めて俺を見ている暗光ヨバサに、
「【天凛の月】の盟主、シュウヤ・カガリだ」
素直に名乗った。
「ほぉ……【白鯨の血長耳】の盟主、総長のレザライサがここにいる理由か」
「レザライサに関しては偶然なんだが、まぁそれでいい。で、ルシエンヌのことを聞こうか」
「な、なんだと?」
暗光ヨバサは顔色を変える。
睨みを強めて、
「【天凛の月】が【剣団ガルオム】に付いたということか」
「そうだ。覚悟はいいか?」
「あぁ、俺はできている――」
暗光ヨバサは前傾姿勢で居合いを仕掛けてきた。
その剣筋はもう見ている。
左手に王牌十字槍ヴェクサードを召喚。
「ふ、俺もさ――」
そう言いながら爪先半回転を実行。
踏み込みからの居合いの斬り落としを見ながら避ける。
同時に――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒を、暗光ヨバサの背後に回す。
暗光ヨバサの横に移動後――。
魔槍杖バルドークの<刺突>を繰り出した。
「チッ――」
暗光ヨバサは右手が握る魔刀の刃で嵐雲と似た穂先の<刺突>を防ぐ。
その魔槍杖バルドークを消す。
引いた右手に魔槍杖バルドークを再召喚。
「武器召喚――」
反応している暗光ヨバサなら防ぐだろうが、構わず――。
王牌十字槍ヴェクサードで、その暗光ヨバサの足下に<牙衝>を繰り出した。
暗光ヨバサは左手で抜いた魔刀で下段の<牙衝>を防ぐ。
その暗光ヨバサの背後から<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を向かわせた。
暗光ヨバサは、
「見え見えなんだよ――」
嗤うような喋りで、倒れるように体を傾け、大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を避ける。
ヨガマスターかよ。
その後方に体を倒したような暗光ヨバサの脇腹目掛けて――。
<闇穿・流転ノ炎渦>を繰り出した。
<闇穿>の魔槍杖バルドークの穂先と柄から闇の炎が螺旋しながら伸びる。竜魔石からも迸り、龍の如く肘から二の腕へと移り上昇――。
その闇の炎を発している<闇穿>の穂先だったが、暗光ヨバサの下から振り上げていた魔刀で防がれた。
魔槍杖バルドークから発せられていた闇の炎は魔刀に触れると消えていく。
「チッ――」
舌打ち音を消すように魔槍杖バルドークの振動と咆哮が轟いた。
その魔槍杖バルドークを消す。
左手が握る王牌十字槍ヴェクサードで<光穿>を放つ。
背後から魔力を噴出させた暗光ヨバサは体勢を立て直す。
と、闇色の魔力を体から発しながらダッキングを行うような姿勢で二つの魔刀を使い、王牌十字槍ヴェクサードの<光穿>を防いできた。
が、<光穿>とは相性が悪いのか、暗光ヨバサが纏い放っている闇色の魔力が減退、姿勢を元に戻しながら暗光ヨバサも後退した。
その後退する速度は直ぐに速まる。
その暗光ヨバサに向け前進――。
<戦神グンダルンの昂揚>を発動。
続けざま右手に魔槍杖バルドークを再召喚。
その魔槍杖バルドークを起点とする<水雅・魔連穿>を発動。
乱雲の矛の突きは暗光ヨバサの右手が持つ魔刀に防がれた。
続けて、左手が握る王牌十字槍ヴェクサードの突きも、暗光ヨバサの左手が持つ魔刀の刃で防がれた。
その次の魔槍杖バルドークの突きもクロスした魔刀で防がれた。
闇色の魔力を強めた暗光ヨバサは、先ほど見せたように姿を消しながら前傾姿勢で居合いを繰り出す。
その機動を読み横移動。
暗光ヨバサは俺を追うように更に居合いを行う――。
「くっ――」
その一閃も避けた直後――。
<火焔光背>を実行。
次の居合い術に移り掛けていた暗光ヨバサの体から発せられていた闇色の魔力を吸い寄せることに成功。
続けざま――。
魔槍杖バルドークと王牌十字槍ヴェクサードを<投擲>した。
魔力を不自然に失っていた暗光ヨバサは驚く。
「――え?」
が、暗光ヨバサの双眸は、魔槍杖バルドークと王牌十字槍ヴェクサードを捉えている。
両腕を上げて持つ魔刀で魔槍杖バルドークと王牌十字槍ヴェクサードの<投擲>を防ぐ。
見事な反応だ。
が、<滔天魔瞳術>――。
「えぅ!?」
瞳術が決まる。
更に<仙羅・絲刀>――。
俺の目の前の空間から、<仙羅・絲刀>の魔力の糸が発生し、その魔力の糸が刃となって前方に飛ぶ。
その<
「げぇ、目がぁぁ」
悲鳴のような声を発した暗光ヨバサは魔刀を上げながらも居合いのモーションを取ろうとした。
血濡れた盲目の剣師か。
さすがの【八指】……。
だが、
「その邪魔な腕を退かしてもらおうか――」
<血想槍>を発動しつつ跳躍――。
左手に夜王の傘セイヴァルトを召喚し、右手に雷式ラ・ドオラを召喚。
<血魔力>を展開し、瞬く間に、
血を纏う仙王槍スーウィン。
血を纏う茨の凍迅魔槍ハヴァギイ。
血を纏う霊槍ハヴィス。
血を纏う魔槍グドルル。
血を纏う聖槍ラマドシュラー。
血を纏う聖槍アロステ。
が浮かぶ。
宙空から<鬼神・鳳鳴名鳥>を実行――。
低空飛行で暗光ヨバサに直進。
――雷式ラ・ドオラの<血穿>が暗光ヨバサの魔刀を弾きながら下腹部に決まる。
続けて、暗光ヨバサの体に――。
血の閃光を思わせる血を纏う霊槍ハヴィスの突きが決まる。
暗光ヨバサの背後に回る霊槍ハヴィス。
次に魔槍グドルルのオレンジの刃が暗光ヨバサの体を切断。
血を纏う仙王槍スーウィンの突きも暗光ヨバサの体を穿つ。
血を纏う茨の凍迅魔槍ハヴァギイが内臓を貫いた。
血を纏う聖槍ラマドシュラーが骨を切断し、血を燃やす。
血を纏う聖槍アロステが暗光ヨバサだった肉塊を分解するように斬り捨てた。
暗光ヨバサが持っていた魔刀が哀しげに跳ねる音を響かせて場外に飛んでいく。
逆手を背後に回し、開いて傘状態にしていた夜王の傘セイヴァルトを閉じる。
魔槍杖バルドークと王牌十字槍ヴェクサードは不満そうに金属音を響かせて宙を舞っていた。
<血想槍>を意識しつつすべての武器を
「シュウヤさまぁぁぁ」
「「シュウヤ様~」」
「鬼のような造形は怖かったが……鳥は美しい」
「血の炎の翼を羽ばたかせた槍舞!」
「炎の巨大な鳥が斬撃を放っているようにも見えました! 素敵♪」
「……はい、新しい<血想槍>系のスキルでしょうか……」
ルシエンヌの大声と【剣団ガルオム】の方々の声がこっちにまで響いてきた。
ヴィーネとエヴァにミレイヴァルとリサナの声も響いてくる。
外から見たら、<鬼神・鳳鳴名鳥>は炎の鳥が浮かんで見えたのだろうか。
そして、幸い、俺の背後を取る動きはない。
その声に応えるように振り向きつつ、中央を見ると、中央の激戦はまだ続いている。
その激戦の中で、四つん這い状態で走り抜けていた魔剣師と目される存在が、凶悪な面が特徴のキマイラ風のモンスターに押し潰されて死んでいた。
すると、大舞台の東側から、俺の今の向きだと左手の大舞台の縁際を走っていた
背後には
魔剣ルギヌンフは仕舞ったようだ。
「ンンン」
「槍使い! この神獣の勢いを止めてくれぇ」
はは。
レザライサの声が面白い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます